彼女は立ち向かう。
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「これから私がする話…皆に聞いてもらいたい話は、私の事…私自身の事」
祝賀会が開かれて2日後。
10班は上忍師を含めて誰一人としてかける事無く指定の場所に集まった。
指定の場所は奈良シカマルの家で、目的地は奈良の敷地内の森の中。邪魔者が現れないうってつけの場所だ。
本当は部外者なんて入れるわけがないがシカマルが当主である父親に言ってほんの一角を借りたらしい。なんと言って借りたのかは誰もしらないけれど、それは容易いことではなかったはずだ。それでもシカマル自身、ルカの真剣さを感じてこれからする話を誰にも聞かれないよう頑張って許可をもらった。
「…私はね、元はある旧家で次女として生まれたの」
「旧家?水橋って姓の旧家あったかしら?」
「…ないよ、水橋は花さんの姓だもの。…もう家は没落しかけているし、…それに…本当の姓なんて忘れちゃった」
「……………そうか」
森の中の広場で思い思いの場所に腰を下ろしている。
森には鹿がいるはずだが人払いもとい鹿払いがされているらしく、何の気配もない。
ルカは木の凭れかけ両足を立てて抱え込む。そうして泣きそうな笑みを皆に見せて言葉を続ける。
「13年前、私はこの世界に生を受けた。
それがすべての始まりだった」
************
13年前――…
一人の少女がこの世に生をうけた。
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
「……生まれてきてくれてありがとう、私の可愛い子」
産婆が腕で泣く小さな赤子を布団に座る女性へ渡した。
母親である女性は嬉しそうに赤子を抱きしめて、その汗だくで疲れきった顔で微笑む。
「母上!」
「まぁマナちゃん、この子があなたの妹よ」
「可愛いねー」
「でしょ?貴方の妹ですもの」
5歳ぐらいの少女がニコニコ笑いながら女性と赤子に近付いてきた。
女性は少女の頭を撫でると視線を赤子へと戻す。
「マナちゃん、お父さんは?」
「さっきまで一緒に修行してたから今は後片付け!!もう直ぐ来ると思うよ」
「そっか、どうだった?」
女性は誇らしげに笑う少女が一人である事を気に掛けて声を掛けたが、少女が先走ってやってきたのだと知っておかしそうに笑う。
少女は張り付くように女性の横に腰を下ろして満面の笑みを浮べた。
「チャクラコントロールはばっちりで、今性質変化の術を練習してるの」
「本当に!?やっぱりマナちゃんは天才ね、この家も将来安泰だわ」
「えへへ」
一人娘である少女が天才であること、そしてその少女を生んだのが自分であること、女性は家の未来が安泰である事に喜んだ。
そうしてもう一人生まれた我が子が視界に入る。
「…この子も強い子かしら」
「……、……さぁ?」
「でも、お父さんも姉であるマナちゃんも天才だもの、きっとこの子も天才よ」
そう言って女性は赤子を抱きしめて笑う。跡取りになる男子ではなかった事は残念だが、天才児である娘がいるのだから次の子もきっと、と思ったのだ。
そうして微笑む女性――母親や産婆、女中達はこの時少女―マナが一瞬赤子を睨んでいた事に気が付くことはなかった。
「なんでこんな簡単ことができないのよぉ!」
赤子が生まれて3か月がたった。
母親は布団で横たわる赤子に憎悪の目で睨みつけて手を振り上げた。
叩かれた衝撃で泣きわめき、よりいっそ母親の感情を不にかえる。
「マナちゃんなんて3か月でハイハイができるようになったし、5か月で伝い歩きまでできるようになったのよ!?なんであんたはできないのよ!」
世間一般的に3か月でハイハイなんて出来るわけがないし5か月で伝い歩きができるはずがない。
ハイハイは早い子で7か月から、伝い歩きは早い子で8か月からなので相当無理な話だ。そもそも大多数はもっと遅い。
