無表情な編入生
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~カルマ side~
次の日から俺は名無しを朝迎えに行くことにした。
彼女に対してなぜここまでするのか、名無しの近況を知ってしまった以上、放っておくのはなぜか躊躇われた。
最初は驚きつつ、断られていた。
だがインターホンでの対応ではなくきちんと外まで出てきて直接顔を見て対応をする名無し。
毎度律儀な奴だ、と感心する。
そして、毎度来るたびに寝不足が続いているのか顔色が悪い。
ちゃんと食べろという意味で行くたびに食べ物を持って行った。
だが、顔色を見る限りではそれに手を付けているようには思えなかった。
それがしばらく続いたのだが、ある日ついに名無しが学校に来ることになった。
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~名無し side~
毎朝迎えに来る赤羽くん。
最初から説得をされた訳ではないのだが、途中からは食事を持ってくるだけになっていたように思う
お手伝いさんにご飯は食べるときと食べない時があるので基本的にはしないようにしてもらっている。
ただなにもする気が起きない。
自分のためだけに作るご飯は味気ないし、お父さんが美味しい美味しいと食べてくれていたのを思い出し切なくなる。
かといって、ずっと赤羽くんに迷惑をかけていてはいけない、赤羽くんの顔を見る度に罪悪感が膨れ上がる。
ただ、間違いなく、彼のあの一言のおかげで今のままではいけないと思うようになったのも事実だ。
買ってきてくれる食料品のお金を出そうとしても学校に来てくれるまで受け取らないと拒否をされる。
もうこれは学校に行くしかない。行って今までのお金を返してもう来なくていいと伝えよう。
そう心に決め制服に着替えた。
学校へ登校すると途端に暖かく迎えてくれるE組のクラスメイト。
あんな態度だったのに、と
皆に迎えられて嬉しくなったのも事実。
父親の言葉でもある出会いは財産、という言葉を思い出す。
父親の言うようにこのE組との出会いは財産なのだろうか……
そう心が暖かくなりかけたが、それと同時に、その出会いが父親を殺したことを思い出し、途端にドス黒い感情が私を襲った。
なんとか皆の前では平静を保つのだが時間が経つにつれてE組のクラスメイトの顔がだんだんとボンヤリしてきた。
皆がいい人たちであればあるほど怖くなる。
いつか裏切られるのではないか。
この出会いに後悔するときが来るのではないか。
だったら深入りしないほうが良い
耐えよう。今日1日。あと数時間。耐えろ、耐えろ。
そう考えれば考えるほど1人になりたくて、放っておいてほしくて…
自分の表情がだんだん強張っていくのがわかった。
たまらず休み時間中、ガヤガヤと騒がしい教室をそっと出た。
校舎裏の自然に はぁ、と息をひとつ吐き捨てる。
そこは木が一本崖に向かって伸びている危険な場所だった。
E組の皆、本当にいい人たちだ。
だからこそもう居たくない。
前のクラスは自分のことに必死すぎることに息苦しさを感じたこともあったが今はそっちの方が良いとさえ感じていた。
クラスを落とされ、丁度良いかと思われたが間違いだった。
人が怖い。
このまま私もいなくなったら…
こんな思いをしなくなるのか。
裏切られるくらいなら、そんな経験する前に居なくなれば良いのではないか。
そうしたらお父さんにもう一度会える?
(なんて…ここから飛び降りる勇気なんてない…)
フ、と苦笑いを浮かべながらなんとなく崖下を覗き込んでいたら後ろから少し焦ったような声で「なにしてんの?」と聞こえた。
振り返ると息を切らした赤羽くんが居た。
私が今にも飛び降りそうに見えたのだろう。少し怒気を含んだその声に少し動揺する。
確かに、彼の予想通り一瞬ここから落ちたらどうなるのか、と考えなくもなかった
「今、なにしようとした?」
『…………。』
「……っ。答えろ!!」
いつも飄々とした彼の怒声に体がビクリと震える。
「死んだ父親のあとを追おうとした?」
その言葉にバッと顔を上げる。
『別に………。そーゆーんじゃ、』
赤羽くんの表情を見ると怒ったような悲しそうな………
なんであなたがそんな顔をするの?
