彼女は歩きだした。
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「本当にごめんなさい!」
「もう、いいよ」
「ううん、もっと謝らせて!」
「いのちゃん……」
アスマ達が見舞いに来た次の日、チームメイトの三人が見舞い品を片手に病室へと現れた。
ルカはベッドを少し立てて背もたれにして座り本を読んでいたが、出会い頭直ぐにいのは勢いよく頭を下げた。
困った様にルカはいのは頭を上げて欲しいと言うが、いのは一向に上げない。
「いのちゃん、もういいから。…私怒ってないし」
「でも!」
喧嘩で傷つけたあげく、自身の力不足、そして過信によってルカは大怪我を負ってしまったといのは心から後悔をしている。
もちろんの事ながら喧嘩はさておき、その後の抜け忍との戦いはいのには非はない。力不足はあったかもしれないが、だからといってその力不足を指摘するならルカ然りアスマ然りシカマル・チョウジ然りと全員の力不足を指摘しなければいけない。
中でも最も大怪我を負ったルカは、抜け忍との戦いを力不足と感じながらもそれと同時に不幸な事故だったと認識している。抜け忍に襲われる確率は低い訳ではないが、高いわけでもない。襲われる時は襲われるし、何もない時は全く何もない。そういう意味では本当にルカ達はある意味貴重な経験をしたとも言える。
「…あんまり謝り過ぎると、安っぽくなっちゃうよ」
「…………」
「そんなに気になるなら、……私ともっと仲良くして、ね?」
「…ッうん!」
ルカはそっと照れくさそうに笑いながら言うと、いのは信じられないとばかりに勢いよく頭を上げて嬉しそうに笑った。
ルカとて誰とも仲良くしたくないわけではない。その臆病な後ろ向きな感情が、仲良くしたいという心を縛り上げている。
けれど、誰かを守る事の尊さを知ったから。
その尊さを教えてくれたのは皆で――。
ルカが少し心を開いたといのは喜び、シカマル達も表情を緩め、そして三人が笑ってくれた事にルカも喜ぶ。
幸せの連鎖だ。
そしてルカ心の何処かでもっと早くに仲良くなりたかったな、という気持ちも芽生える。大きな変化だった。
「……それでね、私達ルカに聞きたいことがあるの」
「…え?」
「あのクマの人形の事とか水遁の事だよ」
気まずそうに、けれど好奇心を抑えられないのか頬を赤らめたいのが声をあげ、首を傾げたルカに向かってチョウジが続いた。
やはりあの時の事は気になっていたらしい。
ルカは困ったように笑った。
「…うーん、たいしたこと…ないんだけどなぁ…」
「…嫌でも気になるだろ、普通」
「そうだな。俺も気になるな」
気の抜けた声をあげるルカに呆れたようにシカマルは呟き、そこにまた一人現れた彼が同意した。
四人は一斉にドアの方を見るとアスマがそこに立っていた。
視線を集めた彼は、皆に向かって小さく手をあげると、ゆったりとベッドへと近づいてくる。
「よっ。……ルカ、体調はどうだ?」
「はい、大丈夫です」
「良かった。……それでどうなんだ、あれは」
任務がなく待機中らしい彼は同僚達にその場を任せここまで来たらしい。
下忍の任務はルカの怪我が原因でないらしいが、彼は上忍としての任務がある。
教え子が入院しているので同僚たちも快くアスマを見送った。
「……教えてほしいなら先生、結界張ってもらっていいですか?」
「結界?そこまですんのかよ」
「…忍たるもの…自分の手の内を明かしたくありませんから、皆さん以外には知られたくないんです」
「……ま、そりゃあ一理あるな」
色々と理由はあれど、一番納得されやす理由を挙げる。
もちろんの事ながら納得したアスマは急速にチャクラを練り上げ、この部屋をすっぽりと覆うぐらいの結界を張った。
これで外には話し声が聞こえないだろう。
「……えっと、何から話したらいいかな…」
「じゃあ先ずは水遁から」
説明して欲しいと言われたが、何から説明すればいいのか分からない。
どうしようかと迷うルカにシカマルが促した。
聞かれたのはルカが最も得意としている術。
「分かった。
皆は花さんに会ったこと覚えてる……?」
「勿論!」
ルカと一緒に住んでいる高齢の女性、皆は勿論覚えていた。
下忍になる為の試験に合格した後に会った彼女はとても物腰の優しい、ゆったりとした女性だった。
「花さんは昔忍だった……三代目火影様より少し年下で、三忍よりも年上。
特に目立った功績は上げていないから今で言うビンゴブックに載る通り名はないし彼女自身有名じゃないけれど……当時を知る人は彼女の事をこうよんだ。
『水使いの花』と」
ビンゴブックは最近(といってもここうん十年ではあるが)に出来たものなので花が活躍していた時代にはなかった。
通り名という概念はあったのでもしかしたらもっと活躍していれば後生に名を残していたかもしれない。
