プロローグ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少女―小蘭が目を開くとそこは見慣れた自室。ベッドの上で大きく伸びをして時間を確認すると、起床の予定時刻ちょうどだったので少しだけ嬉しくなってニッコリと笑った。
ベッドから立ち上がると置いてあった制服に着替え、前身が見える姿見の鏡で確認をする。
「よし」
鞄を持ち、胸にネックレスがあるのを確認すると顔を洗って朝食をを食べる為に部屋からでた。
************
「おはよう」
「おはよう」
リビングに入るとそこには母親がいて、父親は顔を洗いにいってるのか洗面所の方から水の音が聞こえる。
「お母さん」
「ほえ?」
何か不思議な事が起ったら必ず報告する様に、といわれている小蘭はキッチンへと入って話しかけた。少々天然が入っている母親はフライパンを持ちながら振り向く。
「今日ね、夢を見たの」
「夢、だと?」
母親が我が子へと何かを返答する前に父親が訝しめに眉を寄せながら姿を見せた。リビングと洗面所は近い為聞こえていたらしい。母親も少し難しそうに首を傾げている。
「運命を変えたいんだって」
「……運命、か」
父親は足早々と母親のいるキッチンへと向かってきて小蘭の横に立って娘の頭を撫でる。
「さくら、その夢って…」
「…うん。小狼君の想像通りだと思う。」
心配そうに、そして少し困惑したように二人は向かい合って頷いた。二人とも術士故にそれなりに経験と知識がある。その夢が一体何を指すのか、なんて分かりきった事だった。
小蘭は父親に背中を押されたので自分の席に座ると、リビングに未だ居る大切な両親に顔を向ける。
「その人ね、マルコさんっていうの。とっても悲しそうだった…。だから私力になりたいの。……ダメ、かなぁ?」
胸にあるペンダントを握りしめながら言った娘を見て二人はため息を吐いた。娘の言葉に悪い感情を向けているわけではない、こうなると娘は梃子でも動かないからだ。
父親である小狼がリビングへと戻ってきて小蘭の向かい側に座った。母親の桜はその後ろに立って小狼に寄り添っている。
「小蘭」
「はい」
「お前の力は母であるさくらに近いものだという事は分かっているな?」
「うん。生前のクロウ・リードさんにも近いんだよね」
散々言われてきた事だった。母親は学生時代に世界最高峰の魔術師であるクロウ・リードを超えた。その娘である小蘭もまた強い力を持っている。生憎母親やクロウ・リードを超えるような力はないがそれでも力が強い事は明白で、幼い頃からその巨大な力を制御する事を教わって育ってきた。
「あぁ。だから正直お前がそういう夢をみたのは何か意味があるんだろう」
「………」
「約束してくれ。いつ何があっても良いように何処に行くにもカードを連れていきなさい。そして力になり何もかも終わったら此処に帰ってくること……それが出来るならそのマルコさんという人の力になりなさい」
「本当に?」
「でもね、小蘭は覚えておいてね。カードは人を守ることもできるけど、それと同時に人を傷つけることもできるんだから」
「……お母さん」
母親のさくらも真剣な顔でそう言う。沢山の苦しみと悲しみ、そして壁があった。クロウカードをサクラカードに変えていった時に、痛い程分かった。決して意地悪な事をされていた訳ではないが、それでも中学生が背負うには力が大きすぎた。側に親友達がいたからこそ乗り越えられた。
「あと、分かっていると思うけど小蘭がどんなに魔力が強くてもそれはまだ私のカードである『さくらカード』。まだまだ力を貸してくれないカードは沢山ある」
「…うん。私が使えるのは『ウインディ』『ウッド』『フライ』『フラワー』『ソード』『グロウ』の6枚のみ…」
母親の力は巨大で、偉大だ。正式な手続きと儀式をもって小蘭がカードを継承してもサクラカードのままで、どうこう出来ない。仮にカード達に認められたとしても、それは超えられない大きな壁だ。つい先日カード保持者になったが、手元にカードはあっても、お互いに挨拶をしても、認められていても、使えない。唯一性格が穏やかだったり気紛れを起こしたカード達6名が小蘭の力となった。
