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【番外編】彼女と皆の日常

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「今日は、宜しくお願いします…ッ」
「おう、宜しく。……ってかそもそも俺は担当上忍なんだしそんな身構えなくて良いから」


勢いよく頭を下げたルカの後頭部を見ながらアスマは後頭部をかきながら苦笑いを浮かべた。


アスマは数日前にルカの修行に付き合う約束をした。

ルカ自身の師匠と言えば特別上忍のゲンマとハヤテだ。アスマは担当上忍ではあるが彼女の修行には直接関わってはいない。見学に現れたり、たまにアドバイスをする事はあれど、それ以外に関しては全くだった。

何故かと説明するなら何人も師匠がいてもルカの負担が大きくなるから。三者共に育ってきた経歴は違う。不知火ゲンマはかつては四代目火影の側近を務めた程の実力者、猿飛アスマは火影の息子であり、元守護忍十二支として名高い。月光ハヤテは三人の中では一番若いので経験という意味では三人の中では浅いが、その分柔軟な考え方と器用さを持っている。

そんな三人は勿論仲は良いが、忍としてのあり方や方針は三者三様だ。何でもスポンジの様に吸収していく、けれど何処か精神的に脆いルカがその三者三様な言葉には惑わされてしまうのは目に見えていた。そのためアスマは加わらず、ゲンマとハヤテの二人が師匠という立場に立っている。元々師匠の発案者がハヤテ、共にゲンマがいたというのも理由の一つではあるが。

勿論アスマは担当上忍なので報告は受けているし、ルカ自身もそれなりに頼っている。現に今日予定していた修行は、二人とも急遽任務が入ってしまいアスマが担当する事となった。ハヤテとゲンマは何かしらの部下を抱えているわけではないので里外任務は普通に受けているのでこういう事はたまにある。


ルカとしては休日だったアスマの手を煩わせてしまっているという思いが強いが、アスマとしては修行は特に何の苦にもならないもので、むしろまだ取っつきにくい時があるルカとの一種のコミュニケーションとなっているので有り難いと思っている。

そのため、いつも以上にタジタジになっているルカの姿を見て苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


「んじゃ、細かい事は気にせず早速始めるとするか」
「……、はい……ッ」


少女としては全く細かい事ではないのだが、アスマがタイマーを地面に置いたので思考を無理矢理切り替えた。

アスマとの修行は大体二人から習って覚えた事の応用だ。体術、忍術、幻術を使った模擬試合で、傀儡や秘技といった彼女が特有に使うものは使用しない。剣術もまだ発展途上により変な癖がつかないように使用は控えている。アスマから受けたアドバイス等はそのまま持って帰り、後日二人と会った時にそのアドバイスとアドバイスを聞いたうえでの自分の考えを報告している。そこからは師匠として立っている二人とルカがどうするかの判断だ。


「制限時間は十五分、さぁ来い」
「…参りますッ!」


ルカの技術は凄まじい。師匠の腕が良いというのはあるかもしれないが、そもそも持ち前の強さがあったので二人に師事を受けている事もプラスされてか、下忍レベルはとうに越えていた。ただ性格などからくる迷いや心の弱さをいえば下忍で妥当ではあるが。

アスマは上忍で経験が豊富、元守護忍十二支としてそう簡単にやられるわけがない。ましてや心構えが違う。そう簡単に一太刀入れる事は出来ない。ルカはあの手この手で攻撃や防御を繰り返し、そのたびにアスマの鋭い声を受けては歯を食いしばりながらも食らいついた。

それから十五分後たった今、ルカは地面に転がっている。アスマは少しだけ肩で息をしているものの、涼しい顔で腰に手を当てて立っている。鳴り響くタイマーの音を止めに行くと一服と言わんばかりに煙草に火を付けて咥えた。


