彼女は歩きだした。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*************
森の中をルカは走り抜く。木の枝と枝を渡りながら走る事もあるが、そちらでは「的」になりやすいので地面を蹴って前へと進んでいる。現在は単独行動中で周りには誰もいない。先程しっかりと作戦をたてので、何処かでルカの様に移動している筈だ。
上忍といえど試験中なのでアスマは手加減をしており、そのおかげでルカ達でも気配を読む事が出来る。なのでルカは直ぐにアスマの居場所を補足し、近づいた。
気配を探り、作戦決行の時を決める。そして此処だ、と思った時にクナイをホルスターから抜いて先の広場に立つアスマに力いっぱい投げた。
「ルカか」
相手は上忍の実力者、ルカの投げたクナイなど簡単に避ける事が出来る。アスマは避けて直ぐに間をあける事無くルカに向かってクナイを投げ返した。ルカは起爆札などの細工をされていないクナイだったので、投げて直ぐに持った別のクナイで弾き飛ばしてアスマに近づいた。
クナイはしまい込んでからルカは体術でアスマに挑む。
「よ、と、とっ」
体格差、年齢差、経験の差等の理由で、ルカが力いっぱい繰り出した拳も蹴りも全て軽々とアスマは手の平で防いだ。隙を突かれて投げ飛ばされるが、ルカは身体を捻って着地する。そしてまた同じように、けれどタイミングなどを狂わせながら立ち向かった。
「お前1人か?」
「別に、どうでもっ、良いじゃないですかっ……!」
かつてはただの何処にでもいる一般人だった彼女の前世では考えられない程の身体能力で攻めていくが、攻防の末に勢いよく地面に叩きつけられた。手加減はしているだろうが、痛いものは痛い。
「――っ!」
背中からの衝撃に一瞬息が詰まるが、痛みに顔を歪めながらも次の行動に出る。今は試験中だが実戦中においては一瞬の隙が命とりで、直ぐに動き出さないと死に至る。その事をしっかり理解しているので我武者羅にでも足を動かした。
アスマの腰を力一杯両足で挟んで拘束し、密着しながら印を組む。
「秘技『草結び』……!」
「っな……!?」
ルカの行動に驚いてアスマは離れよとするが、ルカ自身の足と発動したばかりの術で動けなくなった。
秘技『草結び』はルカのオリジナルの術で、効果は地面から蔓が生えてきて相手の足に巻きつき行動不能にする代物だ。例え引きちぎられようが、蔓を切って逃れられようが、一瞬でも拘束して時間を作れば問題ない。そのための術だ。
拘束されたアスマを確認するとルカは両足を離し、後ろへとバックステップで距離を取る。それを合図に彼が茂みから飛び出した。
「『肉弾戦車』!」
「っ!」
転がりながら向かってくるチョウジの肉体、アスマはクナイで蔓を切って避ける様に移動した。この場合ルカの攻撃範囲外でありチョウジがいない方へと動くしか選択肢はなく、次に何処に移動するのか予測がつきやすかった。攻撃は止まらない。
クナイを構えたいのがアスマの背後から奇襲をしかけた。アスマは驚きながらも関心したように笑いながら避けた。ルカも前から攻撃を仕掛ける。
「はは、お前らやるなぁ」
まさかこうなるとは思わなかったぞ。そう言わんばかりにアスマはいののクナイやルカの拳や蹴りをいなしながら笑う。
チョウジは体勢を立て直して隙ができるかを注視した。パワー型の攻撃で一発一発が重いぶん、コントロールは出来ず、連発も出来ない。
そうしてアスマはピタリとも動けなくなった。ルカといのは攻撃をやめてアスマに向かってクナイを向ける。
「!……これは、」
「……ふー、影真似の術、成功……」
この技を使えるのは一人しかいない。アスマは自身の影を見ると、それは伸びて違う影と繋がっている。
茂みからその影の先の持ち主であるシカマルが印を組んだ状態で現れた。アスマも同様に足が動くがほんの数歩なので問題はない。
「……お前ら」
「これが私たちのチームワークよ」
アスマともあろう実力者がシカマルの術を解けないわけがない。このまま試験を進めるのなら直ぐにでも術を無理矢理解くが、その必要はないので術に掛かった状態で口角をあげた。いのの宣言を聞いても楽しそうに微笑んでいる。
