彼女は歩きだした。
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「終わりだ!」
自由になったアスマがまだ動いている敵に向かって術や忍具を繰り出して数分、漸く敵を全員倒すことができた。
敵がもう動かないことをちゃんと確認すると今回大いに活躍し、自分たちを守ってくれたルカの元に駆け寄る。
シカマル達も安全だと分かるとクナイを仕舞った。
「ルカ!」
木の幹にいる本体と水で出来たルカ。
アスマが本体と自身に駆け寄ってくるのを確認した水で出来た方が、もう大丈夫だと分かったのか目を閉じて水になり地面に落ちる。
それにアスマは驚いたが本体のルカへと向かい、シカマル達も駆け寄った。
「しっかりしろ!ルカ!」
目は固く閉ざされ、口元から血を垂らし、顔は青白い。
アスマが負担をかけない程度に揺するがピクリとも動かない。
「先生、早く木の葉に帰って病院!」
「あ、あぁ!」
顔面蒼白となって取り乱してたが、いのの言葉に冷静になったアスマはルカを抱き上げた。
その時、背後で二つの気配が地面に降り立つ。四人は驚いて振り向くとそこにいたのは顔をお面で隠した二人組。
「…暗部…!」
アスマの呟きにシカマル達も驚く。
存在は勿論知っているがこんなにも近くで見たのは初めてだったからだ。
「……アスマ上忍、ここは我々にお任せください」
「…あ、あぁ!」
「彼女にこれを」
声の高さから男女二名だと言うことが分かり、女性の方が地面に転がっているクマの人形を拾うと迷わずアスマが抱くルカの上に置いた。
本来ならお礼を言って立ち去る所だが、アスマは違和感を覚えた。
「待て。なぜこのクマの人形がルカのものだと分かった?」
女性の暗部は一直線にルカの元に向かった、それも迷うそぶりは一つも見せずに。それがアスマを警戒させるのには十分だった。
熊の人形に感じていたルカ自身のチャクラは今は全く感じられないので、今となれば本当にただの人形だというのに。
女性は一拍子開けて口を開く。
「……。彼女はいつもクマを抱いています。彼女と里ですれ違ったことのある者なら分かりますよ」
果たしてすれ違ただけで彼女がクマを抱いているなどど記憶できるものなのか。里には人がごまんといるのに。
それには勿論アスマも気が付いてる。
「……めんどくせぇが今は最優先にすることがあるんじゃないんすか、アスマ先生」
シカマルはどういう意図があるかは本人にしか分からないが、アスマに先生という敬称をつけない。そんな彼が敬称をつけて促した。
この場の空気を読みながらもめんどくさそうに頭をかきながらポツリと呟やかれた言葉を聞いて、アスマはハッと我に返りルカを見る。
早くルカの治療をしないと本当に危ない。大人よりも子供は脆いのだから。
この際暗部のおかしな点は置いておいて里に急いで帰らなければいけない。
「アスマ上忍」
男性暗部の急がす声にアスマは内心舌打ちするとシカマル達についてくるよう指示をだし、走り出した。
残ったのは暗部二名と地面に転がる四人の抜け忍。
女性暗部は呟いた。
「……ルカ」
*************
里に到着し、病院に運び込まれた次の日にルカは目を覚ました。
視界に入るのは白い天井に独特のにおい。
「……びょう、いん…?」
「ルカ、目が覚めたのね!?」
ルカのかすれた声に気が付き、いのが駆け寄ってくる。寝起きだったのか、目を擦りながらだ。
顔をだけ動かして見たいのの背後には簡易的なベッドがあり、見知った三人が雑魚寝をしていたのだと分かった。
「……いの、ちゃん…?」
「そうよ!それより二人とも、##NAME1##が目を覚ました!」
いのの声に心配で夜通し傍にいて力尽きた様に眠っていたシカマルとチョウジが慌てて駆け寄ってくる。
三人ともルカが目を覚ました事にホッとした様に息を吐いた。
「…ここ、は…」
