第1章 幼少期編
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「この子の力を借りて……と言ったがそれはどういう意味だ?」
「ん。おれも特に知っているわけじゃねェよい。小蘭から詳しい話を聞けたわけじゃねェからな」
かつて不死鳥マルコと呼ばれていたオルニスは願いの為にここにいる。そう聞いたシャンクスには特に敵意もないオルニスをどうこうするつもりはないが、気になる事は聞くべきだと積極的に話しかけた。
悪い奴ではない、と分かっているオルニスは面倒くさそうにしながらも丁寧に答えていく。と、言ってもオルニスとて全てを理解しているわけではない。この世界にやってきた後にしっかりと話をしようと思っていたが、小蘭が話も出来ない赤子になってしまったので知っている事といえば頷く、首を振る、で答えられる質問をして理解した事だけだ。
「……おまえがこの子を落とす前と落とした後で違う事と言ったら半透明か否かだろ。それを左右するのはこの子だということか?」
「…………、まぁ……そうだなァ」
「じゃあ仮にこの子が死ねばおまえはどうなる?」
「ん、勿論消滅するに決まってんだろぃ」
一番振れて欲しくない事を聞かれてオルニスは言いにくそうに頷く。それは弱点と一緒だ。オルニスが邪魔なら何の抵抗も出来ない幼子を今すぐ始末すればオルニスも消える。肯定するか否かを一瞬悩んだが「赤髪のシャンクス」は「不死鳥マルコ」に対してはさておき、「赤子」の命を私利私欲で奪う様な男ではない事を知っていたので渋々ながらに答えた。
「おれは亡霊だから肉体なんてとっくの昔に無くなっている。その肉体を作っているのが小蘭で、……まぁ幼子だから力のコントロールが出来てないらしくて、今日みたいにおれの身体が半透明になることはよくあるんだよい」
「は!?え、じゃあなんだ、小蘭ちゃんを育てているおまえがたまに触れなくなるってことか!?」
「……まぁ。それにたまにっていうか、毎日……」
驚愕して目を見開くのはシャンクスだけではなく、他の黙って聞いていた幹部連中も驚く。世話をしなければ確実に死ぬ年代の子を放置している時間があるなんて子供を育てた事がないメンバーですら危険だと分かっている。
「毎日!?……じゃあ今日みたいにこの子を落としそうになる事も……!?」
「……この世界に来て間もない頃、まだ何も分かっていない時に……、一度だけ……」
「赤子を落としたのか……!」
言いにくそうに俯くオルニスの言葉の続きなど、彼の表情から手に取るように分かった。
シャンクスは腕の中にいる幼子を見た。眠くなってきたのだろう、ウトウトと眠気に抗っている。オルニスの言う事が本当なら余程凄い能力を持っていると思われるが、どっからどう見ても人畜無害などこにでも居る幼子だ。
「医者には診せたのか!?」
「……、診てもらいたかったけど、金がなくて……」
「っおまえ!!」
マルコは船医だ。それなりの技術と経験、知識はあるのである程度は自分でも出来るかもしれないが、シャンクスが見た二人の家である小屋は本当に何もなかった。医療器具なんてなく、しいていうなら周辺に生えている薬草から作った簡単な薬のみ。地面に赤子を落とした時に対処出来る様なものは全くなかった。
なら村医者に診てもらたっかのかと聞けど、答えにくそうに首を振るのみ。分からなくもない。無一文で世界に来たというのなら日々の生活で使うお金を用意するのは苦労した事だろう。あの小屋で赤子と共に生きていたのなら早々に出かける事は出来ないし、派手に動いて赤子に報復の目が向けられる可能性もある。
シャンクス達の想像を遙かに超えるぐらい底辺の生活を彼らは送っていた。オルニスの表情を見るからに悔しい思いをしたのだろうし、辛かったのかもしれない。お金もなければ頼れる人もいない。先程見た様に突然半透明になる事も多々あったかもしれない。
それは、どれだけ。
「マルコ!取りあえず船に来い!船医に見て貰うぞ!」
「オルニスって呼べよい!ってか、はぁ!?」
感傷に浸る時間は無い、とシャンクスは腕の中の赤子を最優先に考えた。いくらなんでも放置はできまい。仲間達に目で合図をしながら小走りで移動し始めたシャンクスとそれに続く船員達にオルニスは驚きの声をあげた。
「ちょっ、まっ、赤髪!小蘭を何処に連れて行く気だ!」
数歩遅れて赤髪達を追う。直ぐに追いつく事は出来たが、半透明になっている以上その足を止める術はない。
「何処っておれの話を聞いてたか!?おれの船に行くんだよ!この子を船医に見せる!」
「何故!?」
「おっま、落ち着いて考えろ!この子を地面に落として、赤子をあんな小屋で育てて、栄養も偏ってるかもしんねェ!おまえらに金がなくて医者を頼れないならおれんとこの船医に見てもらうしかねぇだろ!?どこか悪いか、健康体か、検診だ!」
