彼女は歩きだした。
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頑張れ、俺達は応援している。その言葉を最後までかけてくれた二人と別れてルカは待機室へと向かった。ここに担当上忍が迎えにくる手筈となっている。時間としては速いぐらいだが、待つぐらいがちょうど良いだろうと思っての行動だ。そもそも担当上忍が何らかの事情で遅れてくる可能性もある。
教室のドアを開けると先に到着していた同期達が一斉にルカを見た。恐怖で肩を揺らしてしまったのは仕方が無い事だろう。自分の担当上忍かと思って見たのかもしれないが、現れたのがルカだと気がつくと皆落胆したように友達同士会話を再開した。
ルカはくーちゃんを腕に静かに教室の隅の席に座り込んだ。
「水橋さん」
暇つぶしの為に持ってきていた鞄から本を出して挟んでいたしおりを机に置いた時、背後から声をかけられた。ルカはゆっくりと振り向く。
「……やま、なか……さん」
「同じ班同士、仲良くしましょ?」
「……は、はい」
同じ班に属する事になった山中いのだった。彼女は長い髪の毛を揺らしながら人懐っこい笑みをルカに見せたが、ルカは上手く言葉を返せず俯いていてしまった。筋金入りの人見知りにはいのの笑顔は眩しすぎたのだ。その姿が面白くないのはいの自身ではなく彼女の後ろにいた女の子達。元々あまり良く思われていなかったうえ、仲良くしようと笑顔を見せたいのに素っ気なく接してしまったルカの態度に腹をたてた様だ。女の子達はルカを睨みながらいのの腕をひっぱった。
「本当に感じわるい子ね。いの、行きましょ?」
「え、あ、うん」
ルカはいつもこうだ。前世でも軽度の人見知りで友達も少なかったが、それでもイジメが始まるまでは挨拶する人もいたし食事を共にする人もいた。今は色々あって人見知りがもっと酷くなり、アカデミーでは仲良く挨拶をする人がいないしご飯も一人だ。同期である日向ヒナタはルカの様に人見知りだが女の子受けはいい。その部分はルカとは大違いだった。
周りのルカに対するイメージは『暗い』『気味が悪い』『人を見下している』、その3柱だった。前者二つはルカも否定出来ない部分もあると諦めたが、「人を見下している」という評価については彼女自身本当に腹立たしく思っている。
確かにルカは女子の中ではあらゆる教科がトップクラスだ。男子トップのうちはサスケとはどっこいどっこいで、テストが始まれば二人でトップ争いをした。そしてテストでとうとう十点という差を開けて勝利を果たすと陰口の嵐、テストの件でサスケが声をかけて来た時は女子の大半に睨まれて逃げた事もある。
誰だって格好いいと思う相手には「格好良くいてもらいたい」し、その相手が根暗で嫌われている子だとその思いに拍車はかかるろのだろう。勿論ルカにとっては勘弁して欲しい事で、成績が良いのも努力の結果だ。努力して努力して努力して、誰よりも何よりも机にかじり付いたり身体を鍛えたりしたからこそだったのだが、女子達はそんな彼女を「見下している」という一言で終わらせた。サスケの事が好きな女子はルカに辛辣だった。
そういう事もあってルカには人間の友達が一人もおらず、先程出会ったゲンマとハヤテが友達1号と2号だ。やっと出来た友達が一回りも違うなんて寂しい事だが取っつきにくい性格をしているルカには大人の寛容さがちょうど良かったのかもしれない。
************
「奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの、水橋ルカ、こっちに来い」
そうして漸く担当上忍が現れたらしく、入り口付近から名前を呼ばれた。まだまだ教室に人が残っていたので早いほうだろう。ルカはくーちゃんを腕で抱えながら鞄を背負うと、ドアの前に立つ大人の方へと足を向ける。担当上忍は熊のようながっちりとした男性だ。
担当上忍を先頭に教室から出た五人が向かったのは窓から外の景色が見える一室。下忍の四人は横一列に座り、その前に担当上忍が腕を組んで立った。
「俺の名前は猿飛アスマ。お前らの担当上忍だ、以後よろしく」
