彼女は歩きだした。
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「いのちゃん……!これが貴方の望む事の結果だよ…!」
「……っ!」
敵に捕まるアスマとこちらにじりじり寄ってくる敵。
ルカは自身の後ろで恐怖におびえる少女に向かってそう叫んだ。
***********
あれからアスマはルカを連れて宿に帰ったが、状況は何も変わらなかった。
シカマルに説得されたはずであろういのはそれでも納得出来ずにイライラしているし、その態度を見てルカもあまり良く思わなかったのか彼女に何も触れなかった。
はっきり言ってこの部屋に流れる空気は最悪だ。
宿だから風呂もあるが二人は温泉に別々に入りに行き、部屋は二人部屋だったがルカはいっさい部屋には入らず姿を消してしまった。
男子群は心配しどうにかしようとしたがどうすることも出来ず、結局アスマは念の為ルカの側で一夜を明かそうとしたがそれも彼女に拒否され部屋に帰らされた。
ただ何処にいるなどの場所の把握の為、ルカは最悪の状況を除いてその場から動くなという命令を受けている。担当上忍としては下忍一人を輪の外に置いておく事などしたくなかったが、ルカが選んだのは宿のロビーの隅で室内だった事もあり、宿の経営者に頭を下げてロビーの一角を借りる事を許可してもらった。
陽が昇る頃になると何かと理由をつけてリビーに向かうつもりだ。
そしてルカがロビーで一夜を明かし、皆と合流して朝ごはんを食べ、あと里へと帰る事だけとなった。
里への道中は行きと一緒で先頭にいのとチョウジ、真ん中にシカマル、最後尾にルカとアスマが歩いている。
道中、ルカとアスマが話すたびにいのの口から女の子特融の嫌味らしきものが発せられ、それに気を悪くしたルカは一切口を開かなくなりアスマを困らせた。
シカマルはめんどくさそうに欠伸をして空を見上げ、チョウジはいのを気遣いながら何とか喋るが一向にいのは機嫌を悪くさせたままで流石にルカの堪忍袋の緒が切れてしまった。
「……ねちっこい、良い性格してるね」
「なんですって!?」
ルカの独り言とは言い難い大きな独り言を聞いていのは振り向きながら彼女を睨んだ。
「……私が、気に食わないのは良いけど……。そんなに幼馴染に気を遣わせて申し訳ないとか、思わないの……?」
「あんたが言うわけ!?」
「見てて気分悪い」
おろおろといのの横で顔色をうかがうチョウジを横目で見ながらルカはいのを見つめる。アスマはルカの横で顔を手で覆って天を見上げた。どちらかが盛大に爆発する前に里へと帰り、物理的に距離を取らせて仲直りさせる筈だったが一番最悪の形となっている。
「……っじゃあ見なかったらいいじゃない!」
「……そこは行動、改めないんだ」
「うるさいわね!そういうところが友達できない原因なんじゃないの!?」
いのの暴言は確かに間違ってはいないが、暴言な事には変わりない。チョウジやシカマルが二人がかりで止めに行くがやはりいのは止まらない。
放たれた言葉にルカは動かしていた足を止め、ギュッとクマを抱きしめて言った。
アスマの制止の声は聞こえているが両者共にやはり無視だ。
「……昨日から何か勘違いしてるようだから、言っとくけど……私、友達いるよ…?」
「…は!?」
「……勿論人間の友達ね」
脳裏に浮かぶのは二人の特別上忍。つい最近友達になったまだ日の浅い関係ではあるが、師匠と弟子の関係になってからは特に信頼関係が強く結ばれるようになった。
その言葉を聞いていのは傷ついたように茫然としたが、ルカはその変化に気づかない。
「私の事、何も知らないくせに、知ったような口聞かないで」
その言葉はトドメとなり、いのに突き刺さる。顔を歪めて涙は流さまいと下唇を噛み、両手を握りしめたいのは今までで一番大きな声で叫ぼうとした。
「あんたがっ……!」
『あんたが本心を何も話してくれないからじゃない!』
アカデミーの時からずっと下を向いて口を噤み、誰とも交流などしなかったのはルカの方だ。虐めも初期からあったわけではなく、入学当初はそれなりに話しかけようとした子供達はいっぱいいた。いのもそのうちの一人だった。それでも、交流を避けたのはルカの方で――……。
だがその言葉は最後まで続く事はなかった。突然ルカが空を一瞬見つめ、横にいるアスマへと慌てた様に叫んだからだ。それに険しい顔でアスマは返事をする。
「……!?…先生!」
「分かっている!」
いのは勿論シカマル達も二人の豹変に驚いたが、アスマは真剣な顔で先頭を歩いていたいの達の前まで移動するとクナイで飛んできたものを弾き飛ばす。
ルカも片手にクナイを持ってアスマのななめ後ろまで走り寄った。
「アスマ、先生……!」
「ルカ、いの達と共にシカマルがいる所まで下がれ!」
「は、はい……!」
突然の事で動けなくなったいのとチョウジの手を取り指示通りシカマルのいる所まで下がり、ルカは3人を背にクナイを構える。
「出てこい!」
アスマの怒鳴り声と共に数人の忍びが姿を現せた。恐らく彼らがいの達に向かって飛び道具を向けたのだろう。
