彼女は歩きだした。
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深夜―警備などの徹夜で仕事している忍を除いて誰もが寝静まっている時間帯。
カーテンの隙間から月の光が入り込んでいるこの部屋にはルカ以外誰もおらず、その彼女もまた眠りについていた。
目を覚ました当日なので、チームメイトや担当上忍、友達たちと会話をして体力を消費しているので眠りは深い。
そんな彼女の寝るベッドの横に、音も立てずに二人の人間が天井から降り立った。
「……ルカ」
「…………、……ぅん……?」
二人のうち、背の高い方が幼い寝顔を見せる少女の頭を静かに撫でる。
ルカはその擽ったさにうっすらと目を開けると、目に入った頭を撫でるその人物に驚いて飛び起きた。
「!?……っぅ……!」
「だ、大丈夫!?」
夕食後に鎮痛剤を飲んでいるとはいえ安静にしていなければいけない身、飛び起きた事によって感じた身体の痛みにうめき声をあげた。
そしてそのままゆっくりと布団へと倒れ込んでいくので、背の高い方とは違うもう一人が慌ててルカを支えた。
「……大丈夫。……も、う……びっくりしたよ…」
「ごめんごめん。外だからね、顔を出すわけにはいかないんだよ」
月明かりが部屋を照らしているとはいえ、暗闇の中で浮かび上がったその独特なモノ。それにルカは驚いてしまった。
自覚はあるので背の高い方は謝りながらルカを静かにベッドへと寝かせる。
声の高さと質で背が高い方が男性、もう一人が女性だという事が分かる。
「……それは、そうだけど……」
「ルカ、怪我は大丈夫?」
「うん、大丈夫。二人とも任務帰り?」
「あぁ」
女性の方が横になったルカを覗き混むように話しかけた。
日中に姿を見せなかったのはその立場もあったが、なにより任務に出ていたからだ。
「お疲れ様、カラスさん、雛菊さん」
「……ただいま」
二人はお面を被った暗部だ。暗闇の中、浮かび上がったのは彼らが顔につけているお面で、驚くのは無理も無かった。
背の高い方がカラス、もう一人が雛菊で、声の高さからカラスが男で雛菊が女である。
あのルカがはきはきと喋っているので相当彼女は二人を信頼しているのだろう。
「雛菊さん」
「なに?」
「くーちゃんありがとうございます」
「…気づいてたの?」
部外者が聞いたら何の話をしているのかは分からないが、雛菊には心辺りがあったのでルカの言葉にそっと首を傾げた。
「……うん。うっすらとだけど、声が聞こえたから…」
「そう」
雛菊の顔はお面で見えないが、雰囲気から微笑んでいる事は分かる。
あの時、アスマがルカを抱えて里に帰る際に現れた暗部二人組、その女性の方が実は此処にいる雛菊だった。知り合いだったので彼女はクマのくーちゃんが少女のものだとわかったのだ。
何故と聞かれて答える事が出来なかったのは無理もない。
「これ、お見舞い。」
カラスが持っていた籠を横の机に置く。
「ありがとう、カラスさん」
「まったく。下忍になって一月もたってないのにもう大けがするなんてね」
「……耳が痛いです」
腕を組み、呆れたような声で言うカラスにルカは縮こまりながら目をそらした。
「雛菊から連絡が来たときはびっくりしたよ」
「……ごめんなさい」
「今度は気をつけること」
「うん」
気まずいと目をそらしながらも少女がしっかりと頷いたのを確認すると、カラスはパンっと両手を合わせた。
その手から木でできたネコ型の置物が現れ、それもお見舞いの籠の横に置いた。
「あぁ、もう行かないと」
部屋に備え付けられていた時計を見てカラスはそう呟いた。
「…雛菊さんは?」
「私は大丈夫。ルカが寝るまで傍にいるわ」
「そっか。……カラスさん、お仕事気を付けて」
「あぁ、勿論。ルカ#も下忍の任務頑張ってね」
カラスは労りの言葉を聞いてお面越しにクスリと笑うとルカの頭を一撫でし、一瞬にして姿を消した。
残った雛菊は近くに置いてあった椅子を引き寄せ座る。
「ルカ、任務は楽しい?」
「うん、……あのね私、前に進む事にしたの」
「……そう。私もカラスさんも嬉しいわ」
暗部とつい先日下忍になったルカとの接点はほぼない。それでも知り合ったのはもっと幼い頃に遡る。
新月の日、遺体が転がるその中でクナイを持った血まみれの少女が立っているのを、二人が別々に発見したのが始まりだった。
あの光景を二人は忘れる事はないだろう。
「……雛菊さん、次いつ会える?」
「そうね。……また任務が入ると思うから中々会えないと思うけど……時間が出来たら会いにくるね」
「嬉しい。…カラスさんはどうかな…」
「カラスさんは隊長だから中々会えないと思う。……けど今度会ったら会えるかどうか聞いとくわ」
「うん、お願い」
ルカは目を細めて笑い、そのままうとうとと微睡みだす。
それに気が付くと雛菊はゆっくりとルカの頭を撫でた。
「ゆっくりお休み、ルカ」
「……うん、おやすみ」
頭をゆっくりと行き来するその手が気持ち良かったのかルカはゆっくりと目を閉じた。
眠ってはいないがそろそろ意識は飛ぶだろう。
雛菊は静かに立ち上がって忍術で出て行こうとしたが、小さな声が聞こえてきたので足を止めた。
「……今日はありがとう。
夕顔姉ちゃん、テンゾウ兄ちゃん」
「…ふふ」
面と向かって嬉しいと伝えられないなんてとても不器用な子だと、雛菊は小さく控えめにだが声に出して笑うと、今度こそ部屋から出て行った。
「だれ」
血の臭いに導かれて辿りついたその場所で、小さな子供は生きる為にクナイで肉を裂いていた。
「あなたたたちも、わたしをねらってきたの」
あの人のところに帰るんだ。
そう小さく呟いて、少女には不釣り合いなクナイを握りしめたその姿を、
二人は一生忘れない。
(※テンゾウをカラスと呼んでいるのはまた理由がありますので、間違っているわけではございません)