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夢の続きは、おまえと。
「のどかですねえ」
「そうだな」
「春は満開の桜が見られて、秋は紅葉が綺麗らしいですよ。季節感のある場所ですね」
修学旅行2日目の夕方。京都の街中を1日歩き回り、最後に俺と美奈子は鴨川のほとりに並んで座っていた。ふたりで、ぼんやりと目の前を流れる川を見つめている。
今日は丸一日京都を自由に観光する日で、美奈子と回る約束をしていた。「どこに行きたいかリストアップしとけよ」と事前に言っておいたら、今朝待ち合わせたときに「今日の予定はこれでバッチリです!」と誇らしげにB5サイズくらいの紙を見せてきた。簡単なマップと1日の行程が手書きで書かれていて、少し丸みを帯びた彼女の文字が愛おしく思えた。
美奈子の計画によると、五条坂から参道を歩いて清水寺に行き、清水の舞台から京都の街並みを眺める。それから周辺を散策しつつ、いくつかリストアップしてる店の中でランチを堪能して、また歩いて八坂神社でお参りをして、最後に四条大橋から鴨川を眺める予定らしい。
「結構歩くんだな」
「この時期の京都、バスがすごく混んでて歩く方が早いときもあるって書いてましたよ」
「しかもいかにも観光って感じのルートだな」
「観光なので何も間違ってないじゃないですか!」
「わかったわかった。ほら、美奈子、早く行かないと全部回れなくなるぞ」
美奈子はちょっとむくれた顔をしていたけれど、それすらも可愛く思えるんだから、もうどうしようもなかった。
***
どこも観光名所ということもあり、一般の観光客や修学旅行生も多く訪れていた。五条坂を登る辺りから既に混雑していて「はぐれると困るから」と真っ当な理由をつけて、自分の右手を差し出した。
すると美奈子は恥ずかしそうに目を伏せながらも、俺の手をそっと握った。美奈子の手は、小さくてとても柔らかかった。
道中、鞄から財布を出したり、携帯で写真を撮ろうとしたり、何度か手が離れることがあったけれど、その都度自然と繋ぎ直した。一緒に歩くときは、まるでそうするのが当たり前だったかのように、一日中手を繋いで歩いた。
「最後はここです」
美奈子の計画通りに観光して、最後の場所に辿り着く。四条大橋の上から、鴨川が見えた。この川は京都の街中を南北に貫いて流れていると、ここに来るまでの道すがら、彼女が教えてくれた。
川のほとりには、だいたい同じくらいの感覚を空けながら、人々がずらりと並んで、寄り添うように座っていた。場所が指定されているわけでもないのに、全員が同じように座っている光景はなんだか妙だった。
「あれ、鴨川等間隔の法則って言うらしいですよ」
美奈子が俺の心を読んだかのように、目の前の景色について答えた。
「ふうん……なんでみんなあんなところに座るんだ」
「京都に来るカップルがああやって座るって、聞いたことあります」
カップルって、俺たちまだそんなんじゃ、と口にしようとしたら、美奈子はほんのり頬を赤く染めてはにかんでいた。そんなに無防備な顔を見せないでほしい。俺だって、男なんだ。
なにも言わない俺に、美奈子は私たちもどこかに座りましょうと言って、俺の手を引いて川沿いに降りていく。そして俺たちも等間隔の法則に倣って、空いている場所に腰を下ろした。
「のどかですねえ」
「……そうだな」
「春は満開の桜が見られて、秋は紅葉が綺麗らしいですよ。季節感のある場所ですね」
少し離れたところに他人が座っているのに、距離感のせいか意外にも周りの人の声は聞こえず、ふたりだけの世界にいるような気がした。川のせせらぎを感じながら、目の前に広がっている京都らしい景色を、美奈子と眺める。そして今日1日美奈子を独り占めできて、時を忘れるくらい夢中になって過ごした。ピアノのことさえも思い出さないくらいに。