母親からカードを受け継いでカード保持者になるのと同時にその現実を突きつけられた。
「それと条件がある。そのマルコとやらを助けるのは勿論、そのままカードキャプターとして他のカードを使えるようになることだ」
「うん。分かった、頑張るよ」
母親に突きつけられた現実と父親に与えられた条件、小蘭は真剣な顔で頷いた。
「あとは絶対に途中であきらめないこと。小蘭、無敵の呪文を忘れないで。」
「分かってる。……『絶対だいじょうぶだよ』でしょ?」
さくらも小蘭も顔をあわせてニコリと笑う。
「あと貴方がいなくなっても大丈夫なように『タイム』だけはおいていって」
「もしかして……時間を止めてくれるの…?」
「うん。私と小狼君の二人がかりで『タイム』を使うわ。それなら貴方が帰ってくるまで半永久的に発動できる」
「……ありがとう」
クロウ・リードよりも強くなってしまったさくらとそれなりに魔力を持つ小狼。二人とタイムが全面的に協力すれば大丈夫だろう。それにいざとなればエリオルがいるしユエやケロべロスまでいる。
絶対にだいじょうぶ、だ。
「それなら善は急げだ。小蘭、さっそく今夜そのマルコさんとやらに会いに行きなさい」
「分かった」
「……あと当分帰ってこれないだろうから今日は門限はなしにする。……思う存分友達と遊んでこい」
小狼の優しさに娘の小蘭は泣きそうになりながら笑う。夢の中で出会ったマルコという男の願いがどれだけの月日を使うのかは分からない。最悪の場合今世の別れにもなるかもしれない。そうならない様にはするつもりだが長い別れになるのは明白だ。精一杯遊ぼんで来ようと誓った。
そこで時計を見るとすでに普段登校する時間となっていたので慌てて朝食を口にいれて小蘭は席を立った。
「お母さん、お父さん、いってきます」
「いってらっしゃい」
「気をつけろよな」
「うん!」
元気よく両親に挨拶をして家を飛び出した。胸にあるネックレスが窓から入ってくる光で反射した。
************
満月が顔を出して数時間が立った頃、広い部屋で小狼が一人黙々と魔法陣を書いていた。
傍には娘の小蘭と妻のさくら、二人は旅支度をしている。
「……できた」
「本当に……!?」
その声に旅の道具が入ったリュックを背負う小蘭が魔法陣を踏まないように顔を輝かせながら小狼に近づいて行く。
さくらもゆっくりと二人に近づいた。
「ありがとう、小狼君」
「いや、こういうのは得意分野だからな」
元が一般人であるさくらには到底できない技で、さくらの微笑みに小狼は照れくさそうに笑った。
「さくら、あとはお前の力が頼りだぞ」
「うん、頑張るよ」
さくらがペンダントを手に握り、前に突き出す。
「『星の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ、契約の元さくらが命じる、レリーズ』」
すると手には身長を超える程の長い杖が現れた。
数年前のあの戦いでユエとケロべロスに力を借りてできた杖が今一人の力でそこにある。
それは年々上がるさくらの魔力の大きさ故だ。
「小蘭、真ん中に立って」
「分かった、お母さん」
小蘭はリュックのひもを握りしめてそこに立つ。さくらと小狼は目を瞑り魔力を練り、さくらは杖の下を床につけた。
広がる光。
「いってらっしゃい、小蘭」
「がんばれよ」
「うん、いってきます!お母さん、お父さん!」
光がやむとそこにはがらりと広がる部屋に、ただたたずむ二人。娘である小蘭は世界を渡っていってしまった。
さくらは片手に杖を持ち「タイム」を頭上に掲げ、小狼も手を伸ばして二人でカード持った。小狼はさくらの腰を抱いてそっと寄り添いあう。
「さくら、頼む」
「うん。
……『タイム』」
術が発動し、タイムが二人の頭上に現れる。そうしてサクラと小狼の意識が遠のいていく。
この日、ある世界の時間が半永久的に止まった。
勿論その使用者すらも時間が止まっている。
次に動き出すのがいつになるのか、誰にも分からない。