「木の葉の病院よ!ルカが倒れて敵も倒してから直ぐに木の葉に走って帰ってきたの!」
「……ぁ、……迷惑、かけて、ごめんなさい…」
倒れたあとのことは分からないが、しっかりと病院に運び込まれたのだろう。
よほど金をかけないと個室での入院にはならない筈だが、ルカが目覚めた部屋は個室だった。任務上の怪我となると治療費は賄われるが、それはあくまで最低限の四人部屋の費用しか出ない。誰かが個室にグレードを上げてお金を払ったのだろう。
三人はどう見ても疲労困憊の顔をしている。初めての里外任務に抜忍との戦闘、急いで帰ってきての簡易ベッドでの雑魚寝、疲れが取れないのは無理もない。
あぁ、迷惑をかけてしまったと心が痛み、謝罪の言葉を口にするといのはまた怒りに目をつり上げた。勿論シカマル達の表情も険しい。
「迷惑ってどっちがよ!むしろ私たちがルカにかけたのよ!?…………もう、あんな無茶しないで……」
そう言っていのはルカの手をギュッと握り肩を震わせて泣き出す。
ルカは力が込められている手の温かさに胸が熱くなった。
――あぁ、泣きそうだ。
「ぼ、僕看護婦さん呼んでくる!!」
そんな二人を見ていたチョウジは、目覚めたら呼ぶ様に言われていたのを思い出したのか慌てて部屋を飛び出した。
シカマルは枕元に立つと不器用ながらにルカの頭を撫でた。
「アスマは今上忍としての任務に行ってる。……伝言『守れなくてすまなかった、そして守ってくれてありがとう』だと」
「……!…う、ん……!!」
「すっげぇ心配してたから、帰ってくるまでに少しでも元気になっとけ」
「……分かった」
それからチョウジと共に現れた看護婦たちによってシカマル達は強制退室させられ、ルカは検査後に力尽きて眠りについた。
それからどれぐらいたっただろうか。
横で物音がしたのでルカは目を開けると、そこには見知った彼らがいた。
三人で何か話をしている。
「……アスマせんせー…、ハヤテさん、ゲンマさん……」
「!……起きたのか…!?」
時計の針は二十時過ぎを指している。
アスマは任務を達成して報告を終わらせた後に直行で病院にやってきた。ゲンマとハヤテは心配で仕事が終わったあとに駆け付けている。
「どうだ、体の調子は」
「……大丈夫です、薬が効いているのかほとんど痛みは、ありません」
「……心配かけさせやがって」
「全くです」
ご立腹だと言わんばかりにゲンマとハヤテは大きくため息を吐いた。
下忍になりたての、それも友人どころか師弟としても関わっている子が初の里外任務で病院送りになったと聞いた二人の心中は如何なものか。知らされた時は生きた心地がしなかっただろう。
アスマはルカに怪我をさせてしまったのがどうにも心苦しいのか口を開かない。そのため、その後直ぐに病室は静まりかえった。
十数秒の沈黙の後に先に口を開いたのはルカだった。
「アスマ先生」
「……なんだ?」
「…先生のせいじゃない、ですからね」
急なハプニングではあったが、里の外に出ているのだから襲われても不思議ではない。だからこそ、その状況でどう動くかが上忍としての経験と腕の見せ所だった。
けれど結果アスマは部下であるひよっこの下忍をおいて捕まり、危うく死なせてしまうところだった。ルカはさておき、残りの三人は名家の子供達だ。里に大きな損害をもたらしただろう。
ルカ以外の下忍が咄嗟に動けなかったのは問題ではあったが、少なくとも監督者であるアスマの失態だ。
「……それでも、俺がもっと強かったら…!」
「……これでも、忍の端くれですっ……怪我するのが当たり前です…」
後悔は先に立たずというが、アスマの心境を考えるとそう簡単には切り替えられない。
ルカがゆっくりと首を振るがアスマはそれでも悔やむように首を振った。
「だが……」
「ふふふ……それならこれからもご指導、宜しくお願いします……。それで今回の事は終わりにしましょう。……それに、個室にしてくれたのはアスマ先生ですよね。充分気持ちは受け取りました」