ここにいる赤子は3か月……まだまだ首が座りはじめた時期、それが普通。
それなのに母親は先に生まれた姉であるマナを基準にしているからか、とんでもないことを言いだし、暴力を振るった。赤子にとったらほんの少しの衝撃でも死に至るというのに、これが日常茶飯事になっている。
「!?っ何をしておいでですか、若奥様!」
そこに廊下を歩いていた使用人が慌てて入ってきた。
使用人は泣きわめく赤子を抱き上げた。
「こんな事をされるとこの子が死んでしまいます!」
「うるさい!使用人のくせに、生意気な事を言うんじゃないわよ!」
「生意気など…!お腹を痛めて生んだご自分の赤ん坊に手を出すなんて……!」
日常的な暴力で服の裾から見えるその小さな身体に痕が何個も見え、赤子を抱く使用人は絶望的な思いで母親に訴えている。
が、赤子の状態を歪に思い込んでいる母親は、そんな思いなど気にすることはない。
「こんなの私達の子じゃない!こんな出来損ない、いらない!私の娘はこの家を支えていく天才、マナちゃんだけよ!」
「…出来損ない…!?…3か月なら首が座るのが当たり前です、これ以上を望んでもできないものはできません!」
その正論に母親はぶちぎれ、とうとう足がでた。母親は使用人を蹴り飛ばし、鬼の様な形相で睨み付けた。そして床に転がった使用人を蹴り続けながら叫ぶ。
「たかだか使用人のくせに!私はここの当主の嫁なのよ!?私の教育に文句を言える立場じゃないじゃない!」
どかどか蹴り続ける母親に、蹴り飛ばされながらもその腕から離す事はなかった使用人は、赤子だけは守ろうと抱きしめて衝撃も蹴りも行かないようにする。
どちらが立派か。どちらが人として真っ当なのか、母親には分からなかった。
むしろ母親にとって、出来損ないの赤子と、正論を口にした使用人こそが悪だった。
「……まぁ良いわ。…花、あなたは今この時をもってクビよ。早急に荷物を纏めてこの家から出ていきなさい」
何度も蹴って憂さが晴れたのか、母親は蹴るのを止めて顔を歪めて横たわる使用人―花を見て笑う。そしてそれだけを伝えると部屋から出て行った。
気配が遠くへと遠ざかると花は起き上がり、腕の中にいる赤子を抱きしめた。
幼い赤子は直接行われた虐待と、花が蹴り飛ばされた衝撃でずっと泣きっぱなしであった
「大丈夫?どこも痛くない?…怖かったでしょう?」
「………………」
優しい声色に赤子は少しずつ泣き止んでいき、ジッと花を見つめている。
花はその瞳に涙を溜めて布団に赤子を横たわらせる。
「ごめんなさい、私が弱いばかりに。…私はここを出ていく身だけれど、あなただけは気がかりだわ」
あんな母親の元に生まれてきたこと、この家の子供である事は悲しくて辛い現実だ。
この先、幸せに生きる事が出来ない事がほぼ確定している赤子の頬なで、花も部屋から出て行った。
************
その日の夕暮れ時。
他の使用人に哺乳瓶でミルクを貰いそのまま放置状態の赤子の元に花がやってきた。
「赤ちゃんさん。貴方を迎えにきたわ、一緒に行きましょう?」
荷物を背負う花は赤子を抱き上げるとその場に置いてあるものを一切持たずに部屋から出ていき、玄関へと向かう。
その途中で当主とその嫁――赤子の父親と母親に出会った。
「貴方も変わり者ね、今月分の給料よりもそんな出来損ないを欲しいなんて言いだすんだから」
「私なら給料をもらうな、常々思っていたが君は少し変わりもののようだ」
花の腕の中で大人しくしている赤子をゴミの様な目で見ながら両親は鼻で笑う。
その存在自体が穢らわしい、と言わんばかりな言動だ。
「……そうでしょうか?…ですが、私の要望を聞き入れてくださりありがたく思います」
「あら。私達もそんな出来損ないを引き取ってくださるなんて処分の手間が省けてよかったもの」
処分と言った母親に花は怒鳴りたくなるがそれを抑えてニコリと笑う。
ここで争っても花と赤子にとって良い結果にはならないから。
「私が言うのも失礼だとは思いますが、ご契約の内容は必ず守ってくださいね」
