short(GS3)
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設楽先輩と紺野先輩と3人で歩く平日の帰り道、冬休みはもうすぐというところ。私と紺野先輩は顔を見合わせ、設楽先輩だけが何食わぬ顔でクリスマスの思い出を語っていた。
今日の夜は寝ている間にサンタが子どもたちにプレゼントを配る日で、クリスマスツリーの下にクッキーを置いておくとサンタがそれを食べてくれる、サンタは15歳までしか来ないからもううちには来ない、という趣旨の話で、こちらが合槌も挟む隙もないくらいつらつらと話し続けていた。そんな先輩の姿にも圧倒されたけれど、今の問題はそこではない。先輩の声を聞きながら、ちらりと紺野先輩と目が合うも、眼鏡の奥の瞳も怪訝な色を浮かべているので、考えることは同じだと信じたい。
私たちが何よりも戸惑っているのは、設楽先輩は私たちの家にプレゼントを届けてくれるサンタの正体を知らない可能性がある、ということだ。先輩の話からは絵本に出てくる物語のようなサンタクロースとトナカイが、澄んだ空気を纏った夜空を駆け巡っている様子しか思い浮かべられなかった。
「あのな、設楽、サンタっていうのは、」
「クッキー、ツリーの下に置いておくのって素敵ですね!? 海外の文化でしたっけ!?」
「ああ。うちでは毎年シェフがクッキーを焼いていて、」
紺野先輩は諭すように話を始めたので、その言葉を掻き消すように、わざと大きな声で会話に入った。紺野先輩と戸惑っている内容は同じでも方向性は違ったらしい。私は知らないことは知らないままでも良いんじゃないか、と思ったのだ。紺野先輩は私の不自然さにすぐ気がついたようで、私の顔を見て一瞬申し訳なさそうに顔を歪めた後、すぐうんうんと相槌を打つことに徹していた。設楽先輩はそのままサンタとの思い出を楽しそうに語っていた。
サンタに渡すクッキーの余りが次の日食べるクリスマスケーキにトッピングされていてとか、ツリーの下にぽろぽろクッキーの食べかすが落ちていることがあったからサンタはそこでクッキーを食べてたんだとか、一度サンタが時間を間違えたのかインターフォンを鳴らして直接プレゼントを受け取ったことがあるんだとか、設楽先輩がご家族に大切にされていることが分かる、愛に溢れるエピソードばかりだった。
「じゃあどうして今日クッキーを買ったんだ? しかも二箱も」
私たちは設楽先輩が持っている紙袋に目線をやった。確かに設楽先輩は今日珍しく寄りたいところがあると言い、一年で最も混んでる時期のアナスタシアに入っていって、前もって予約したというクッキーを持って、戻ってきた。私と紺野先輩はあまりの混雑っぷりに何も買わないのに入店したら邪魔になるだろうとお店の前で待っていたので、店内がどれくらい混んでいたかは想像の範疇でしかない。
「サンタさん、よく食べるんですね……」
「違う、これは家で配る分だ」
「えっ、でも家でクッキーを焼くんじゃないんですか?」
「サンタが去年から来なくなってクリスマスにクッキーを焼かなくなったから、今年から俺が代わりに用意することにした」
さらりと言ってのける設楽先輩に、私と紺野先輩はまた顔を見合わせた。でも先輩にも私にも、戸惑いの表情はもうなかった。今日はなんだかいつもの設楽先輩と違う気がするけれど、それは先輩の家のサンタさんが先輩に毎年プレゼントを贈り続けて、先輩が忘れずに覚えているからだと思ったからだ。大切な思い出はいつまでも残り続けるのだ。
「……設楽、案外いいやつなんだな……」
「ロマンチストですね……」
「は!? 別に普通だろ!」
ぽろりと私たちが溢した言葉をすかさずキャッチし、設楽先輩はちょっと照れくさそうにした後、ぷいっと目線を逸らした。
幼い頃クリスマスを心待ちにしていたり、プレゼントをもらって嬉しそうにしている先輩の姿が思い浮かんで、いつまでもサンタの正体を知らずにいればいいのにな、と思わずにはいられなかった。
