第1章 幼少期編
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人はいずれ死ぬ。
けれど亡霊を生み出す程の後悔という死が起きる未来なんざ、必要ねェ。
どうせ死ぬなら、自分が可愛がった息子達に看取られて死ぬ方がお似合いだ。
「――白ひげに死なれちゃ困るんだよ」
そう言い切った男の顔は何時にも無く真剣で、真っ正面からその顔を見ていたオルニスは、今にも泣き出しそうなぐらいクシャリと顔を歪めながら俯いた。
今日何度目かの沈黙が広がる中、俯くオルニスはか細い声をあげた。
「……今から、」
「……あ?」
シャンクスもベックマンも、その声を聞きのがすものかと俯くその頭を見つめる。
俯くオルニスの顔は二人には窺えないが、その青い瞳はガラス玉の様に澄んでおり、何を考えているのか何を思いだしているのか分からない。
その脳裏に浮かぶのは白ひげ海賊団終わりの始まりの日、遠い向こう側で命の灯火が消えそうになっている末の弟の――……。
「今から十年以上も後に、このまま時が過ぎれば白ひげ海賊団と海軍の全面戦争が起きる」
「……戦争……、小競り合いとかじゃなくて?」
「……総力戦だ。……そこで親父はおれ達を守る為に……、そして戦争の切欠となった奴も命を落とす」
「…………」
決してエースを怨む事は無い。馬鹿で、どうしようもない末っ子を、それでも愛していたのだから。いいや、今でも愛している。
サッチを無残にも死なせてしまった事、船を飛び出そうとするエースを止めきれなかった事、マリンフォードにて味方であった筈の男に親父を傷つけさせてしまった事、無様にも海楼石で拘束されるという失態を犯してしまった事、赤犬の挑発にのったエースを止めきれなかった事、……弟を守り切れなかった事。
勿論全てオルニスが一番悪いわけではない。悪いわけではないけれど、それでも後悔は尽きない。
その時その時で精一杯生きていた事は事実だが、災厄となったティーチは勿論自らへの怨みも強い。
一度暗い感情にのまれてしまえば、あとはもう転がり落ちるだけ。
「……おれ達の大将は死に、アイツも死んだ。それでも戦争は終わらなかった。その戦争を止めたのは、とある若けェ海兵と……赤髪だった」
「!」
シャンクスとベックマンはお互いに顔を見合わせたが、オルニスは俯いたままなので気づかない。
気づいていたとしても何も言わないだろう。
「「戦争を終わらせにきた」そう言いながら現れた赤髪は、終わる事がなかった戦いを終わらせ……あちらの総大将だったセンゴク相手に交渉し、敗北者となったおれ達へ「白ひげ」と「アイツ」の身体を引き渡す手助けをしてくれた」
「…………それで手打ちとなったのか」
「……あァ。敗北者は何も語れねェ……、本来なら手に出来なかった筈の親父とアイツの遺体を、新世界へ持って帰る事が出来たのは部外者であった筈の赤髪のおかげだった」
敗者というものはそういうものだ。
何も語れない。選択肢もない。何も残らない。敗者側の最後の一人が消えるまで、駆逐される。
あの時、あの若い海兵の叫びと赤髪海賊団の乱入がなければ「総大将を失った白ひげ海賊団」はどうなっていただろうか。
――きっと、命の灯火が消えるその時まで戦っていただろう。
「…………その後「赤髪海賊団」は生き残ったおれ達が動かした大切な二人を乗せた船を、新世界のとある場所に移動する航路をずっとそばで護衛してくれた。「遺体を蹴られたくはない」そう言って、な」
「…おれはおまえの世界のおれじゃねェが、もしそうなったら確かにそう言うだろうなァ。……親父さんには世話になったし」
「……二人の墓を作ってくれたのも、おれの世界のてめェだよい」
「…………そうか」
生き残ってマリンフォードを後にした兄弟の中には軽傷者は勿論、死にかけていた奴らもいた。その中には生還を果たした者達もいるが、新世界に入るまでに船の中で命を落とした者も大勢いる。
目的の島にたどり着いてすぐ、とある別の島に置いてきた非戦闘員やナース達が危険をおかしてまで、不測の事態に逃げる為に置いていた船に乗ってその島に現れた。皆中継を見ていたから知っている。戦争の行く末を見守り、涙を溢しながらあの島で再会を果たした時、どうしようもなく絶望した。隊長格は特に自分達の無力さに絶望していた。