別に関係ないでしょう?
どうせ皆最後は裏切る癖に………
「信じてください!!!」
遠くから殺せんせーが叫ぶ
「なにがあったかは知らない!でも、私は、教師として、あなたのことを裏切ることはない!」
嘘だ。
『……ぅ…そだ。』
「嘘じゃない!!」
『嘘だ!!そう言って信じて………
私の父は……!』
はっ。と言いかけた言葉を止める
「自殺したんでしょ?」
そう言われた声のほうに顔を向けると真剣な表情の赤羽くん。
後ろには騒ぎを聞きつけたクラスメイトたち。
『ちがう!!そんなことしない!
……事故死、だったの…。』
自殺なんかしない。
違う。違うの。
聞いて、聞かなくていい、話したってどうせ、聞いてよ、構わないで、放っといて
自分の感情がごちゃごちゃで耳を塞ごうとする
「……うん。」
赤羽くんの返事だけが私の混乱を落ち着かせるかのように鮮明に耳に入る。
今まで頭の中が煩かったのが今は静かだ。
ーーーーーーーーー
私の父親は、優しい人だった
出会いは財産。大切にしなさい。
困っている人がいたら助けてあげなきゃ
そんな人。大好きだった。自慢だった。
小さい頃に母を亡くし、男手ひとつで私を育ててくれた。
お母さんがいなくても幸せだった。
でも、ずっと父と親友だった人が父を騙して、借金を背負わされた。
私とも仲良くしてくれた人。
父の自慢の友達。
ただ、その親友は借金なんかしていなかった。
ただの詐欺でお父さんからお金を騙しとった
そしてお金がまわらなくなった父は誰にも助けを求めず、
私にも笑顔しか見せず、必死で働いて、過労で、通勤途中に電車のホームに落ちて1人で逝ってしまった
でも、処理は自殺だった。
父がそうなるようにしてた。
過労での事故で会社に責任を負わせないように、
父は遺言書を書いてた。
どこまでもお人好しだった…
なにもかも掬い取ろうとした
その結果が…こんなの酷すぎる…
父が死んだ時にも出なかった涙がボロボロと溢れる。
「きっとあなたのお父さんはあなたの笑顔を守りたかったのでしょう。
必死で自分の大切だと思うものを最期まで守ったのです。
最期まで腐らず、自分の芯を曲げなかったあなたの父親は本当に素晴らしいお人です。
あなたは胸をはって自慢の父親だと言って良いのです。」
私はそう思いますよ。
いつの間にかすぐ近くにいた殺せんせーにそう言われた。
私を守ったと父を賞賛する人は初めてだった
事情を知らない人たちは
勝手に騙された挙句子供だけを置いて
逃げ出した臆病なやつだと
私に哀れみの目を向けるばかりだった
違うのに
父は途中で逃げてなんかない。
むしろ最期まで戦ったのに。
なぜ周りの人間は勝手な噂で父のことを悪く言うのか、
あいつが父を騙さなければ、
あいつと親友になんてならなければ、
あいつと父が出会わなければ。
そんなことばかり考え、人間不信に陥っていた私にとって、殺せんせーの
言葉はストンと胸に落ちた。
私のことももちろん。
会社や、あの裏切った親友でさえ守ろうと、どれだけ辛くても、自分が大切だと思うものを………
「かっこいいじゃん。名無しの父ちゃん。」
『…っ!うっ、ふ…っ。』
赤羽くんに言われた一言が嬉しくて嬉しくて。
声を押し殺しながらも涙が止まらない。
大好きな父親を私以外の人に認めてもらえた。
ありがとう。
先生。赤羽くん。
お父さんーーー………
今度は私が最後まで戦う番だよ
ふっと気が抜け
私の意識は途絶えたーーーー
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