彼女は歩きだした。
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とある雲一つ無い晴れの日、十班はいつもと変わりなく任務を貰いに行くと火影様よりCランク任務を任された。
敵に狙われる可能性もあるのでCランクとなっており、内容は巻物を近くの町へと運ぶという単純なものだが何もなかったらただの御使いだ。
ルカとめんどくさがり屋のシカマルは眉を寄せたがチョウジといのは初めてのCランクにとても喜んだ。
「じゃあ三十分後に門の前に集合!」
担当上忍であるアスマの指示によりいったんは解散し、荷物の準備をして門の前に集まった。
「Cランク任務、わくわくするね!」
里と里外を仕切る門の前でチョウジは笑いながら言うといのは同意し、シカマルはため息を吐き、ルカはギュッと服を握り眉を寄せた。
門から出て、前をチョウジといのが歩き、シカマルがその一歩後ろを、そしてその後ろをルカとアスマが歩いている。
「どうした、ルカ」
浮かない顔をするルカにアスマは声をかけた。
もともと表情が乏しい子なので分かりにくい異変ではあるが、担当上忍として見過ごすわけにはいかない。
胸の中にいる人形を両手で抱きながら、ルカはアスマをそっと見上げた。
「……いえ、なんだか、嫌な予感がして…」
「嫌な予感?」
「は、はい……。……私の、思い込みだとは思いますが……」
恐る恐る小さく辺りを見渡しながらルカは答える。
「……まぁ、大丈夫だろう。警戒するのは良いことだが、あまり警戒しすぎるのもよくない」
「……そう、ですよね…」
警戒は忍にとっては当たり前の事だが、疑心暗鬼になりすぎるのも良くない。慎重でいるのも良い事だがルカは臆病過ぎる、とアスマは内心小さくため息を吐いた。
前で盛り上がっている二人とは違い、アスマとルカの間に流れる空気は重い。
シカマルは気づかれない程度になんとなく歩みを遅くしてルカ達の話を聞いている。
「お前、あれは持ってきたのか?」
「……はい、一応……。師匠に持っていきなさいと言われたもので…」
ルカは鞄に入っている巻物を鞄越しに触る。
つい先日、ルカは担当上忍であるアスマに特別上忍の月光ハヤテから剣を教わっている事、そして不知火ゲンマからも体術などを教わっているということを話した。
三人で連れ立ってアスマに報告した時、アスマは咥えていた煙草を口から落としてしまう程驚き、そもそも何処で知り合ったのかを聞き出そうと大慌てでルカに詰め寄った。
意味ありげに微笑みながら視線を逸らすハヤテと腹を抱えて笑うゲンマを後ろに、恐る恐る説明をしたルカの話を聞いてアスマはほっと胸をなで下ろしたが、その時「何を想像したんだよ」とアスマはゲンマに足を蹴られている。
アスマ自身とても驚きはしたが良いことだと言って暇があれば##NAME1##達の修行を見学していたので『それ』を持ってきているかを聞いた。
ルカは巻物に剣を入れて持ってきている。
それはあくまでハヤテの私物だがハヤテ自身持っていなさいと半強制的に彼女に持たせた。
彼女自身の剣は彼女が剣を最低限ちゃんと使いこなせるようになってからハヤテがプレゼントする約束なので、今はハヤテが持つ数ある剣の一つを所持している。
「……先生」
「なんだ?」
「いい、天気ですね」
「…そうだな」
クマの人形を抱えながらルカは空を見上げ、アスマはそんな彼女を横目で見て同意した。
それから任務を終えるのに時間はかからなかった。
目的地の町はそんなに遠くはないので直ぐに到着し、アスマが皆を連れて巻物を相手に手渡すと目的は達成されてあとは帰るだけになってしまった。
「なーんかあっけなかったわね」
「そうだね」
これから帰ると夜遅くなってしまうのでの五人は宿をとりその町に泊まる事となった。
いのとチョウジの二人は今回の任務について軽く文句を言い、ルカは隅の方で壁を背もたれに持ってきた本を読み、シカマルは寝転がっている。
そんな四人の姿をアスマは煙草をくわえながら観察していた。
「ルカー」
「……なに…?」
「どう思う?今回の任務?」
「……えっと、それは……どういう意味で…?」
「もう!面白くなかったよね?ルカもそう思うでしょ?」
同意してほしいのかいのはそう投げかけるが、ルカは本を閉じると首を横に振った。
若干眉間に皺が寄っているので少々不機嫌そうだ。