「美奈子」
俺はもう少しだけ美奈子との距離を詰めて、そっと彼女の肩を抱き寄せた。彼女は一瞬驚いた顔を見せたけれど、全てを受け入れてくれるかのように微笑んで、俺に体を預けた。
ずっと一緒にいられただけで幸せなはずなのに、もっともっと欲しくなってしまった。人間はつくづく欲張りな生き物だと実感する。彼女に出会って、俺は渇きを知ってしまったんだ。
「また一緒に紅葉を見に来たいですね、設楽先輩」
うん、と返事をしようとするけれど、それは叶わなかった。突然別の誰かが「設楽、設楽」と俺を呼ぶ声がして、自分の声が出なくなる。美奈子の声と誰かの声が混ざり合って、俺の耳に届く。
そうしてはっと目を開けると、俺を覗き込む紺野と見慣れない天井が視界に入ってきた。
「設楽、もう起きろよ。朝食の時間だぞ」
「……ああ……」
「設楽?大丈夫か?なんか変じゃないか?」
「いや、大丈夫だ……」
怪訝そうな紺野に横目にゆっくりと身体を起こす。そうか、これからが本当の修学旅行2日目の朝で、丸一日京都を自由に観光する予定の日だ。俺を呼んだ紺野が現実で、今見てた彼女のと修学旅行は、全部夢だったことに気がついた。
「朝ご飯の時間だから設楽も早く着替えろよ」と紺野はまるで母親みたいなことを言うけれど、夢と現実の境目にいるような俺はすぐその場から動く気分にもなれなくて「先に行っててくれ」と弱々しく返事をする。すると紺野は「寝不足?二度寝するんじゃないぞ」と言い残して部屋を出て行った。
俺はよろよろと歩いて洗面台へ向かう。みなこ、と呟くように唇を動かしてみても、知らないヤツの名前を呼ぶような違和感しか残らなかった。夢の中ではあんなに自然に馴染んでいたのに。
小波美奈子。彼女は俺より一年後にはば学に入学してきた後輩だから修学旅行に一緒に行けるはずもないのに、あんな夢を見るなんて。あまりに赤裸々すぎて、あれが自分の本当の欲だと思うと直視できず、冷たい水で何度も顔を洗った。
けれど、美奈子の手のぬくもりや、彼女と1日過ごせた幸福感が、いつまでも残っているような気がした。結局のところ、俺が小波美奈子のことが好きだ、というのは変えようのない事実だった。
***
その後、夢の内容が何度も頭を過ったが、なんとか滞りなく修学旅行を終えられた。有名な観光名所を訪れる度に、美しい京都の景色を眺める度に、小波のことを思い出して仕方なかった。彼女に土産でも買っていこうとあれこれ眺めていたけれど、どれを贈っても彼女は喜んでくれるような気がして、結局何種類も買ってしまった。
電車とバスを乗り継ぎ、学校まで帰る。長い修学旅行で疲れも随分溜まっていたのか、俺は気がついたらバスの中で眠りに落ちていた。流石にもうあの夢は見なかった。
バスが学校に着いて解散する頃には6時半を過ぎていて、部活終わりの生徒がちらほら残っているだけの時間帯になっていた。
疲れたな……と重い体をずるずると引きずって正門まで歩く。普段は門の近くに車があるけれど、今日は迎えに来ている車が圧倒的に多くずらりと列を成していて、いつもの場所にはなさそうだった。
大きく溜め息をつきながらも、仕方ないので車を探そうとすると、背後から「設楽先輩!」と俺を呼びかける声がした。聞き覚えのある、後輩の声。振り返ると、小波が門のほうから俺を見つけて走ってきた。
「……小波?」
「設楽先輩、おかえりなさい!」
「……また夢か?」
「え?」
「いや、なんでもない。それよりなんでこんなところにいるんだ」
突然現れた小波に動揺を隠しきれず、つい早口で喋ってしまう。それに対して、夢ってどういうことですかと言わんばかりに、彼女はきょとんとした顔を見せていた。