皆額当てに線が引かれており、それを指すのは一つの事実。
「……抜け忍、か」
「ご名答」
数人の忍は全員里から離れた抜け忍でその中には木の葉の忍もいれば砂の忍もおり、各里から出てでた忍が野党を組んで行動しているみたいだ。
目的は今の所全く分からないが、とにかく命を奪いに来た事だけは分かっている。
「お前らは援護なんてしなくていいからそこで自分の身を守れ!」
戦いにおいて一番厄介なのは「有能な敵」では無く「無能な働き者の味方」だ。今この状況で誰かがアスマと共に戦おうとしても経験と実力が足らずにアスマの足を引っ張り、弱点を増やすだけ。そのため、アスマは一人で戦わざるをえなくなった。
そしてアスマ対抜け忍集団の戦いが始まる。
ルカは一瞬でも気を抜くと命取りとなると分かっている為、敵の忍から目を離さないように神経を張りつめらせ睨むように見つめる。
いの達はほぼ初めてとなる忍同士の命の奪い合いを目にして身体を強張らせた。
常日頃から冷静というか落ち着いているシカマルは流石にこの時は落ち着きをなくし、それでも何とか気を静め物事を処理しようと深呼吸をする。
「ちょ、ちょっとどうするのこれ!?」
「いのちゃん、静かに!……今は武器を持ってできる限り相手から目を逸らさずに状況判断!」
「え、あ、うん!分かった!」
いのがどうしたら良いか分からず他のメンバーを見て叫ぶのでルカが注意する。喧嘩中ではあったが流石にこんな非常事態につっかかってくるはずもなく、指示通りクナイを持って相手を見つめた。
「……っく……!」
相手は複数人、こちらは一人。いくらアスマが守護忍だったという経歴を持とうと不利である事は変わらない。
ツーマセンル、スリーマセンル、基本的に任務は複数人で行う。
だからか、隙を突かれた。
「火遁―炎牢球(えんろうきゅう)の術!」
「しまっ…!」
木の葉の抜け忍が放った術。それは炎の球に相手を閉じ込める術で、閉じ込められたのは勿論上忍のアスマ。
中から壊そうと動くくが壊れず、傍にいて炎に手を当てている術士を炎から放すと解かれる代物らしい。
残ったのは抜け忍四人と下忍になりたての四人の子供。
絶望的な状況となった。
「さぁ、どうしようか」
敵はニヤニヤしながらルカ達に近づく。アスマは「そいつらに手を出すな!」などと叫ぶが勿論聞き入られるわけもなく無視される。
クナイを持って相手を睨みつけるルカは下唇と噛みしめ、後ろにいるもう一人の女の子に向かって言った。
喧嘩の切っ掛けとなったいのの失言について。
************
「……そんな、そんなつもりで…!」
「……だから言ったでしょ…『何かあったらどうするの』……って。……いのちゃん、戦える……?」
「っ……!」
いのはこんなつもりじゃなかった。冗談ではなかったが、こんな事を想定していなかった。いつかは敵国の忍と戦わなければいけなかったが、アカデミー卒業からそれなりに間もなく、Dランク任務も問題なく達成していたから過信をしてしまったのかもしれない。
ルカの言葉に自分の状況を判断するが「無理」としか良い様がなかった。かろうじて座り込んではないが足は恐怖で震えて地面にへばりついており、何をしなければいけないのかも真っ白な頭では考えられない。そして他人が見てもいのを含む子供達の状態は良いとはいえない。
「……無理だよね。怖いよね。……だからこれから自分の力を過信せずに言葉を選ぶこと」
「っご、ごめんなさ……!」
「……うん。……だから、三人とも……下がってて」
泣きながら謝るいのと、ほぼ同じ状況に陥りどうしようかと顔を青くするシカマルとチョウジを置いて、ルカは一歩前に進んだ。
「アスマ、先生が……やられた以上、…私が戦う事になります…!」
「嬢ちゃん、俺達に勝てると思ってるのか?」
「勝てるなんて思ってない」
「ルカ、逃げろ!お前の実力ならなんとか逃げ出せるはずだ!」
アスマは覚悟を決めて立ち向かおうとするルカを見て慌てて叫んだ。が、ルカは首を横に振るう。
そんな少女を抜忍達はせせら笑う。
「……今、この状況で……逃げ出すなんて、無理だと思います……。
例え私が囮になってシカマル君たちを逃がしても……直ぐに私は倒され、シカマル君たちがやられる。
……なら、しなければならないことは一つ……
敵の数を一人でも多く減らしながら、この班の要であるアスマ先生を助ける…!」
そう叫ぶと持っていたクマの人形「くーちゃん」を地面に投げ捨ててクナイを持って相手に走りだした。
くーちゃんはルカの友達で、大切な存在。ただ優先順位を間違うほど少女は愚かではないし、人形なら汚れたり引き裂かれてもまた治せる。
けれど人間はそうもいかないので彼女は勿論人間をとった。大切な友達を投げ捨てたのはただそれだけ。
ルカは心の中でくーちゃんに謝った。
アスマの制止といの達の叫びを無視し、敵と攻防を繰り広げるルカ。
敵はルカをあざ笑うかのように一人しか動かない。
けれど敵が思っている以上に少女は強かった。
「本当は出したくなかったけど…!
