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calling(若干不穏)
いつも課題や自習をする時は家よりも学校の図書室でやることが多い。その方が集中できるからだ。
今日は放課後、図書室を訪れて空いてる席を探していたら、たまたま設楽先輩と紺野先輩がいた。先にぱちっと目が合ったのは紺野先輩の方で、先輩が口だけを動かして「となり、あいてるよ」と教えてくれたので、そそくさと先輩の隣に座った。先輩の前の席には設楽先輩が座っていた。
問題集とノート、筆箱を机の上に並べ、さあ始めるぞと問題文を読み進めていたのだけど、結局図書室では全く進むことはなく、20分も経たずに三人で出ていくことになってしまった。
なぜなら主に設楽先輩がすぐに課題に飽きて、紺野先輩にちょっかいばかりかけるからだ。最初は小声で紺野先輩が設楽先輩を注意するけど、設楽先輩が無視して続けるから、紺野先輩もだんだん声が大きくなって、最後には司書の先生に2人まとめて注意される。それを何度も繰り返すので、ここで課題を進めることを諦めたのだった。
三人で図書室を出た瞬間、私が「図書室は静かにしないといけないんですよ」と設楽先輩に注意するも、当の本人は悪びれる様子もなく「しょうがないじゃないか、つまらないんだから」の一点張りだった。私より先輩なのにこれじゃどっちが年上か分からない。
その様子を見て苦笑いを溢した紺野先輩が「じゃあうちのクラスが空いてたらそこを使おう。そしたら図書室よりは静かにしなくていいだろ?」と提案してくれた。その案に乗った私たちは、先輩のクラスに行ってみたら誰もいなかったので、少しばかりお借りすることにした。
***
紺野先輩が「ちゃんとお互いの課題を進めるために、全員離れて座ろう」と言うのでそれに全面的に同意して、適当に1番後ろの席に座った。紺野先輩と設楽先輩もそれぞれ離れた席に座る。
どの学年の教室もそんなに大きく変わるわけじゃないのに、なんとなく見慣れない景色にそわそわしてしまう。先輩たちの背中が視界に入るからなんだろうか。
今度こそ課題を進めようとさっきみたいに問題集などを開いて進めようとするも、なんだか難しくてちっとも解ける気配がなかった。頭の中にある知識をどうこねくり回しても答えが出てこない。課題は全然終わらないのに、時計の針ばかりが進んでいく。
代わりに思いついたのは、私が今日一日鞄に潜ませていたポッキーのことだった。
「紺野先輩、設楽先輩、これあげます!」
静かな教室に突然私の声が響き、設楽先輩はびくりと身体を震わせ、紺野先輩はペンを走らせていた手を止めた。それからふたりの目線がこちらに集まったので、私は鞄から出した赤い箱のパッケージを見せた。
「ポッキー?ああ、そういえば今日はポッキーの日だね」
「……なんで?」
「今日は11月11日だろ。1が並んでポッキーの形に似てるかららしいよ」
「設楽先輩、ポッキー食べたことあります?」
「あるよ。お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「確かに設楽の食生活って謎だよな」
「紺野までそういうこと言うなよ」
私はポッキーの袋を開け「ちょっと甘いものでも食べて休憩しましょう」と席を立った。そんなに長く同じ姿勢でいたわけではないのに、なんだか体が固まっている気がした。
紺野先輩が座っているところまで歩いて、目の前にはい、と袋を差し出す。「ありがとう」と言って先輩はポッキーを一本手に取った。ちらりと見えた机に置いてある紺野先輩のノートは、色分けが美しく分かりやすそうなのに、びっしりと文字も書き込まれていて、さすが先輩だなあと関心する。
少し離れたところに座っている設楽先輩にも同じようにポッキーを渡す。先輩も一本ポッキーを手に取った。先輩のノートは真っ白で、端っこに小さく何か書かれていたが、私には読めなさそうだった。
「あっそういえばポッキーゲームって知ってます?」
「ポッキーゲーム?」
「2人で端っこから食べ合って、最後まで折らないように食べるんです」
私も自分の座っていた席に戻って、同じようにポッキーを一本手に取って、ぱりぱりと食べる。いつ食べても安心感のある味。美味しい。
「お互い端っこから食べて、ちょっとずつ相手の顔が近づいてきて……どきどきしますよね!」
端っこと端っこを口に咥える時点で普段よりは近い距離だろうし、そこから顔をお互いもっと近づけるなんて……と想像しただけでどきどきしちゃう。なんて罪なゲームなんだろう。
でも先輩たち、口に咥える前にそもそもチョコの部分手で持つのとか嫌かもなあ、清潔感がないといえばないし。設楽先輩は絶対嫌って言いそうだし、紺野先輩も綺麗に食べるだろうから、そもそもポッキーゲームをやろうっていう発想がないかもしれないな、と口の中をチョコとビスケットの甘さでいっぱいにしながらひとり考えていると、先輩たちが何も言葉を発していないことに気がつく。私の話がつまらなかったんだろうか。