「修学旅行のお見送りに行かなかったから、お迎えはしようかなって思って……」
「大袈裟だな、海外に行ってたわけでもあるまいし」
「でも1週間も、設楽先輩が学校にいなかったんですよ?」
「たった1週間だろ」
たった1週間だろなんてどの口が言うんだ、夢にまで見るくらい彼女に焦がれていたくせに。本心と口から出てくる言葉はいつだって同じように動いてはくれない。
「それは……まあそうなんですけど……。すみません、ご迷惑でしたか?」
「いや別にそういうわけじゃ、ない」
「よかった」
ほっとしたように小波は満面の笑みを浮かべた。会いに来てくれて嬉しいと言えればいいのに、迷惑じゃないことを伝えるのが今の俺には精一杯だった。
「設楽先輩がいないと、放課後にピアノも聴こえてこないし、なんだかすごく静かな1週間でした」
「俺はおまえに会わなくて平和だったぞ」
「えっ」
「冗談だ。……まあおまえがいたほうが、毎日がつまらなくないってことは分かった」
「えっと、それってつまり……?」
「……その続きは自分で考えろ。とりあえずもう遅いから、車で送ってやる」
「なんですかそれ。しかも先輩の家と私の家、逆方向ですよ?」
「いいから。ついでに土産話も聞かせてやるよ」
「それは……、それはすごく聞きたいです」
「決まりだな。ほら、さっさと行くぞ」
「はい!」
夢の中で見た美奈子みたいに目を奪われるようなきらきらとした顔で笑うから、あの時みたいに彼女を捕まえたくなって、思わず手を伸ばそうとしたけれど、慌てて引っ込めた。今はまだその時じゃない。俺が自分の想いを、自分の言葉で彼女に伝えられるようになってからだ。
「修学旅行、どこが1番よかったですか?」
「……鴨川」
「鴨川?」
いつか真っ直ぐに俺の想いを小波に伝えて、鴨川のほとりにふたりで寄り添いながら、美しい紅葉を眺められる日が来ることを願っている。
20240913
文体当てクイズ お題:修学旅行
「のどかですねえ」
「そうだな」
「春は満開の桜が見られて、秋は紅葉が綺麗らしいですよ。季節感のある場所ですね」
修学旅行2日目の夕方。京都の街中を1日歩き回り、最後に俺と美奈子は鴨川のほとりに並んで座っていた。ふたりで、ぼんやりと目の前を流れる川を見つめている。
今日は丸一日京都を自由に観光する日で、美奈子と回る約束をしていた。「どこに行きたいかリストアップしとけよ」と事前に言っておいたら、今朝待ち合わせたときに「今日の予定はこれでバッチリです!」と誇らしげにB5サイズくらいの紙を見せてきた。簡単なマップと1日の行程が手書きで書かれていて、少し丸みを帯びた彼女の文字が愛おしく思えた。
美奈子の計画によると、五条坂から参道を歩いて清水寺に行き、清水の舞台から京都の街並みを眺める。それから周辺を散策しつつ、いくつかリストアップしてる店の中でランチを堪能して、また歩いて八坂神社でお参りをして、最後に四条大橋から鴨川を眺める予定らしい。
「結構歩くんだな」
「この時期の京都、バスがすごく混んでて歩く方が早いときもあるって書いてましたよ」
「しかもいかにも観光って感じのルートだな」
「観光なので何も間違ってないじゃないですか!」
「わかったわかった。ほら、美奈子、早く行かないと全部回れなくなるぞ」
美奈子はちょっとむくれた顔をしていたけれど、それすらも可愛く思えるんだから、もうどうしようもなかった。
***
どこも観光名所ということもあり、一般の観光客や修学旅行生も多く訪れていた。五条坂を登る辺りから既に混雑していて「はぐれると困るから」と真っ当な理由をつけて、自分の右手を差し出した。
すると美奈子は恥ずかしそうに目を伏せながらも、俺の手をそっと握った。美奈子の手は、小さくてとても柔らかかった。