「その名の通り、花さんは巧みに水を操った。空気を吸うのを同等なぐらい、二代目火影様は有名な水遁使いだったけど…彼が一目置くぐらいだったらしいの。
けれど彼女は大した功績をあげることもなく、同僚に惜しまれながらも若くして忍をやめてしまった。
辞めたのには理由があって、ある人と結婚したから。その人は砂の忍で、当時は今みたいに同盟どころか仲がとても悪かった。
けれど二人は恋をして、彼女も結婚相手もお互いに木の葉と砂の里から出て行った」
ごくりと皆が息を飲むのが分かる。
シカマル達子供組はそう詳しくないが、それなりに世を渡ってきたアスマはその時代にその行為が行われた事がどれだけ珍しい事かを知っている。
眉間に皺を寄せながら静かに相槌をうっている。
「……それから十数年後、彼女は里に帰ってきた。傍には誰もいなくて、彼女を知る人たちは彼女に夫の事を聞くとただ一言『流行病で死んでしまった』と答えた。
………それから色々あって私は彼女に育てられるようになり、私は花さんに花さんの持つ技術を叩きこんでもらった。
…勿論私にはまだまだ扱えない術は多いけど、それでも『水使い』の最初で最後の弟子ともいえる私は花さんに今でも鍛えてもらってる」
そう言い切って一息ついた彼女に皆は関心したように呟く。
「……あのばあさんそんなに凄い人だったんだな」
「どこにでもいる普通のおばあさんに見えたのに…」
「色々な事を見聞きしてきたからこそ、なのかな」
口々に思い思いの事を呟く子供達とは違い、アスマだけは難しい顔をしている。
そんなにも凄い女性だったからこそあんなに巧妙な結界を張れたのだとようやく納得できた。
目を見張る程の強固で優しい結界を、彼女はずっと張っている。
「じゃああのクマの人形は?」
「……クマの人形は傀儡人形の一種で、それは花さんの結婚相手が関係しているの」
「さっき言ってた砂の忍…」
性質変化の術をアカデミーを卒業して直ぐの下忍がそう簡単に使えるわけがない。
漸く納得できた皆は次を促す。
ルカは静かに頷いた。
「あのクマの人形を作ったのは私で、作り方を私に教えてくれたのは勿論花さん。
…その花さんに傀儡のイロハを教えたのは彼女と結婚したその砂の忍。傀儡使いで、彼もまた功績をあげることなく若くして忍を止めた一人。
砂の里で作られた傀儡、それの構造を全て彼は花さんに教えた」
結界を張っているので声は聞こえないだろう。それでもルカは最後の所を囁くように呟いた。
あまりにも重大で、とても危険な事を口にしている事を自覚しているから。
もしも砂の忍が聞いていたら、これだけでルカと花は暗殺の対象となるだろう。
「…それって機密事項ともいえるんじゃねーのか」
「……うん、今から思えばそうだった。…けれど当時の2人はそんな事気にも留めてなかったの。
構造を知ると言う事は傀儡を壊す方法を知ると言う事になり、傀儡と戦う時にいっきに有利になれる。
けれど花さんにとったら有利になるということよりも…彼の事をもっと知る事ができたと喜んだ。だって花さんは彼の全てを愛していたから。」
燃える様な恋だった。燃えるような愛だった。そして二人の幸せは流行病によって燃え尽きてしまった。
愛の前では機密事項はただのスパイスだった。
また部屋は沈黙が広がる。
「…知ったからといって、彼女はそれを誰かに話すと言う事はしなかった。花さんは彼を信頼してたし、彼もまた花さんを信じていたから教えた。
そして二人…というか花さんは傀儡に没頭するようになった。二人で戦闘用の傀儡を作ったり、子供が遊びに使うような傀儡をつくって遊んだり……。
結局二人で暮らし始めて十数年後に彼は流行病で亡くなるのだけれど…亡くなるその時まで二人は仲良く寄り添いあった。
……それから数十年花さんはある一人を除いて、傀儡の事を口外していません。」
「……ということは、お前は……」
アスマが難しい顔でルカを見つめる。その顔の歪みの深さから、それがどれだけ深刻な事か物語っているだろう。
けれど、それでもルカは微笑んでいる。彼女にとって傀儡というものは「花」と「砂の彼」の愛の結晶そのものなのだから。
「…はい。砂がこの何十年の間に傀儡の構造を変えていないのなら、ある一人である私は『砂の傀儡』を知り尽くしている」
誰もが目を見開いた。こんな小さな少女が他国の機密事項ともいえる事を知っているなど、誰が予測していたか。
アスマは結界を張っていて良かったと心底ホッとした。
「……勿論私は誰にも話す気はありません。……たとえ、拷問にあっても」
「!」
その決意の強さと瞳の冷酷さに皆背筋が凍りそうになった。
十代前半の少女がしてもいい瞳ではない。
