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第1章 幼少期編

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「よぉ、ちょいっと飲まねェか」
「誰が飲むか」

レッドフォース号での宿泊が決まったオルニスと小蘭は客室として使われている部屋を借してもらった。

食事をした後は眠りについてしまったのでそのままヤソップにベッドまで運んでもらい、オルニスはその後数時間をぼんやりと小蘭を見つめながら時間を潰していた。朝が来るまで、小蘭が目を覚ますまで、あの小屋で生活している時はずっとそうやって過ごしている。

変わったのは小屋ではなく海賊船、ルフィ以外の訪問者はいない小屋と違って、突撃してのは目に見えていた。

酒瓶を片手に現れたシャンクスと、あきれたように後ろをついてきていたベックマンを見てオルニスは即答で拒否をする。


「ノリがわりィなァ」
「うるっせェよい。つーかおれは飲めねェからな。それよりベン・ベックマン、あんたも自分とこの船長なんだから止めろよい」
「半透明だからか、それは残念だ」
「言っても聞かないから知らん」


例えフードを被っていようが、半透明であろうが、青筋をたてたら誰が見ても不機嫌である事が分かる。自由奔放な赤髪の男と、その手綱を握る事を放棄した副船長の男に頭を抱えるしかできない。

あれから数時間、未だにオルニスは半透明だった。


「……一応言っておくが、おれが半透明じゃなかったとしても飲む気はねェからな」
「なんで」
「なんでって、酒とはいえ貴重な食材を食べ物を必要としていないやつに渡す道理がねェ」
「じゃあ一応は食べられるんだな!」
「人の話を聞け」


航海をするにあたって食材はとても大切だという事を勿論オルニスは知っている。定期的に釣りをすれば困りはしないが釣れない日もあるし、何らかの理由で訪れた島での配給が出来ない場合もある。いくら島に停泊中といえど、食べる事を必要としてないオルニスがその貴重な食材を貰う気にはならないし、それで後々何かが起きたら面倒だった。

その事を言った筈だったが、シャンクスはオルニスが食べる必要がないだけで「食べられないわけではない」と知って破顔した。

今すぐにでも胸ぐらを掴みたかったが半透明故に触る事ができないのでその手は空を切っただけだった。

ベックマンはそんな二人を見てやれやれだと肩を竦める。


「飲まないのなら仕方がねェ。ちょいっと話をしないか?」
「……話は昼間にしただろ」
「次は込み入った話だ。おれとベンだけで他の連中はいねェ」
「……する必要はないと思うが?」
「あるさ」


これ以上、何を話す必要があるんだとオルニスは不機嫌を隠しもせずに首を振る。だがそれは許されなかった。

まさに王者の風格。後に四皇の一角を担う男の真っ直ぐな、貫き通すような瞳がオルニスを捕らえる。


「不死鳥マルコ、おまえとはそれなりの付き合いだ。例えおまえがこの世界のおれの知る奴じゃなくても、おまえはそれでも「マルコ」なんだよ。どれだけおまえがその名前を過去に置いてきたと言い張ってもその事実は変わらねェ。今はおれも自分の船を持ってるし、おまえも生前は一海賊団の幹部だったし過去を遡ればロジャー船長の下で見習いをしていたおれと、白ひげの親父さんの元で見習いをしていたおまえ。その事実は変わらねェんだよ。分かるか」
「……そもそも敵同士だねぃ。ロジャーのところとうちは何度も殺し合いをしている。そんな事も忘れたか」
「だが共通の敵が現れた時、ロジャー船長は白ひげのおやじさんと手を組んだ。そうだろ?」


シャンクスはオルニスの低くて鋭くなった声をもろともせず、部屋にある備え付けられていた椅子に座って持っていた酒瓶を机に置いた。部屋に備えつけられていたグラスを取ると酒を注いでオルニスへと突き出す。