道中、鞄から財布を出したり、携帯で写真を撮ろうとしたり、何度か手が離れることがあったけれど、その都度自然と繋ぎ直した。一緒に歩くときは、まるでそうするのが当たり前だったかのように、一日中手を繋いで歩いた。
「最後はここです」
美奈子の計画通りに観光して、最後の場所に辿り着く。四条大橋の上から、鴨川が見えた。この川は京都の街中を南北に貫いて流れていると、ここに来るまでの道すがら、彼女が教えてくれた。
川のほとりには、だいたい同じくらいの感覚を空けながら、人々がずらりと並んで、寄り添うように座っていた。場所が指定されているわけでもないのに、全員が同じように座っている光景はなんだか妙だった。
「あれ、鴨川等間隔の法則って言うらしいですよ」
美奈子が俺の心を読んだかのように、目の前の景色について答えた。
「ふうん……なんでみんなあんなところに座るんだ」
「京都に来るカップルがああやって座るって、聞いたことあります」
カップルって、俺たちまだそんなんじゃ、と口にしようとしたら、美奈子はほんのり頬を赤く染めてはにかんでいた。そんなに無防備な顔を見せないでほしい。俺だって、男なんだ。
なにも言わない俺に、美奈子は私たちもどこかに座りましょうと言って、俺の手を引いて川沿いに降りていく。そして俺たちも等間隔の法則に倣って、空いている場所に腰を下ろした。
「のどかですねえ」
「……そうだな」
「春は満開の桜が見られて、秋は紅葉が綺麗らしいですよ。季節感のある場所ですね」
少し離れたところに他人が座っているのに、距離感のせいか意外にも周りの人の声は聞こえず、ふたりだけの世界にいるような気がした。川のせせらぎを感じながら、目の前に広がっている京都らしい景色を、美奈子と眺める。そして今日1日美奈子を独り占めできて、時を忘れるくらい夢中になって過ごした。ピアノのことさえも思い出さないくらいに。
「美奈子」
俺はもう少しだけ美奈子との距離を詰めて、そっと彼女の肩を抱き寄せた。彼女は一瞬驚いた顔を見せたけれど、全てを受け入れてくれるかのように微笑んで、俺に体を預けた。
ずっと一緒にいられただけで幸せなはずなのに、もっともっと欲しくなってしまった。人間はつくづく欲張りな生き物だと実感する。彼女に出会って、俺は渇きを知ってしまったんだ。
「また一緒に紅葉を見に来たいですね、設楽先輩」
うん、と返事をしようとするけれど、それは叶わなかった。突然別の誰かが「設楽、設楽」と俺を呼ぶ声がして、自分の声が出なくなる。美奈子の声と誰かの声が混ざり合って、俺の耳に届く。
そうしてはっと目を開けると、俺を覗き込む紺野と見慣れない天井が視界に入ってきた。
「設楽、もう起きろよ。朝食の時間だぞ」
「……ああ……」
「設楽?大丈夫か?なんか変じゃないか?」
「いや、大丈夫だ……」
怪訝そうな紺野に横目にゆっくりと身体を起こす。そうか、これからが本当の修学旅行2日目の朝で、丸一日京都を自由に観光する予定の日だ。俺を呼んだ紺野が現実で、今見てた彼女のと修学旅行は、全部夢だったことに気がついた。
「朝ご飯の時間だから設楽も早く着替えろよ」と紺野はまるで母親みたいなことを言うけれど、夢と現実の境目にいるような俺はすぐその場から動く気分にもなれなくて「先に行っててくれ」と弱々しく返事をする。すると紺野は「寝不足?二度寝するんじゃないぞ」と言い残して部屋を出て行った。
俺はよろよろと歩いて洗面台へ向かう。みなこ、と呟くように唇を動かしてみても、知らないヤツの名前を呼ぶような違和感しか残らなかった。夢の中ではあんなに自然に馴染んでいたのに。
小波美奈子。彼女は俺より一年後にはば学に入学してきた後輩だから修学旅行に一緒に行けるはずもないのに、あんな夢を見るなんて。あまりに赤裸々すぎて、あれが自分の本当の欲だと思うと直視できず、冷たい水で何度も顔を洗った。