「はぁぁぁ、末恐ろしいなお前は」
「……でも、少しぐらい入れる事が出来ても、いいのに」
「ははは、そこは勘弁してくれや」


肩で息をしながらルカは小声でふて腐れた。下忍レベルを超えているルカは、少しぐらいならアスマに一発を入れる事が出来ている。が、あくまでも「少し」で、足も拳をなんだかんだと防がれていた。

少しずつ成長してアスマの身体に数発を入れる事が出来る今、アスマは少女のその成長の早さにヒヤヒヤとしている。いつかそう遠くない未来で自分を簡単に抜いて行きそうで――。


「先生」
「…ん、どうした?」
「…………、強いですね」
「ん、まぁな」


抜いてくれるのは担当上忍として嬉しい限りではあるが、上忍としてのプライドはあれど、少しだけもの悲しい気持ちにもなる。きっと担当する十班の中で真っ先に卒業していくのはルカかもしれない。そう思いながら地面に転がるルカに手を差し出した。

ずっと地面に転がっているわけにはいかないので、立たせなければいけない。


「ん、……ッと、すまん」
「あっ、い、いえ……」


アスマが手を貸してルカも自力で立ち上がろうとしたが、アスマ側が勢い余って力を入れすぎ、ルカは片手を引っ張られた状態で宙へと浮いてしまった。ぷらりと簡単に浮いてしまったルカの身体に、アスマは内心は慌てながらも冷静に地面に降ろした。


「……ちょっと軽すぎないか」
「……それ、ゲンマさんやハヤテさんにも言われました……」


ルカ自身身長は低く、体重も軽い。身長に対する平均体重を下回っているので腕一本で軽く持ち上げてしまった事にアスマは少々のショックを受けていた。このぐらいの子供は細くて軽く、ルカだけではなくてシカマルもいのも軽い。だがそれ以上に軽かった。

抜け忍との戦いの後に背中に背負いはしたが、あの時は慌てていたのでその軽さに驚く暇もなかった。今から思えば風船の様に軽かったような気がする、と現実逃避の様な事をアスマは考えるがそれは流石に言い過ぎだ。

今まで何度もアスマとルカは体術の練習をしてきたし、のしかかってくるルカをいなす為に飛ばした事もあったが、余裕があって冷静な時に腕一般でつり上げてしまった事で改めて露見してしまった。

気まずそうに口にしたアスマを前にルカも小声で答える。

ゲンマは体術で、ハヤテは剣術の鍔迫り合いを練習していた時、それぞれ力加減を間違えて吹っ飛ばしてしまった過去がある。二人とも子供相手だということでそれなりに、どころか充分手加減はしていたつもりだったが、それでも大人と子供の力の強さを間違えてしまった。

吹っ飛びはしたが、受け身をとって綺麗に着地し、素早く体勢を整えたルカは立ち尽くして茫然としている二人に驚いたものだ。二人とも別々の日で、その場にはお互いしかいなかったというのに、二人とも同じ行動をとった事にルカは内心狼狽えたのは言うまでも無い。

二人とも「子供こわい」と顔を覆っていた。


「……多分俺達は子供と関わる事が無さすぎたんだよ」
「……ゲンマさんも、……同じ事言ってました」
「だろうな」


アスマは今回が初の上忍師、ゲンマは四代目の側近、その後も特別上忍としての専門的な働きから一度も(子供の)部下を持った事がなく、ハヤテもそういう経験はなかった。故にアスマもゲンマもハヤテも子供と関わる事がなかったのでその脆さに戦慄してしまったのだろう。

だからといってそれ以上はどうにもしないが、それでも上忍達を驚かせる程の自分の体重の軽さにルカは内心ショックを受けている。元々身体が小さく、食も細く、そのうえ太りにくい。そして筋肉もつきにくいという体質なのでこれ以上どうこうは出来ないのだ。


