彼女は立ち向かう。
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試合が開始してからずっとルカは相手の攻撃をかわし続けている。
相手に向かっていかない防戦一方の酷い試合、それに嫌気がさしたのか誰かが叫んだ。
「おいっ何やってんだよ!」
ルカは避けることに集中しているのでこの叫んだ声がいったい誰なのか確認しない。
そもそも反応すらしなかった。
「ルカ!?」
いのが叫んだ。
それでも相手に攻撃しない。
「…………」
「ッおい!かかってこいよ!」
対戦相手であるスザクがしびれを切らせ、クナイを投げる。
それを危なげなくかわしながら、また一歩後ろにさがった。
どう見ても、誰が見ても様子がおかしい。
「(…………あ、)」
ただ一番近くにいたハヤテはなぜ攻撃しないのか、うっすらと分かった。
彼女の目に恐怖と脅えが宿っているからだ。だがなぜ脅えているのか、何に恐怖しているのかは分からない。
が、それが原因で手が出せていないのは分かる。
今更「戦うのが恐い」「相手を傷つけるのが恐い」だとかは思っていないだろう。
『ルカちゃん、あんまり外で自分の力を見せたらダメよ』
『自由でありたいなら、力を隠しなさい』
小さなころに言われた言葉。そう、保護者である花に言われた言葉。それが忘れられないのだ。
勿論これは彼女を思って言った言葉で、『ルカ』を知るのなら呪いの様な言葉を口にするのも無理はないだろう。
彼女は怖いのだ。
今のこの自由が奪われるのを。
『あの家は実力主義。…もしルカちゃんが強い力を持っていると気が付かれたら…!』
『勘当されていても、あの家ならやりかねない!』
生まれてすぐのルカを虐げた家。この可能性を無視、できるのか。
否、きっと――。
『私は、ルカちゃんに戦う力を授けたのは、家に連れ戻される為じゃない…!貴方に、生きてほしいからっ…!』
だから、怖かった。
今まであの家に帰る為に戦ってきた。それも出来る限り力は使わずに逃走という戦法を全面的に使って。
それでも戦わないければいけない時は戦ったし、戦ったとしても人の視線がないあの家の者が完全にいないと分かっていた時のみだ。
戦いの後を数度目撃される事はあったが、目撃された者達は皆少女の事を思ってくれている。
今この予選を通過して、本選に進んだらどうする?
本選はきっとあの家の人間がくる。見に来る。
本選に進むぐらいだ、相手は並大抵の強さじゃないはず。
その状態で出来る限り力を抜けるのか?
抜いたところで、相手に失礼じゃないのか?
どうすればいい。
――そんなの最初から決まってる。
「(予選を通過、しなければいい…!)」
ルカは決意した。
試合に自ら敗けに行くことを。
その決意を、その場にいる数名は気が付いてしまった。
「(守りたい、ただ、今この時の…平凡な時間を…!)」
ルカはクナイを片手に相手へと小走りで向かって行った。
スザクはようやくルカが戦う気になったのかと思い笑ったが、実はそうではない。
そのまま突っ込んで自滅しようと思ったのだ。
ただ綺麗に、
ただ軽やかに、
ただ自然に。
彼女は敵の攻撃をその身にくらって敗けようとした。
「リタイア」とはまた違う。
それじゃあ誰も納得しない。
シカマルやいの、チョウジ、アスマに申し訳がたたない。
それならば「調子が悪くて負けてしまった」事を全面的に押し出せばいい。
「いくぞ!」
相手はクナイを持ってルカに突っ込み、印を組んだ。
ルカはルカで不自然じゃないようにクナイを持ったまま相手に突っ込む。
「(ルカ…!)」
その自然な不自然さは一番近くにいるハヤテには分かった。
否、ハヤテだけではない。この場にいる実力者、上忍や特上、火影は気がついてしまった。
これはただでは済まされない、と感じたハヤテは「ルカの敗け」とコールをしようとした。
が、相手の攻撃が当たる前にハヤテよりも先に大きな声が響き渡った。
「ルカ、恐れるな!!」
その声を聞き、我にかえったルカは慌てて相手の攻撃を避けて後方に下がる。
会場中の人間が声の主を見た。ルカは勿論、スザクまで。
そこにいたのは、第十班。
横一列に並んで柵から身を投げ出すかのように試合に食らいついている。
先程叫んだのは、シカマルだった。
「ルカ、怖がるな。…落ち着け」
そう、冷静な声が会場中に響き渡る。
その声と、その言葉の意味を知ろうと誰もが静まり返った。
「そうよ、何を怖がってるの?」
続いていのが言う。
「ぼくたちは何も知らない、けど怖がらないで」
チョウジが優しく言った。
ルカはクナイを地面に落とし、茫然と三人を見つめる。
「戦うのが怖い、そうだな、俺も怖いよ」
「相手を傷つけるんですもの。貴方が好きで戦ってるんじゃないことを私達は知っている」
「それでもルカちゃんが戦うのは守るため、なんでしょ?」
そう言って屈託なく笑う3人を見て、
ルカは一筋の雫を頬に伝わせて泣いた。
「大丈夫だルカ。何も怖くない。」
「ルカなら守れる、大切なものを守れるの。…だから、逃げないで。そばには私達がいる」
「守る為に戦う君を、ぼく達が守るから。一緒に戦うから。…大丈夫。どんな時だって、どんな相手だって、ぼくたちは傍に居続ける」
いざとなった時、少女はあの家と戦わなければいけない。
そんな時、彼女は一人だ。
それなのに彼らは傍にいてくれると言ってくれた。
……信じて、いいのだろうか?