「そうかな?……私は何もなくて嬉しかったけど」
「えー!?」
ルカの言葉に会話に参加していないシカマルとアスマが静かに彼女を見た。
ルカはジッといのを見つめている。
「……だって、みんな戦えないでしょ」
「……それどういう意味?」
「おい」
思い空気に包まれる。
ルカの感情がこもっていない冷たい言葉にいのは不機嫌そうに顔を歪める。
シカマルがめんどくさそうにその空気を咎めるが、とうの本人たちは聞いていないのか誰も反応しない。
「ルカはさぁ、アカデミーでいつも一番か二番だったよね」
いのが少し苛立ったように声を上げたが、それがどうした、とルカは見つめるだけ。
「……それがどうしたの?」
「…私たちが戦えないって、自分より成績が悪かった私達を見下してるの?」
めんどくさいという理由で真面目にテストを受けなかったシカマルという例外はさておき、ルカはトップクラスの成績を残してアカデミーを卒業している。すくなくともここにいる三人よりかは全てにおいて成績に差をあけていた。
それをいのが指摘するとルカの眉間の皺は深くなるばかりだ。
「いの」
「……そういう意味じゃない」
「だってそうじゃない!」
シカマルの咎める声には応えず、いのが立ち上がりながら叫んだ。
チョウジも慌てて立ち上がりいのを鎮めようとしているが言い争いはヒートアップしていく。
これにはシカマルも寝転がるのを止め、アスマも止めようと立ち上がった。
「……何もなくて面白くなかったって、あまりにも不謹慎だよ、いのちゃん」
「なんでよ!やっと里の外に出ての任務なのよ!?」
「……それで、本当に何かあったらどうするの…?」
「何かあっても、頑張ってどうにかすれば「甘いね、いのちゃんは」……何よ」
ルカは鞄に本を仕舞うと立ち上がり、二歩三歩といのに近づいて真っ正面に立った。
じっといのを見つめるルカの瞳は何の感情もうつしていない。
その瞳は何よりも冷たく、いのは怯みながらもギッとルカを睨んだ。
「たとえば、何処かの里の忍に襲われたらどうする……?」
「そうなったら戦えばいいじゃない!」
「……敵が、上忍レベルだったら…?」
「アスマ先生がいるわ!」
「……確かにアスマ先生はいる。……けどもし上忍レベルの敵が複数人現れて、此方側の戦力が上忍一人と最近下忍になったひよっこが四人。……明らかに戦力不足でこちら側がやられるよ?」
「……でも!」
「でもじゃない。例え先生が強くても無傷じゃすまされないし、碌に戦ったことがない私たちがいる時点で足手まとい。……いのちゃんは戦える?相手はこちらを殺すつもりでくるのに、そんな相手と『頑張ってどうにか戦う』だけじゃ勝てるどことか身を守ることもできないよ」
「ッなによ説教して!あんたも足手まといの一人じゃない!」
その言葉にルカはまた深く眉を寄せて何かを言い返そうとしたとき、アスマが間に立ってそれを止めた。
両手を伸ばしていのとルカの両肩を軽く押して間を取らせる。
よろめきながらも下がった二人を交互に見ると、腕を組みながらその言動を咎める為に口を開いた。
「こらこらストップ、ストップ!お前らどちらも言い過ぎだ!」
「だって先生、ルカが…!」
アスマの真剣な顔に怯みながらもいのは声をあげる。
ジッといのをみつめたアスマはいのの頭に手を置くと、目線をあわせて真剣な顔で言い聞かせる様に言った。
「別にルカは間違ったこといってねーぞ」
「っでも……!」
そう、間違ってはいない。いのは軽はずみな発言をしたのだ、それを咎められてもしかたがない。
理想と現実は違う、それをまだ忍としては幼いいのは理解できていないのだ。
「けど、ルカも言い過ぎだな。もうちょっと言い方を考えろ」
「……」
勿論ルカも言い過ぎた。咎めるにしてももっと他に言い方はあっただろうし、いのを焚きつけたのは他でもないルカ自身だ。
アスマがどちらも咎めるといのは嫌そうにそっぽを向き、ルカは俯いた。
そうやって言葉を飲み込むルカの姿に腹をたてたのか、いのはまた叫ぶ。
「そんなんだからアカデミーでも友達一人できないんじゃない!」
「いの、言い過ぎだ」
「人形なんていつも抱えて、馬鹿じゃないの!?」
「おい!」
実際いのの言う通りルカはアカデミーで一人も友人を作る事が出来なかった。俯いて誰にも心を開かない物静かな子供に、同年代がわざわざ自ら関わりに行こうとはしない。逆に「落ちこぼれ」で「何故か」里の大人達に嫌われているうずまきナルトには少なからず友人はいた。辛い思いをしながらも笑う明るい性格のナルトとは決定的に違うのだ。そんなナルトよりもルカは友達がいない。