煙草を吸いながらの挨拶、ルカ以外の三人がいっせいに咳き込んだ。煙草の煙にはなれていないらしい。一人平気そうな顔をしているルカは煙たいし臭いとは思っているが、我慢出来るぐらいの量だった。前世で喫煙家の側で仕事していたのできっとそれが理由だろう。
「じゃあ一人ずつ自己紹介な。名前と好きなものと嫌いなもの、将来の夢を言っていけ」
アカデミーでの関係性はさておきこれからチームとしてやっていくので挨拶は必用だ。アスマの指示を受けて端から順番に始めていくが、ルカが何と言おうか迷っているうちに直ぐに順番はやってきた。
「じゃあ最後、熊の人形を抱えているフードの子」
俯き加減で話を聞いていたのでルカはビクッと肩を揺らして顔をあげた。決して油断していたわけではないし話を聞いていなかったわけでもない。三人とアスマの視線を感じ、それから逃れる様にまた俯くと小さな声で考えていた事を口にした。
「……私は水橋、ルカ。好きなもの……色々、嫌いなもの……色々。将来の夢は、あの人を支える事」
「結局夢しか分からないじゃない!」
何を言えば良いのか分からないルカが結局答えられたのは将来の夢のみ。いのが盛大にツッコミをいれ、チョウジは頷き、シカマルは「めんどくせー」とか呟く。アスマはというと、複雑そうにルカを見ていた。否、ルカというより彼女が抱えている「くーちゃん」に目がいっている。
やはり上忍レベルには気づかれるものなのだと聞こえない程度に小さくため息を吐いた。
「ねぇ、あの人って誰?」
チョウジが気になったのかルカへと聞き返し、他の皆も気になったのでルカを見つめた。人の視線が集中するのが得意ではないルカにとっては「興味」という感情を全く隠していないその目で見つめてくるのは本当に止めて欲しい事だったが、そう思うだけなので誰にも伝わらない。戸惑いながらも小さく口を開いた。
「……大切な人。……血の繋がりのない私をずっと育ててくれてるの」
「ッご、ごめん……」
脳裏に浮かぶのはいつも優しく微笑んでくれる高齢の女性、今は家でルカの帰りを待っている事だろう。血の繋がりが、のくだりで聞いたらいけない事だと気づいたのか慌ててチョウジが謝った。 他の皆も気まずそうにルカを見る。
「別に、いい……。……気にしてないから。それに私、血の繋がりというもの程……不確かなものはないと、思ってる……」
生まれてまもない赤子を放置し、家から追い出してからは暗殺を目論む家。そんな生まれであるルカには「血の繋がりがある家族」には何の感情も持ってはいない。彼女の心に巣くう前世の記憶でも「血」に悩まされた。
そんな言葉を聞いて、ぼんやりとしているルカは気づいているのか気にしていないのか分からないが皆驚きで目を見開いていた。アスマを含め名家出身者達ばかりなのできっとルカの気持ちは一つも理解出来ていないだろう。 唯一大人であるアスマが一番複雑そうにしている。これから受け持つ生徒の一人がこうじゃきっとやりにくいし、どう接すれば良いのか分からないのかもしれない。そして大人としてもやりきれない思いがある。
ルカはギュッとくーちゃんを抱きしめて小さな声で言った。
「家族とか、
仲間とか、
お母さんとか、
お父さんとか、
お姉ちゃんとか……、
全部全部馬鹿みたい」
生憎その呟きを聞いていたのは横にいたシカマルと上忍であるアスマだけだったが、その聞こえた二人は何ともいえずに眉間に皺を寄せる。ルカは下唇を噛みながら腕の中にいるくーちゃんへと力を入れた。
「……あ~……まぁあれだ。これから一緒にやっていくんだ、仲良くするように」
「はーいっ!」
空気を変えようと咳払いして言葉を選んだアスマにイノとチョウジだけが元気よく答えた。二人がどう思っているかは誰にも分からないが、この沈んだ空気をどうにかしようとしているのかもしれない。 シカマルはだるそうにため息を吐き、ルカはくーちゃんを抱きしめる。そんなバラバラな四人にアスマもまたため息を吐いて明日の事を話し出した。
「明日はさっそく演習場でちょっとしたテストをする。時間と場所はこれから配る紙に書いているから送れないように」
そう言いながら四人に紙を渡しながら説明を始めた。皆真剣に紙を見つめながらアスマの話に耳を傾ける。
その後アスマの合図と共に皆はこの場を離れ、ルカだけは担当上忍の視線を感じながら帰路についた。