彼女は立ち向かう。
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その場でしゃがみ込み数十分、木の陰に隠れ気配を全力で隠しているので誰もこない。敵は勿論、味方すらも。
そもそも近くに誰もいないからかもしれない。
「…シカマル君達は……いない、なぁ…」
気配を探っても微量すら感じない為近くにはいないだろう。
ルカはため息を吐くと立ち上がった。
「…塔を目指さないと…」
襲撃に遭う前に決めた事を守らないといけない。その決まり事を決めた張本人が早速はぐれてしまった事に関して少し恥ずかしい気持ちはある。
だが恥ずかしがろうがなんだろうが、前へと進まなければいけない。
ルカは深呼吸をして気を引き締めると印を組んだ。
―口寄せの術―
「呼んだか?」
「うん。宜しくね、トラ」
「ルカちゃんの願いなら」
契約している動物類をその場に呼ぶ事が出来る『口寄せの術』、出てきたのはキジトラの忍猫「トラ」だ。
彼女が連れている忍猫の中で一番気配を読むのが上手いので、この非常事態、念のためと呼び出した。
小さな彼はルカの頭上へ移動し、乗ったのを確認した彼女の手によってフードを被り隠される。
ルカは遠くの方でそびえ立つであろう塔へと速足で歩きだした。
まだ塔は見えない。
「…ストップ、ルカちゃん」
「……どうしたの?」
それから数時間後、周りをきょろきょろと見渡していたトラが神妙な顔で歩みを止めるよう指示してきた。
ルカ直ぐにピタリと止まり、木の根元に隠れるように座り込む。
「…ここから十二時の方向、一キロ先に大きなまがまがしいチャクラを感じる」
「………」
「今すぐここから離れた方が良い」
本来トラの能力ならもっと早くに気づく事が出来た筈だが、ここは死の森。恐らく遠くの気配を読むことが難しくなっているのかもしれない。
頭上にいても分かるぐらいトラの声は震えている。
「…その人以外に誰かいる?」
「……あぁ。…相手は、…あれだ。この試験の試験管だな」
一瞬誰かは分からなかったが、直ぐに思い出した。あんなにもインパクトが強い試験官を一瞬でも忘れていた事を恥じたいとルカは心の片隅で思う。
「…みたらし特上?」
「おう。…多分な」
「…………」
やはりそうだった様だ。多分、という曖昧な言葉は使っているが、トラの気配を読む能力に長けている事をルカが一番良く知っている。
ルカは少し考えると印を組んでまた友を呼んだ。
「どうかしたかい?主よ」
「俺を呼ぶなんてめずらしいなァ、おい」
「答えてくれてありがとう。シロ、クロ」
ルカの目の前に二匹の猫が現れた。一匹は真っ白い毛並みで大人の二倍以上の大猫、もう一匹はチーター並の大きさで黒猫、目はどちらも金色だ。
その金色が、水色の少女を写した。
「…トラが言うには十二時の方向一キロ先に禍々しいチャクラを感じるらしいの。……それと共に木の葉の忍がいる」
「おやおや…まさか主よ…」
「うん、木の葉の忍を援護したい」
「…マジかよ…」
ルカの言葉にトラとシロは嫌そうに顔を顰め、クロはジッとルカを見つめている。
「ルカちゃん。触らぬ神に祟りなし、だぜ」
「分かってる」
「主の目的はこの試験に合格することだろう。…必要以上に騒動へ首を突っ込むんじゃないよ」
口寄せ動物たちは何よりも契約主を優先する。その主が何かをお願いしてきた場合はその限りでも無いが、それを突っぱねる事は出来るのだ。
契約といってもお互いは対等だから。
故に別の事に首を突っ込もうとする契約主をクロ以外は反対した。
「………でも」
「…俺ァ別にどっちでもいいけどな」
「クロ!」
欠神をしながらそう呟くクロを咎めるようにシロが名を呼んだ。
クロは地面に伏せになって身をかがめており、自分の二倍以上も大きいシロに向かって片目をつぶりながら見上げる。
「…別にルカに賛成してるわけじゃねェよ。できるなら俺ァルカに怪我をしてもらいたくねェ。けどな、ルカにはルカの考えがあり、望みもある。…俺ァできる限りならその望みを叶えてやりてェと思うのサ」
「…クロ…」
また一度欠神をしたクロは立ち上がると身体いっぱい伸びをして地面に座る。光り輝く金色の目がルカを見つめた。
その光はまさしく「希望の光」だ。
「どうする、ルカ。お前が望むなら俺ァ全力で戦うぜ?」
「……私は、私は、木の葉の忍を、守りたい。
そ、りゃあ…傷つくのも嫌だし、戦うのは嫌だけど…
うん。でも同じ木の葉の忍が傷つくのは、嫌だ……!」
そうはっきりと彼女は自分の意思を口にした。皆の顔を見渡しながら、そうはっきりと。
クロはニヤッと笑い、シロとトラはお互いに顔を見合わせてため息を吐く。
「………………、
しょうがない、主を全力で守ろうとするかねぇ」
やれやれと言わんばかりにため息を吐きながら言ったシロの言葉にルカは笑った。
きっと、感化されてしまったのかもしれない。まがまがしい気配がある方角を見据えながら地面に立っているルカは思った。
