彼女は歩きだした。
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「そこにいるのは誰だ?」
「…奈良君」
「………ルカか」
森の中を力一杯走り、ルカが一番先に会いに行ったのは奈良シカマルだった。木の枝から飛び降りて綺麗に着地をし、シカマルに数歩近づく。
シカマルは何故か木に背中を預けてぼんやりと空を見上げていた。
「……あ、あのね」
「分かってる。チームプレーだろ?」
「!……う、うん!」
「……はぁ、めんどくせー……」
ルカが何を言いたいのか、そしてこれから何をしなければいけないのか分かっているのだろう。シカマルはルカの言葉を遮って口を開いた。
腰をあげて立ち上がるとズボンを叩いて砂を落とし、数歩ルカへと近づく。近づいてきたシカマルに数歩下がって距離を取ったルカにシカマルは立ち止まった。
「……お前さ、何で一番先に俺のところに来たんだ?」
シカマルは面倒くさそうにため息を吐きながらどうしてだ、と問う。シカマルから見ても自身とルカの間には挨拶を返すぐらいの記憶しか無く、主席を争うルカが下から数えた方が早い自分に真っ先に話しかけてくるとは思ってもいなかったのだ。それならまだ頭の良い成績にいたいのや、成績は上位ではなくても偏見なく接する優しくて取っつきやすいチョウジの方が話しかけやすいだろう。
その真剣な目に、ルカはちゃんと向き合おうとしっかりとシカマルと目を合わせて答えた。
「……い、一番近かったのもあるけど!」
「……ど?」
「奈良君が、一番頭良いから……!」
アスマから逃走し、鷹達とも別れた現場から一番近い所にいたのはシカマルだった。それもある。
けれど何よりシカマルの「頭の良さ」をルカは頼ったのだ。彼の訝しげな顔にルカは静かに頷いた。
ドベとか、成績が下だとか、そういう目でルカはシカマルを見ていない。周りはそういうが、ルカには確信があった。
本当に頭が悪い人が、のらりくらりと全てのアカデミーの勉学を終える事が出来るわけがない、と。
そういう意味ではうずまきナルトもそうだが、彼は勉学はさっぱりでも技術という意味では「天才肌」だろう。
勉強が出来るから頭が良い、勉強が出来ないから頭が悪い。そういう世界ではない事を「違う世界を知る」ルカだからこそ知っていた。
勉強しか出来ない自分なんかよりよっぽどシカマルは頭が良い、とルカは思っている。
「……買いかぶりすぎだぞ、ルカ」
「ううん、買いかぶってない……。私は本当に、奈良君が頭が良いと思ってる……!」
「……めんどくせー」
その真っ直ぐな目で見つめられたシカマルは困った様に後頭部をかくと、この話は終わりだと言わんばかりに話題を変えた。
「……それより、チームプレー…どうする?」
「山中さんとか、秋道君とかに言わないと……」
チームプレーなのでいのやチョウジの協力も必要だが、もしも二人が気づいていないのなら説得しなければいけない。シカマルは理解していたからこそあっさりと話は進んだが、説得となると重労働だ。
ルカはコミュニケーション能力が低く、シカマルはめんどくさがり。二人の間に重い空気が流れるが此処で立ち尽くしていても仕方が無い。
「とにかく先ずはあの2人から探すか」
「……う、うん」
シカマルの心底めんどくさいという声色にルカはそっと頷いた。
それから直ぐにいのとチョウジを見つける事が出来たので、なんとかこのテストの目的を説明した。口下手ではあるがルカが何とか話をし、シカマルが補足して説明するというやり方だ。チョウジは特にどうこう思う事はないのか直ぐに頷いたが、いのは納得しなかった。
「なら残りの1人はどうするのよ」
「……だ、だから、鈴は3つしかないけど、元々協力しないと意味なくて、だからもし誰か1人でも自分の分をとっても、それは失格なの…!それに上忍相手に個人プレーは、絶対に無理で……」
「………水橋さんの言いたい事は分かるわ。せっかくのチームなんだからチームとしての特性を生かさなきゃいけない。
…けど、もし本当に3つしか鈴がなくて3人しか合格させる気がなかったら、どうするの?」
いのとて馬鹿ではないので一度の説明で理解はしたが、納得はしなかった。チームプレーで鈴を取るのは問題ないし、その協力の必要性も理解している。けれど結果それで一人があぶれてしまったら、と思うと中々に事に及ぶ事が出来ない。
誰かを犠牲にしなければいけない、というのが耐えられない様だ。
