第1章 幼少期編
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家を出て十数分、麓に到着すると小蘭を腕に抱くオルニスは道から外れた人目につきにくい草むらに腰を下ろした。
この世界に来て一年たったから一歳などというアバウトな数え方をしているが、中身はさておき小蘭は立派な幼子なので草むらに降ろすには少々問題がある。だからといってずっと立っているのも味気ない。
膝の上で興味津々に草や花を見ている小蘭の背中を撫でながらオルニスはそっと草を指さした。
「それは触る分には問題ないが、体内に入れたら微量の毒がある草だよい」
「!」
「……あぁ、でもそっちは食べられる草だねぃ。それとこれを一緒に煎じて飲めば薬になるよい」
「う!」
持ちうる知識を総動員し、あれは、これは、と小蘭に説明をする。その説明を聞く度に目を輝かせながら相づちを打つ幼子を見てオルニスは目を細めて微笑んだ。
今は亡き敬愛する父親を思う。妹が居ればこんな思いだったのだろうか。娘がいたらこんなにも胸が苦しくなるものだろうか、と。
オルニスがマルコとして生きていたうん十年は波乱の毎日だった。平和に近い毎日を過ごしていた日々もあったが、兄弟が死んだあの日から穏やかな日々は消え去った。
そんな何十年も前になくした平穏が今ここにある。海賊だった時と比べて退屈だと思うぐらいには。
海賊である事実は今も消えないが、少なくともこの胸に「誇り」はない。あるのは真っ黒い感情ただ一つ。
けれど、こんな日々も悪くないと思ってしまうぐらいにはオルニスは歳を取り過ぎた。
享年73歳、オルニスがかつてマルコとして生きていた世界で父と慕った男より一年長く生きて世を去っている。
「……あァ、小蘭。それは食べられる実だよぃ。持って帰るか」
「う!」
膝の上の小さな相棒が、生えている草から実を引きちぎったのを見て我に返って声をかけた。ポケットに入れていた小さなナイロンを出して小蘭から受け取った実を放り入れる。オルニスは亡霊故に食事など必用ないので小蘭が食べるものだ。本来ならそのまま食べるものだが、身体が幼子なので少し加熱し、潰すつもりでいる。
膝の上から手を伸ばして実を取る小蘭に習ってオルニスも手が届く範囲の実を詰んでいく。
ナイロンの袋の底が実で埋まった頃にオルニスはふと手を止めた。複数の足音が近くまで来ているからだ。それもあまり品のある音ではないのでそこらのごろつきだ。
実を詰むのを中断し、オルニスは小蘭を抱えてその場を立ち去ろうとしたが、ごろつきであろう者達に見つかる方が早かった。
「おうおう、君たち、ここが俺たちの縄張りだと分かってここにいるのかな?」
、
ニヤニヤと笑うごろつき達、オルニスの眉間に皺が寄る。うんともすんとも言わないオルニスにごろつきはあくどい笑みを見せた。
「嫌になるねぇ、知らないなんてなァ!なら言わせてもらおう。有り金とそのガキを置いて今すぐ立ち去りな。そしたらてめェ一人ぐらいは見逃してやろう」
有り金はさておき子供を欲しがるのは本来なら「売る」為だろが、最弱の海の平和な島で人身売買を行えるぐらいのパイプがあるとは思えない。それでも欲しがるという事は、それなりの「使い道」があるのかもしれない。
ごろつき共はフードを被ったオルニスが恐がり、子供を盾にして逃げると思い込んでいた。子供の価値は安いので自分達ならそうすると思い込んだから相手も必ずそうする、と。
相手が誰か、など知らずに。
「………嫌だと言ったら?」
「なら死ね!」
「……お前らこそ、誰にものを言ってるのか分かってんのかい?」
「あぁ!?」
あまりの醜さに吐き気を覚えながらもオルニスは低い声で相手を威嚇した。それに怯まない山賊はよほどの実力者か愚か者か……答えは勿論後者だ。
「……喧嘩を売った相手が悪かったねい」
そう呟くとオルニスはそっと小蘭を覆っていたタオルごと草むらに降ろし、ため息と共に飛びかかった。一番前にいた男に飛び蹴りを食らわし、着地したと思ったら次は近くの男に回し蹴りお見舞いする。
そうやってごろつきを次々に地面に転がしていった。相手にに勝ち目などなかったのだ、最初から。
なにしろ生前世界最強と謳われた白ひげ海賊団1番隊隊長『不死鳥マルコ』、懸賞金など十億を超えている。そして白ひげ死後十数年、船長代理として君臨した。武器を持たずとも戦う事はできるし、そもそも彼の戦闘スタイルは能力と体術。
分かり切っていたことだった。瞬殺でしかなく、ごとつき達は碌に反撃できずに終わった。
「……はァ、嫌になるねい」
そう言ってただ一人地に立っているオルニスは首を横に倒してポキリと鳴らし、後頭部をかいた。
草などで小蘭の視界には何も入らなかったが、聞こえた断末魔が知らぬ声だけだったので聞こえたので結果は察した。
地に倒れて動けない男達など気にもとめず、オルニスは草むらに隠した小蘭の元へ足を進める。
「怖かっただろい、すまなかったねぃ」
そう言いながら優しく小蘭を抱き上げた。
オルニス――マルコという男は敵には容赦なかったが、身内には優しかった。フードで周りからは見えないが、その微笑みは覗きこまれている小蘭には全て見えている。
大丈夫、と言わんばかりに小さく首を振った小蘭にマルコはまた微笑んだ。
「そうかい、よかった」
これから先、自分達の目的を達成するには暴力の世界に足を踏み入れる事となるが、力無き幼子の時ぐらいは脅える事無く過ごして欲しい、と巻き込んだ張本人のオルニスは願う。
せっかくの散歩が台無しになったがこのまま此処にいてもこれ以上の面倒事に巻き込まれるかもしれない、とオルニスはそのまま足早々と立ち去ろうとした……
が、直ぐに歩みを止める事となる。
「お前すげぇな!」
少し先にあまりにも見覚えのある、ただ記憶にあるその姿よりとても若い男たちが立っていたからだ。