彼女は立ち向かう。
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毒に侵されて数分がたった。解毒していないのでルカの顔色はどんどん悪くなっていく。
そんな彼女をあざ笑うかのようにスザクはクナイを投げて足元を狙うので、今回は本当に逃げる事しかできない状態だ。
そして足をもつれさせてしまい、倒れた。
「っ……」
「はは!おい、降参しろよ!」
毒が体を蝕み、思うように身体が動かない。
けれど体を動かさないとクナイが突き刺さる。
そして体を動かせば動かすほど毒が体を蝕む。
なんて悪い悪循環なんだろう。
スザクは苦しむルカを見て笑い声をあげた。
「まだ、です…!」
ルカはよろりと立ち上がると、またクナイから逃げるように走り出す。だが、よたよたと走っていて見るに堪えない。
これが毒の耐性が少しでもできている者ならまだマシかもしれないが、流石に彼女に強い毒の耐性などない。
少なからずはあれど、それ以上の体制はなかった。
正確には分からないが、もう数分がたった。死へのタイムリミットが始まっている。
「ルカ、もういい!ギブアップして!」
「死んじまう!審判、もう止めてくれ!」
「……、」
皆の叫びにハヤテももう無理だとコールしようとするが、当たらないようにとんできたクナイが足元に刺さり口を閉ざす。
そしてゆっくりと飛んできた方を見た。――勿論ルカがいる場所だ。
「止めないで!…わたしは、だいじょぶ…!」
「ですが、もう貴方は戦えません。審判としてこの試合を終わらせます」
「…戦える戦えないは、私が決めます…!」
自分の身体だ。どれだけ危ないのか、そしてあとどれぐらいなのかは分かっているつもりだ。
審判にも食らいつくその姿に会場中がざわめいた。
逃げまわり、さり気なく負けようとしていた時の姿とは大違いだ。
「おいおい、もう限界だろう!?諦めろよ!」
「…いえ、まだです…!…今回は、諦めない…!」
その往生際が悪い少女に苛立ったのか、スザクは起爆札つきのクナイを数本投げる。
それは真っ直ぐルカへと飛んでいき、
そして爆発した。
「ルカ!!」
「(ルカ…!)」
同じ班のメンバーが彼女の名前を叫ぶ。
ハヤテも公平な働きをする審判として、けれどそれ以前に愛弟子である友人が心配で慌てて彼女を確認しようと走り寄るが、ある事に気が付き、直ぐに足を止めた。
「(……これは。……良いんですね、ルカ)」
きっと少女は覚悟をしたのだろう、ハヤテはそっと憂いを見せると少女がいる場所を見つめた。
煙が晴れる、彼女が立っていた場所は大きな黒いモノが蹲っていた。
「…なんだあれは…!?」
皆が想像していたのは地面に倒れるルカの姿だったのかもしれない。
だがそこにあったのは大きな黒いモノ。スザクは勿論、全員がその黒いモノを見つめる。
ハヤテにはこれに見覚えがあった。
『…私のは、『趣味』だがら。…あの子は『友達』だし、あまり使ってるところを見られたくないし、…ここぞって時に出したいの』
少し前にルカの口から飛び出した言葉。その言葉通り、ハヤテは「これ」を一度しか見たことがない。
ここにいるメンバーで「これ」を見たのは誰もいない、アスマも見たことがない。
だから黒いモノの正体に気がついたのはハヤテだけだった。
「…っまだまだ、これからです!っ『九官鳥』!」
黒いものが動く。ルカが立ち上がりながらそう叫ぶと、黒いモノが彼女の頭上で両手を広げてその姿を見せた。
「傀儡!?」
「…うそ、だろ…?」
「なんであの子が…!」
全身黒く、顔である場所には仮面があり、その名の通り黄色い嘴がある。
傀儡らしく長い手足があり、禍々しいオーラを纏っている。
九官鳥はルカのそばに佇む。
この傀儡――「きゅうちゃん」を見て誰もが絶句した。
そもそも傀儡というのは砂隠れの伝統技術のようなもので、勿論木の葉にも傀儡師はいるが極少数だ。