それが事実とはいえ、それをわざわざ指摘する必要はないのでアスマはまた咎める。
いのもこの現状に興奮して口を滑らせ、火に油を注いでしまった。彼女にとって残酷な言葉がいのの口から発せられてシカマルが珍しく叫んだ。
アスマは何とかフォローをしようとルカへと近づくが、ルカはクマの人形を馬鹿にされたものだからキッといのを睨んだ。例えどれだけ自身を馬鹿にされようとも構わないが、それだけは見逃せない。
「友」を侮辱されて黙っていられるわけがなかった。
「うるさい!口だけは達者ね!足手まといだと自覚しているだけ私はまだマシだと思うけどッ!」
そう叫び、いのを睨み付けながら肩で息をするルカは早足で部屋から出て行った。
いのも両手を握りしめてそっぽを向くと、部屋の出入り口から反対方向の壁に背中を預け、膝をたてながら座ると顔を埋めてモノを言わなくなった。
「……シカマル、頼むぞ」
「……めんどくせー」
静まりかえる部屋でオロオロと心配そうに出入り口といのを交互に見るチョウジに何かを任せるわけにはいかない。
共に場を何とかしようとしたシカマルにアスマはこの場を任せ、面倒くさいと言いながらもシカマルは小さく頷いた。
昼間ですら何が起るか分からないのに夜となるともっと危険だ。痛む頭を無視してアスマは早足でルカを追った。
アスマがルカに追いついたのは宿から少し離れた川の畔だった。
じゃりの上でうずくまっているルカの横にアスマは腰を下ろす。
「……お前は本当に口下手だな」
「………」
「何か起こって皆が傷つくの嫌なんだろ?」
「………」
言葉にはしないが静かに頷くルカ。
そんな彼女を見て、アスマは何とも言いがたい笑みを浮かべた。
ルカは優しい、けれどその物言いで損をしているのが何とも勿体ない。
「…みんなは」
「あ?」
「みんなは、まだ誰かと真正面から争ったことないから、あんな事を言えるのかな……」
名家の子供達だ、ルカが想像できない体験を今までしてきただろう。アスマもそうだが、一般家庭とは違い名家の子供は何かと狙われやすい。
それを分かっている筈なのに何故あのような事を言えるのかルカには理解出来なかった。
「…そうだなぁ…。…あぁお前は昔から戦ってきたもんな」
「…………」
「生きる為に」
膝をたてて座るルカの手にはクナイが握りしめられていた。いつ何時何が起るか分からないので、いつでも動く事が出来るようにしている。
アスマは自分の言葉に反応してクナイをギュッと握りしめたルカの頭をそっと撫でた。
多少の小競り合いはあれど大規模な戦争は起っていないこの現状で、ルカの育ち方は異常だ。
「……知ってるんですか」
「まぁな。担当上忍である以上、生徒の事は知っておかないと」
「…………」
優しい声だ、お前を守ると言わんばかりの声。それがどうにも温かくてルカはゆっくりと顔を上げ、アスマの方を見た。
彼女は泣いていないものの、今にも泣きだしそうなぐらい顔は歪んでいる。
「……先生」
「なんだ」
「……こんな、私でも……これからこの班でやっていけるの、かな…」
大人の友人達が励ましてくれたし、ルカ自身も少しは自信がついて恐れながらも前へと進もうとしている。
けれど今回の事でくじけそうになっている。やっていける自信がない。
班で活動し始めてから少しずつ前を向いて歩いてきたルカがまた昔の様に臆病へとのみこまれていく。
「……どうしてそう思う」
「だって、私の発言が空気をを悪くする…!」
「………」
そしてついに泣き出してしまった。嗚咽と鼻を啜る音が聞こえる。
アスマは撫でていた頭を離してそっと考える様に空を見上げた。一面の星空だ。
「……そうだなぁ…。お前は別に空気を悪くしている事はしてないと思うけど。」
「だって、さっき!」
「あれはお前が正しかった。実力がないうちはいくら任務が簡単でも何か起こってほしいなんて言ったらいけない」
アスマもルカ同様いのの発言には顔を顰めていた。いのの言う通り担当上忍として何かあれば真っ先に戦う気ではあるが、全てを守り切れるかと聞かれても頷ける自信はない。
未来の事なんて分かる筈がない。だからこそ「何も起って欲しくない」のだ。この中で最も強い猿飛アスマはそう思っている。
