彼女は立ち向かう。
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「…んー、めんどくさいなぁ……」
「なんか言ったか?」
「…ううん」
三時にアカデミー前に待ち合わせと約束していた第十班は誰一人として時間に遅れる事無く集まり、アカデミーへと足を踏み入れた。数ヶ月前まではこの建物で学んでいたが、もう懐かしく感じている。
アカデミーは中忍試験の会場で、それなりの数の忍達が集まっている。木の葉の額当ては勿論、他里もそれなりに。
アスマに言われたのは301の教室、知っている場所なので四人は迷わず足を進めたが、ある場所で人だかりが出来て先へと通れなくなっていた。
「おいおいおい、こんなもんかよ」
「中忍になりたいだなんて夢のまた夢じゃないのかい?」
301と書かれた教室の前で男の子二人組が部屋への道を遮っており、誰も入れないでいる。
その二人に不満を持つ忍達がギャーギャー文句を言っていて騒がしい。
「……ねぇ、気が付いてる?いのちゃん」
「…そう、ね。違和感を感じるわ」
「え?」
難しい顔でいのに話しかけるルカと顔を顰めながらそれに答えたいのとは別にチョウジはきょとんと目を羽ばたかせて首を傾げている。
そんなチョウジにいのはため息を吐き、ルカは苦笑いを見せながらそっと耳打ちする様に「これは幻術だよ」と囁いた。
「幻術は相性だから…。けど、これはまだレベルが低い……チョウジ君も頑張らないとね」
「う、うん…」
ルカに指摘されて気まずそうに頷いたチョウジの横でシカマルは小さくため息を吐いた。
「…シカマル君は、気が付いたんだね…」
「…めんどくせー」
肯定も否定もしないが完全にシカマルは気が付いているだろう。先程のため息はこれから起こる事への文句だろう。
少し考えこんだいのは横にいるルカの腕を掴むと人だかりを進み、二人の男の前に躍り出る。
ルカは二人を見て何かに気が付いて少し考える素振りを見せた。
「なんだお前ら」
「君たちも帰った方が良いんじゃない?」
二人組はニヤニヤしながら目の前にいるいの達を笑う。
いのはその挑発に勿論乗ることはなく、むしろ二人を自ら挑発仕返すように笑って言った。
「あら、私たちはその先に用があるの。どいてくれるかしら?」
「…この部屋にか?」
「まさか!」
自身満々に笑ったいのに対して二人組はひそかに表情を緩める。その表情の変化に気がついたのはルカとシカマルの二人だけだろう。
シカマルも控えめにだが、いのとルカの横に立つ。
「私たちが行きたいのはその部屋じゃない、部屋に見せかけているその階段よ」
「……めんどくさいっすけど、時間に遅れたらいけないんで早くどいてもらえませんか?」
「…ほう、気が付いたか」
いのとシカマル達の言葉に満足そうに二人組は笑うと、その笑みと同時に空間が歪んで教室が階段となった。
二人組のうちの一人が周りを見渡しながら大声で叫ぶ。
「……よし、お前ら四人は合格だ。ここを進みな。ただし!ここを進めるのはその四人のみ、後の奴らは帰んな!」
楽しそうに、けれど何処か不快感をあらわにしながら声を出している。
その言葉に逆上したのか、第十班以外の受験者達から罵声が飛びかった。
二人組は呆れながらため息を吐く。決してその罵声に対するため息ではない。
「おいおい、これもまた試験のうちだぜ。こんな簡単な幻術すら分からねぇ奴に中忍になりたいんて思うんじゃねーよ」
「いくら腕っぷしが強くても、いくら頭が良くても、簡単な幻術すら解けないのは問題外だね」
先程の逆上を狙った挑発するかのような声から落ち着いた声色に変わる。
二人は勿論下忍ではなく試験官で、一次試験を受ける人間を振るいにかけていたのだ。先程の不快感をあらわにしたのも、こんな単純な幻術を見破れないなんて、という失望からでたものだ。