「紺野先輩?設楽先輩?」
不安になった私は先輩たちの名前を呼んで顔を上げると、ふたりとも手元にポッキーはもうなかった。代わりにただただこちらをじっと見たまま黙り込んでいて、私は何故かどきりとした。休日3人で出かけて、私の家まで送ってくれる時にたまに見せる顔だったからだ。
ふたりとも何か言いたそうな、どろりとした視線を感じて、呼吸が浅くなっていく。
「まあ、ポッキーゲームとか、そういうものを上手く利用しないと、先に進めないことだってあるからね」
「紺野先輩?」
「……そうだな。なあ、もしかしてそういうことをする相手がいるのか?」
「えっ!?」
先輩たちの話の意図が見えなくて、ただただ混乱する。私は今日ここに何をしに来たんだっけ? 課題を進めて、先輩たちにお菓子をあげただけなのに。
「ねえ、どうしてこの話を始めたの?」
「いえ、そんなに大した意味はなくて」
「…….本当に?」
「ポッキーの日だから言っただけですよ」
「異性相手にそういう話をして、意味ない、なんてことないだろ」
「異性相手……」
休日に3人で出かけた夕方の帰り道。家まで送ってくれるからと並んで歩いている時、なんだか様子が変だなって思うことが増えた。先輩たちは"先輩"なのに、時々そうじゃなくなるときがある。今がまさにそうだ。淡々と答える先輩たちの皮を被った誰かと、混乱する私。
秋なのにまだまだあたたかさが残っていて、寧ろ春のような穏やかささえあったのに、急に空気が冷えきった気がする。
先輩たちの視線は外されることなく、ただただじっと私を見たままだった。私は一体誰と話をしているんだろう。
「せ、先輩っ、私お手洗いに行ってきます!!」
大人っぽいのに子どもみたいな先輩たちの影をすっかり見失ってしまった私はたまらなくなった。だけどどうしていいか分からなくて、この場から一旦離れることしか思いつかず、一目散に教室を飛び出し、廊下を走ってお手洗いに逃げ込んだ。
「はあ、はあ……」
先輩たちが、おとこのひとに見えた。あのひとたちは、だれなの。絶対、絶対そんなことはないけど、あのままじゃ、食べられてしまうような気がした。
息が荒くて、心臓が飛び出そうなほどうるさく跳ねている。このままじゃ教室には戻れない。かと言って、荷物も置いてきたから、黙って家にすら帰れない。誰がいるか分からない、あの教室に戻るしか道はないのだ。
そこにいるのが、いつもの先輩たちでありますようにと祈るしかなかった。
いつも課題や自習をする時は家よりも学校の図書室でやることが多い。その方が集中できるからだ。
今日は放課後、図書室を訪れて空いてる席を探していたら、たまたま設楽先輩と紺野先輩がいた。先にぱちっと目が合ったのは紺野先輩の方で、先輩が口だけを動かして「となり、あいてるよ」と教えてくれたので、そそくさと先輩の隣に座った。先輩の前の席には設楽先輩が座っていた。
問題集とノート、筆箱を机の上に並べ、さあ始めるぞと問題文を読み進めていたのだけど、結局図書室では全く進むことはなく、20分も経たずに三人で出ていくことになってしまった。
なぜなら主に設楽先輩がすぐに課題に飽きて、紺野先輩にちょっかいばかりかけるからだ。最初は小声で紺野先輩が設楽先輩を注意するけど、設楽先輩が無視して続けるから、紺野先輩もだんだん声が大きくなって、最後には司書の先生に2人まとめて注意される。それを何度も繰り返すので、ここで課題を進めることを諦めたのだった。
三人で図書室を出た瞬間、私が「図書室は静かにしないといけないんですよ」と設楽先輩に注意するも、当の本人は悪びれる様子もなく「しょうがないじゃないか、つまらないんだから」の一点張りだった。私より先輩なのにこれじゃどっちが年上か分からない。
その様子を見て苦笑いを溢した紺野先輩が「じゃあうちのクラスが空いてたらそこを使おう。そしたら図書室よりは静かにしなくていいだろ?」と提案してくれた。その案に乗った私たちは、先輩のクラスに行ってみたら誰もいなかったので、少しばかりお借りすることにした。
***
紺野先輩が「ちゃんとお互いの課題を進めるために、全員離れて座ろう」と言うのでそれに全面的に同意して、適当に1番後ろの席に座った。紺野先輩と設楽先輩もそれぞれ離れた席に座る。
どの学年の教室もそんなに大きく変わるわけじゃないのに、なんとなく見慣れない景色にそわそわしてしまう。先輩たちの背中が視界に入るからなんだろうか。
今度こそ課題を進めようとさっきみたいに問題集などを開いて進めようとするも、なんだか難しくてちっとも解ける気配がなかった。頭の中にある知識をどうこねくり回しても答えが出てこない。課題は全然終わらないのに、時計の針ばかりが進んでいく。
代わりに思いついたのは、私が今日一日鞄に潜ませていたポッキーのことだった。
「紺野先輩、設楽先輩、これあげます!」
