ときメモGSワンドロ・ワンライ
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キャラメルマキアート
「聖司様どこぉ!?」という甲高い声の主が通り過ぎるのを、俺は柱の影に隠れて待っていた。文化祭まで追いかけてくるなんて、冗談じゃない。
シタラーズと称して俺の行く先どこでも着いてくる連中が昔からいた。今も俺がはば学に進学したのをどこからか聞きつけて、外部の人間も入ってこられるような行事の時は時々現れる。そういう日はこうやって隠れていることが多かった。
「設楽先輩」
後ろから俺を呼ぶ女の声がした。が、誰にも見つかりたくなかったので、聞こえなかったフリをして、振り向かずにそのまま無視した。するとその女はさっきよりも大きな声で「設楽先輩!」と呼んだ。二度も呼ばれて知らないフリをするのも限界を感じ、観念してそっとそちらのほうを見ると、はば学の制服を着た見慣れない女がそこにいた。
が、まじまじと顔を見ると、知らないやつではない。寧ろよく見知った顔の女だった。
「……小波?」
「はい、小波です」
ショートヘアのはずの小波が今日はブラウンの編み込みヘアになっていた。いつもの見慣れた髪型ではなかったので、誰だか分からなかった。小波はきょとんとした顔で「先輩、呼んでも返事がなかったからどうしたのかと思いました」と言った。
「おまえなんでそんな髪型なんだ……?」
「もう、前に言ったじゃないですか!学園演劇にお姫様の役で出るって!」
「……ああ、そういえばこの前の帰りに言ってたな」
1週間ほど前、たまたま一緒に帰った時に文化祭の話になり、「学園演劇でお姫様の役をするから、見に来てくださいね」と小波が嬉しそうに言っていたことを思い出した。
「カレンがウィッグを用意してくれて、そこからアレンジしてもらったんです。どうですか?お姫様っぽく見えますか?」
「ふーん、馬子にも衣装って感じだな」
「もう!」
「冗談だよ。ま、似合ってないこともないんじゃないか」
「ありがとうございます!劇、2時からなので絶対見に来てくださいね!」
「ああ、分かった」
言いたいことだけ言って満足したのか、それじゃあ!と慌ただしく小波は手を振ってぱたぱたと走っていなくなった。劇の準備がきっと忙しいんだろう。俺もいつまでも同じところに隠れているわけにもいかないので、歩きながら別の場所を探すことにした。
校内はどこも混雑していて、なかなか人の少ないところがなかったが、ひとつ空き教室を見つけた。立ち入り禁止の張り紙を無視してそこに入ったら、誰もいなかった。しばらくはここにいようと、適当な席に座った。
それにしても、小波がお姫様の役ってどんなキャスティングなんだよ、とさっきの彼女のことを思い出す。小波って、あの小波美奈子だろう。どこにでもいる普通の女のはずなのに。
だけどさっき見た、まるで映画に出てくるようなプリンセスのようなヘアアレンジが似合ってないわけじゃなかった。むしろ花椿のセンスは正しい。普段と雰囲気が違って、お姫様の役に合ったヘアアレンジだった。
ふと、俺の中の小波とさっき見た小波がなぜだか合致しないことに気づく。
俺が思う小波は音楽室を勝手に覗いてきたときの、まだはば学に入学してすぐの子どもっぽい雰囲気の彼女だ。けれど、さっき見た彼女は少し大人びて見えた。どんな劇か知らないが、ドレスもきっと似合うんだろう。
もしかして、という今まで感じたことのない考えが突如浮かんできた。いやいや、そんなことはないだろうと否定したい思いと、俺が気がつかなかっただけでは、という思いが交互にやってくる。
1人で考えていても分からないから小波に会って早く確かめたい。
体育館に向かおうと教室を出ようとしたが、時計を見ると、劇の時間まではまだもう少しある。俺は逸る気持ちを抑えつつ、誰かに見つかりたくもないので、その場に留まることにした。
***
後日、小波のクラスの学園演劇の評判は上々で、彼女の役が学校中で話題になっていた。それから来年のローズクイーン候補とまで噂されていることを知り、今まで何も気がつかなかった自分に面食らうのであった。
