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彼を繋ぎ止めるための唯一の方法
お昼休み、授業が終わってすぐに私は琉夏くんの教室を訪れた。そもそも授業に出てるかどうかも定かではなかったけれど、彼は自分の席に座っていて、女の子2人に囲まれていた。あっやっぱりタイミング悪かったかな……と少し居心地の悪さを感じたものの、彼は私の声に気がついて、教室の入り口までやってきた。
琉夏くんは私が持っている赤と青のバッグをちらりと見て、何か閃いたような顔をした。
「もしかして、俺の分お弁当、あるの?」
「琉夏くん私のおかずいっつも食べちゃうから、お弁当2つ作ってきたよ」
「ホント?」
「うん、だから一緒に食べよう」
「あっ、もしかして美奈子ちゃんが食べさせてくれる?」
「それはしません」
私がきっぱりとそう言うと、なぜだか琉夏くんは安心したように笑った。彼は先ほどまで話していた女の子たちに「ゴメン。今日は美奈子ちゃんと食べる」と言って、私と一緒に屋上へ向かった。なんだか背中にちくちくした視線が刺さっているような気がした。
私たちは屋上に移動して、空いていたベンチに並んで座った。何人か他の生徒もいて、青空が近く爽やかな風が吹いていて、過ごしやすい気候の日だった。
「はい、これ琉夏くんの」
「ありがとう」
そう言って、琉夏くん用に作った少し大きめのお弁当が入ったバッグを渡した。
お腹が空いたから早く食べよう、と言って、私は自分のお弁当の蓋を開けて食べ始める。ふりかけいつもと違うのにしたんだけどこれも美味しいなあ、琉夏くんはこの味好きかなあ、なんて思いながら、彼の方をちらりと見た。すると、彼はまだお弁当に手をつけておらず、おかずが詰められているプラスチックのパックを眺めていた。目を細め、まるで宝物を見るような表情で。
「……琉夏くん、食べないの?お腹空いてない?」
「いや……なんかもったいないなって……」
「昨日の晩ご飯の残りを詰めただけだよ。ほら、ここに琉夏くんの好きな海老フライも入ってるから、よかったら食べて」
「それは食べたい」
私が促すと、琉夏くんはようやくパックにかかっていた輪ゴムに手をかけ、お弁当を開けた。海老フライやプチトマト、ほうれん草のおひたしなど、家にあったおかずを詰めただけだけど、せっかく食べてもらうならといつもより彩りを意識したお弁当だ。
「美味そうなお弁当だ」
「ありがとう。そういえばこの前クラスの男子から海老フライとってたでしょ」
「あっ、バレてたか」
「だから海老フライ好きなのかなと思って入れたんだ」
「さすが美奈子ちゃん。俺のことよく知ってるね」
琉夏くんはご飯やプチトマト、海老フライ以外のおかずから順番に口に運んでいく。「美味しい?」と聞いたら「美味いよ」と言ってくれたのでほっとする。私も自分のお弁当をゆっくりと、よく噛んで、食べ進めていく。
「卵焼きは美奈子ちゃんの手作り?」
「そうだよ」
「綺麗に焼けてるね」
「うん、でもまじまじと見られたら恥ずかしいから早く食べて……」
琉夏くんは一口でぱくりと卵焼きを食べた。
私は彼の横顔を見つめながら、綺麗な人だなと改めて思う。ホットケーキとサカナが好きで、なんだかんだ言いながらも周りの人たちから愛されていて、だけどいつかシャボン玉みたいに急にいなくなってしまいそうだなって、思う時がある。儚げなひと。
「ねえ琉夏くん」
「何?」
「私なるべくお弁当作ってくるから、他の子からおかずもらったりするの、やめない?」
「……うーん……どうだろうね」
「なんで?」
「美奈子ちゃん、いない日もあるかもしれないから」
「どういうこと?」
「そういうこと」
琉夏くんは寂しさを滲ませた目で笑うので、私はなんて言っていいのか分からなくなってしまった。いなくなりそうなのは私じゃなくて琉夏くんだよ、なんて言ったら、本当に消えてしまいそうで。
だけど何か言わなきゃと頭の中で言葉を探しているうちに、彼が先に食べ終わってしまい「ごちそうサマ」と私にお弁当のバッグを返した。彼と目を合わせると、さっきまで宿っていた寂しさはもうそこにはなかった。
「また今度、お弁当作ってきたら食べてくれる?」
「うん」
「じゃあまた持ってくるね」
「楽しみにしてる。なぁ、美奈子ちゃんって食べるのそんなに遅かったっけ?」
「えっ?そうかなあ?」
琉夏くんは私のお弁当を覗き込んでそう言うので、私は首を傾げた。