だから上忍達や砂の忍達は驚いていた。
「傀儡、だと…!?」
「…確かに、体を動かせば動かす程毒がまわる量は多くなる。それなら『動かなければいい』!」
傀儡がスザクに襲い掛かった。
「馬鹿か!チャクラを練ればそれも身体を動かす事と同じだ!」
「それでも、自分自身が動きチャクラを練るよりも、こうやって傀儡を操る事の方がまだマシだよ…!」
巧みに傀儡を操り、その傀儡はスザクへと攻撃する。
きゅうちゃんは専用の仕込み刀を出すと、スザクの肌を切り裂いていく。
「…なんて、子だ」
カカシはその姿をみて呟いた。
傍にいたナルトがジッと戦いを見つめるカカシに話しかけた。
「…そんなに凄いのかってば?」
「凄いも何も、あの年齢であそこまで操れるなんて異常だよ。…それに彼女の身体には毒が回っている。その毒に侵された状態であそこまで巧みに操れるなんて……相当の実力者だ」
その技術に薄ら寒いモノを感じてしまう。カカシは冷や汗を流しながらも戦いの場に釘づけだ。
きっとその隠された写輪眼では、その技術をコピーする事は不可能だろう。
「……先生、傀儡師って木の葉には少ないのよね」
「あぁ。元々は砂の技術だ。木の葉で傀儡を操るのは、先祖が砂で傀儡師をしていたか、師が傀儡師かでしかありえない」
「ならアスマ先生は傀儡師じゃないからどこでそんな傀儡を習ってきたのかしら…」
そこにサクラも入り、目を少女と傀儡から離さないまま三人で話をする。
それを聞いていたアスマ達だが、その傀儡が誰に教わったか知っているが口には出さない。
シカマル・いの・チョウジ、そしてアスマの脳裏に浮かぶは花と砂の彼の存在。
けれど九官鳥という傀儡をつれていたことは知らなかった為、今は純粋に驚いている。
「はっ!だがお前の傀儡、ボロボロじゃねーか!」
「…っ…」
傀儡に翻弄されながらも、そう吼えた。心辺りがあるのか少女の顔は歪んでいる。
九官鳥は所々ヒビがいったりと強い衝撃が来ると今にも壊れそうで、それは死の森で敵に囲まれた際に一緒に戦い、そして今さっき起爆札での攻撃でできた痕。
『友達』がボロボロという状態に、ルカは下唇を噛んだ。
「…ごめんなさい、きゅうちゃん…」
その呟きはハヤテだけに聞こえていた。
人一倍『人形』を大切にしている彼女だからこそ、危険な状況だとはいえ壊れかけている傀儡を出したくはなかったのだろう。
それでも出したということは、どうしようもなかったのかもしれない。
「っくそ!」
スザクは影分身を作りだし、傀儡を相手にしながら本体が起爆札付きのクナイを何本もルカに投げる。ルカは毒の為動けない。
すると影分身を相手していた傀儡が突然方向転換し、ルカの元へと飛んでいく。
起爆札が爆発する寸前、きゅうちゃんはルカを抱くと空高くジャンプし、煙にまかれながらもルカを抱き上げたきゅうちゃんが空中へと姿を見せた。
そしてそのままルカを抱きながら傀儡は攻撃を避けていく。
「ちょこまかとうざってぇなぁ!」
マントのようなものを着た大きな傀儡がすっぽりとルカを抱き上げているため彼女の身体は見えないが、的確に攻撃を避けているのでルカには外が見えている様だ。
ルカの足になっている状態の九官鳥だが、もうそろそろ解毒しないとルカ自身危ない。
毒がまわった状態でこの数分を生きているため、毒ももしかしたら致死の効果を持っていないのだろうが、そもそも毒は毒。
危ないことにかわりはない。
「!…っかかったな」
「…え?……ッ!」
スザクとて闇雲にクナイを投げていたわけではない。ルカを連れた九官鳥の周りにピアノ線のが張り巡らされている。
そのピアノ線はクナイによって張られており、そのクナイとピアノ線には大量の起爆札が吊さられている。
先程までなかった起爆札、もしかしたら幻術で隠されていないのかもしれない。
「『爆』!」
「!」
優越感を隠しもせずに笑うスザクの合図と共に大量の起爆札が爆発し、そしてピアノ線によって火が辺りを包み込む。