『水遁―水飴拿原』!!」
「なっ…!」
ルカの口から勢い良くチャクラを水飴に変えたものが飛び出し、こちらに向かってくる敵の足元に落ちて広がった。それを躱そうにも勢いを付けていたので避ける事も出来ずに踏んでしまい、身動きはとれなくなった。
まさかこんな小娘が性質変化の術を使えると思わず、驚きで目を見開く敵を前に彼女はまた印を組んだ。
「『水遁―鉄砲玉』!」
今度はその身動きが取れなくなった敵に向かって水の玉を噴出し、、それは直撃する。威力が強かったので敵を木の幹に叩きつけることができた。
その場が騒然となる。勿論それは敵だけじゃなく、アスマ達もそうだ。
まさか下忍になったばかりの生徒が、同期が性質変化を意図も容易く使うなんて、と。
そしてまさか抜け忍として生きてきた自分たちのうち一人を手加減をしていたとはいえ、簡単に倒してしまうなんて、と。
「貴様、性質変化の術を使えるなんてただのガキじゃねぇな!」
「……私が、勝てたのは…貴方達の詰めの甘さです…。ガキだからといって、油断していると痛い目みますよ…!」
それを合図に今度はアスマを捕まえている忍以外2人がルカに襲い掛かってきた。
ルカはキッと相手を睨みながらバックステップを踏みながら印を組んだ。
「『水分身の術』!」
出てきたのは二体の水分身、結果オリジナルを含めると三人いることになる。
三人は相手の二人に向かって攻撃を繰り広げた。……が、相手は上忍レベル、こちらは下忍。
誰もが分かっている、適うはずもなかった。
直ぐに水分身は消され、ルカは相手の体術をもろにくらい吹っ飛んで地面に叩きつけられた。
「うぐっ…!」
受け身を取れたがその衝撃にうめき声をあげ、地面に転がる。相手はそんなルカを足で踏んだり蹴った。
顔を歪めるルカを笑い痛めつける忍とそれに便乗しようとするもう一人の忍。
ルカは痛む身体を無視し、叫んだ。
「っし、かまる君…!」
茫然としていたシカマルは突然呼ばれて驚いたが、ルカの意図に気づき彼も印を組む。
「ッ『影真似の術』……!」
シカマルの影が伸び、彼女を蹴っていた男の行動を束縛した。
それに腹を立てたもう一人の男がシカマル達に向かって走り出そうとするが束縛した事により、自由になれたルカが何とか立ち上がり、男に抱きついて邪魔をする。
「っ…行かせない…!」
「邪魔するなぁぁぁ!」
相手は自分を拘束する少女に苛立ち、また彼女を地面にたたきつけ、クナイを振りかざした。憎悪や屈辱が込められた目でルカを睨んでいる。
背中から叩きつけられ、息が出来なくなったルカは虚ろな目で見上げる事しかできない。
「ルカ!」
部下が、仲間が殺される。まだ十三年しか生きていない子供が死ぬ。
アスマ達の焦った声が聞こえたが、ルカは反応が出来ない。
振り下ろされたクナイは地面に転がるルカに向かって刺さる…
はずだった。
「『心転身の術』!」
間一髪、いのが術を発動た。相手の意識を乗っ取る術なので振り上げられたクナイは止まったが相手は腐っても上忍。
シカマルが拘束していた忍もいのが一瞬乗っ取った忍も、直ぐに術を跳ね返し自由となる。上忍相手に使うのに、二人の術はまだあまりにも弱かった。
シカマルはまだしも精神的な術であったいのは返された衝撃により地面に座り込んでしまった。
「こんっの糞餓鬼!」
シカマルに拘束されただでさえ激怒していた忍が地面に横たわる小柄なルカの胸ぐらを掴むと宙に投げ飛ばし、回し蹴りを食らわせた。それは腹に直撃している。
防ぐことも受け身も取ることもできなかったルカの小さな体は先ほどと同じく木にぶちあたり、口から大量の血が飛び出した。
木の幹に背を預け、俯き動かなくなる少女。彼女が戦闘不能になったのは明らかだった。