けれど、美奈子の手のぬくもりや、彼女と1日過ごせた幸福感が、いつまでも残っているような気がした。結局のところ、俺が小波美奈子のことが好きだ、というのは変えようのない事実だった。
***
その後、夢の内容が何度も頭を過ったが、なんとか滞りなく修学旅行を終えられた。有名な観光名所を訪れる度に、美しい京都の景色を眺める度に、小波のことを思い出して仕方なかった。彼女に土産でも買っていこうとあれこれ眺めていたけれど、どれを贈っても彼女は喜んでくれるような気がして、結局何種類も買ってしまった。
電車とバスを乗り継ぎ、学校まで帰る。長い修学旅行で疲れも随分溜まっていたのか、俺は気がついたらバスの中で眠りに落ちていた。流石にもうあの夢は見なかった。
バスが学校に着いて解散する頃には6時半を過ぎていて、部活終わりの生徒がちらほら残っているだけの時間帯になっていた。
疲れたな……と重い体をずるずると引きずって正門まで歩く。普段は門の近くに車があるけれど、今日は迎えに来ている車が圧倒的に多くずらりと列を成していて、いつもの場所にはなさそうだった。
大きく溜め息をつきながらも、仕方ないので車を探そうとすると、背後から「設楽先輩!」と俺を呼びかける声がした。聞き覚えのある、後輩の声。振り返ると、小波が門のほうから俺を見つけて走ってきた。
「……小波?」
「設楽先輩、おかえりなさい!」
「……また夢か?」
「え?」
「いや、なんでもない。それよりなんでこんなところにいるんだ」
突然現れた小波に動揺を隠しきれず、つい早口で喋ってしまう。それに対して、夢ってどういうことですかと言わんばかりに、彼女はきょとんとした顔を見せていた。
「修学旅行のお見送りに行かなかったから、お迎えはしようかなって思って……」
「大袈裟だな、海外に行ってたわけでもあるまいし」
「でも1週間も、設楽先輩が学校にいなかったんですよ?」
「たった1週間だろ」
たった1週間だろなんてどの口が言うんだ、夢にまで見るくらい彼女に焦がれていたくせに。本心と口から出てくる言葉はいつだって同じように動いてはくれない。
「それは……まあそうなんですけど……。すみません、ご迷惑でしたか?」
「いや別にそういうわけじゃ、ない」
「よかった」
ほっとしたように小波は満面の笑みを浮かべた。会いに来てくれて嬉しいと言えればいいのに、迷惑じゃないことを伝えるのが今の俺には精一杯だった。
「設楽先輩がいないと、放課後にピアノも聴こえてこないし、なんだかすごく静かな1週間でした」
「俺はおまえに会わなくて平和だったぞ」
「えっ」
「冗談だ。……まあおまえがいたほうが、毎日がつまらなくないってことは分かった」
「えっと、それってつまり……?」
「……その続きは自分で考えろ。とりあえずもう遅いから、車で送ってやる」
「なんですかそれ。しかも先輩の家と私の家、逆方向ですよ?」
「いいから。ついでに土産話も聞かせてやるよ」
「それは……、それはすごく聞きたいです」
「決まりだな。ほら、さっさと行くぞ」
「はい!」
夢の中で見た美奈子みたいに目を奪われるようなきらきらとした顔で笑うから、あの時みたいに彼女を捕まえたくなって、思わず手を伸ばそうとしたけれど、慌てて引っ込めた。今はまだその時じゃない。俺が自分の想いを、自分の言葉で彼女に伝えられるようになってからだ。
「修学旅行、どこが1番よかったですか?」
「……鴨川」
「鴨川?」
いつか真っ直ぐに俺の想いを小波に伝えて、鴨川のほとりにふたりで寄り添いながら、美しい紅葉を眺められる日が来ることを願っている。
20240913
文体当てクイズ お題:修学旅行