第1章 幼少期編
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「ま、問題はねェ筈だ……。幼子を診る経験なんておれはねぇが、申し分ないだろう」
「……ッよかった……!」
山を抜け、人通りが少ない街の端を通り、港までついた一行は船へと駆け込んだ。小蘭は周りに見えない様にシャンクスが抱きかかえ、オルニスは幹部達に不自然にならない程度に囲まれながら船へと飛び込んだ。小蘭は小さいので成人男性の腕の中にいたら安全、オルニスはそもそも半透明で存在感が薄いので周りに幹部達がいればほぼ問題なかった。
流石に船に残っていた船員達には訝しげに見られたが、ベックマンの「大丈夫だ」という声に疑問を持ちながらも各自持ち場に戻っていった。
突然幼子と共に船長が船へと戻ってきた事に船医は驚いていたが、数時間前に最低限の人員以外を連れ出して「鬼ごっこ」をしていた事は知っていたのでため息を吐いて迎え入れた。ベックマンを除く幹部達はその場で解散となったが、船員達へのフォローにまわらなければいけない。
結果は問題なし、少し栄養失調気味ではあるがそれを直ぐにでも改善したら特に問題はないとの事だった。過去に草むらとはいえ地面に落としてしまった事も話したが、何処かを痛めてそのまま自然に治り、不自然に骨がズレているなどという事もない。勿論しっかりと成長しているとのお墨付きだ。
それを聞いた瞬間、オルニスは身体から力が抜けて座り込んでしまった。
船医は半透明のフードを被ったオルニスを訝しげにみながらも、船長の客人として向かい会う。
「あんたが何者かは知らねェが、こんな幼子を一人でどうにか出来ると思ったのか」
「………それは、」
「医者にも診せられないのはこのご時世少なくない事だが、少なくともお人好しが多いフーシャ村では困らなかっただろうに」
「…………」
船医もまたシャンクスと同じ事を言うのでオルニスは黙り込む事しか出来ない。それを入り口付近で眺めていたシャンクスはへたり込んでいるオルニスに立ち上がる様に言うと、ベッドで横になっている小蘭を見た。
「じいさん、その栄養失調はどうにかならねェか」
「そりゃあ栄養さえ取れれば問題ねェなァ。この子に何を食べさせていた?」
シャンクスの問いに船医は後頭部を掻きながらオルニスへと聞いた。シャンクスやベックマンはあの小屋にミルクしかなかった事を知っている。何を答えとして出すかが分かっている。オルニスも小さな声で答えた。
「……ミルクを買っていた」
「……一歳過ぎの子だろ?個人によると思うが、ミルクだけじゃ栄養が足りないのは無理もねェよ」
海賊船の船医故に、赤子や幼子に関する知識は少ないが医者としては最低限知っている。離乳食を食べていてもおかしくはないし、先程の検診で歯も少しずつ生えていたのも知っている。勿論オルニスも最低限は知っていたが、離乳食を一から作る為の材料は勿論器具も無かった。村で安価で買う事が出来るのはミルクのみで、それも村人達はオルニスが赤子を連れていたのを知っていたので正規の値段よりも安く彼に売っていた。その事をオルニスは知らない。
「取りあえずはどうするんだ?」
「……じゃあコックになんか作ってもらうわ。離乳食だろ、ヤソップに聞けばなんとかなるだろ」
「あ、赤髪……!」
幹部の中でも唯一の既婚者で子持ち。離乳食の事は知っているかもしれない、とシャンクスは呟いた。それに焦ったのはオルニスだ。船医に診て貰うだけではなく、食べるものまで用意をして貰うなんて考えられなかった。
慌てるオルニスにシャンクスは笑う。
「別に少しぐらいどうこうしたからっておまえに理不尽な請求はしねェよ。あと俺の拾得物だしな!」
「小蘭はお前のもんじゃねェよい!」
せっかく懐の大きい所を見せたというのに、これでは台無しだとオルニスは即答で吼える。
そんな二人を見て船医とベックマンは肩を竦めて笑った。
************
「……それで?お前はこれからどうするんだ」
人払いをした船長室でシャンクスとオルニスはソファで向かい合い、その二人を囲む様に幹部達は思い思いの場所に立った。ベックマンは念の為とドアの前に立つ。
小蘭はというと、唯一の既婚者であるヤソップによって離乳食を食べさせてもらっていた。それもオルニスは自分でしようとしたが「お前はお頭との話があるだろ」と一刀両断されてソファから少し離れたところにいる。流石にオルニスに気を使ってか、視界に入る所に腰をおろしてはいるが。
ここには外部の人間がおらず、そして世話になったシャンクスの要望としてフードはとってあり、誰からも顔は分かる状態だ。
「何だっけ、後悔しない為に戦うんだろ?つーことは海に出るって事だな?」