そんな皆を前に涙を溢しながら無理矢理笑みを浮かべた非戦闘員やナース達は「また会えて嬉しい」と溢してくれた。
その時の事は、オルニスの中でずっと色あせることなく記憶として残っている。
「……戦争を起こす前に、逃がした筈の非戦闘員やナース達が海を渡って、合流してくれて……治療を受けているおれ達に代わって、赤髪は墓を作って、くれたんだ……ッ」
俯くオルニスからポトリと滴が落ちる。あの時は泣けなかった。泣くわけにはいかなかった。生き残った者として、皆を率いなければいけなかったから。
その後は黒髭を名乗るティーチを相手に落とし前戦争を仕掛けたがそれすらも敗北し、自分達は本当に「敗北者」となった。
オルニス自身が涙を溢す事ができたのは、一人で墓守と白髭の故郷を守る為にその地に腰をおろしたその時だ。
シャンクスは何の言葉も口にする事は出来なかった。適切だと思う言葉が思いつかない。
海賊として自身が命を落とす覚悟は勿論、仲間の死も踏み台にして生きていかなければいけず、特に長く新世界の海上で過ごしている者は影で「狂っている」と囁かれるのも少なくはない。ただ、それでも古い知人……といっても良いのか分からないが、そういう人達の苦しみと悲しみを無視できる程狂っているわけではない。
これから何もしなければ同じ未来を辿る。シャンクスが聞いた話の中での違う世界の自分とは違う行動を起こせばその限りでもないが、現時点では未来の事は分からない。
シャンクスは肩を揺らすオルニスをジッと見つめていた。
************
「それで、本当に手を貸すのか」
「……まァ、五分五分だな」
もう一度死者への手向けをオルニスの前に置くと、シャンクスはベックマンを連れ立って部屋から出た。
ベックマンがシャンクスにそう話しかけたのは廊下の先に幹部達が集まっているのを見た時だった。
狭い通路に幹部全員が集まり、壁にもたれ掛かりながら二人を待っている。
「五分五分?」
「親父さんには親父さんの戦いがある。そこに仲間でもなんでもないおれが水を差すのはおかしいだろう」
「……そうだな」
そう会話をしながら歩く二人は幹部達の前を素通りするが、幹部達は何も言わずに二人の後を追う。
向かうのは人払いが行われたシャンクスの自室、付近すらも幹部以外が近づくことはなく、部外者であるオルニスもあの部屋からは出ないだろう。
誰にも聞かれない場所で話をする。
「行動するのはオルニス達のみだ、おれ達は直接何もしねェ。わざわざ蜂の巣をつつかなくてもいい」
「白ひげを敵にまわすのは得策ではないからな」
「それにおれ達が白ひげの為に動いてやる義理はねェからな。自分の命は自分で守れってこった」
もしもシャンクスがあの二人に手を貸すと言い出して自分達と仲間を危険に晒す未来へと一歩を踏み出すのなら、副船長としてベックマンは止めただろう。
だが流石のシャンクスもしっかりと立場をわきまえていた。海賊団の上に立つ者として、仲間を危険にさらすわけにはいかないのだから。
「……まァ気紛れの範囲内で手助けはしてやろうとは思うが」
「理由は」
「おれ達の暇つぶしだ。毎日暇ってわけではないが、ある意味特等席で傍観できるってこった」
「……、……あんたは蟻の巣を木の棒で弄るタイプだな」
「ひでェ」
二人の掛け合いに幹部達は噴出して笑う。
現時点において、シャンクスは皇帝の冠をかぶってはいないが、皇帝の名を持つものは総じてどこかがおかしいと言われている。
その中でも赤髪のシャンクスは四皇の中でも一番の穏健派で話がしやすいと囁かれているが、それと同時に無邪気な狂気も秘めていた。その狂気を見せる事は多くなかったが、忘れた時にその顔が少しだけ見え隠れする。
ベックマンを含むこの船を帰る場所にしている男達は、全て引っくるめてもシャンクスという男に心底惚れ込んでいるので問題はない。
船長室の前へと辿りつくと、シャンクスは笑みを浮かべながらドアの取っ手を握る。
部屋に残してきた二人に監視の目はない。例えオルニスが再び実体化してもこの船から出る確率はほぼ低いだろう。出て行かなければいけない理由は何一つない。
「さァ、野郎共。哀れで無力な子羊たちをこの手で転がそうじゃないか」
何が出来るか、何をするのか、これからの事を決める為に、シャンクスと幹部達は部屋へと入っていった。
おれたちァ海賊だ、好き勝手させてもらうぜ
幸せの青い鳥
捕まえた。