ちょうど腰側にいたルカが試験の合否二関わる三つの鈴を奪った。
ルカはこのメンバーの中では攻撃タイプだ。
他人を援護する術が得意なシカマルといの。
攻撃タイプだがスピードが遅いチョウジ。
瞬時に連携を取る事が出来る三人を援護する術があまりないルカ。
だからルカは一番初めにアスマに攻撃をしかけ、足止めをする。そのできた隙を使いチョウジが攻撃し、またその隙を使っていのも攻撃。
こちらに意識を集中させる為にルカといので絶え間なく攻撃を仕掛け、シカマルがアスマを束縛する。
それがシカマルの作戦だった。
「くく……」
「先生?」
「ははは!」
鈴が取られているのを確認したアスマは耐えるように笑うが直ぐに噴き出した。影真似で動けないが、全く気にせず笑い声をあげる。
いのやチョウジ、シカマルが困惑したように顔を見合わせている中、ルカが話しかけると笑いをこらえようとする。そして数秒後にアスマはジッと四人の顔を見渡しながら言った。
「さすが、だな。全員合格だ」
眩しそうなモノをみるかのように目を細めながら言ったアスマの言葉に皆は茫然となる。アスマが「全員」と言ったから。
試験の合格条件と話が違う。
「ご、合格!?っていうか全員!?」
チョウジは慌ててアスマに向かっていき、アスマはチョウジに止まるように言ってからがシカマルに術を解くよう合図を送った。困惑しながらもシカマルは術を解いてアスマは自由の身となる。力業で解くことも出来たがその場合はシカマルに反動がいくので無理矢理する必要はない。
ルカといのは茫然としたまま動かない。三人しか受からないと思っていた彼女達は落ちた後の事も考えていたので特に。
「……はぁ、そういう事かよ……」
術を解いた後に考え込んでいたシカマルが何かに気が付いたのか、ガクッと肩を落とした。
「お、シカマル、気づいたか」
「え、え?シカマル、どういう事よ!?」
流石だと笑うアスマ、いのはシカマルに詰め寄った。両手を挙げてタジタジになりながらもシカマルはボソボソと話し始める。
「……そもそも鈴の数なんて関係なかったんだよ。これはあくまでチームワークを問われる試験で、鈴の数はチームワークを崩すためのものだった。これを任務に例えると、『いかに理不尽な内容でも感情に流されることなく任務を遂行できるか』……だろ」
「正解だ」
アスマは満足そうにシカマルの頭を撫で、顔に「めんどくせぇ」と顔に書いているシカマルはその手を払いのけた。
素っ気ないシカマルにアスマは苦笑いを見せるが、一つ咳払いをして真剣な顔で四人を見る。
「まぁ極論を言うと、四人同時合格か四人同時不合格か。誰か一人でも単独行動に走ったり、仲間を犠牲にしたりしていたら全員不合格だった。けれどお前らはちゃんと仲間の話に耳を傾け、協力し合い、理不尽な内容であれ俺から鈴を奪った」
忍というものは単独行動もするが、チームワークが成り立たないと話にならない。そのための試験だった。これからの時を共に行動する為に。
アスマの説明を聞いたルカは身体から力が抜けてぺたりと地面に座り込んだ。本当に三人しか合格出来ないというのなら自分が落ちようと考えていたし、それを否定されながらも何処か心にわだかまりがあった。その心配と決意は試験に合格したとしても見当違いの無駄であったと分かったから。恥ずかしい、と思う心ある。
近くにいたいのが慌ててルカに駆け寄った。
「だ、大丈夫!?水橋さん!」
「う、うん……力が抜けた……」
アスマは二人の姿を見て少しだけ安心したように笑い、ルカの手をとって優しく抱き上げて地面に立たせた。
ふらつきながらもいのに支えられるルカの頭をアスマは撫でる。
「仲間を思い、大切にできない奴を忍として俺は認めない」
ルカ達全員と一人ずつ目を合わせながアスマは宣言をする。
「下忍試験合格、これより、奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの、水橋ルカ、第十班を正式な下忍と認める」
そして長いようで短い試験は終わった。