「…だい、じょうぶ、なの…?」
三人は名家、巻き込んだらただでは済まされないだろう。
親御さん達や親戚中が巻き込んだルカを批難するかもしれない。
批難するだけならいい、プライベートの付き合いが出来なくなってしまうかもしれない。
仲間ではなくなってしまう。
ルカからヒュッという上手く息が出来ていないであろう音が聞こえ、ハヤテは狼狽えた。
試験官としてどうするべきかと思うが、このまま事が進めば彼女は成長するだろう、と確信している。
そっと火影を見ると、火影は緩く首を振っていた。静観しろと言いたいのだろう。
シカマルの声が響く。
「仲間を、信じろ!」
そう言って、笑った。
ルカも、笑った。嬉しい、嬉しいのだ。
たとえこれがこの場凌ぎの言葉だったとしても。
これだけで、
頑張れる。
ルカは地面に落ちているクナイを拾い、長袖で顔を拭うと相手と向かい合って構えた。
スザクもそれを見て改めて構いなおした。
「泣ける話じゃねぇか」
「………………」
「仲間に背中を押してもらえないと戦えないのか「楠木スザクさん」よ。……なんだ?」
茶番だと思っただろう。そしてさっさと終わらせたい彼にとっては良い迷惑だろう。
それでも彼女が纏う雰囲気が変わり、警戒を怠るわけにはいかなくなった。
「無様な姿を見せてしまい申し訳ございません」
「…………」
「水橋ルカ、今この時をもって……反撃させていただきます」
そう宣言したルカは持っていたクナイ、そしてホルスターに入れていたクナイを計数本相手へと投げつけた。
投げたクナイは勿論の事ながら全て相手のクナイによって叩き落される。
その一瞬の隙でルカは印を組んだ。
「『水遁―連弾鉄砲玉』!」
勢いよく複数の水の玉がルカの口から噴出される。
スザクはなんとかそれを避け、水は地面や、向こう側の壁へとぶつかった。
ルカクナイをホルスターからだして右手に持つとスザクへと飛びかかって行った。
クナイとクナイの当たる音がする。
先ほどまで避ける事しかしなかったので弱いとばかり思っていた目の前の少女が想像していた以上に強かったのでスザクは驚いた。
このままやりあうのは分が悪いためかスザクは一度後方に下がろうとしたが、背後からも気配がしたので慌ててそれにも反応する。
前からもルカ、後ろからも突然現れたルカ。
「…っ水分身か!」
「ご名答、です」
先ほど噴出した水は相手に当てるためじゃなく、隙を見て早急に水分身を作るためのものだった。
勿論何もないところからも作れるが、媒体である水がその場にあった方がないよりかずっと素早く作れる。
それに彼女は水分身を作るための印を組んでいない…恐らくは水を出した時に一緒に印を混ぜ込んだのだろう。
そうしてどんどん現れる水分身。少なくとも五体はいる。
「…すげぇ…!」
その攻防戦を見た観覧席の誰かが呟く。
きっとそれは皆の代弁だった。
「ルカってあんなに強かったのか!?」
「勿論!うちのルカをなめないでよ」
犬塚キバが驚いていると、いのが自慢げに言う。
後ろでもシカマルとチョウジが同意するかのように頷いた。
「っ…うざってぇなぁ!」
スザクはしびれをきらしたのか、自分の周りに起爆札つきクナイを投げて発動する。
周りが爆発した。煙が晴れるとそこにいるのは爆発に巻き込まれ少々ボロボロになったスザクのみ。
ルカはいない。
「どこに行きやがった!姿を現せ!」
周りをきょろきょろと見渡しながら叫ぶと小さな小さな音が彼の耳に聞こえた。
―ぴちゃん―
水が落ちる音だ。
ハッと何かに気がついて慌てて後ろを見ると濡れていた壁があり、その水が集まり人型になる。
そして現れたルカ。先ほど飛ばした水だった。
「…いつから水分身に…!」
「…さぁ、いつからでしょう」