「……あー、すまんが少し抱っこしてもいいか」
「…………え、………いいですけど、……えっと」
「すまん、ちょっとで良いから」


人に触られるのが苦手なルカにとって意識がある状態で身体を触られるのはとても嫌な事だが、だからといって相手はお世話になっている担当上忍なので断る理由もない。オドオドとしながらも頷いたルカを気遣う余裕も無く、アスマは容赦なく抱き上げた。

勿論想像通りだった。細い。軽い。小さい。

腕の中にいる小さな存在にアスマは心臓がバクッと動く。


分かっていたつもりだったが、改めて思った。

チョウジはさておき、他の三人が細くて軽いのは目に見えていたし、その三人の中でもルカは一回り小さい。シカマルやいのを抱き上げるのとは訳が違う。勿論二人とも抱き上げた事はないが。

侮辱をしたいつもりではない。けれど、こんなにも小さい子が誰よりも大きく見えたあの抜け忍との戦いで恐ろしい程の力を発揮した。何処からそんな力が出てくるのか、と疑問に思ってしまう。


「……きれい、ですね」
「は?」
「先生の目線、って、とっても綺麗です」
「…………」


片腕を太股裏に回して抱き上げているので目線はほぼ似た様なところにある。腕に座っているルカの方が若干高いが、多少の誤差だ。

珍しくキラキラと目を輝かせて、ふんわりと笑っているルカにアスマは驚いて咥えていた煙草を落としそうになった。此処で落としたらルカの服を焦がしてしまうので絶対に落とす気はないが。


「え、なんで」
「私はいつも見上げているから、……大人の…アスマ先生が見ている景色……とっても綺麗に、見えます」


ルカの目線による視界の広さと、アスマの目線による視界の広さはルカにとっては全く違うものなのだろう。

アスマは何だかとても、そう、無性に泣きそうになった。



これが綺麗なのか。

教え子である子供には、これが綺麗に見えるのか。



視界に特別な「何か」が見えるわけではないが、一時期は色あせてしまった事もある景色。

それが、無表情とは言わないがいつも感情を表情に出すのが苦手な子が、目をキラキラとさせて優しく微笑むぐらいには綺麗だと思ってくれている。

その感受性と、その優しさに、アスマは泣きたくなった。


「……せんせい?」


黙り込んでしまったアスマにルカは狼狽える。変な事を言ってしまったのか、と。

不安そうに顔を歪めたルカを見てアスマは慌ててルカを地面に降ろしてその小さな頭を撫でた。


「抱っこさせてくれてありがとな」
「……私変な事言いましたか?」
「いいや、お前は良い子だよ」


アスマはしゃがんでその揺れる瞳と目線を合わせる。そしてゆっくりとその小さな身体を抱きしめた。

少女は身体を強ばらせたが、嫌がる素振りは見せなかった。


ルカ、お前は優しい子だな」
「……えっ、わ、私は、……」
「シカマルやいの、チョウジたちにはないその優しさはお前の武器だ。体術や忍術、剣術、傀儡。その強さとはまた違う、お前だけの武器」
「……先生?」

「これから先、そう遠くない未来で絶望してしまう事が…その身を貫く程の辛い事があるかもしれない。けれど絶対にその優しさを忘れるな。その優しさは、きっと沢山の人の心を救うから」


アスマはそう呟くと狼狽えるルカの身体を離し、腰をあげて立ち上がる。

咥えていた煙草が燃えつきそうになっていたので携帯灰皿で先を潰して処理をするアスマの顔を見ても、下からでは何も分からない。

ルカは突然の事だったのでアスマが何を伝えたかったのか薄々と理解しながらも、何も口にする事が出来なかった。それが無性に悲しい。


「……先生」
「ん、どうした」
「先生は、……ううん、先生も、優しい人ですね」
「は、」


二本目の煙草を咥えたアスマは、ルカのその言葉に驚いて少女を凝視する。

見つめられたルカは小さく笑うと、ホルスターからクナイを取り出した。


「アスマ先生、次、始めましょう。……宜しくお願いします」


修行はまだ始まったばかりなのだから。


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