「……まぁ、そうだねぃ。おまえも知っての通り、おれには飛行能力があるから単体でも海を渡る事が出来る。だが不死鳥は目立ち過ぎるし、そもそも不死鳥の能力者は新世界を航海する白ひげ海賊団の所属だ。こんなところで不死鳥の力を使ったら瞬く間に噂は広がって、本船や傘下の船から偵察が来ちまうだろう」
「……そっちに関してはお前が一番良く知ってるだろうなァ、一番隊隊長さん」
「……元、だよい」
シャンクスの指摘に自虐気味に笑うオルニスを見て、シャンクスは勿論幹部達も肩を竦める。事実かも知れないが、そうも後ろ向きにならなくてもいいのに、とは心の隅で思ったのだろう。
「ならどこかの船に乗るしかないって事か」
「……一応フーシャ村にも商船が来るから、もう少し小蘭が大きくなったら交渉して乗せてもらうつもりだ」
「自分の船を持つとかしないのか?」
「馬鹿抜かせ、おれはおれの事情もあるから無闇矢鱈に小蘭以外の仲間を連れるつもりはねぇし……いつかはこの世界からも消えるつもりだ。無責任な事をする気はねェ」
小蘭が持つカードの中に【翔(フライ)】という飛行能力があるという事を小蘭以外は知らないので船で海を渡る事をオルニスは考えている。自分の船を持つという事は何かしらが起きると格好餌食となり、海賊や海軍に認識される事になる。誰かを仲間にして世話をする事のリスクをふまえても、絶対にないだろう。
ましてやオルニスは亡霊であり胸にはもう誇りはないが、自身が所属するのは白ひげ海賊団である。過去の誇りを裏切るつもりは全くない。オルニスのその心情をこの場にいる全員が察したが、誰も口にする事はなかった。
「おまえが目的を達成する為に白ひげの親父さんに手を貸して貰うってのはしないのか。あの人ならおまえの話も聞いてもらえそうだが」
オルニスはかつて不死鳥マルコだったのだ、年を重ねて皺も多いが面影は誰が見てもある。不死鳥の力を見せれば一発だろう。白ひげならその大きな懐でオルニスが抱える問題と目的を受け止めて貰える筈だと、シャンクスは言うが、オルニスは首を振った。
「それだけはダメなんだよい。どうしてもそれは許されないし、おれは目的は果たすが白ひげ海賊団に直接関わる気もねぇ。……ましてや親父に、そんな……」
白ひげ海賊団にはマリンフォードで命を落とした白ひげ本人は勿論、その他の兄弟、そして全ての始まりであったティーチ、そして殺害されたサッチ、頂上決戦後からマルコが死ぬまでに命を落とした兄弟達が山ほどいる。時がたてばエースも現れるだろう。
「白ひげの側には不死鳥マルコがいる。おれはそこに立つ権利なんてねェよ。その権利は、マルコの名前を捨てると同時に過去に置いてきた」
「……難しい事考えてんなァ」
シャンクスはオルニス達がする事を詳しく知らない。それ故になんだって提案出来るが、オルニスの最終目的はマーシャル・D・ティーチとその仲間の殺害、サッチとエース、白ひげの生存だ。それこそ頂上決戦すらも起こす気はない。そこで親と兄弟と家を失ったのだから。
寂しいだろうなぁ、と敵ながらにシャンクスは思った。白ひげ海賊団を深く知っている者として、それは酷く悲しいと思う。それでも本人がそう言うのであれば、これ以上はどうこう言うつもりはない。机の上にあるグラスに酒を注いで一気に飲み干した。
今後の方針について最低限はオルニスから直接聞くことが出来たのでシャンクスとしては満足だ。今日はもうお開きだろう。
「取りあえずは分かった。……小蘭ちゃんも飯を食い終わったとこだしお開きにするか。……あぁ、ついでに今日は船に泊っていけ」
「……は?」
コック達がヤソップ監修の元で作った離乳食を食べ終わったのを確認しながらシャンクスは言った言葉にオルニスは驚くしかない。検診と食事は世話になったが、それに加えて船に宿泊するなんて全く考えていなかったからだ。
「てめェ何が目的だよい」
「目的も何もお前の腕じゃそもそも小蘭ちゃん運べねェだろ」
「…………」
シャンクスの思惑に警戒してオルニスは低い声を出すが、そもそもオルニスはまだ半透明だ。自分は動けても小蘭は運ぶ事ができない。そういう意味では先程の離乳食を食べる時だって小蘭に食べさせる事は元々不可能だった。
ごもっともな指摘をされて、オルニスは何も言い返せなかった。
その間抜けさにシャンクスは少しだけ噴出すと、小蘭を指さしながら笑う。
「それにあの子はおれの拾得物だしな!」
「お前まだそれ言ってんのかよ、ふざけんな!」
オルニスは激怒して叫ぶが、その声は幹部達の笑い声によってかきけされた。
シャンクスが何を考えているのか分からないとオルニスは睨むが、ベックマンを含む幹部達はとっくの昔に気がついている。
赤髪のシャンクスはオルニスと小蘭に興味津々なだけなのだと。