それから、私はまだ半分も食べ終わっていないお弁当を、ゆっくりと、噛み締めて味わうのだった。
20240818
お昼休み、授業が終わってすぐに私は琉夏くんの教室を訪れた。そもそも授業に出てるかどうかも定かではなかったけれど、彼は自分の席に座っていて、女の子2人に囲まれていた。あっやっぱりタイミング悪かったかな……と少し居心地の悪さを感じたものの、彼は私の声に気がついて、教室の入り口までやってきた。
琉夏くんは私が持っている赤と青のバッグをちらりと見て、何か閃いたような顔をした。
「もしかして、俺の分お弁当、あるの?」
「琉夏くん私のおかずいっつも食べちゃうから、お弁当2つ作ってきたよ」
「ホント?」
「うん、だから一緒に食べよう」
「あっ、もしかして美奈子ちゃんが食べさせてくれる?」
「それはしません」
私がきっぱりとそう言うと、なぜだか琉夏くんは安心したように笑った。彼は先ほどまで話していた女の子たちに「ゴメン。今日は美奈子ちゃんと食べる」と言って、私と一緒に屋上へ向かった。なんだか背中にちくちくした視線が刺さっているような気がした。
私たちは屋上に移動して、空いていたベンチに並んで座った。何人か他の生徒もいて、青空が近く爽やかな風が吹いていて、過ごしやすい気候の日だった。
「はい、これ琉夏くんの」
「ありがとう」
そう言って、琉夏くん用に作った少し大きめのお弁当が入ったバッグを渡した。
お腹が空いたから早く食べよう、と言って、私は自分のお弁当の蓋を開けて食べ始める。ふりかけいつもと違うのにしたんだけどこれも美味しいなあ、琉夏くんはこの味好きかなあ、なんて思いながら、彼の方をちらりと見た。すると、彼はまだお弁当に手をつけておらず、おかずが詰められているプラスチックのパックを眺めていた。目を細め、まるで宝物を見るような表情で。
「……琉夏くん、食べないの?お腹空いてない?」
「いや……なんかもったいないなって……」
「昨日の晩ご飯の残りを詰めただけだよ。ほら、ここに琉夏くんの好きな海老フライも入ってるから、よかったら食べて」
「それは食べたい」
私が促すと、琉夏くんはようやくパックにかかっていた輪ゴムに手をかけ、お弁当を開けた。海老フライやプチトマト、ほうれん草のおひたしなど、家にあったおかずを詰めただけだけど、せっかく食べてもらうならといつもより彩りを意識したお弁当だ。
「美味そうなお弁当だ」
「ありがとう。そういえばこの前クラスの男子から海老フライとってたでしょ」
「あっ、バレてたか」
「だから海老フライ好きなのかなと思って入れたんだ」
「さすが美奈子ちゃん。俺のことよく知ってるね」
琉夏くんはご飯やプチトマト、海老フライ以外のおかずから順番に口に運んでいく。「美味しい?」と聞いたら「美味いよ」と言ってくれたのでほっとする。私も自分のお弁当をゆっくりと、よく噛んで、食べ進めていく。
「卵焼きは美奈子ちゃんの手作り?」
「そうだよ」
「綺麗に焼けてるね」
「うん、でもまじまじと見られたら恥ずかしいから早く食べて……」
琉夏くんは一口でぱくりと卵焼きを食べた。
私は彼の横顔を見つめながら、綺麗な人だなと改めて思う。ホットケーキとサカナが好きで、なんだかんだ言いながらも周りの人たちから愛されていて、だけどいつかシャボン玉みたいに急にいなくなってしまいそうだなって、思う時がある。儚げなひと。
「ねえ琉夏くん」
「何?」
「私なるべくお弁当作ってくるから、他の子からおかずもらったりするの、やめない?」
「……うーん……どうだろうね」
「なんで?」
「美奈子ちゃん、いない日もあるかもしれないから」
「どういうこと?」
「そういうこと」
琉夏くんは寂しさを滲ませた目で笑うので、私はなんて言っていいのか分からなくなってしまった。いなくなりそうなのは私じゃなくて琉夏くんだよ、なんて言ったら、本当に消えてしまいそうで。
だけど何か言わなきゃと頭の中で言葉を探しているうちに、彼が先に食べ終わってしまい「ごちそうサマ」と私にお弁当のバッグを返した。彼と目を合わせると、さっきまで宿っていた寂しさはもうそこにはなかった。
「また今度、お弁当作ってきたら食べてくれる?」
「うん」
「じゃあまた持ってくるね」
「楽しみにしてる。なぁ、美奈子ちゃんって食べるのそんなに遅かったっけ?」
「えっ?そうかなあ?」
琉夏くんは私のお弁当を覗き込んでそう言うので、私は首を傾げた。
それから、私はまだ半分も食べ終わっていないお弁当を、ゆっくりと、噛み締めて味わうのだった。
20240818