彼女は立ち向かう。
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アカデミー時代、ルカは孤立していた。
彼女は毎日イジメにあっていた。
ただ、その中でも暴言や嘲笑、物隠しに関しては彼女自身(言っている事やっている事が幼稚過ぎて)イジメとカウントしていないので、認識している大きなイジメは二回。
その二回が彼女にとって今も根強い傷として心に残っている。
何が彼女を傷つけたのか、それは連れているクマの人形を傷つけられたこと。
彼女にとってクマは特別で、友達だった、家族だった。
それをはさみで切り裂かれたのだ。
許せるわけがない。
だからその元凶である子達が大嫌いで、その後に現れて何も知ろうとせずに傷つけた側を庇い、傷つけられた側を罵ったあの子も大嫌いだった。
************
あれから七班を撒いた十班は塔までの道を黙々と歩いていた。
気まずい空気が流れているので皆無言だ。
例え誰であろうともあの状況であの場にいたら気まずくもなるだろう、特にシカマル達三人はほぼ当事者なのだから。
「ルカ……」
「なに?」
「…ごめんね」
「…え?」
いのが歩みを止めて小さな声で言った。
横を歩いていたルカは立ち止まり、必然的にその両側に立っていたシカマル達も足を止める。
「…##NAME1##に対するイジメ…見て見ぬふりしてごめん」
「…………」
最初の頃は誰もが皆仲良くしようとルカに話しかけていた。けれどそれを突っぱねたのはルカ側で、それからというものの、浮いた彼女は女子に嫌われ、女子に遠巻きにされたりイジメられたりするルカを男子も遠巻きにしたり、嫌悪するようになった。
サクラへのイジメを止める事が出来るぐらいイジメに関しては勇敢ないのでも、ほぼ全同期を敵にまわしていたルカをどうこう出来るわけがないのだ。
正直に言うとルカには謝られる筋合いはない。
「…私、知ってた。…ううん、貴方に対するイジメは皆知っていた。それなのに誰も止めなくて、悪化させて…」
「……私ね」
いのはあのルカの叫び声が耳に残ってしまい、罪悪感でいっぱいになっていた。
泣きそうな顔をしているいのを横目にルカは止めていた足を動かす。
三人はその後ろを慌ててついて行った。
「私ね、別に…怒ってないよ」
「…え?」
「……イジメで一番悪いのは加害者だから。何もしてこなかったいのちゃん達が私に謝る必要はないの」
イジメはいけないという大前提は勿論の事だが、切欠はルカが作っていた。作っていたからといってイジメが許されるわけではない。
上手く人と付き合えていたらあんな事にはならなかったかもしれない。
「でも!ッ傍観者は、酷い立ち位置じゃない……!」
「俺もこの際だからちゃんと言う。知ってたのに、見て見ぬ振りした」
「ボクも…」
シカマルもチョウジも顔を歪めて俯く。
ルカは思い空気に小さくため息を吐いた。
「……あの時、何人が加害者で何人が傍観者だったと思う…?」
「……正確な、数は…」
「…俺も」
「…そう、私も分からないの。…何人が私を、虐めてきたのか。…何人がそれから目を逸らしたのかも」
陰口や物隠しは何度も行われたが、結局どれだけの人が実行したのか、どれだけの人が目を背けたのかはルカも把握できていない。
少なくとも表立ってルカを庇う仕草をした人はゼロであった事は確かだが。
ルカは切り裂かれた過去を持つ「くーちゃん」をギュッと腕で抱きしめながらそう呟く。
「だからこそ、私は誰も咎める気はないの。…けど、しいていうなら、その中で私の宝を傷つけたあの子達が一番憎い」
「……でも」
少女がイジメと認識している二つのうちの一つ、クマの人形をはさみで切りつけられた件。
クマの人形を切り裂いた主犯格とその取り巻き、そしてサクラ、ナルト。主犯格や取り巻きはアカデミーを卒業したが下忍にはなる事ができなかった様で、この先ほぼ関わる事はないのでルカ自身胸をなで下ろしている。もし何かの拍子で主犯格や取り巻きと班を組んで任務を受けろと命令されてもきっと良い結果にはならないだろうから。
だからこそ、残りの二人に対する暗い感情は大きかった。
いの達はルカの言葉に納得は出来ない。傍観者も加害者の様なものだから、と。
「笑わなかった」
「……え?」
ルカはピタリと歩みを止めて三人と対面して真剣な顔で言う。否、真剣な顔というよりどちらかというと泣き出しそうな顔だ。