「勿論だとも。…私達はそれを引き取ってもらう代わりにこれから一切君たち二人に関わらない、そして君はそれを引き取らせてもらう代わりに私達から一切の援助をうけない。…これでよかったかな?」
一応とは言え名家の子供を「譲って貰う」事になったのだ、それなりの契約は行った。内容はどうであれ、お互いに良い結果となったので円満に終わっている。
「はい。…それではこれで失礼します。10年間お世話になりました」
「こちらこそ長い間世話をしてもらって感謝している」
花は赤子を抱きしめて頭を下げ、父親である当主は今となっては変わり者として認識しているものの、真面目に働いてきた花に形式上として感謝の言葉を述べた。
母親はそれを見て嫌そうに花と赤子を睨んでいる。
「さようなら」
そして門をくぐり、花は今さっき買ったばかりの家へと足を向けた。
赤子は自分が捨てられたことを分かっているのか、それとも場の空気を読んでいたのか、花の腕の中で静かに眠っていた。
*************
「……これが私の出生の話」
そう言ってただ静かに微笑みながら皆を見つめる。シカマル達も、そしてアスマも何も言えなかった。
アスマは事情を知っていたがまさかそこまで酷いものだったなんて知らなかったので、木に凭れかけて腕を組んでいたがいつの間にか地面に座り込み、手で顔を覆っている。
「…っなによ、それ…!」
「本当の話。私が、生まれた後に起きたこと、私が花さんに引き取られた事」
「そんな事、なんでそんな平気な顔で言ってるのよ…!」
いのは立ち上がるとぼろぼろ涙を流しながらルカに向かって怒鳴りつける。
シカマルもアスマと同じく顔を手で覆っているし、チョウジも俯いて泣いている。
「だって終わったことだから」
「…終わった…?」
「…そう、終わったの。…私ね、今が幸せなの。だからそんな昔の事…本当の親にされた事は全然気にしてない」
「そんな…!」
にこりと微笑むルカにいのは言葉を失った。何故笑えるのだと、何故怒らないのだと。何故、……何故。
黙って話を聞いて言葉の裏を読んだシカマルは顔を覆っていた手を離し、眉間に皺を寄せて口を開いた。
「…『は』?…なら他に何がお前をそんなに追い詰めたんだよ」
「…え?」
「親にされた事は気にしない…ならお前を脅かすのはなんだ?」
「…………」
シカマルの真剣な顔にルカはまた俯いて顔を膝に埋める。恐怖で震えているのが誰の目でも分かった。
酷な質問をしたか……とシカマルは秘かに思ったが、良い機会なのだと、コレを逃せば一生ルカの背負うものを知る事はできないかもしれない、と両手を握りしめて答えを待った。
そして皆に聞き取れるか聞き取れないかぐらいの小さな声でルカは呟く。
「…『一族』と『姉』」
「…え?でも親の事は気にしてないんでしょ?なら一族は…」
「気にしてはいなよ、もう。それはその時されたこと。…けどね、『親』と『家』は違うんだよ。家というひとくくりで考えると、父親は当主だから」
「……?」
ルカの難しい言い方に皆は首を傾げて考え込んだ。
大人であったアスマだけは直ぐに分かったらしい。
「父親である以前に当主で、当主である以前に父親である。…か?」
「そう、アスマ先生あたり。父親は当主、一族の事を考えなければいけない。そしてその反面、当主であるけれど父親だから我が子の言葉を信じて答える」
「…我が子?」
「私の5歳上の姉。実の姉…」
―そして『私』を殺した子―
「……その、お姉さんの言葉ってなんなの?」
「……詳しくは知らない。けれど推測出来る事は一つ。『あの子が捨てられた怨みで復讐しにくる。この家に災いをもたらす、だから早急に処分を』」
『送られてきた刺客』が言っていた言葉から推測するとそうなった。
誰がそれを言い放ったかなど直ぐに分かった。
「姫様がそう言っていた」と言っていたので、彼女を神と崇める一族の者たちは敬意をもって彼女をお姫様と呼ぶ。――ということは…。