20240811
お題:ヘアアレンジ
「聖司様どこぉ!?」という甲高い声の主が通り過ぎるのを、俺は柱の影に隠れて待っていた。文化祭まで追いかけてくるなんて、冗談じゃない。
シタラーズと称して俺の行く先どこでも着いてくる連中が昔からいた。今も俺がはば学に進学したのをどこからか聞きつけて、外部の人間も入ってこられるような行事の時は時々現れる。そういう日はこうやって隠れていることが多かった。
「設楽先輩」
後ろから俺を呼ぶ女の声がした。が、誰にも見つかりたくなかったので、聞こえなかったフリをして、振り向かずにそのまま無視した。するとその女はさっきよりも大きな声で「設楽先輩!」と呼んだ。二度も呼ばれて知らないフリをするのも限界を感じ、観念してそっとそちらのほうを見ると、はば学の制服を着た見慣れない女がそこにいた。
が、まじまじと顔を見ると、知らないやつではない。寧ろよく見知った顔の女だった。
「……小波?」
「はい、小波です」
ショートヘアのはずの小波が今日はブラウンの編み込みヘアになっていた。いつもの見慣れた髪型ではなかったので、誰だか分からなかった。小波はきょとんとした顔で「先輩、呼んでも返事がなかったからどうしたのかと思いました」と言った。
「おまえなんでそんな髪型なんだ……?」
「もう、前に言ったじゃないですか!学園演劇にお姫様の役で出るって!」
「……ああ、そういえばこの前の帰りに言ってたな」
1週間ほど前、たまたま一緒に帰った時に文化祭の話になり、「学園演劇でお姫様の役をするから、見に来てくださいね」と小波が嬉しそうに言っていたことを思い出した。
「カレンがウィッグを用意してくれて、そこからアレンジしてもらったんです。どうですか?お姫様っぽく見えますか?」
「ふーん、馬子にも衣装って感じだな」
「もう!」
「冗談だよ。ま、似合ってないこともないんじゃないか」
「ありがとうございます!劇、2時からなので絶対見に来てくださいね!」
「ああ、分かった」
言いたいことだけ言って満足したのか、それじゃあ!と慌ただしく小波は手を振ってぱたぱたと走っていなくなった。劇の準備がきっと忙しいんだろう。俺もいつまでも同じところに隠れているわけにもいかないので、歩きながら別の場所を探すことにした。
校内はどこも混雑していて、なかなか人の少ないところがなかったが、ひとつ空き教室を見つけた。立ち入り禁止の張り紙を無視してそこに入ったら、誰もいなかった。しばらくはここにいようと、適当な席に座った。
それにしても、小波がお姫様の役ってどんなキャスティングなんだよ、とさっきの彼女のことを思い出す。小波って、あの小波美奈子だろう。どこにでもいる普通の女のはずなのに。
だけどさっき見た、まるで映画に出てくるようなプリンセスのようなヘアアレンジが似合ってないわけじゃなかった。むしろ花椿のセンスは正しい。普段と雰囲気が違って、お姫様の役に合ったヘアアレンジだった。
ふと、俺の中の小波とさっき見た小波がなぜだか合致しないことに気づく。
俺が思う小波は音楽室を勝手に覗いてきたときの、まだはば学に入学してすぐの子どもっぽい雰囲気の彼女だ。けれど、さっき見た彼女は少し大人びて見えた。どんな劇か知らないが、ドレスもきっと似合うんだろう。
もしかして、という今まで感じたことのない考えが突如浮かんできた。いやいや、そんなことはないだろうと否定したい思いと、俺が気がつかなかっただけでは、という思いが交互にやってくる。
1人で考えていても分からないから小波に会って早く確かめたい。
体育館に向かおうと教室を出ようとしたが、時計を見ると、劇の時間まではまだもう少しある。俺は逸る気持ちを抑えつつ、誰かに見つかりたくもないので、その場に留まることにした。
***
後日、小波のクラスの学園演劇の評判は上々で、彼女の役が学校中で話題になっていた。それから来年のローズクイーン候補とまで噂されていることを知り、今まで何も気がつかなかった自分に面食らうのであった。
20240811
お題:ヘアアレンジ