「……何度も言っているが、おれは飲まねェよい」
「死者への手向けだ。受けとっておけ」


お供えの様なものだと、シャンクスはふっと鼻で笑い瓶のフチに口を付けて中身を流し込む。

出入り口付近にはベックマン、対応する為に出入り口付近まで来ていたオルニスは舌打ちをするとシャンクスの向かい側の椅子に座った。


「……それで?何が言いたいんだ」
「敵同士とはいえそれなりの付き合いだ。おまえともあろう男があんな子供を連れてまでこの世界に来たという事は、そう遠くない未来で白ひげ海賊団に何かしらの悲劇が起きるということだろう?」
「やけに直球だな。ただその問いには答えられないよい」
「マルコ、おまえが後悔だなんだ言うくらいだ、それぐらいしか思いつかねェ」


シャンクスはそんな男ではないと知っているが、もしもがある。もしもそれ以上の悲劇があの場で起こってしまったらと思うとオルニスは何も言えない。

家族というものを人一倍大切にしていた男が単身でどうにかしようとするという事はそういう事なのだろうとシャンクスは続ける。白ひげ海賊団を、白ひげ自身を頼る事が出来ないのはその後悔の全てに「白ひげ海賊団」が関わっているから。


「大切な人を守りたい、……おまえが無くした白ひげ海賊団をおまえの手で守りたいんだろ」


森の中で鬼ごっこをした後に「起こるであろう未来への後悔に抗う」と言っていた。その言葉の意味をどう考えても、そうとしか思えなかった。

オルニスはフードの下で顔を歪めたが、森の中で口にしたのは事実だったのでどうしようもない。それに気にくわない奴ではあるが馬鹿ではないし、筋を通す奴だ。口にした事を後悔はしない。

口を紡ぐオルニスを見て、それでもシャンクスは口を閉ざさなかった。


「無言は肯定とみなす。今日会ったばかりのおれを信用出来ないとは思うが……。どうだ、昔みたいに手を組まないか」
「……は、」
「お頭」
「口を挟まないでくれ、ベン」


何を言っている?オルニスは一瞬だが頭が真っ白になった。咎める様なベックマンの声に現実に引き戻されたが、シャンクスは薄らと笑うだけだ。


「おれとしてもな、考えたんだよ。おまえという存在がこの世に降り立った事の意味とそれに伴うメリットとデメリットを」
「…………それがどうした」
「おまえを野放しにしたところで出来る事はたかが知れているだろう。一番隊の隊長だったんだ、白ひげ海賊団の事は知り尽くしているが故に穴をつく事は出来る。……だが、便利なその能力は早々に使えない。小蘭ちゃんがどういう力を持っているかも未知数だが、おまえという切り札を封じられている様なもので、後ろ盾もなんもない。そんなおまえらが一個人としてどこからどう情報を持ってくるっていうんだよ。出来る事はたかが知れている。……そうだろう?」
「……ッ、」

この先小蘭が成長して行動する様になっても、前途多段な道だろう。そこを牛歩の様に進むしかない。伝手がないという事はそういう事なのだから。


不死鳥の力を使えないおまえがどうやって幼子を連れて海を渡る?

商船に乗るにしてもフードの下を見せろといわれたらどうする?

運良く乗れてもそこでその免疫力が低い幼子が病にかかったらどうする?

幼子を連れているおまえはそもそもどうやって商船と交渉するための金を手に入れる?

白ひげ海賊団を相手にどう動く?

何かが起こるのは白ひげ本船だろ、そこにどうやって接触する?



「力が足りなくて度々半透明になっているおまえが、そもそもその後悔とやらが起きる日まで、小蘭ちゃんを一人で守る事が出来るのか?」


呆れた様な、けれど鋭い指摘にオルニスは何も答えられなかった。そう、何も答えられないのだ。

小蘭が言葉を話す事が出来て意思疎通が出来る状態なら状況は変わってくるかもしれないが、今現在どうにもならない。仮に数年後に成長して意思疎通が出来たとしても、その後はどう動く?フードを被って顔を隠した男が幼女を連れて宿を取れるのかもすらも分からない。下手したら誘拐を行った札付きとして海軍に通報されるのが関の山だ。

情報はどうやって手に入れる?後ろ盾も実績も無い男が一人、白ひげ海賊団の情報網から逃れながら白ひげ本船にいるティーチを探る事は到底不可能だ。そして白ひげ相手ならまともな情報屋は動いてくれないだろうし、下手したら情報を売られる可能性もある。