「私の血の繋がった姉は、私を暗殺しようとした」
そう言ってまた笑う。
辛いはずなのに笑う。
それがあまりにも惨いものだと、ルカは気がつかない。
「そんな…っ…!」
いのはまた泣き出して両手で顔を覆い、地面へとズルズルと座り込む。
「……お前は、何もしてないだろ…!?」
シカマルはとうとう精神的に抱えきれなくなったのか、涙を溜めて叫んだ。
「していないし、あの家と関わるつもりもない。それに花さんは私を引き取る前に家と契約をしている。…お互いに関わらない、と」
「…じゃあ先にあっちが破ったってこと……?」
「…うん。……私達は放っておいてほしいのに」
その言葉こそが本心なのだと、嫌でも理解出来る。
そして、関わりたくないと心から願う程に傷ついているということも。
「…っ文句、言えばいいじゃない!」
「…過去にね、一度花さんは仕向けてきた刺客について文句を言いにいったの。そしたら何を言ってきたと思う?『関わらないと言ったくせに何故ここに来た!?約束を破りおって!』って。先に私達に関わったのはそっちなのに惚けて知らないふりして私達を悪く言って、結局刺客の量が増えたんだ…」
「…っ……!」
流石にこれには笑顔を作れずに歪んだ笑みで言った。その表情があまりにも痛々しすぎる。
ある意味証拠がない状態で訴えても相手が白を切れば終わりなのだ。そこを突かれて、花とルカは悪者となった。
「だから、お前はこんなに強かったのか…」
「…………」
「そりゃあ、強いよな…。小さいころからそんな思いして、弱いわけがない…!」
「生きるか、死ぬかだもん。…強くなくちゃ、生きられない」
あの強さの秘密は辛い過去と、経験からくるものだった。
その事を知り、その力の恩恵を受けてきたシカマル達は「凄い」と簡単に思っていた過去の自分を恥じる事になった。
特別だとか持って生まれた才能ではなく、人の悪意と殺意の中で生きてきた「証」だったのだから。
「……じゃあもしかして、貴方が友達を作らなかったのも……」
いのは気が付いた。
彼女はアカデミー時代、一人だった。
孤立はしていたが元々からではないし、彼女自身が周りを突き放していたから反感を買って孤立したのだ。
クマの人形の件は別として、そもそも頭が良いだけで虐められないし、その突き放していた姿が子供たちにとって「他人を見下している」という評価につながった。
もしかして、アカデミー時代に彼女が寄ってきた子供たちを引き離していたのも…。
「それも、ある。…怖かったの、私に向けられる殺意が、違う子に向けられたら…って思ったら誰にも関われなかった…。勿論それだけが理由じゃない。」
「…っ…ごめん、なさい…」
「何でいのちゃんが謝るの?…いのちゃんは何もしてないじゃん。」
泣きじゃくるいのにルカは優しく言う。
何もしていないのに謝る事ではない。けれど謝ることしかできない、何もできない。
その頃、アスマ以外の3人はみんな親に甘やかされたり、反抗したり…幸せいっぱいだった。
その反面同い年の子が命を狙われていたなんて知らなかった。
「私は…私のせいで誰かが傷つくなんて絶対に嫌だから、さ…」
誰も、何も言えなかった。
たかだか12歳13歳の少女が考えることではない。
ましてやアカデミー時代はもっと幼かったはずだ、その思いをずっと心に秘めて一人でいた。
彼女の寂しさは計り知れないだろう。
「ルカは、さ…。辛くないの…?」
「…え?…何で…?」
「何で、って…。こう、いうのもなんだけどさ…親にそんな事されて、赤の他人に引き取られて、暗殺されかけて、それで皆を突き放して…結局、ルカは1人じゃない。貴方は何もしていないのに、1人にならざるおえなくて、辛くない…?」
「おい、いの。馬鹿な事聞くな」
そんなもの辛いに決まっている。
分かりきった事を聞くな、とシカマルは咎める様に声をあげたが、ルカに手で止められたので口を噤んだ。
普通なら辛くて辛くてしかたがないはずだ。
聞く事自体も失礼だ。