スザクが起爆札で攻撃した周りの水分身五体に本体はおらず、最初から全て水分身だったのだ。
チャクラで壁に張り付いて立っている##NAME1##は笑う。
この騙しあい――というよりルカの無駄のない術と身のこなしに上忍たちは感心したように口を開いた。
「…アスマ、いったあの子何者?」
カカシはルカを指さして言うとアスマは困ったように頭を掻いた。
どう見ても身のこなしが下忍レベルではない。
「うーん…。うちの攻撃の要、かな」
「攻撃の要?」
迷いに迷ったアスマが言った言葉を聞いて、紅が訝しめに聞く。
それからアスマが何を言うのか、会場にいる多数の忍がアスマを見た。
ルカとスザクはまた攻防を繰り広げている。
「…少し前に俺が担当している子が任務中に怪我を負って入院したって言っただろ?」
「あぁ、うん。それでお見舞い行ってたよネ」
あの時を思い出したのか少し顔を歪めているアスマ。
本当に嫌な思い出だ。それで三人の絆は深まり、アスマとルカも距離が縮まったが、ルカが大怪我を負ったので素直に喜ぶ事が出来ない。
「その怪我の原因は、任務帰りに抜け忍に襲われたからなんだ」
「抜け忍!?」
カカシ達にとってはまさかの原因だ。カカシも、そして紅も驚いてアスマを見る。その教え子達もアスマを見た。
カカシや紅はアスマの班の下忍が任務中に大怪我を負った事は知っていたが、抜け忍である事まで知らなかった。
何かが起こっては悪いとルカ自身に配慮をして言わなかったのだ。
「四人だったかな。…その抜け忍を誰が追い詰めたと思う?」
「…まさかっ!」
「そう。…そこで今戦っているルカだ」
その言葉に話を聞いて者達がざわついた。
報告を受けていた火影と、この話を知っているハヤテぐらいだろう、驚いていないのは。
スザクも驚いて体制を崩しそうになるが慌ててルカに立ち向かっていく。
「情けないことに俺は相手の術中に嵌ってな、動けなかったんだ。…絶体絶命のピンチで、あいつは…ルカは、一人抜け忍に立ち向かった。
俺を術で閉じ込めた忍をのぞく三名。相手が子供で油断していたとはいえ、少なくとも一人、あいつは抜け忍を倒したんだ。
あとの2人はシカマル達と切磋琢磨して戦った。結局、ルカは俺を助けたのちに力尽きたが、それでもあいつは抜け忍を恐れながらも仲間の為に立ち向かった。
…良い子、なんだ」
そう言って微笑むアスマにカカシも紅も表情を緩める。
アスマとはそれなりの付き合いをしていた二人が、アスマの今までにない生き生きとした姿を見て、嬉しくなった。
きっと今年下忍となった班の担当上忍の中で一番良い意味で成長したのはアスマだろう。
「凄い子ね」
「なんていうか、下忍とは思えないヨ」
三人は改めて一階で戦っているルカとスザクを見た。
************
「…くっ……!」
クナイで皮膚が切れる。先ほどからお互いにクナイでやりあっているため、体中に小さな切り傷が無数にできていた。
そして今、また切り傷が1つできる。
このままではダメだと思い、一度体制を整えようとルカは相手と距離を取ろうと後ろに下がった。
その時ぐるりと血液が沸騰しているような感覚に陥った。
「!?…っぅ…」
ケホッと一度咳が出た。
手のひらをみると、少量の血。
「…なっ…」
勿論怪我ではない。
何の傷もない口から出たものだ。
「やっと効いてきたか!」
「…ま、さか…!」
嬉しそうなスザクの声にルカは察した。
少女はは膝から崩れ落ち、地面に座り込んで咳き込む。
そうして出てくるのはやはり血で。
「そう、そのまさか!
俺は「毒使い」だ!」
先ほどから使っていたスザクのクナイには全て毒が塗られていた。
それを知らずに攻防を繰り広げ、ルカは毒に侵されることになってしまった。
毒に苦しむルカの次の一手は――。