無表情な編入生
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カルマとさんが一緒に登下校するようになってから数日。
さんはこの電車通学が憂鬱だった。
なによりこの満員電車。
それと、もう1つ。
痴漢被害。
と言ってもいつもカバンがお尻にあたるくらいだった。
だが、いつも同じサラリーマンの男。
どれだけ車両を変えても
いつの間にかいつもピッタリ後ろに居る。
だが触ってきたりはしない。
だから実害なし、と放っておいたのだが。
実はカルマと登校したときから
カバンで、ではなく直接触るようになってきていた。
手口は最後降りるときにだけ触れていくというもの。
実はカルマはそれに気づいていた。
だが、すぐ近くに自分がいるのに頼ろうとしてこないさんに少々腹が立っていた。
そこでカルマはある作戦を実行する。
その作戦の第一はまず、カルマとさんが付き合っていると男に思わせるところから。
満員電車の中、あの男がさんの真後ろにぴったり寄り添うのを確認してから、ジリジリとさんをドアの方まで追いやる。
所謂、"壁ドン"状態だ。
「さんってさぁ…
ちょーっとからかったらすぐ顔が真っ赤になるよねー。
リンゴ病っていうの?
かーわいー。俺その顔ツボなんだよねー」
なるべく親しい感じで、いつもの挨拶のようにさんに言葉をかける。
さんは急にカルマが距離を詰めてきたことと カワイイ という言葉に過剰に反応する。
『なっ…!』
「ほら。
もー真っ赤っかじゃん。」
ニシシ、と八重歯を見せながら笑うカルマに更にさんは自分の耳から熱を発するのがわかった。
『ちょ、カルマ。…近いよ…っ。』
「いや、だって満員だしさ。
一応これでもさんが潰されないようにだーいぶ腕に力入れてるんだけど?」
それは大した大義名分だった。
だがそんなこととは知らず、素直に言葉を受け取るさん。
『うっ…。
ご、ごめんなさい….ありがとうゴザイマス…』
チラリと申し訳なさそうに上目遣いでカルマを見る彼女。
カルマはこのとき一瞬目的を忘れ、
無自覚で鈍感な彼女に思考を奪われていた。
彼も健全な男子中学生な訳で。
女子とこんな近くで、しかも上目遣いなどされてしまうと、普通にドキリとしてしまうのは仕方のないことだった。
これはあくまでも作戦だ、と
煩悩を掻き消すようチラリと例の男を見やると、かなり敵対心を剥き出した目でじっとカルマを見据えていた。
第一段階はこれでクリアだとカルマは確信した。
そして、その日からの帰りは
一緒の電車に乗り最寄りの駅でわざと用事やらなんやらで1人でさんを帰らせる。
ここでフラストレーションが溜まっているであろうあの男をさんに接触させそこを叩くつもりだった。
しばらくはあの男に見せつけるように、行きの電車でカルマはさんと恋人であるよう見せかけた行動を取っていたせいか、数日経つと痺れを切らしたように現れた。
カルマとさんが駅で別れたあと、すっと1人の男がさんの後を付け出した
間違いない。
あの男だ。
そこからは簡単だった。
トントンと男の肩を突ついてニッコリと笑顔を向けるとカルマとは対照に真っ青になる男。
「ねぇおっさん。
俺実はさぁ、彼女が痴漢されててさぁ
すっげー腹が立ってんだよねー」
笑顔を絶やさずスマホで一枚の写真を男に見せる
そこには、さんの体を触る男の姿があった。
「アンタ、一瞬しか触っていかないからさぁ。写真撮るの苦労したんだよねー。
で、何枚かあるけどどーする?
おっさんさぁ、大手企業メーカーにお勤めでしょ?
いつも降りる駅といつかの電話内容からしたらあの会社しかないもんねー?
痴漢で捕まったりなんかしたらどぉーなるんだろぉねー?
だからこそ折角大分慎重に痴漢してたのにねー?
で、どーすんの?」
ヘラヘラと追い詰め、
最後の一言のみ獲物を睨みつけるよう言葉を放つと、
もう近づきません、と項垂れ、帰って行った。
それだけでは物足りないと思うカルマだったが、大事にすることを彼女は望んでいないだろうと見逃してやった。
次の日からはもう、
あの男を見なくなった。
さんも少し周りをキョロキョロ探す素振りがあったが、いないのを確認してか安堵の表情が見えた。
それに気付かないフリをして、カルマは
「どーしたの?」と聞くが、案の定、
『ううん、なんでもないよ。』と予想通りの答えが返ってきた。
「ふーん。」
興味なさげに答えてみせるがカルマにとってはやはり面白くは無いわけで。
いつかのように、電車の揺れに乗じてジリジリとドアのほうへさんを追いやって同じ状況を作る。
近づいた拍子にふわりとシャンプーの匂いがして、一瞬思考が緩んだカルマだったが、この感情をどうにか彼女に伝えたくて少し怒気を孕んだ声で「…痴漢されてたのに?」と耳元で呟く
『え、気づいて…。』
言いかけたところでハッと口を紡ぐさん
「そりゃ嫌でも気づくよ。」
さんが電車を降りる時はいつも顔を真っ赤にしていたのを思い出すカルマ。
それと共にあの男を何もせず帰したことを後悔した。
「さんの様子変だったし、
なんかあったのかとか周り見るよ普通に。
…でもなーんも言って来ないからさー
ちょっと意地悪しちゃった☆」
べ。
と舌を出すカルマ。
さんは意地悪、と言われ先日と今、必要以上に距離を詰められたことを思い出す。
途端に顔に熱が集中するのがわかった。
それを見たカルマは気分良さげに
「ハハ。
今も真っ赤だねー。
リンゴだったら食べごろなんじゃない?」
と更に畳み掛ける。
そんなカルマを見て…本当に意地が悪い、と睨みつけるさん。
「そんな顔じゃなーんも怖くないけど?w」
見下すように彼女をからかうカルマ。
そこでふとさんはあることに気づく。
毎朝必ず居たあの男はなぜ急にいなくなったのか。
そして、彼の言動。
まさか……
『カルマ、なんか…したの?』
「んー?なんのこと?」
そう言うと "しーっ" と人差し指を口に当てにんまりと笑うカルマ。
さんは恐る恐る『なにをしたの?』
と聞くが「知りたいの?」とカルマは目をキラキラ輝かせる。
なんだかそれが余計に怖くなって聞くのを辞めた。
『ま、まぁいいや…。でも、ありがとう。カルマ。
正直助かったよ…』
やはりここでも笑顔を見せない彼女にカルマはいつか笑った顔が見たいと願うようになっていた。
代わりにカルマの脳裏にはここ数回の耳まで真っ赤に染めたさんの表情を思い出す。
「んー。なんか、面白くなかったんだよね…」
『??
なにが?』
「その顔させるのが俺以外に居ると思うと、さ。」
真っ直ぐ、さんの目を射抜くように呟かれたその言葉に思わずさんは目を逸らした。
一瞬なぜかドキリと心臓が高鳴るさんだったが
なんなんだ…
どんだけこの人Sなんだよ…
と少し見当違いの思考を巡らせる彼女だった
カルマは鋭い目線から一変。
フ、と優しい表情に変わると、
「困ったときは周りに頼る賢さも必要だよ?」
わかった?
そう諭し、思わずさんは素直に首を縦に振った。
「次なんか隠し事して、俺が気づいたら約束違えたと見なしてなんかしらあると思っておいて☆」
今度は乾いた笑顔を向けられ隠し事はできないな、と悟るさんだった。
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