少女にとっては仲間を守る――自分以外の何かを守る事は苦手な分類に入っていた筈だった。
今でも自分の身はかわいいし、出来るならもめ事は起こしたくないし、巻き込まれたくないとも思っている。
けれど先日の抜け忍との戦いの件、それはルカ自身を大きく変える事になった。
人を守るということと、人に守られるということ――それがどれだけ尊い事か。
この非常事態においてはそれを気にするなんて愚の骨頂だろう。
口寄せ動物たちの言う事は正しく、本来ならルカ自身も忠告を受けいれた。
けれど放っておくわけにはいかないと、そう思ってしまったから――……。
「…っ秘技『鏡花水月』!」
ルカは一般的な術の印よりも長い印を時間をかけて組み、息を吸い込み、そしてふっとくちから水の塊を十二時の方向へと飛ばした。
そして数十メートル先で水の塊が拡散するのと同時に力尽きたのか地面に座り込んでしまう。
傍にいたシロがすぐさまルカの胴体部分を口に咥え、背中にクロとトラが乗ったのを確認すると反対方向へ走り出した。
走る走る。
背中にクロとトラを乗せ、口にくたりとしているルカを咥えて。
シロは戦えないし誰よりも身体が大きくて敵に見つかりやすいが、並大抵の忍には負けないほどのスピードを持つ。
トラはルカの口寄せ動物の中で二番目に体が小さいが、一番気配を読むのが上手い。
クロは闇夜の紛れる黒い毛並みを生かし、得意の戦闘で敵を潰す。
それが三匹揃った時のコンビネーションだ。
************
ルカが術を放つ数分前、トラに禍々しい気配と言われた男とアンコは対峙していた。
男は楽しそうに余裕たっぷりの目でアンコを見下ろしているが、アンコは首裏付近を手で抑えて荒い息を吐いていた。
アンコを縛り付ける「それ」が痛みと発作を起こしている。
散々二人は戦った後だ。楽しみを見つけたと口にする男と険しい顔で声をあげるアンコ。
勝負がついているのは誰が見ても分かるだろう。
「…ウチの里も三人ほどお世話になってる…楽しませてもらうよ…もし私の愉しみを奪うようなことがあれば、木の葉の里は終わりだと思いなさい……。
これは貴方に対するプレゼントよ」
男が言う言葉が本当なら、彼は木の葉の敵だ。
それを証明するかのように大蛇丸は苦しんでいるアンコに向かってプレゼントと称して数本の起爆札がついたクナイを投げる。
アンコは動ける状態じゃない。覚悟を決めかけたその瞬間、アンコの数メートル先に霧のようなものが現れクナイと起爆札を塞いだ。
「なっ…!?」
「……!?」
男も、アンコも目を見開く。
現れた霧は千本のごとく鋭い針のようなものになると男に向かっていき、男はそれを紙一重で避けるが、霧は形を変える。
「くっ…何なのよこれ…!」
変化自在にころころと姿を変えるので全部が全部避ける事が出来ず、小さな傷がどんどんできていく。
大蛇丸のみを敵だとしているのかアンコには攻撃が向かない。
イライラが頂点に達したのか大蛇丸はなんとか瞬神の術でこの場から逃げ去った。
それと同時に霧はすっと消え去った。
茫然とするアンコを残して。
************
「ルカちゃん…大丈夫か…?」
「…うん、」
「まぁチャクラが戻るまで大人しくしてな。クロが守ってくれるさ」
「任せな」
術を発動した場所から反対方向へ三キロほど離れた水辺にルカは寝かされていた。
傍にはシロとトラがおり、クロは少し離れた場所で座り込んでいる。
顔を真っ青にしてぐったりとしているルカを口寄せ動物達は心配そうに見つめた。
秘技『鏡花水月』とは、ルカが使用する術の中で禁術であり超高等の術。
この術を発動したらそれから一定期間チャクラが練れなくなるので使用時は考える必要があり、その重い代償を払う代わりに大きな力を発揮するのが特徴である。
鏡花水月とは「はかない幻のたとえ。目には見えるが、手に取ることのできないもののたとえ」という意味があり、その名の通り敵に襲い掛かるのは霧、目に見えるが霧は手に取る事が出来ない。勿論応用すれば幻術としても使え、敵を傷つけることもできる。
この術の長所は術を発動しても敵に術者が見つかる確率が低いことであり遠いところで発動しても途中霧になるので敵にはどこから狙われているか気づかれることはない。
ただ、術の精密度を上げればあげる程、対価であるチャクラの使用不可時間は長くなる。
今回は精密度を一番低くしたので半日ですんだが、下手したら一週間などかかる時があるのでルカもめったに使うことがない。
そんな危険な技を今回、ルカは使った。あの禍々しい気配を追った男に向けて。
「トラ、シロ、クロ…。チャクラが戻ると同時に出発したいの。……それまで、よろしくね」
この森にいる理由を忘れたわけではない。
早く塔に向かって進まなければいけないし、はぐれた三人が巻物を手に入れているか分からないので巻物も集めなければいけない。
あわよくば合流したいと思っているがどうだろうか。
ルカの振り絞る様に囁く言葉を聞いて二匹の猫は元気よく鳴いた。