第1章 幼少期編
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「小蘭、オルニスのおっちゃん!」
「……あぁ、おまえか」
マルコと小蘭が住んでいる家に小さな子供が駆け込んできた。ノックもせずにドアを開けた来訪者にマルコは小さくため息を吐きながらその腕で赤子の小蘭をあやしている。
フーシャ村におりたって一年、あっという間だった。フードで顔を隠し赤子を抱いているマルコことオルニスを人々は札付きとして敬遠したが、大人しく何の問題も起こさない彼を村人達は恐れる事もなくなり少々のお節介をするようになった。何の害もない札付き故にたまにくる海軍には彼の事は村総出で秘密にしている。きっと何か問題を起こすような連中だったら村人達も黙ってはいなかったが、オルニスとその赤子は人から隠れる様に住んでいたので大海賊時代の今は村人達も良心的だった。
あまり良くは思われていないかもしれないが害にもなっていない自分達について村人達に「不用意に関わるな」と教えられている筈なのに、ルフィは恐ろしい頻度で現れた。一歳になった小蘭はまだ言葉を話せないものの、中身が中身なのでマルコの腕の中であきれた顔をしている。
「オルニスのおっちゃん、相変わらず『ふしんしゃ』だな!」
「ほっとけ」
フードを深くかぶり決して顔を見せようとはしないオルニスに向かってルフィは恐れる事もなく「ふしんしゃ」と言い放った。この一年で散々言われている事で、初めて言われたのは村に買い物をしに行った時で周りの大人達がギョッとしたが、大きくため息を吐いたオルニスはルフィと目線を合わせる為にしゃがんで「俺だったからいいものの、俺以外のそこらにいる顔を隠した奴らには絶対に言うなよ」と言って人目を避けるように足早々に去った。
その事がきっかけで村人達もオルニス達を放っておく様になって居心地は良くなったが、それと同時に騒がしいルフィに慕われる様になったのは誤算だった。
「それで?チビ助はどうしてここに?」
「チビ助じゃねェ!おれはルフィ!」
「はいはい。それで?」
名前を呼んでやる気はないので子供に向かって見たまんまの名前で呼ぶ。ルフィは地団駄を踏むが、直ぐに笑顔になった。
「あ、あのな!もう直ぐ前話したシャンクスがこの村にくるんだ!オルニスのおっちゃん達も一緒に会いに行こう!」
「!」
ピクリと肩が動くオルニス。眉間に皺を寄せたがフードで隠れているのでキラキラとした目でオルニスを見るルフィは気がつかない。
恐らく友達に友達を紹介したいのかもしれないが、オルニス達は会うつもり全く無い。会うわけにはいかないのだ。
「……すまねぇが俺達はその日やる事があるんだ」
「何でだよ!明日すればいいだろ!?」
「今日しなくちゃいけねぇんだよ。……すまねぇなぁ」
何がなんでも断らなければいけない。オルニスの記憶の中にいる赤髪のシャンクスはとても厄介で想像を超える様な事をしでかさられる可能性がある。例え世界が違っても人の本質は変わらない。
オルニスは絶対に無理だという意思表示の為にしゃがんでルフィと目を合わせながら頭を撫でた。フードで顔は見えないが、真剣な青い瞳にルフィは渋々頷いた。
「……じゃあ明日はシャンクスのとこに行けるのか?」
「明日もすることがあるから無理だな」
「なんだよ、ケチ!」
今日がダメなら明日にでも。そう思ったらしいが、そもそも会う気が全く無いオルニスは直ぐさま否定をする。何度も断られて気を悪くしたルフィは頬を膨らませながら大声で叫ぶと家から飛び出してしまった。その後ろ姿を見ながらオルニスは小さくため息を吐く。
「仕方ねぇだろい。つーかわざわざ赤髪を見に行く趣味はねェよい」
「あー」
確かにそうだ、と小蘭も声を出しながらオルニスの服を引っ張った。
自ら危険地帯に飛び込む理由はないし、幼児を連れている今、もっと危険だ。