静かな教室に突然私の声が響き、設楽先輩はびくりと身体を震わせ、紺野先輩はペンを走らせていた手を止めた。それからふたりの目線がこちらに集まったので、私は鞄から出した赤い箱のパッケージを見せた。
「ポッキー?ああ、そういえば今日はポッキーの日だね」
「……なんで?」
「今日は11月11日だろ。1が並んでポッキーの形に似てるかららしいよ」
「設楽先輩、ポッキー食べたことあります?」
「あるよ。お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「確かに設楽の食生活って謎だよな」
「紺野までそういうこと言うなよ」
私はポッキーの袋を開け「ちょっと甘いものでも食べて休憩しましょう」と席を立った。そんなに長く同じ姿勢でいたわけではないのに、なんだか体が固まっている気がした。
紺野先輩が座っているところまで歩いて、目の前にはい、と袋を差し出す。「ありがとう」と言って先輩はポッキーを一本手に取った。ちらりと見えた机に置いてある紺野先輩のノートは、色分けが美しく分かりやすそうなのに、びっしりと文字も書き込まれていて、さすが先輩だなあと関心する。
少し離れたところに座っている設楽先輩にも同じようにポッキーを渡す。先輩も一本ポッキーを手に取った。先輩のノートは真っ白で、端っこに小さく何か書かれていたが、私には読めなさそうだった。
「あっそういえばポッキーゲームって知ってます?」
「ポッキーゲーム?」
「2人で端っこから食べ合って、最後まで折らないように食べるんです」
私も自分の座っていた席に戻って、同じようにポッキーを一本手に取って、ぱりぱりと食べる。いつ食べても安心感のある味。美味しい。
「お互い端っこから食べて、ちょっとずつ相手の顔が近づいてきて……どきどきしますよね!」
端っこと端っこを口に咥える時点で普段よりは近い距離だろうし、そこから顔をお互いもっと近づけるなんて……と想像しただけでどきどきしちゃう。なんて罪なゲームなんだろう。
でも先輩たち、口に咥える前にそもそもチョコの部分手で持つのとか嫌かもなあ、清潔感がないといえばないし。設楽先輩は絶対嫌って言いそうだし、紺野先輩も綺麗に食べるだろうから、そもそもポッキーゲームをやろうっていう発想がないかもしれないな、と口の中をチョコとビスケットの甘さでいっぱいにしながらひとり考えていると、先輩たちが何も言葉を発していないことに気がつく。私の話がつまらなかったんだろうか。
「紺野先輩?設楽先輩?」
不安になった私は先輩たちの名前を呼んで顔を上げると、ふたりとも手元にポッキーはもうなかった。代わりにただただこちらをじっと見たまま黙り込んでいて、私は何故かどきりとした。休日3人で出かけて、私の家まで送ってくれる時にたまに見せる顔だったからだ。
ふたりとも何か言いたそうな、どろりとした視線を感じて、呼吸が浅くなっていく。
「まあ、ポッキーゲームとか、そういうものを上手く利用しないと、先に進めないことだってあるからね」
「紺野先輩?」
「……そうだな。なあ、もしかしてそういうことをする相手がいるのか?」
「えっ!?」
先輩たちの話の意図が見えなくて、ただただ混乱する。私は今日ここに何をしに来たんだっけ? 課題を進めて、先輩たちにお菓子をあげただけなのに。
「ねえ、どうしてこの話を始めたの?」
「いえ、そんなに大した意味はなくて」
「…….本当に?」
「ポッキーの日だから言っただけですよ」
「異性相手にそういう話をして、意味ない、なんてことないだろ」
「異性相手……」
休日に3人で出かけた夕方の帰り道。家まで送ってくれるからと並んで歩いている時、なんだか様子が変だなって思うことが増えた。先輩たちは"先輩"なのに、時々そうじゃなくなるときがある。今がまさにそうだ。淡々と答える先輩たちの皮を被った誰かと、混乱する私。
秋なのにまだまだあたたかさが残っていて、寧ろ春のような穏やかささえあったのに、急に空気が冷えきった気がする。
先輩たちの視線は外されることなく、ただただじっと私を見たままだった。私は一体誰と話をしているんだろう。
「せ、先輩っ、私お手洗いに行ってきます!!」
大人っぽいのに子どもみたいな先輩たちの影をすっかり見失ってしまった私はたまらなくなった。だけどどうしていいか分からなくて、この場から一旦離れることしか思いつかず、一目散に教室を飛び出し、廊下を走ってお手洗いに逃げ込んだ。
「はあ、はあ……」
先輩たちが、おとこのひとに見えた。あのひとたちは、だれなの。絶対、絶対そんなことはないけど、あのままじゃ、食べられてしまうような気がした。
息が荒くて、心臓が飛び出そうなほどうるさく跳ねている。このままじゃ教室には戻れない。かと言って、荷物も置いてきたから、黙って家にすら帰れない。誰がいるか分からない、あの教室に戻るしか道はないのだ。
そこにいるのが、いつもの先輩たちでありますようにと祈るしかなかった。