そんないのとは逆に、ルカはそれについては問題ないと思っている。
「それなら、大丈夫だよ……」
「え?」
「わ、私が落ちるから…!」
「!?」
ルカは力いっぱいそう宣言し、その言葉で場は凍り付いた。
話を聞きながらも黙々とお菓子を食べていたチョウジが持っていたお菓子を地面に落としてしまうほどの衝撃だった。
「私ね、べ、別に直ぐにでも忍になりたいわけじゃないの。親が忍だから私も立派な忍になる、とかないし……。
だから、もし山中さんの言う、三人しか合格出来ないなら……三人が合格すれば、いいよ?」
いのとシカマルとチョウジの猪鹿蝶。そこから異物が抜けても実質的に問題は無い。そうルカは思っている。
旧家の子である三人はそれなりの期待の中で生きている筈なので、此処でどうこうしてしまったら周りに何か言われるかもしれないが、それと比べて一般の出であり特に周りに何も言われないし思われてもいないルカは落ちたところで「また挑戦すればいい」という話になる。
ゲンマとハヤテが頑張れと言っていたが、頑張った結果そうなってしまったのなら仕方が無いだろう。
と、ルカは思って笑った。
「こんの……っ」
「?」
「ばかーっ!」
勿論ルカの言い分など理解も納得もされるわけがなく、いのは息を吸って大声で怒鳴った。
息を吸った瞬間にシカマルとチョウジがサッと両耳を塞いだが、ルカは何が起るのか分からなかったので間に合う訳もなく、鼓膜に直接ダメージを食らった。
「あんた何考えてんのよ!そんな事されても全然嬉しくない!」
「……で、でも……」
「でもじゃない!」
オドオドと畏縮するルカとその前で仁王立ちで怒るいのに誰も口出ししない。
耳を塞いでいた二人はお互い目を合わせながら苦笑いをして見守っている。
どちらでも良いから助けて欲しい、とルカは二人を見たが、二人はそのまま怒られていろと首を横に振った。
「……………分かった」
ルカの思いと現状、そしてこれからどう動かなければいけないのか。全てを受け入れたいのは決意した。
気の強い彼女だからこそ言える事で、手入れを怠らずに綺麗に保っている流れる髪の毛をそっと手で触りながら、まるで挑発するかのように口角をあげながら笑う。
「結果もし3人しか合格出来ないなら全員で落ちるわよ」
「っ山中さん!?」
ふんっと鼻で笑いながら言った言葉にルカは驚愕の目を向けた。
ルカの脅えとは裏腹に、いのはただ真っ直ぐにルカの目を見つめる。綺麗で、真っ直ぐで、ルカとは違う意思の強い瞳。
その瞳にルカは吸い込まれた。
「私は班の仲間を犠牲にしてまで忍にはなりたくない」
「同感」
「同じく」
その言葉にハッと意識を取り戻したルカは、同意をしたチョウジやシカマルを見る。彼らもまた、いのと同じような意思の強い澄んだ瞳でルカを見つめている。
胸の奥底から何かがこみ上げて来そうな感覚に溺れ、そっと服の裾を掴んで俯いた。
いのの言葉が突き刺さったから。
「……私も、仲間で……いて、いいの……?」
信じられなかった。ルカは溢れ落ちそうになる涙を必死に唇を噛んで抑え、耐える。
猪鹿蝶の中にいるはぶれ者。ルカはその事実を口にはしなかったが、いのたちは何となくそのコンプレックスに気がついていたのか大きくため息を吐いた。
旧家の三人はルカが思っていた以上に自分達が周りにどう思われているのかを知っている。だからこそ臆病で、ネガティブで、周りと馴染めないルカがここまで距離を取ろうとする理由に気がついていた。
「あのねー……あんたは立派な私達の仲間なの。それとも仲間だと思ってたのは私達だけなの?」
「………………」
アカデミーに通っていた頃から卒業しても班は一緒だろうと親も自分達も思っていたし、実際そうなった。そこに一人誰かが入ってくるとは思わなかったが、自分達は自分達、親世代は親世代と班が決まったその瞬間から割り切っていた。
まさか当事者よりも部外者のルカが気にしていたなんて、と三人の胸の内にほんの少しの傷を作る。
それもまた仕方が無いのかも知れないけれど。
「……ま、いいや。少しずつで良いから私達の事信用しなさいよ。
……それより今は鈴の事よ」
三人と一人の間にある壁を今この時間でどうこう出来るとは思えない。いのは仕方が無いと、頭を振るって状況を整理した。
今は演習中なのだから。
取りあえず目の前にある課題に取りかかろうとルカやシカマル、そしてチョウジといのは四人で輪になった。