「私にとってたった一人の家族である花さんが信頼し、愛した人からの信頼の証を潰す事を絶対にしたくありませんので」
彼女はこれ以上は言うつもりはないのでアスマ達は知らないが、実はルカは勿論花もある『呪』をかけてもらっている。過去の花は砂の彼から、ルカは現在の花から。『例え拷問にあっても砂の傀儡について話すことは許されない』と。勿論砂の彼も、そしてルカに呪をかけた今の花もそれは嫌がった。
花は砂の彼に止められたし、ルカも花に止められたが、昔の花も今を生きるルカも砂の彼の信頼を裏切りたくないと押し通し、実行させた。
だが花は呪をかけられているのにルカに話している。それには理由があり、花に呪をかけた本人である砂の彼が死んでから長い月日がたち効力が弱まったのも理由の一つだが、それ以前に花は大きな犠牲を払って傀儡の話をルカにした。
呪が弱まっていたおかげか死ぬことはなかったが、花自身が持っていたチャクラをほぼすべて枯渇させてしまった。そのほんの少し残ったチャクラで無理して家に結界を張っており、それの障害で花はもう忍としてやっていけない程チャクラが少なくなり、尚且つ身体能力など全てが著しく下がった。もう既にほぼほぼただのお婆さんだ。
余談だがルカがもし傀儡の事を話そうとしたら、声が出ず、例えそれでも無理やり聞き出そうとしたらルカ自身が無意識に舌を噛み切るようになっている。
この呪いとそして砂の傀儡に関して、二人とも墓場まで持っていくつもりだ。
「……とまぁ話はズレましたが、私は傀儡を作る事はできます。だからクマのくーちゃんをつくった」
「じゃあなんでクマは動いたんだ?普通の傀儡ならチャクラの糸が必要だし、なにより術者であるルカは意識を失っていた」
シカマルに図星をつかれ、ルカは内心焦りはすれど表にだすことなく笑って言った。
「くーちゃんを作る際にチャクラを練りこみ、そして持ち歩きながらもチャクラを流し込んでるの。企業秘密だから作り方など詳しく説明できないけど、くーちゃんは影分身の術と傀儡を合わせて作った認識してもらえれば分かりやすいかなって。
傀儡という媒体と影分身という術者の意思が重なりあっているから術者が意識を失っても人形に込められているチャクラがなくならない限りオート式で動くことができる」
「……む、難しい…!」
それがどれだけ凄い事で、恐ろしい事か本人は理解していない。傀儡はチャクラ糸を切れば攻略できるが、ルカのクマはチャクラ糸が存在しないので媒体であるクマを炭になるほどまで火遁で燃やし尽くすか、チャクラを消費させて枯渇するまで待つしか糸口はない。
チョウジといのは難しいのか少し頭を抱えているが、シカマルは少し納得できているのか何のそぶりも見せず、アスマは関心を示し頷いている。
「じゃああのクマが水分身作ったのは……」
「実際はくーちゃんが作ったんじゃなくて、元々私が水分身を作った際に込められたチャクラが敵に倒された事によって分身を保てなくなる程少なくなり崩れたけれど、その上からくーちゃんが水分身にチャクラを分けたのでまた水分身を形成することが出来ました」
「……と、言う事はそれを見越してお前はあの時水分身をしたと?」
「…まぁ、そういう事に、なります…ね。」
若干気まずそうにしながら同意するとその計算高さと実力にアスマは感心し、いのは目をキラキラさせながらルカの手をとった。
ルカは大きく肩を揺らしたが、今更それを指摘する者はいない。
「ルカ、私に色々教えて!」
「……え?」
「だから!私、もっと強くなりたいからさ、修行つけてよ!」
キラキラと、まるでヒーローを見るかのようにいのの瞳は輝き、興奮したように声を荒げて笑う。
ルカはギョッとしていのとアスマを見比べた。
「……それ、アスマ先生の仕事、だよ?」
「えー、ルカがいい!」
「いの!?」
困った様に笑うルカへといのは怪我には触れないように抱きついた。抱きしめられたルカもおずおずと両手をいのの背中に回すものだから、いのの笑みも深くなる。
アスマにとっては生徒に生徒を取られた気分で、尚且つ真正面から否定されて軽くへこんだ。一時は危なかった二人が仲良くなってくれた事を喜ばなければいけないが、それはそれでこれはこれだ。
シカマルはお決まりの文句を言いながらため息を吐き、チョウジは笑った。
「ルカが退院したらみんなで修行しましょ!」
ルカがあの戦いで前を向いて成長した様に、皆仲間を守れなかった事を悔いて自分の力不足を実感している。
だからこそ、いのの高らかな宣言に皆は勿論、シカマルもめんどくさそうにだが頷いた。
(えっと、できたらというか絶対私が水遁や傀儡を使える事、秘密にしてね)
(なんで?)
(理由は、色々あるんだけど、お願い)
(…うん、分かったわ!)
((だってルカからの初めてのお願いなのよ?聞かないなんて出来ないもの!))