「……ッお前なぁ…」
彼女のアスマに対しての気遣いようにアスマは降参するしかなかった。何とも言えない笑みをアスマはルカに向けるが、ルカは酷く大人びた笑みを見せて小さく頷いた。
個室はアスマが頼んだものだ。ルカが人見知りで、人と関わるのが苦手な事は少しでも彼女と関わると分かる事。だからこそ、お詫びの気持ちも込めてゆっくり休めるようにと個室を用意したのだろう。故に賄われた治療費との差額はアスマのポケットマネーだ。
ルカは痛む体を無視し、起き上がろうとベッドに手を付ける。薬で痛みを消していたとはいえ、動いたら効くものも効かない。
「……いっ」
「馬鹿、動くな!」
「ルカちゃん、貴方は骨を折ってるんですよ。安静にしていなさい」
痛みに顔を歪めるルカを三人は止めるが、ルカは制止を振り切ってベッドに座った。
ハヤテの言う通り、少女は胸を中心に骨を数カ所折っているので止めるのも無理はない。
痛みで表情は硬くぎこちないが、微笑みながらベッドの横に立つ大人達を見る。
「……私、なんだか、今回の事で分かった気がするんです」
「……分かった?」
「人を、守ると言う事と、信じるということを、少しだけ……」
ハヤテとゲンマは聞くことも調べる事もしなかったので本人の言動で何となく、アスマは担当上忍としてルカの育った環境による恐怖を知っていた為、これには少し驚いた。
だがルカは進歩している。少しでも前を向く事が出来れば嬉しく思う。
「……今まで、私は一人で戦ってきました。花さんという居場所に帰る為に……。
今回、私は、アスマ先生に、守られた状態で敵に遭遇しました。
私、花さん以外で初めてだったんです、誰かに守られるの……」
「…………」
「花さんは守ってくれている、小さなころから、今もずっと……。
あの人がいるから私は今生きている……。
けど、本当に赤の他人に、守られているのは初めてで……とても困惑、しました……」
ベッドの上で俯き、両手を握りしめるルカの姿を三人はジッと見つめる。
子供は大人に守られるのが当たり前で、守られていると自覚していなくてもその安全という枠の中でのびのび育つのが子供というものだ。
けれど彼女にはそれがなかった。ずっと死と隣り合わせで、だから強かった。
それは程度の差はあれど事情を知る三人の心をとても強く締め上げた。
「……だから…アスマ先生が捕まった時、とっても怖かったんです。
けれどシカマル君達が傍にいるって思ったら少しだけ安心、しました。
三人は脅えてて、多分初めての状況だっただろうし、それならまだ経験のある……私が戦わないとって思って……」
「……それでお前が前に出た、と」
アスマの脳裏に浮かぶのは、決意を秘めた目で真っ直ぐに敵を見据えていた少女の姿。
友達だといっていた大切なクマの人形を地面に投げた姿。
きっとその姿はこれからもずっと忘れる事はないだろう。
「本当は、水遁も、クマのくーちゃんも、使いたく、なかった……。
使う気は、なかったんです。…理由も、ちゃんとある。
だけど皆を守らないとって思ったあの時は、がむしゃらだった……。
後ろに誰かがいるって、思ったら……私、いつもより頑張れた。
人を守るということは、こんなに凄い事だなんて……初めて知った……!」
振り絞るかのような言葉と共にポタリポタリと涙が彼女の目から落ちていく。
前世では幼馴染を守り、最後にはその幼馴染の手によって命を絶つこととなったルカ。
それはその幼馴染を守りたいと、大切にしたいという気持ちが裏切られたということで……。
けれどそれとは違う何かが今彼女の心にある。
それは生まれ変わって十年以上の年月で芽生えた小さな小さな人を信頼するという光。
「そして私はシカマル君達に守られた…!」
その行為がとても彼女の心に響いた。
「シカマル君達だって怖かったはず。
それなのに、私を助ける為に、沢山、頑張ってくれた……!
