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設楽先輩との帰り道、私は突然あることを思い出した。
「琉夏くんたちからセイちゃんって呼ばれてるんですか?」
「……それがどうしたんだ」
「かわいいあだ名だなあって」
「可愛いなんて言われても嬉しくない」
「私もセイちゃんって呼びたいです」
「いやだ。それよりもっと他の呼び方があるだろ」
「えっと、例えば?」
設楽先輩はぷかぷかと宙に浮かんでいる言葉を探すように少し視線を泳がせている。けれど言いたいことが見つかったのか、何かに引き寄せられるように突然私の目をじっと見つめた。強い視線に囚われたような気がして、目を逸らせない。
「……聖司先輩、とか」
「……せいじせんぱい?」
「そうだ」
強くそう頷く彼に、聖司先輩、ともう一度ぽつりと呟くと、正解だと言わんばかりに先輩は満足げに笑った。
設楽先輩と呼ぶよりも随分近しいし、先輩との距離が縮まったような気がして、急に心臓の鼓動が速くなる。この音が先輩に聞こえるわけないのに、耳がいいだろうから、なんでも届いてしまうような気がした。
「おまえも琉夏から美奈子ちゃんって呼ばれてるんだろ」
「はい」と私が答えると間髪入れずに「なんで」と聖司先輩は言った。満足げな顔をしているかと思えば、急にまた眉間に皺を寄せている。
「なんでって幼馴染だから……」
「……俺も美奈子って呼びたい」
「もちろんいいですよ」
私はにこりと笑ってそう言うと、聖司先輩はその場に立ち止まって黙り込んだ。今日の先輩は笑ったり不機嫌になったりと、表情豊かでなんだか忙しい。
「先輩?」と声をかけると、目を何度かぱちぱちとさせたあと、ゆっくりと花開くように顔を綻ばせた。
それから「美奈子」といつもより優しい声で、私の名前を呼んだ。先輩の声に私の名が乗せられると、自分が思うよりずっと美しい名前のように思えた。
「じゃあこれからは美奈子って呼ぶことにする」
「はい!ふふ、聖司先輩、顔ちょっと赤いですよ」
「べ、別に海外じゃ名前で呼ぶのなんて当たり前だ!こんなの、なんでもない!」
きっぱりと言い放ってスタスタと歩き出す聖司先輩に「それが顔が赤い理由ですよ、なんて言ってないのになあ」と思いながら、その背中を追いかけて私もまた歩き出したのだった。
20240822
設楽先輩との帰り道、私は突然あることを思い出した。
「琉夏くんたちからセイちゃんって呼ばれてるんですか?」
「……それがどうしたんだ」
「かわいいあだ名だなあって」
「可愛いなんて言われても嬉しくない」
「私もセイちゃんって呼びたいです」
「いやだ。それよりもっと他の呼び方があるだろ」
「えっと、例えば?」
設楽先輩はぷかぷかと宙に浮かんでいる言葉を探すように少し視線を泳がせている。けれど言いたいことが見つかったのか、何かに引き寄せられるように突然私の目をじっと見つめた。強い視線に囚われたような気がして、目を逸らせない。
「……聖司先輩、とか」
「……せいじせんぱい?」
「そうだ」
強くそう頷く彼に、聖司先輩、ともう一度ぽつりと呟くと、正解だと言わんばかりに先輩は満足げに笑った。
設楽先輩と呼ぶよりも随分近しいし、先輩との距離が縮まったような気がして、急に心臓の鼓動が速くなる。この音が先輩に聞こえるわけないのに、耳がいいだろうから、なんでも届いてしまうような気がした。
「おまえも琉夏から美奈子ちゃんって呼ばれてるんだろ」
「はい」と私が答えると間髪入れずに「なんで」と聖司先輩は言った。満足げな顔をしているかと思えば、急にまた眉間に皺を寄せている。
「なんでって幼馴染だから……」
「……俺も美奈子って呼びたい」
「もちろんいいですよ」
私はにこりと笑ってそう言うと、聖司先輩はその場に立ち止まって黙り込んだ。今日の先輩は笑ったり不機嫌になったりと、表情豊かでなんだか忙しい。
「先輩?」と声をかけると、目を何度かぱちぱちとさせたあと、ゆっくりと花開くように顔を綻ばせた。
それから「美奈子」といつもより優しい声で、私の名前を呼んだ。先輩の声に私の名が乗せられると、自分が思うよりずっと美しい名前のように思えた。
「じゃあこれからは美奈子って呼ぶことにする」
「はい!ふふ、聖司先輩、顔ちょっと赤いですよ」
「べ、別に海外じゃ名前で呼ぶのなんて当たり前だ!こんなの、なんでもない!」
きっぱりと言い放ってスタスタと歩き出す聖司先輩に「それが顔が赤い理由ですよ、なんて言ってないのになあ」と思いながら、その背中を追いかけて私もまた歩き出したのだった。
20240822