泣き出しそうな顔で下手くそな笑みを浮かべた。
「…皆は笑わなかった。…アカデミー時代も、下忍になってからも。この熊の人形を友達だという私を、皆は笑わなかった」
そう言い切ったルカに対して、三人の思考は過去へと飛ぶ。確かに、自分達は笑わなかった、と。
先日起きた抜け忍との戦いの前日にいのと酷い言い争いをした時に、いのには「人形を抱いて馬鹿みたい」と言われたが、売り言葉に買い言葉だった自覚はあり、そのうえいのにも謝って貰えたのでそちらかカウントに入れていない。
そもそもその時もルカ自身の行動に対して苦言しただけで、笑ってはいないのだから。
「…数年前のアカデミー入学当初。…私は皆に笑われた、…馬鹿にされた。
このくまの人形を友達だといった私を、皆は笑った」
それが彼女がカウントするもう一回のイジメ。
―人形が友達?きもちわるーい!―
―人間の友達がいないんだ、かわいそう―
―だっせー!―
その時の事を思い出した悔しさからか、涙を溜めて下唇を噛んでいる。
ギュッとくーちゃんを抱きしめた。
いのはそんな少女を抱きしめたくて仕方が無かった。
「…ただその中でも数人、私を笑わなかった人がいるのをちゃんと覚えている」
「………!」
「その中に、三人は入ってるよね」
「…………」
三人とも肯定も否定も口にしないが表情からそうだと言う事が分かる。
当時の事は今でも覚えている、先生ですら苦笑い気味で止めずにいたのだから。ちなみにその教師はイルカではない。
シカマル達にも嫌な記憶だったので、皆顔を歪めた。
「……教室が皆の笑い声でいっぱいになっているとき、皆と他数名は笑わずにそこに座ってた」
「確かに笑わなかったけど、止めもしなかったよ私達」
「……あの状況で、止めれる方が凄いと思う…」
笑っている集団に対して何かを口にするのは勇気がいることで、そもそも入学仕立ての頃なんて幼い子供の集まりだ。
そんな中で少数派になれるわけがない。
「…でも」
それでも渋るいの達にルカはニッコリ笑って駆け寄った。
本当に優しい人達だ、とまた泣きそうになる。
「笑わなかった、それだけで私は嬉しいんだ。…それに、皆はくまの人形を友達だと言う私が気持ち悪い?」
首を傾げながら言われた言葉に三人は大きく首を振って声をあげた。
「そんなわけないじゃない!」
「どこが気持ち悪いんだよ」
「友達のかたちなんて人それぞれだよ」
「…でしょ?それだけで満足なんだ、私は」
代表していのの腕を掴み、両手を握る。
いのはルカが自らそう行動出たことに驚きその繋がれた手を見つめた。
「……ルカ…」
「…それにっ…わ、私、皆が言う『仲間』だって言う言葉、信じてるから…」
そう、信じているのだ。だからこそ仲間にはもう罪悪感など抱えて欲しくない。
確かに恨み辛みはあれど、それを仲間だと認識して大切にしてくれている人達にぶつける気はないのだから。
「…っうん…!」
いのもシカマルもチョウジもルカの言葉に笑って頷いた。
「…それがあるから、私は、大丈夫」
優しい仲間達の為がそばにいるのなら――。
************
「…つ、ついた…!」
歩き続けて一日。
途中何度か敵に襲われたが、修行の成果を十分に発揮し、四人は共に乗り越えた。
そして目の前にそびえ立つ目的地である塔m目の前にあるドアを開き、中へと入る。
そこは広い空間が広がり、目の前の壁には紙のようなものが貼ってあり、四人はそれを見て首を傾げた。
「それでどうしたらいいの?」
「…………」
いのの言葉に誰も口を開かない。
シカマルはルカをちらりと見ると、ルカもシカマルをちらりと見る。二人ともどうすれば良いのか分からないからだ。
集めた巻物をどうにかするのかもしれない、という予測はつく。そのために集めたのかもしれない、と。
「……よく、分からないけど…この天の巻物と地の巻物を開いたら良いのかな、って思う……」
「え、なんで?」
「私も、確信はないけど…」
「……あけてみるか」
迷っているルカに司令塔であるシカマルは最終判断を下し、それに皆は賛成した。
天の巻物をルカが、地の巻物をいのが持ち、掛け声と共に同時に開く。
そこに書かれていたのは「人」という文字。
普段からこのたぐいのものを持ち歩いているルカは直ぐにこれに気が付いた。
慌てていのから巻物を奪うと持っていた天の巻物と一緒に遠くに投げる。