ルカを中心に大爆発と、そして大火事が起こった。
「よしっ」
煙が張れるとクレーターの中に横たわるルカの姿。傍にはバラバラになった傀儡―九官鳥が地面に転がっている。
小さな悲鳴が観覧席からあがった。
「なんだ、傀儡を盾にしたのか。…審判、コールしてくれ。相手は戦闘不能だ」
「…………確認します」
所々小さな火が上がっているが、それを避けてハヤテはルカに近づく。
その後ろをスザクが付いて行った。
「…!」
「おい、どうし…っ!?」
ハヤテが一定の距離で立ち止まり、それに不審に思ったスザクが立ち止まった。
するとその瞬間、スザクの身体が吹っ飛んだ。
「…ってめぇ…!」
地面に転がるが、受け身をとったスザクが立ち上がりながら忌々しそうに叫ぶ。
「まだ動けたのか!」
「…………………、はい」
返事をしたルカはクレーターを背にボロボロになりながらもふんわりと笑った。
だが、クレーターの中で転がる傀儡『九官鳥』の残骸を見て悲しそうに呟いた。
「守ってくれてありがとう、そしてごめんなさい。きゅうちゃん…」
「っ何がごめんなさいだよ!そう操ったのはお前だろ!」
「…そうだね」
咄嗟の判断だったのだろう。傀儡なのだからその判断は間違っていないだろうがルカにとったら友を盾にしたという事。
しかもその傀儡はボロボロどころか砕け散っている。
例え自分がそう操っていたとしても、悲しいものは悲しく、悔しいものは悔しい。
「それにっ…てめえ毒がまわっているはずだ!」
「…既に解毒しています。…さぁ、戦いましょう」
さらりとルカは言う。スザクからするといつの間にと言いたいだろうが、傀儡の中で人知れず解毒剤を体内に入れていた。
そのため、多少怪我は負っているが元気になったルカは新たにポーチから巻物を出した。
スザクはそれに警戒し、クナイを構える。
「なんだ、それは」
「…そうだなぁ…。最終兵器ってとこかな…?」
「…は?」
巻物を開き、印を組む。その巻物からあるモノが出てきた。
「!!」
ハヤテはそれを見て気づかれないように微笑む。
出てきたのは一本の剣。
「いざ、参ります」
剣を構え、そしてスザクに向かっていき――。
ルカとスザクが攻防が続く。
「っ……!」
スザクはルカの剣を必死に避けた。
だけど全てを避けられるわけもなく、傀儡である九官鳥につけられた傷とはまた別に大量の切り傷ができており、浅いものから深いものまであって、血が地面へとぽたぽたと落ちている。
「お前はいったい…!」
「…さぁ…?」
少女の切っ先はまさに剣舞のごとく、スザクを惑わし、この戦いを見る人たちを魅了した。
ルカは女だ。背は低くて小柄、筋肉も鍛えているとはいえどうやっても男には負けるわけで……だからこそ彼女は素早さで勝負にでた。
そして持ち前の器用さでとにかく精密な攻撃を繰り出す、要は技術型スピードタイプ。
特に師匠である月光ハヤテとの相性は抜群だった。彼もまたルカと同じく技術型スピードタイプの人間だ。
その時、長々と繰り返されていた攻防を終わらせるためかルカが動いた。
「『月光流―…』」
一瞬だけルカの持っている剣がぶれ、少女は一度後ろに剣を引く。
その隙を狙ってスザクが攻撃を仕掛けようとクナイを突き出すが、そのクナイの刃を剣の峰で受け流した。
「っ!しまっ…!」
後悔しても、遅い。
誘われた側が悪いのだから。
「『十六夜涙』」
刃と峰の位置を変える為剣をひっくり返し、ふわりとただ軽やかに剣を上げると静かに振り下ろす。
それは一瞬の出来事だった。
ドサリと音をたててスザクは地面へと倒れこみ、ピクリとも動かない。
そのまま数秒間時間がとまったかのように誰も動かなかったが、ハヤテのコールにより一部の人間が歓声を上げた。
「楠木スザクが戦闘不能につき、
勝者―水橋ルカ!」
最終戦はルカの勝利で終わり、そしてたった今彼女が本選への出場が決定した。