「お前が言わなければ、俺が言ってたさ。……それにお前の正論はあいつらの成長に繋がる」
「……え?」
「下忍試験の時、お前が皆で協力する事を言いだしたんだろ?」
「!?」
アスマの言葉にルカは小さく驚き、そして思いだした。
アカデミーを卒業した後に行われた試験、その意味に気が付い皆を誘って上忍に立ち向かっていったのはつい最近の話。
まさかあの会話を聞かれていたなんてルカは気が付いていなかった。
「一人犠牲になるなんて馬鹿な事言いだしたのは驚いたが、結局それはいの達のチームに対しての意思を強めたことにもなる」
「……そんなつもりで言ったわけじゃない」
狙っていたのは同士討ちで、チームとしてどう動くかを見ていた。任務達成の為に一人が犠牲になることは間違った事ではないが、たった十年と少ししか生きていない少女がそれを演習で選択するとは夢にも思っていなかった。
彼女が行動しなくてもシカマルが動いたかもしれないが、それでも真っ先に動いたのはルカだった。
ただ、ルカは一人落ちても本気で構わないと思っていたし、アスマが想像しているような事を実行していたわけではない。
「それでも、結果そうなったんだ。…それにお前がいた方がもっとチームが良くなる」
「……」
少女がが何を思ってそういう行動を取ろうとしたかアスマには知る術はないが、行動の末に着いてきた結果は評価するべきだと思っている。
まさかそこまでアスマに思われてるなんて思っていなかった##NAME1##はただただ驚きながらアスマを見つめている。涙など、とうにひっこんだ。
「お前も気が付いていると思うが、この十班は他の班と違って極端に攻撃力が低い」
「……みんなサポートタイプですよね。唯一チョウジ君は攻撃タイプですが、スピードの速い相手は苦手……」
もっと、もっと強くなればその限りではないかもしれないが、根本的にはそうだろう。もって生まれた才能はそう簡単には変わらない、
「そう。だからお前の出番だ」
「え……?」
「いのとシカマルはサポートタイプ。チョウジは二人の動きと指示のもと相手を攻撃する。
けれどチョウジは敵と真正面から戦える程まだ強くないし、とっさの判断ではまだ動けない。
その点お前はスピードはこの班トップで、頭の回転も速い。他の下忍と比べて経験もあるし自分の判断で直ぐに動ける。
お前はまだ下忍だが発展途上中の三人をカバーできるほどの忍だと俺は思っている」
アスマの目にはそう見えた。アスマだけではない、彼以外がそこにいて四人を見てもそう思うだろう。
そういう意味では十班は他のチームより出来上がっているのかもしれない。
「買い被り過ぎです…!」
「そうか?ハヤテとゲンマの二人に修行をつけてもらってるお前を見て思ったんだが」
「………」
自分に自信がないルカは否定をするが、アスマはそれを許さなかった。
ハヤテやゲンマとの修行を見てもルカの力は下忍レベルではない。見学をしているアスマは勿論、ルカと直接向き合っている二人よりそう思っている事だろう。
下忍はどうしても自分の事で精一杯になるし、それを補って導くのが担当上忍の仕事だ。
ルカは性格はさておき、実力だけで言えばアカデミーを卒業して直ぐとは思えない動きをしている。
それを指摘しても、ルカの不安に揺れる瞳は消えない。
「その力で仲間を守れ」
「…仲間を…?」
「シカマルやいの、チョウジだ」
そっと俯くルカをジッと真剣に見つめたが、俯く少女が何を思っているか全く分からない。
彼女の抱える闇は深い。
「……お前は何故そこまで脅える?……お前を脅かすのはなんだ?」
「……ッ」
「人は何かを守りたいと強く願い、行動すれば強くなれるんだぞ」
「……私は別に、強くなりたいわけじゃない…」
ルカが強いのは家庭環境が原因だ。それさえなければ彼女はもっと平凡な少女だっただろう。
戦闘狂ではないし、ただ純粋に鍛えるのが好きというわけではない。
だからこそ「強くなれる」と言われてもルカの心が揺れることはない。
「……そうか」
アスマはルカの頭をガシガシ撫でると、ルカが握るクナイをその手から奪い取って彼女のホルスターに戻した。
宿に帰ろう、と声をかけてルカの手を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
「ゆっくり考えればいい。俺たちは誰もお前を裏切らねぇから」
俯くルカは何も言わなかった。