その恐ろしさは一番良く知っているのだから。


「……そもそも、てめェにもメリットはねェだろい」


指摘には答えられなかったが、シャンクスもオルニスが答えられない事を分かっているだろう。それ故に答えるのはさておいて、手を組むにしても赤髪側にもメリットがないことを指摘した。


「メリットか……、しいていうのならおれの暇を解消できるぐらい……?」
「それメリットじゃねェよい!つーか暇つぶしにするんじゃねェ!」


困ったように首を傾げたシャンクスにオルニスは激怒し、黙って話を聞いていたベックマンは手で顔を覆って天を見上げる。


「分かってんのかよ!おれたちと関わるって事は下手したら白ひげ海賊団に目を付けられるって事だぞ!?おれたちと手を組むだなんだ寝ぼけた事を抜かして、てめェの仲間を危険に晒すことになる!」
「晒すつもりはねェよ。おれは仲間を危険な目にあわせるつもりはねェし、そもそも海賊が危険を顧みて行動するかよ、なぁベン。そうだろ?」
「……まァ、そうだな。…おれたちはお頭が何をしでかそうと……何処にだってついていくさ」


オルニスは思わず立ち上がった。ギリっと歯を食いしばって睨むその顔をは真っ正面からシャンクスは見るが、恐怖などは全くない。

馬鹿な男だ、とシャンクスは思う。そこまで追い詰められているというのに、伸ばしてきた手を必死に押し返しているのだから。元が敵同士だとかそういう事もあるかもしれないが、オルニスの口から溢れる言葉は赤髪海賊団への心配だ。

利用する方法などを考えればいいものを、本当に馬鹿な男だと――。

けれど、だからこそ捨て置けないとも思う。


「なぁ、マルコ。一つおまえに手を貸すメリットがあったぞ」
「ぁあ!?」
「お前のいう後悔がどういうモノかは分からないが、少なくとも白ひげの親父さんが関わっているんだろう?後悔と言うんだからそれこそ親父さんが重傷を負うような事に巻き込まれるか、はたまた命を落とすか」
「…………」

海賊だ、いつかは海に帰るだろう。けれどマルコが後悔と言うのだからそれは不本意な事だったのかもしれない。

それならば答えは一つだろう。


「海が荒れねェ」
「……あ?」
「白ひげの親父さんは良くも悪くも影響力が強すぎる。不本意なかたちでの重傷もしくは死という未来が訪れるのなら、白ひげが領地としている島や縄張りの海域が全て荒れるという事だ。それも恐怖や武力で支配していたのならその限りでもなかったかもしれないが、島や海域が荒れてみろ、沢山の死と不幸が世界中に広がる」
「………ッ」


オルニスがかつて不死鳥マルコだった頃、白ひげ死後は縄張りとしていた島や海域が全て例外無く荒れた。良くも悪くも白ひげがその名前で平和を維持していたのだから、死んでしまったら挙って荒れるのは無理もない。何十という島が他の海賊達に荒らされて奪われていったか。運良く通りかかった善良な海賊達が島を荒らす海賊達を始末してくれたという例外や、マリンフォードでの頂上決戦での傷が癒えぬまま領地を守りに行き、守ったもののそのまま壊滅してしまった傘下の海賊団もあった。

中にはあまりにもな惨状を見て、赤髪海賊団が正攻法で白ひげの領地をそのまま縄張りとしたという例もある。

当時は中々に認めたくはなかったが、マルコは「白髭海賊団の残党」だった。無力な残党だった。


「おれはそういうのは好きじゃねェんだよ」


しってる。その言葉をオルニスは飲み込んだ。


「なァ、オルニス。お前に手を貸すメリットがあっただろ?




白ひげに死なれちゃ困るんだよ」



人はいずれ死ぬ。

けれど亡霊を生み出す程の後悔という死が起きる未来なんざ、必要ねェ。

どうせ死ぬなら、自分が可愛がった息子達に看取られて死ぬ方がお似合いだ。



そうだろ、不死鳥マルコ。
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