…それなのに彼女はまた笑った。
「辛くないよ」
「何で!?」
いの達にとったらその笑顔が痛々しい。
辛いはずなのに笑って、無理をして、何でそんなにも一人で立ってられるんだ…それが皆の見解だ。
けれど見事にそれは本人に覆された。
「だって私には友達と花さん達がいたから。」
勿論その友達は無機物である傀儡や人形で、口寄せ動物達は花さん『達』に入っている。
シカマル達はその『友達』がいったい何を指しているか分かってしまって内心複雑だ。
けれど人形であろうが傀儡であろうが、ルカはそれで満足していたのだからシカマル達が思っている程寂しいわけではない。
「だからね、もしかしたら本選後…私は何かに巻き込まれるかもしれない」
あの家が、何かしてくるかもしれない…それを今日伝えたかった。
「…その家が、か…」
「…うん。あの家は実力主義だから、もしかしたら、接触してくる…最悪、私は家に連れ戻されるか…
…もしくは拒否して殺される、か」
そう言って暗い顔をするルカ。
いのはルカに近づいて行くとそのまま彼女に抱きついた。
「分かったわ。ルカ、私も戦う!」
「!?」
そう言ってギュッと抱きしめる。
ルカは何を言われたのか分からずに身体を強ばらせた。
「良いよね、シカマル、チョウジ!」
「当たり前だ」
「勿論!」
他の二人も乗り気のようだ。
我に返ったルカは戸惑い、慌てていのを突き放した。
「え、え!?っ分かってるの、みんな!」
「当たり前よ。戦うのは怖いけど、ルカをこれ以上一人で戦わせてなるもんですか!」
「ちが、あの、私は別にみんなに一緒に戦ってほしいからこの話をしたわけじゃなくて…!」
その瞬間いのがルカの頭に拳を下ろした。
「っ!?」
「あ、の、ねー…。ならあんたはどんなつもりでこの話をしたわけ!?」
「………」
いのが仁王立ちで腰に手をたてて叫ぶ。その後ろには近づいてきたシカマルとチョウジが立ち、アスマはこの場を黙って見守っている。一人の大人として闇を抱えた少女の行く末と、大切な教え子達の覚悟をその目に写して。
「本当はさ、あんた誰かと一緒にいたいんじゃないの!?一緒に戦って欲しいんでしょ!?ならなんで何も口にしないのよ!」
「中忍試験で言っただろ、俺ら。一緒に戦うって」
「あれ本当なんだよ、真剣に言ったんだ。『守るために戦う君を、ぼく達が守る』…ぼくは弱いけど、それでも戦うよ」
いのの言う事は全部図星だった。
人が怖くて裏切られるのが嫌でそれで人を突き放して、他人が自分のせいで傷つくのが嫌で突き放して、『友達』を自らの手で作ってそれに満足して……。――否、本当に満足していたのか?
答えはNO。誰かに一緒にいてほしくて、けど過去のことからそんな事口にできなくて、それを口にすれば何かが壊れそうで…。
ずっと育ててくれた花も困らせてしまっている。
だから何もかも飲み込んで現状に満足して、ただただ現状にびくびくして。
「…何でもかんでも諦めるんじゃねーよ」
シカマルの呟いたその言葉にルカはハッとなって俯いた。
的を得てるので何も言い返すことができずに、俯く事しかできない。
「もう一度聞く。…お前はなんでこの話を俺達にした?」
「……み、んなに、私の事…知ってほしかった」
「なんで?」
「…皆を、何も知らずに巻き込みたくなかった、から…」
「…なんで?」
「…傷ついてほしくなくて…」
「………ルカ」
あまりにも大切な事を「突き放す」ルカには一つずつ言葉にして理解させてやらなければいけなかった。
シカマルの咎めるような声でルカの肩は揺れる。
ルカは強情すぎだと思う、今の所ここに居る本人以外全員の気持ちだ。
「…っ…私、怖くて…」
「…うん」
「…もう、誰にも裏切られたくなくて…!!」
「…っ…うん」
「沢山の人を突き放して…」
「うん」
「それで、満足…して…」
「……………」
声がどんどん小さくなっていくが誰一人としてそれを咎める者もおらず、そして一字一句聞き逃さないように耳を澄ませる。
