彼女は立ち向かう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルカはゆっくりと鉛筆を置き、解答用紙を裏返した。
カリカリと鉛筆が紙の上を滑る音が辺りで響く中、小さくため息を吐くとそっと前を向いた。
先ほど始まった一次試験、情報収集戦を兼ねたペーパーテストだがルカには勿論関係がない。自力で全ての問題を解いたからだ。
友達もおらず、外で遊ぶという事をしなかったせいか勉強は得意なのですらすらと解く事が出来た。
残りの三人はおそらく自力では解けないかもしれないが、「そういった能力」を持ついのがなんとかするだろうし、恐らくシカマルは分かっていても面倒だと解いていないかもしれない。
「(…いなくなるのは、誰…?)」
暇になった彼女は先ほど知り合った子に言われた事を思い返していた。
『君は近いうちに身近な人を失うだろう。それは誰にも止めることできず、そしていつ、だれが、どこでこの世から去るのかはわかない』
残酷な予言のような言葉。そこに信憑性は全くなく、信じるのも信じないのも自由だ。
けれど、その言葉は何処か引っ掛かる。聞き逃してはいけないような、そんな気持ちに飲み込まれてしまう。
「(私は、誰を失うの…?)」
試験はまだ終わらない。
解答用紙は裏面にしているので何かをされない限り誰にも見られないが、用紙の上で肘をついて顔を覆った。
大切な人の顔が脳裏に浮かぶ。
「(花さん
ゲンマさん
ハヤテさん
シカマル君
チョウジ君
いのちゃん
アスマ先生
テンゾウ兄ちゃん
夕顔姉ちゃん
……誰、なんだろう…)」
大切な人と言われても浮かぶのはこの九人のみだ。このメンバー以外に大切な人はいない。
考えても分からない。
そもそも本当に誰かがいなくなるとは限らないと本人は言っていたが、ルカは嫌な予感がしていた。
本当に、誰かが死んでしまう。
それが分かっているのに、その誰かが分からない。
暗部の二人――最も死亡率が高い。
特別上忍の二人――二人とも試験の試験管だと聞く。死亡率は高くないだろう。
花――あの結界の中にいればすくなからず安全だ。
自分達下忍の四人――全力で戦うとはいえ最も弱い。
アスマ――試験中は担当上忍に任務は入らないらしい。
「(…分からない…。)」
ルカは途方にくれていた。この中で一番生存率が低いのは自分たちだ。下忍で経験も低い。
そう考えてみれば一番危険な暗部の二人は忍としての経験が多く、特上の二人と上忍の先生も経験は勿論多い。
花は強い分類に立っていたが今はもうほぼ戦えない。けれど結界の中にいる。
どう考えればいい。どう考えればこの嫌な予感が晴れる。
ルカの思考は完全にどつぼにはまってしまっていた。
「なめんじゃねー!俺は逃げねーぞ!受けてやる!もし、一生下忍になったって…意地でも火影になってやるから別にいいってばよ!怖くねーぞ!」
考え込んでいたルカの耳に彼の怒鳴り声が入ってきて肩がビクッと揺れた。
何も聞いていなかったので状況が分からないが時計を見るともう試験が終わる頃だ。
「(考え、こみすぎたかな…)」
悪い癖だと思う。本を読んだり、傀儡を弄っているときなど自分の世界に入れば決まって時間の経過が分からなくなるし、誰かに話しかけられても気が付かない。
これから忍としてやっていくには致命的な悪い癖だ。早急に直さないといけない。
「もう一度訊く、……人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ」
「まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ……ッ俺の忍道だ!」
―忍道―
それは忍びが生きる道の事、ルカにはその道がない。
下忍になった当初に自己紹介で口にした「育ての親である花を支える」というのはあくまで夢であって、忍道ではない。
「(私の忍道はいったい何だろう…)」
なら何を道として生きるのか、と考えてもルカは思いつかない。
少女にとって『うずまきナルト』は眩しすぎた。アカデミー時代、決して仲が良いわけではなかったが、彼の真っ直ぐな行動は視界に入っていた。
勿論その行動がどういう結末を迎えたかは問題児という印象で全て分かる事だろう。