「てめェがわざわざそんな事する義理ねェだろ!?」
シャンクスの言い分は最もかもしれない。底辺の生活をしている赤ん坊。シャンクスはまだ中身の事は知らないが、中身が子供であっても肉体は赤ん坊なので検診はした方が良い。世界中の子供達を助ける義理はないが、腕の中にいる子に手を差し伸べる気概はあると思っている。だがオルニスにはそのシャンクスの気概など分かる訳がなかった。
オルニスの言葉にシャンクスはゆっくりと足を止めて後を追い掛けてきたオルニスを見た。
「……なぁマルコ」
「オルニスだって言ってんだろ」
「おまえはさぁ、人を頼るって事を忘れちまったんだなァ」
「は、」
シャンクスの言葉に息を吐くかのような返事をする。オルニスにはシャンクスが何を言っているのか分からなかった。
だがそれも仕方が無い事だったのかもしれない。オルニスは、マルコは白髭海賊団の中で人一倍責任感があり、一番隊長としてそれなりの仕事をしていた。その時は家族である兄弟や親父がマルコを助けたり、一人で頑張ろうとするのを咎めたりしていたが、白髭死後は一人で頑張り過ぎる事が増えた。誰も止める間もなく。誰にも止められる事無く。
そして最期は家族を守り……
「おれはおまえの事情なんてほんの少しも理解出来てねェ。けどな、目の前に居る力の無い子供が酷い目に遭っていたら少しは助けたくなると思うぐらいには心があるんだ。おまえが不死鳥マルコだとか亡霊だとかそういうのは関係ない。……この子供の命を助けるのに「不死鳥マルコ」は関係ないんだよ」
「………そ、れは……」
「忘れるなよ、マルコ。おまえのちっぽけなプライドや挟持に子供の命を巻き込むな。おれの船がどうこう以前に、少なくとも村の連中はおまえが頭を下げさえすれば助けてくれるぐらいには優しい奴らの集まりだ。……おまえはこの子の為にもフーシャ村を頼るべきだった」
「…………」
一人で頑張っていた。運良くフーシャがある平和な島に降り立ったが、相棒である小蘭は死亡率が高い赤子。頑張らなくては。目的を達成する事と小蘭を育てて守る事を頑張っていた。どうにかしなければと自身を追い詰めて小蘭を危険に晒し続けていた。もっと上手く村を利用すれば底辺の生活をせずに済んだだろう。小蘭をもっと良い環境で育てる事が出来ただろう。
だがオルニス達にはフーシャ村を頼る事が出来ない理由があった。それをシャンクス達に詳しく説明する事が出来ない。
良い意味でも悪い意味でも人懐っこいルフィと仲良くなりすぎて、エースにオルニス達の話をされたらと思うと物理的にも距離を取るしかなかったのだ。
「……で、きないんだよ……」
「それは、何故?」
「…………」
「……言えない事か」
「あぁ」
海賊王ゴール・D・ロジャーの一人息子がこの島にいて、未来では白髭海賊団の一隊長になるから姿を知られるわけにはいかない。
そんな事、言えるわけがない。
オルニスは口を閉ざして両手を握りしめた。その姿をみて、シャンクスだけではなく赤髪の幹部達は肩を竦めて目で合図をしあう。シャンクスはジッと赤子を抱きながら俯くオルニスの姿をみつめる。
そして口角が上がった。
「……おれは海賊だからよ、したい事は好きにする。おまえだって知っているだろう?
「海賊は理不尽な生き物」だと」
「あか、」
オルニスがシャンクスの名前を呼ぶ前に、シャンクスは駆けだした。それに笑いながらついていく幹部たちとため息を吐くベックマンが続く。
「赤髪ィ!?」
「オルニスゥ!おまえが落とした小蘭ちゃんはおれが拾ったからおれの拾得物だ!海賊だからよォ、好きにさせてもらうぜ!!」
「はァァァァァ!?!?」
それまで何度言おうが改めなかったオルニスの名前を今回ばかりはしっかりと呼び、かつ小蘭を自分のモノだと叫び走り去ろうとする。呆気にとられて数歩遅れたオルニスも駆けだしたが距離が空いてしまったので追いつく事が出来ない。
「っ、赤髪ィ!!!!そいつを返せよィ!!!おれの子だぞ!!!!」
「ははっ、しらねェなァ!!」
オルニスの子供でもないがこの世界において両親がいない以上相棒ではあるが保護者でもある。間違ってはいないが此処に本当の両親がいたら特に父親は激怒するだろう。
木を避けながらの全力疾走。説明を受けていなくても分かる。そもそもの目的地はそこだったのだから。
シャンクスが向かっているのはフーシャ村の港にとめてあるレッドフォース号。
そして嫌でも気がつく事が出来た。
最短ルートを通れば村の中心部へとたどり着くというのに、シャンクス達はやけに遠回りをしている。
後ろをついてくるオルニスの事を考えて人通りが少ない道を選んでいるのだろう。
気がついて、やるせなくなった。
オルニスは走りながら小さくぼやく。
「……ッだから赤髪は嫌いなんだよぃ」
切っても切れぬ昔馴染み、世界は違えど変わらない。
敵でありながらそういう優しさをもつお前が昔から嫌いだった。