short(GS3)
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ぱちりと目が覚める。喉が渇いたし、体がだるくて重くて、寝起きでもさっきまでのことを思い出すには充分すぎる。
今は一体何時なんだろう。聖司さんが真っ暗じゃないと眠れないからと電気はついていないし、遮光カーテンのおかげで月の光すら入ってこないので、本当に真っ暗で、そばにいる聖司さんのことしか分からない。彼は横で穏やかに寝息を立てていた。
「せんぱい、パリに行くの、やめませんか」
白くてすべすべの頬にそっと手を伸ばし、小さく囁く。絶対届かないでほしくて、だけど自分の気持ちの行き場もなくて。聖司さんと過ごした夜は必ずこうやって目が覚めるので、ときどき言葉を真っ暗闇の中に投げている。
聖司さんは私には勿体無いくらいの素敵な人だ。どんなに忙しくても時間を見つけては会いに来てくれるし、こうやって一晩中一緒に過ごせる時はたくさんの愛を私に注いでくれる。その時だけは、聖司さんはわたしのものだと思える。わたしに甘えてくる顔やちょっと意地悪そうな顔、子どもみたいに穏やかに眠る顔は世界でわたししか知らないのだと思えた時だけ、心のどこかが満たされる。
だけど、聖司さんはもうすぐパリに飛び立ってしまう。次はいつ帰って来られるか分からないから、なるべく日本にいる間にたくさん会おうと言ってくれた。
「したらせんぱい」
設楽先輩と無邪気に呼んでいたあの頃が懐かしくてたまらない。聖司さんはコンクールにもう一度挑戦すると決めるまで本当にたくさん悩んだとあの日の音楽室で聞いたし、留学が決まったと私に教えてくれた時も、聖司さんはとても晴れやかな表情をしていた。まるでどこかへ導かれていくみたいに。
聖司さんのすらっとした足に自分の足を絡ませる。起こしちゃうかも、なんて心配したけど、すやすやと眠ったままだった。足があたたかくてちょっとかわいい。
「だいすきだよ、せんぱい」
この気持ちがずっと届きませんように。聖司さんのピアノの行き先がずっと光り輝く場所にいますように。せんぱいのピアノがずっとわたしのものでありますように。聖司さんは前に進んでいるし、私もそれを応援していきたかったはずなのに、本当のわたしは音楽室でふたりきりの、あの頃のせんぱいでいてほしかったんだ。
聖司さんは私に出会ってピアノと向き合う覚悟ができたと言ってくれたけど、私は先輩に出会ってどんどん欲張りでちょっと嫌な奴になってしまったみたい。
***
「美奈子、朝だ」
「……せんぱい」
「なんだよ、寝惚けてるのか?」
「……聖司さん」
「……うん、おはよう」
聖司さんはなぜか苦笑いをこぼした後、私の唇を塞いだ。ふたりとも起きたばかりで、唇が乾燥していてガサガサだったけど、幸せだと感じた。ロマンティックなシチュエーションとか、用意周到に準備されたサプライズとか、そういうものは何もいらないから、こうやってずっとただそばにいてほしい。
今は一体何時なんだろう。聖司さんが真っ暗じゃないと眠れないからと電気はついていないし、遮光カーテンのおかげで月の光すら入ってこないので、本当に真っ暗で、そばにいる聖司さんのことしか分からない。彼は横で穏やかに寝息を立てていた。
「せんぱい、パリに行くの、やめませんか」
白くてすべすべの頬にそっと手を伸ばし、小さく囁く。絶対届かないでほしくて、だけど自分の気持ちの行き場もなくて。聖司さんと過ごした夜は必ずこうやって目が覚めるので、ときどき言葉を真っ暗闇の中に投げている。
聖司さんは私には勿体無いくらいの素敵な人だ。どんなに忙しくても時間を見つけては会いに来てくれるし、こうやって一晩中一緒に過ごせる時はたくさんの愛を私に注いでくれる。その時だけは、聖司さんはわたしのものだと思える。わたしに甘えてくる顔やちょっと意地悪そうな顔、子どもみたいに穏やかに眠る顔は世界でわたししか知らないのだと思えた時だけ、心のどこかが満たされる。
だけど、聖司さんはもうすぐパリに飛び立ってしまう。次はいつ帰って来られるか分からないから、なるべく日本にいる間にたくさん会おうと言ってくれた。
「したらせんぱい」
設楽先輩と無邪気に呼んでいたあの頃が懐かしくてたまらない。聖司さんはコンクールにもう一度挑戦すると決めるまで本当にたくさん悩んだとあの日の音楽室で聞いたし、留学が決まったと私に教えてくれた時も、聖司さんはとても晴れやかな表情をしていた。まるでどこかへ導かれていくみたいに。
聖司さんのすらっとした足に自分の足を絡ませる。起こしちゃうかも、なんて心配したけど、すやすやと眠ったままだった。足があたたかくてちょっとかわいい。
「だいすきだよ、せんぱい」
この気持ちがずっと届きませんように。聖司さんのピアノの行き先がずっと光り輝く場所にいますように。せんぱいのピアノがずっとわたしのものでありますように。聖司さんは前に進んでいるし、私もそれを応援していきたかったはずなのに、本当のわたしは音楽室でふたりきりの、あの頃のせんぱいでいてほしかったんだ。
聖司さんは私に出会ってピアノと向き合う覚悟ができたと言ってくれたけど、私は先輩に出会ってどんどん欲張りでちょっと嫌な奴になってしまったみたい。
***
「美奈子、朝だ」
「……せんぱい」
「なんだよ、寝惚けてるのか?」
「……聖司さん」
「……うん、おはよう」
聖司さんはなぜか苦笑いをこぼした後、私の唇を塞いだ。ふたりとも起きたばかりで、唇が乾燥していてガサガサだったけど、幸せだと感じた。ロマンティックなシチュエーションとか、用意周到に準備されたサプライズとか、そういうものは何もいらないから、こうやってずっとただそばにいてほしい。