「ルカ!?」
「あの巻物には口寄せの術式が書かれていたの…!だから多分口寄せの術が発動する!」
「え、じゃあ誰かが現れるってこと…!?」
「うん…多分…!」
地面に落ちて数秒後、煙と共に一人の人物が現れた。
「よう」
けして表情豊かではないが、その人物は四人の子供達を見て口角をつり上げると手を上げて軽く挨拶をした。主にルカへと向かって。
シカマル達は知らない人物なので戸惑うが、ただ一人彼を知るルカは声を張り上げた。
「…っゲンマさん…!?」
「…まぁ、この時間でクリアってのはボチボチだな」
口寄せの術式で現れたのはルカの友達であり、この中忍試験の試験管でもある不知火ゲンマだった。
「ルカ、知り合い!?」
「う、うん」
腕を組みそこに立っているゲンマを視界にいのは横にいたルカに小さく話しかける。
ルカはゲンマを見ながら頷いた。
「あー…俺は不知火ゲンマ。これでも特別上忍だ、よろしく」
「…ど、どういう関係なの?特別上忍と知り合いって」
「……友達、だよ」
「友達!?」
いのは驚いて思わず叫んでしまい、シカマルやチョウジも驚いてルカを見る。
その反応は間違っちゃいない、とゲンマは少々苦笑い気味だ。
「え、見るからに年上で目つきも鋭いのに大丈夫なの…!?」
「おい。聞こえてるぞ、糞餓鬼ども」
小さな声でいのは言うが、勿論聞こえているのでゲンマはため息を吐く。
「目つきは生まれつきで、年齢は一回り以上離れてるが、れっきとした友人だ」
咥えている千本を揺らしながらゲンマははっきりとそう言った。
動揺しているルカ以外の子供達に本来の目的を遂行する為、近づいて正面に立った。
「さて、本題に入るぞ。第二の試験の最後は中忍が受験生を迎えることになっている」
「…え、まって、ゲンマさん、特別上忍だよ…?」
「おう」
「…確か試験管でもあるんだよね…」
何かおかしいかと言わんばかりにゲンマはそういうが、十班は首を傾げるしかない。
「…いや、確かにこれは中忍が迎えるはずだったんだよ。…だけど俺が交渉して代わってもらったんだ。許可ももらってる」
「なんで、ですか?」
「…俺は試験管で準備もあるから最近任務にも行ってないし、部屋で缶詰状態だったんだよ」
他里を巻き込む試験を行うのだからそうなるのも無理はないだろう。
薄らとクマも見えるので、その忙しさはルカだけでなくシカマル達も察する事が出来た。
「それで気分転換に火影様に許可貰って中忍の集団に混ぜてもらったってわけ」
「…それって、良いの…?」
気分転換で第二試験の合格者を迎えに行っても良いのかと思う。
そこはゲンマがどうにかしたらしい。
「おう。…これでも信用されてるんでね」
と、言ったがいまいち信じきれなルカを除く十班メンバー。
これはルカ自身も知らないが、ゲンマはかつて若くしてあの四代目火影の護衛にもついた忍。
ストイックで実力もあり、里からの信頼もあついので特別に許されたのだろう。
「…でもまぁルカの班を迎えたのは正直驚いた」
「え…狙ったんじゃないんですか?」
「まさか。これはランダムだ。たまたまルカのところに来た、それだけだ」
「…へぇー…」
ゲンマ自身も頷いているのだから相当な確率だったのだろう。
例え突破者が少なかったとしても、待機している中忍の数は天と地の巻物をペアにした数とほぼ同等、ゲンマが口寄せされる保証など何処にもなかった。
けれど、だからこそルカはとても嬉しかった。
「…ゲンマさん」
「なんだ?」
「私、頑張ったよ」
ゲンマに駆け寄りはにかむように笑いながらそう言ったルカにゲンマは少し驚いたが、ふっと表情を緩め彼女の頭に手を伸ばす。
「…そうだな。…よく、頑張った」
ゲンマは気がついている。
あんなにこの班が怖いと言っていたけれどルカはちゃんと打ち解けている事に。人に関わるのが怖いのに、ちゃんと頑張れた。
四人を一目みた時から安心している。
「(もう、大丈夫だろ)」
自分が心配しなくても大丈夫。
ゲンマは緩やかに微笑むと口を開いた。穏やかな、とても優しい声で宣言をする。
「第二試験、合格おめでとう」
「っやったー!」
その言葉にゲンマの側にいたルカは後ろにいた三人に駆け寄り、四人一緒に喜んだ。
そんな微笑ましい姿を見て、ゲンマもフッと笑い、その光景を見つめた。
誰よりも彼女の臆病を側で見ていた大人として、こんなにも嬉しい事は無いのだから。