20241225
今日の夜は寝ている間にサンタが子どもたちにプレゼントを配る日で、クリスマスツリーの下にクッキーを置いておくとサンタがそれを食べてくれる、サンタは15歳までしか来ないからもううちには来ない、という趣旨の話で、こちらが合槌も挟む隙もないくらいつらつらと話し続けていた。そんな先輩の姿にも圧倒されたけれど、今の問題はそこではない。先輩の声を聞きながら、ちらりと紺野先輩と目が合うも、眼鏡の奥の瞳も怪訝な色を浮かべているので、考えることは同じだと信じたい。
私たちが何よりも戸惑っているのは、設楽先輩は私たちの家にプレゼントを届けてくれるサンタの正体を知らない可能性がある、ということだ。先輩の話からは絵本に出てくる物語のようなサンタクロースとトナカイが、澄んだ空気を纏った夜空を駆け巡っている様子しか思い浮かべられなかった。
「あのな、設楽、サンタっていうのは、」
「クッキー、ツリーの下に置いておくのって素敵ですね!? 海外の文化でしたっけ!?」
「ああ。うちでは毎年シェフがクッキーを焼いていて、」
紺野先輩は諭すように話を始めたので、その言葉を掻き消すように、わざと大きな声で会話に入った。紺野先輩と戸惑っている内容は同じでも方向性は違ったらしい。私は知らないことは知らないままでも良いんじゃないか、と思ったのだ。紺野先輩は私の不自然さにすぐ気がついたようで、私の顔を見て一瞬申し訳なさそうに顔を歪めた後、すぐうんうんと相槌を打つことに徹していた。設楽先輩はそのままサンタとの思い出を楽しそうに語っていた。
サンタに渡すクッキーの余りが次の日食べるクリスマスケーキにトッピングされていてとか、ツリーの下にぽろぽろクッキーの食べかすが落ちていることがあったからサンタはそこでクッキーを食べてたんだとか、一度サンタが時間を間違えたのかインターフォンを鳴らして直接プレゼントを受け取ったことがあるんだとか、設楽先輩がご家族に大切にされていることが分かる、愛に溢れるエピソードばかりだった。
「じゃあどうして今日クッキーを買ったんだ? しかも二箱も」
私たちは設楽先輩が持っている紙袋に目線をやった。確かに設楽先輩は今日珍しく寄りたいところがあると言い、一年で最も混んでる時期のアナスタシアに入っていって、前もって予約したというクッキーを持って、戻ってきた。私と紺野先輩はあまりの混雑っぷりに何も買わないのに入店したら邪魔になるだろうとお店の前で待っていたので、店内がどれくらい混んでいたかは想像の範疇でしかない。
「サンタさん、よく食べるんですね……」
「違う、これは家で配る分だ」
「えっ、でも家でクッキーを焼くんじゃないんですか?」
「サンタが去年から来なくなってクリスマスにクッキーを焼かなくなったから、今年から俺が代わりに用意することにした」
さらりと言ってのける設楽先輩に、私と紺野先輩はまた顔を見合わせた。でも先輩にも私にも、戸惑いの表情はもうなかった。今日はなんだかいつもの設楽先輩と違う気がするけれど、それは先輩の家のサンタさんが先輩に毎年プレゼントを贈り続けて、先輩が忘れずに覚えているからだと思ったからだ。大切な思い出はいつまでも残り続けるのだ。
「……設楽、案外いいやつなんだな……」
「ロマンチストですね……」
「は!? 別に普通だろ!」
ぽろりと私たちが溢した言葉をすかさずキャッチし、設楽先輩はちょっと照れくさそうにした後、ぷいっと目線を逸らした。
幼い頃クリスマスを心待ちにしていたり、プレゼントをもらって嬉しそうにしている先輩の姿が思い浮かんで、いつまでもサンタの正体を知らずにいればいいのにな、と思わずにはいられなかった。
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