試験官だと気が付いた者もいるがはやはりまだ気づかない者いる。勿論前者に第十班は入り、とあるチームが試験官へと襲い掛かろうと動き出したが、そのチームは後者だ。子供の容姿をしているから下忍がライバルを蹴落とす為に邪魔をしていると勘違いをしたのかどうかは分からないが、無謀な事をしでかしただろう。
「おいおい血の気が盛んだな」
「まったく…」
試験官はにやりと笑いながら受験者三人を迎えようとしたが、何を思ったのかシカマルが彼らに背を向けて立ちはだかる。
そして二人を手で制した。
「おい、お前何を「ルカ、チョウジ」……は?」
シカマルは冷静に、そして淡々と名を呼ぶ。その言葉通りに二人の男女が躍り出た。
チョウジが一人を力いっぱい突き飛ばし、ルカは足払いをしかけ片手に一人ずつ顔面に両手を当てて後頭部から思い切り地面に叩きつける。
「こういうのいけないよね」
「……他の受験者さんの迷惑になる事は勿論、ましてやこの2人は試験官さん。試験官に手をだすのは、……ルール以前の問題かと」
チョウジも、そしてルカも腕を組みながら地面に倒れこむ三人を冷ややかに見ながら言った。
「っ…なんだてめぇ!」
ルカが地面に叩きつけた男がすぐさま立ち上がって目の前にいるルカの胸ぐらを掴みあげた。多少息がし辛いぐらいで、ルカは眉一つ動かさずにジッと自分を掴む男を見つめている。
チョウジが慌てて剥がしにかかろうとしたが、試験官たちが先に動いた。
「彼女達が言っている事は正しい。俺たちは試験官だ。君、早く彼女を離さないと永久に中忍試験を受験することを剥奪するよ」
「そうだ。確かにこの子はやり過ぎたが、お前らも潔く諦めろ。来年受ければいい」
頼んではいないとはいえ、ルカは自分達を庇ってくれた下忍だ。そんな子を害そうとするのは気にくわない。
シカマルを押し退けてルカとその胸ぐらを掴む男に近づきながら真剣に言う。その瞳の奥が恐ろしい。
「ちっ、くっそ…」
流石にもう突っ掛かるのは諦めたのか男は引き下がり、ルカが地面に叩きつけたもう一人の男がチョウジに飛ばされた男を立ち上がらせる。
そしてそのまま去ろうとした三人をルカが慌てて引き留めた。
「…っあの、……待って、ください!」
「あぁ!?」
いの達も試験官たちも、そして周りも彼女が男達を引きとめた事に驚いた。
一瞬とはいえ今の今まで自身の胸ぐらを掴んでいた男へと足早々と近づく。
訝しげにしている男達の前に立つと、ルカはぺこりと頭を下げた。
「あの、地面に叩きつけて、ごめんなさい……。だから、その、これはお詫びです…!」
茫然とする三人のうち、地面に叩きつけた男二人の頭に手を伸ばす。
「ルカ!?」
仲間の声が聞こえるが彼女は気にすることなく口を開いた。
何かされるかもしれないと男二人はその手を振り払おうと、もう一人はルカを突き飛ばそうとするが、ルカの方が早かった。
「『痛いの、痛いの、飛んでゆけ』…!」
そして勢いよく手を遠ざけるとすぐさままた頭を下げ、シカマル達の元に駆け戻る。男たち二人は何かに気がつき肩を揺らすと慌ててもう一人の腕を掴んでその場から立ち去った。それに続いて周りの受験者達もぞろぞろと去って行く。
残るのは第十班四人と試験官二人。
「…っこんの、ばかぁぁぁ!」
いのは息を吸い込むとすぐさま大声に変えて吐き出した。
ルカは肩をびくっと揺らしていのから遠ざかる様に一歩下がる。
「あんた何やってんのよ!」
「…うぅ、だってやりすぎたかなって……。それに、」
「それでもそう易々と敵に近づかないの!」
「……ご、ごめんなさい」
腰に手を当てて夜叉の様に怒りを見せているいのを前に、ルカはよりいっそう縮こまる。
そんな二人を、シカマルとチョウジは苦笑いを浮かべて見守っている。
そんな対象的な四人とは別に、試験官達は興味深そうにルカへと近づいた。
「なぁ、さっきのお前の術か?」
「…え…?」
「『痛いの、痛いの、飛んでゆけ』だよ」
「…!?……の、ノーコメントですっ…!」
興味津々な四つの目に、ルカは震え上がっていのの後ろに隠れた。そして直ぐに着ているパーカーを被って顔を隠す。
勢いよく仲間の後ろに隠れたルカを見て、試験官達はポカンと口をあけた。