「(……それにしてもうずまき君は)…騒がしい…」
「…くっ…」
目を細めてナルトを見ながら思った言葉だったが、最後だけ口に出ていた様だ。
それを聞いたからなのか、直後に小さく噴出した人間がいたのでルカは聞こえてきた方を見ると、パイプ椅子に座った試験管がルカの方を向いていた。
ルカが座っているのは一番後ろの端で、すぐ横は試験管になる。その真横に座っていた試験管が笑ったのだ。
ちなみに横の受験者は早々に失格となって空席だ。
「(……あ、)」
目が合うと同時にヒラヒラと小さく手を振られ、ルカは思わず小さく会釈をした。その会釈をした事にもウケたのか笑みを溢している。考えてみれば試験中に試験官に会釈をする事自体おかしい話だが、そもそも手を振ってくるのもおかしい。対応としてはどっちもどっちだろう。
座っていたのは先ほど受験者を振るいにかけていたツンツンヘアーの中忍で、ルカは名前を知らないがはがねコテツという青年。
そのまま視線を合わせているわけにもいかず直ぐに前を向いて今回の試験官のイビキを見るが、試験管コテツの視線を感じて居心地が悪い。
「ではここに残った全員に第一の試験、合格を申し渡す!」
「…え?」
直後、イビキの口からそう宣言されて、ルカは思わず小さく声を漏らしてしまった。
周辺の人間は誰も反応しなかったので聞かれていないかもしれないが、もしかしたらその横にいるコテツの耳には入ったかもしれない。
呆然としている受験者を見てニヤニヤしているためどちらかは分からないが。
前では情報や拷問がどうとイビキは語っており、そのバンダナ風の額当てを取って受験者を恐怖に陥れている。
拷問のあとがくっきりと残っているその頭にどよめきが起こるが、痕が残るような大怪我を負ってもなお生きている事の方が奇跡だろう。
勿論ルカには情報の大切さは身に染みても恐怖には負けなかった。
なぜなら、前世で幼馴染の手によって拷問にも似た行為で殺されたからだ。
あの時それを体験して恐怖はもう身についている。
その時の事を思い出して表情が抜け落ちていくのをルカ自身は自覚した。この世界で年数を重ねようとも忘れることはない。
少女を眺めていたコテツもルカの異変に気がついて身じろぎをしたが、瞬間、大きなガラスの割れる音が響き渡ってルカは我に返った。
ルカを含めて全員が音がした方を見ると、女性が一人立っていた。窓ガラスを破って侵入してきた様だ。
「あんた達、喜んでる場合じゃないわよ!私は第二試験官みたらしアンコ!次行くわよ、ついてらっしゃい!」
不適に笑い、そう叫んだ試験官みたらしアンコだが、教室はその登場で静まりかえっている。
ルカは呆気にとられ、試験管アンコを見つめる。
勿論彼女だけじゃなく他の受験者も、そして試験官すら呆気にとられ、イビキだけはため息を吐いて呟いた。
「空気を読め」
ルカにとっては中々に関わる事が少ない人種かもしれない。うずまきナルトもいるが彼と同じくらい騒がしい。
騒がしいのは苦手で、ひそかに眉を寄せる。嫌いではないが自身がその輪の中に入るとなると全力で嫌がるだろう。
「あ~ゾクゾクするわ!詳しい説明は場所を移してやるからついてらっしゃい!」
アンコは楽しそうに笑っている。イビキに小言を言われてはいたがやる気満々の様だ。恐らくこの会場の中で一番やる気に満ちあふれているのかもしれない。
「…あ、」
試験官みたらしアンコ、何処かで聞いた名前だった。それが何処で聞いたのか中々思い出せず、ぼんやりと視界にいれながら思いだそうとしていたが、漸く分かった。
少し前に師匠の一人である不知火ゲンマから世間話として聞いていた。普段はクールで中々に感情を表に出さないゲンマが、珍しく噴出しながら話をしていたのは記憶に新しい。
「…少し前、甘味処でぜんざいを十杯食べてお腹壊しかけた人だ……」
「ぶはっ…」
ルカの呟きはそう大きくなかった筈だ。試験は終わったとはいえ試験会場なので大きな声を出した覚えもない。
だが耳が良い人間はどこにだって居るし、小声とはいえ私語をする人間は稀、そして騒がしい壇上付近からは距離がある。
その呟きを聞いていた周囲の試験管数人が思いっきり噴出したのは言うまでも無い。