最近になって漸く少しずつ魔力の配給が良くなったのか最短で二時間だった日も少しだけ時間が延びた。興味を持たれ、その伸びた数時間の日に来られてしまえば透けるオルニスとどう見ても一人にはしてはいけない幼子の姿を見られてしまう。頻繁に来訪するルフィ相手には居留守を使えば諦めてくれるが、赤髪のシャンクス相手ではそうもいかない。
最悪の事態として、鍵をかけたドアを蹴破られてしまう。容易に予測がついた。
「小蘭、覚えてろよぃ。海賊は理不尽な生き物だ」
「うー」
大海賊船にいた一人のオルニスの言葉は重い。小蘭もその大きくて小さい頭をゆっくりと頷かせた。
もうすぐ赤髪海賊団が来る。ルフィの性格上、数日後に来るという時に呼びに来るわけがない。恐らく早くて数時間もないだろう。どうするべきか、とオルニスは小蘭を椅子に座らせた。
不幸中の幸いだったのが今日はまだ魔力の安定が良く、先程実体化したばかりだったので後数時間はもつということだ。これから実体化出来なくなるという場合となると逃げ場はなくなってしまう。噂に聞く島の反対の街に行くことも可能だが、貴族が支配する街故にフードで顔を隠すオルニスは目立ってしまう。グランドラインならまだしも、こんな前半の海では「訳あり」に居場所はない。
「……赤髪は勘が鋭い。会っちまったらバレるかもしれないからねい……」
「う」
「不死鳥を知る者には絶対に顔すらも知られちゃいけねェ」
最悪フードをとってニコニコ笑う事も可能だが、赤髪相手にはフードを取る事も出来ない。これから10年近く顔を見られるわけにはいかない生活など考えられないが、そうしないといけないので極力注意していかなければいけない。今現在のこの世界のマルコより何十年も年齢を重ねた皺があるおじいさんの容姿をしていようとも、面影は消えない。
表向きの治安は良いが、貴族の力が強すぎる街にいくべきか、とオルニスは頭を悩ませる。
小蘭はしょんぼりとしながら海の方向へ小さな指を向けた。
「うー?」
「馬鹿言うな。……此処は俺が知る島の中でも上位に位置する程平和で安全だ。赤髪が拠点にしている事以外は何の申し分もねェよい」
海に逃げるかと無茶と分かっている提案を小蘭はしたが、オルニスは首を振る。小蘭の力が足りないから島から島へ渡れないという事ではなく、幼い小蘭の為にも出来るだけ長く治安の良い場所に留まりたいというオルニスの我が儘だ。例え今すぐに渡れたとしても、せめて意思疎通が出来るぐらい小蘭が大きくなってからにしたい、というのがオルニスの考えだった。
足を引っ張っている自覚のある小蘭はしょんぼりと俯くが、オルニスはしわくちゃになったその顔でニコニコ笑いながら小蘭の頭を撫でた。
「俺の事は気にすんな。お前がいたから俺はまたこの地に立つ事ができたんだよい」
オルニスの身体はとうの昔の消滅しているので現在は魂だけの存在だ。それを小蘭が魔力で実体化させており、不死鳥の力も健在なのでこの世に「不死鳥」は二人居ることになる。だが不死鳥の力を使うには力が巨大すぎて今のままでは小蘭に影響がでてしまう。オルニス自身が亡霊故にこの世に留まるには小蘭の力がどんな形であれ必用だった。
人間として実体化するのも、不死鳥としての能力を使うのは勿論不死鳥の姿になるのも、何もかも全て小蘭の魔力が必須で、せめて何か依代があれば一番魔力を使わずにそこにいる事が出来るが、その依代に魂を入れるのにも魔力が必用だ。
現在一歳児の姿の小蘭はこの状況を打破する術は持っていない。
「……それじゃあ今日は見つからない程度に山の麓を散歩するかねい」
「!……あー!」
小蘭を励ます様ににっこり笑いかけて抱き上げると、幼子もまた落ちないようにオルニスの首にしがみついた。
オルニスも小蘭も知らなかった。
ルフィが言った「もうすぐ」は本当にすぐで、家を出る頃には村の港に赤髪海賊団が既に到着していたことを。
小蘭の魔力が足りずに最低限で実体化しているためオルニスの見聞色の覇気も機能しておらず、機能していたところで赤髪のシャンクスに気づかれてしまう事は明白だったのでそれはそれで良かったのかもしれない。