「…あー、すいません。そいつ人見知りなんでもう少し離れてもらっていいっすか?」
「人見知り……」
「……ま、いいや」
シカマルが頭を掻きながら助け船を出すと、試験官の二人もしょうがないとため息を吐きながら数歩下がって距離を取った。
お互いに顔を見合わせて肩を竦め、咳払いをした。時間が進み、また違う受験生が現れそうなので合格者を先へと進ませなければ鉢合わせをしてしまう。
「……じゃあ改めてここ通っていいぞ。中忍試験、せいぜい頑張りな」
「!はい」
続く試験官からの激励とも言える言葉に代表していのが頷き、四人は歩き出した。試験官達はそっと四人のの背中を見て、次の受験生をふるいにかける為に幻術をかけようと印を組もうとした。
が、階段を数段上がると直ぐにルカが足を止めて話しかけてきたので手を止めた。
「……あの、」
「……ん?なんだ?」
試験官の一人、髪がツンツンと立っている方が何だと振り向く。もう一人も遅れて振り向いた。
「……私、貴方達のこと、思い出しました」
「……あ?」
「どっかで見たことあるなって、思って……」
「へぇ」
この里に住んでいる以上、見たことあるのは当たり前だ。だが、試験官達は今現在術で姿を変えている。特徴は多少残しているが、見知った知り合いならまだしもあまり言葉を交わしていなかったら気づきにくいだろう。だというのにルカは見た事があると口にした。
目を細める試験管達にルカは少し考えてからそっと口を開いた。
「たまにアカデミーにいますし……あと門番も、してます…よね?」
「お、よく分かったな」
「…え?こんな子供いたっけ?」
「いたよ。…っていうか気が付かないと」
いのの言った子供という言葉に試験管もそしてルカも苦笑いを見せる。
「…あの二人は試験管だという事は分かっていると思うけど、1次試験を受ける人間を振るいにかけてる中忍さん。……勿論試験管さん達は立派な大人で、あれは変化の術だよ」
「そうなの!?」
「うん」
試験官であることも、受験者をふるいにかけでいたのも分かっていたが、それが変化とまでは気がついていなかった。試験さえパスすれば子供でも中忍になる事ができるので、そっちだと思っていたようだ。
驚いたいの達は変化の術を見破ろうとジッと試験官を見つめるが、術のほころびが見えない。いの達よりも試験官の方が一枚上手らしい。シカマルはいつもの通り、見破っているのか見破っていないの分からないような素振りを見せている。
「お前何でそこまで分かるんだよ」
普通と表現するのは憚られるが、そう簡単に見破られるような術を使ってはいない。ましてや少し前に忍者になったひよっこの下忍が、だ。
ジッと試験管に見つめられ、ルカはビクッと肩を揺らして目をきょろきょろさせ、両手を握りしめる。
「か、勘です…!」
そう叫ぶ様に言うと、いのの腕を掴むと半ば無理矢理逃げるように階段をのぼっていった。それに男性陣は驚き、チョウジは追いかけるように走りだしてシカマルも試験管に軽く会釈して追いかけていく。
四人はいなくなり、残ったのは試験官二人。
「…勘、か」
「…なんだっけあの子」
「アスマさんとこの下忍達だろ。…水色以外の三人はシカクさん達名家の子」
二人は楽しそうにニヤニヤと笑いながら言葉を交わす。楽くて楽しくて仕方が無い、そんな声色だ。
「あぁ、そうだった。…で、あの水色の子の名前って確か…」
「水橋ルカ」
「…あの子、良いな。中忍にならねぇかな」
「同感」
二人はフッと笑うと近づいてくる気配や周りにいる気配がないことを確認すると変化の術を解く。
煙と共に現れたのは試験管の服を着た若い男性二人。
「まったく、今年の受験生は実に面白い。なぁ?イズモ」
「同感。…それにあの子じゃない?
…あのゲンマさんが自慢してたゲンマさんとハヤテさんの秘蔵っ子ってのは」
「あぁ、そうかもな」
「ははっ…あの子は上にくる、なぁ?コテツ」
楽しそうにクスクスと笑い、そしてまた受験生を振るいにかける為に二人は子供の姿へと戻った。