私、花さん以外でこんな事してくれるの、初めてだったの……!」
確かにあの時、シカマル達の声も身体も震えていた。
それでも彼女を助ける為に動いた。
状況を打破しようとしたルカに続く事はできなかったが、それでも最悪の事態を回避出来たのは彼らの頑張りによるおかげだろう。
「本当に、嬉しかった…!」
そう言って泣いている彼女の頭をアスマが撫でた。
ゲンマとハヤテも安心したのか少し微笑んでいる。
頭の上の温もりに肩を揺らしたルカはそっと顔をあげると三人と目があった。―ー優しい、優しい、目と。
「それが、仲間なんだ」
「……え…?」
「お前がシカマル達を守りたいと思ったように、シカマル達もお前を守りたいと思った。……何でだと思う?」
その答えは誰もが分かっているが、ルカには答えられない。一人で生きてきたルカには分からない事だった。
それでも答えられずにいるルカをアスマは怒りはせず、笑いもしなかった。
「お前の事が大切だったからだ。お前をつれて里に帰ってくるとき、喧嘩していたはずのいのは泣いてたし、チョウジもシカマルも泣いてはいないものの泣きそうだった」
「……さっき、いのちゃんを泣かせてしまいました…」
ルカを抱いて走るアスマの後ろを三人は一生懸命着いてきた。三人が着いて来る事が出来る速さに足を緩めると三人は「もっと速く!」と声をあげた。
病院へルカを運び込んでストレッチャーに乗って運ばれていったあとは三人とも顔を歪めながらアスマの服を握りしめた。
その時、涙を溢すまいと下唇を噛み締めていたいのは、その後ルカが目覚めてから泣いている。
「だろ?あいつらはお前が自分たちを信頼していないって事に気づいてる。……だがそれでもあいつらはその事をひっくるめてお前を信じてるんだよ。
……だから、な。……もう、いいだろう?疑う事は悪いことじゃない。けど疑いすぎたらお前自身、身を滅ぼすぞ」
「……………」
「…俺の事はさ、…信用しないでいいから、せめてあんなにお前の事を思ったあいつらだけは信じてやってくれないか?」
「………先生……」
アスマはしゃがんで目線をあわせ、寂しそうにルカに笑いかけた。
それは真剣な願いだ。自身の生徒に信じて貰えないのはこれからの事を考えるとやりにくく、それ以前に気分の良い事ではない。
けれどその自分の感情よりシカマル達三人の思いを優先した。
先生なのだから当たり前と言ったら当たり前だがルカにとっては十分だった。
「……っあの、」
「どうした?」
「……わたし、あの……まだこれからも、ちゃんと上手く、接することができないと思います。
……けど…なんて言ったら良いか分からないけれど……私、
一歩前に進みます。
ううん、進みたい。」
「!」
涙を拭いながら屈託のない笑みをルカは浮かべた。
希望に満ちあふれた未来に手を伸ばそうとしている。
三人は彼女の家の事情を最低限にしか知らない。
前世の酷い記憶はお世話になっている花にも話しておらず、すべて彼女がたった一人で背負っている。
過去に起きた両親の裏切りともいえる行為を、同級生からのイジメを、ずっと守ってきた幼馴染に殺されたという事実をこの先絶対忘れる事はないだろう。
「過去は、過去だよね。
私はもうあの子じゃない。……今を生きている」
この世界に自分を殺した幼馴染が実の姉として存在している。
けれど、もう自分を受け入れてくれる人がいる。
花以外で信頼できる人達。
命がけでも守ろうとしてくれる人達。
十分だった。もう前の世界の自分を、あの子を捨てていいだろう。
昔を振り返るのは悪いことじゃない。
けれどルカは囚われすぎていた。
今はこの世界で花さんの孫の水橋ルカとして存在している。
臆病に、なりすぎた。
「……先生、ハヤテさん、ゲンマさん。
私、強くなりたい。
強くなって、仲間を守りたい。
こんな私と仲間になってくれたシカマル君やいのちゃん、チョウジ君を守りたい。
……守りたいから、強くなるよ」
強くなりたい理由が分からなかった。
けれど彼女は仲間を守りたいと思った。
仲間を守りたいという気持ちが分からなかった。
けれど彼女は仲間だといってくれた人たちを大切にしたいと願った。
恐怖はある。裏切られるのも怖い。
けれど彼女は信じたいと思った。
俯きがちだった少女は漸く顔をあげる。
過去の憎悪も恐怖もその身に背負い、全てを拒絶した少女は漸く世界に目を向けた。