番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっとさぁ、別におれだってここに来たくて来たわけじゃないんだからそうも睨まないでくれる?」
「うるっせー!」
新世界、白ひげ海賊団本船モビー・ディック号。青い空の下でクザンはげっそりと顔を歪めながらため息を吐いた。
近くの無人島で待ち合わせをする為に自転車で海を渡っていると近づいてきたのは白ひげ本船。ゲッと顔を引つらせたクザンは甲板に出てきた白ひげに声をかけられて半ば無理矢理お邪魔する事になった。
甲板に上がらなかったら「親父の言うことが聞けねェのか!」と叫ばれ、上がれば「海兵のくせに!」と睨まれる。選択肢がないこの状況で恐らく正解だったのは「モビー・ディックに会わない事」だったのかもしれない。
「おれもう海兵じゃありませんー」
「すまねェなァ、青雉」
「いいよ、別に」
グラグラグラ、とちっとも申し訳なさそうな顔をせずに笑いながら白ひげはクザンに声をかける。
肩をすくめてため息を吐いたクザンは先日海軍を辞めた。色々な事があって、先の大戦であるマリンフォード頂上決戦において火拳のエースを含む白ひげ海賊団とその傘下を新世界に逃し、赤犬に重症を追わせた大戦犯「奇術師の小蘭」と友人になった。
親子ぐらいの年齢差があり、かつては敵対した二人が何故そうまで仲良くなったのかは当の本人達しか知らない。
白ひげを除く白ひげ海賊団の面子はその二人の関係をとても嫌がっており、何かある度にクザンを目の敵にしていた。
「それで?あの子はどうしたの」
「あァ、小娘なら今日は寝坊だ」
「寝坊?……いやぁ、珍しいねェ……」
寝坊したから船を出る時間に飛び立てなかった。小さな子供だから仕方がない事だが、時間や約束をきっちり守る少女からすると珍しい事だった。
「ろくに準備もしないまま慌てて飛びたとうとするからうちのマルコが雷を落としてな、まぁちょっくら待ってやれ」
「いや、まぁ、それぐらい良いけど……」
あの非常に大人びた少女が年相応な事をしている。おかしいと言わんばかりに楽しそうに笑う白ひげにクザンも少しだけ顔を緩めた。
「やい!青雉!小蘭に手を出したら許さないからな!」
誰かが声を上げる。青雉は両手をあげて緩く首を振った。
「誰か出すか。おれは幼女趣味じゃないし、ちょっとした目的があっての仲なの。勘違いしないでくれる?」
「うるせぇ!元と言えど海兵の言うことなんて信用出来るかってんだ!」
「……白髭、あんたんとこの息子さん、ちょっと血の気が盛んすぎない?」
「元気があっていいじゃねェか」
「そういう問題じゃないっての」
はぁ、とため息を吐く。クザンは組んでいた腕を組み換え、白ひげを見上げた。
「そんなにおれとあの子の仲が気に入らないなら、あの子に命令でも何でもして船に留めておけばいいでしょ」
クザンの言葉に白ひげは酒を口にしながらため息を吐く。
「あれは残念ながら娘じゃねェんでな。おれの言うことなんて聞かねェし、聞く理由がねェんだよ」
「ありゃ、そうなの。あんたらのことだからてっきり既に娘や妹にしてるんだと思ってた」
それは驚きだ、と全く驚いていない淡々とした声でクザンは返事をした。
「勧誘はしているが全敗中だ」
「そりゃあ傑作だ。天下の白ひげがねェ……」
マリンフォードで死者は出したものの、最強という地位がまだ健在の白ひげの勧誘を諸共していない。世の中には白ひげの息子や娘になりたいと思っている人間はそれなりにいるというのに。
おかしくて仕方がない、とククッと笑ったクザンは騒がしい声が近づいてきたのでそちらに顔を向けた。
「来たか。……おはよう、小蘭」
「っおはよう、クザンさん!遅くなってごめん!」
ドアが勢いよく開きながら飛び出してきた小さな少女にゆったりと声をかけると廊下を走ってきたのか頬を赤くした小蘭が元気よく挨拶を返した。その背後には相変わらず顔を見せずにフードを深く被ったオルニスがいるし、その後ろには不穏な空気を纏っている隊長格がいる。
少々はクザンの足元に駆け寄った。
「お待たせしました!」
「うん、いいよ。でも今度はもう少し余裕をもってね。おれあんまりこんな所に来たくないから」
睨まれ、殺気を飛ばされ、白ひげに笑われるこのモビーの甲板に来たくない、としかめっ面で訴えるクザンに小蘭はクスクスと笑った。
「うん、ごめん。それじゃあいこっか」
「あぁ」
クザンは白ひげに小さく会釈をすると横に置いてあった自転車を持ち上げて船から飛び降りた。
小蘭はニコニコ笑いながらこちらを見守っている白ひげに声をかける。
「白ひげさん、行ってきます!」
「……あァ」
杖を出して「翔(フライ)」を発動し、羽が生えた杖に跳び乗ると先へ進みだしたクザンを追いかけた。
1/1ページ