静かに皆はルカの本心に相づちを打つ。
「…でもね、本当は、寂しかったかも、しれないの…」
「…………」
「けどそれを認めたら、自分がみじめに思えてきて、」
「…………」
「だから精一杯虚勢を張って…そんな時下忍になって、皆と仲間になった」
「…うん」
「自分だけ、違うし、怖くて、人と接する時間が少なかったから、どう接したら良いか分かんないし、どう喋ったらいいかも分かんないし…」
「…………それでも今はがんばって私達に心開こうとしてるでしょ?」
「…………う、ん」
頷きにくいけど、それは事実なのでなんとか小さな声で返事をする。
それだけで十分なのだ。それさえ聞く事が出来れば良い。
「…ルカの事が私は好きだなぁ」
「……え?」
「そんな不器用なルカの事が好きだよ、私」
「…………」
いのがニッコリ笑いながら言った言葉にルカはびっくりして固まった。
すかさずその小さな身体をいのはハグを行い、身体から離れると、目と目を合せて優しく心に響くことを願いながら言葉を発した。
「だからもう一声。…ちゃんと私達はここにいるから」
「…っ………、
っもしも家と戦う事があったら、私と一緒に戦ってほしい!」
それは彼女が心から願う、1つの願い。
本当は、本当は巻き込まない方が良いだろう。相手は没落しているとはいえ旧家で、規模も小さくはない。
けれど……それでも、誰かに傍にいてほしい。
彼女が今日、出生と今後の事を話した理由。
それは彼女本人にも分からない。
巻き込みたくないからか、それとも共にいてほしいからか、
はたまた仲間に隠し事をしたくなかったからか…。
何を前提として話したのか当の本人彼女にも分からず、背中を推され『勢い』で話してしまった…という事も考えられる。
けれど勇気を振り絞って話をして、結果10班の間に良い風が吹いたのだから理由なんてもう必要ないだろう。
「勿論!私、ルカより弱いけど、頑張るから!」
「……ま、なんでも言えよ?」
「そうそう!ボクもまだまだ弱いけど、それでも力になれることがあるかもしれないから何でも言ってね!」
優しすぎる彼女には、優しすぎる仲間ができた。
成り行きを見守っていたアスマは嬉しそうに表情を緩めるとルカに近づいて行き、その小さな体の小さな少女の頭を思いっきり撫でた。
「良かったじゃねぇか。……だから言っただろ?俺達は裏切らないと。」
「!」
「…どんな時も、肩の力抜いて周りを見てみろ。1人じゃない、皆がいる。…それだけは、忘れるな」
「…はいっ…!」
ルカは涙を流しながら、けれど満面の笑みで頷いた。
アスマ達四人が初めて見る満面の笑みは誰よりも幼くて、そして幸せそうだ。
そして彼女らしからぬ行動にでる
「ルカ…!?」
立ち上がるといの達3人にめがけて飛び込んだからだ。
一番前にいて直に受け止めたいのは相手が小柄だとはいえ受け止められるわけもなく後ろに倒れこんだ。
「ありがとう、みんな…。ありがとう、ありがとう…!!」
胸の中で力いっぱいいのの服を掴み、泣きながら縋りつき、感謝の言葉を繰り返す彼女を皆は優しい目で見つめた。
シカマルはいのの横にしゃがみ込むとガシガシとルカの頭を撫でて、チョウジはシカマルとは反対側に腰を下ろして彼女の背中を一定の間隔で優しくたたく。
いのは力いっぱい抱きしめた。
「ルカはルカだもの。どんな事があっても私達は仲間なんだから!」
だがその言葉にルカがピクリと反応した。
数日前に花からも言われた言葉。
『貴方の仲間に一番に聞いてもらいなさい』
その言葉を思い出して小さく深呼吸をすると顔を上げた。
泣きはらしたその顔で、皆を見つめる。
そしてきゅっといのの服を握ると、覚悟を決めた。
きっと今日この日こそが大切な事を伝える大きなチャンスなのだと。
自分が「本当の意味」で生まれ変われるチャンスなのだと。
「最後に一つ。聞いてほしい話があるの
…生まれ変わりって、あると思う?」
―あのね、私には前世の記憶があるんだ―