彼女は歩きだした。
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「ようこそいらっしゃいました。ルカちゃんもお帰り」
「ただいま、花さん」
ルカのただいまの挨拶を聞いてから、年を重ねて皺が目立つお婆さんがにこやかに微笑みを浮かべながら家から出てきた。視界にアスマ達が入ったのか小さく会釈をしてからルカへとまた微笑みかる。ルカは安心したようにお婆さんに笑いかけると元気よく挨拶を返した。
決して弾んだ声ではないが声の高さや纏う空気の柔らかさに、第十班のメンバーは勿論アスマも驚き、内心動揺した。アスマ達をどうこうと言うより、彼女にとってお婆さんはとても大切な人で、絶対的な信頼を向けているという事が痛いほど分かる。
「そちらの方々はうちの子と同じ班のメンバーと担当上忍さんですか?」
「え、えぇ。初めまして、担当上忍の猿飛アスマです。こちらは同じ班のメンバーの右から奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いのです」
家に向かうという事はそこの住人と鉢合わせするのは当たり前の事だ。皆は緊張しながらもアスマの呼ぶ声と共に思い思いに小さく会釈をした。初々しいその姿を見てお婆さんはクスクスと笑うと、深く頭を下げた。
「ご丁寧にありがとうございます。アスマ先生、そして三人とも。はじめまして、私はルカの保護者の花と申します。よろしくね」
「……えっと、こちらこそよろしくお願いします」
少し嬉しそうに笑いながら花は挨拶し、子供たちは代表していのが答えた。横に立っていたルカは花の着物の袖を掴んで引っ張ると少々伺う様に小さな声で話しかけた。
「花さん」
「なぁに?」
「……昼ごはん、作った?」
「いいえ、まだだけど。どうしたの?」
昼食の準備はまだだった様だ。恐る恐る聞いたルカはホッと胸をなで下ろすと、少々照れくさそうに微笑みながら気まずそうに言葉を紡ぐ。
「あのね、…いのちゃん達がお昼ご飯を食べに行くみたいで、私も一緒に行くことになったの。……行ってもいい?」
「!……勿論よ」
不安そうにこれからの予定を伝えると花は驚くが、直ぐに嬉しそうに笑うとルカの頭を撫でた。
花はルカが人見知りが激しく、友達がいないことに関してとても悲しんでいた。アカデミー時代も誰一人として誰かを家に呼んだ事がなかったし、ただ一度たりとも同級生の話もせず、誰かと出かけるということもなかった。そんな彼女が誰かを連れてきたのだ。それもこの先長くやっていく班のメンバーと担当上官を。
こんなにも嬉しい事は無い。
「さて、皆さん。せっかく来てくださったのですからお上がりくださいな」
「あー……お誘いに関してはありがたいのですが、これから昼ごはんを食べにいきますので申し訳ないですが遠慮しておきます」
「……そう、残念ね」
これまでルカの客人は誰も敷居を越える事がなかったので是非ともと花は誘うが、アスマの最もな理由と謝罪に少しだけ落胆をした。仕方が無いが次の機会を願うしかない。
少しだけ寂しそうに笑うとルカの方に向かって持っていた手ぬぐいを渡し、受け取った彼女は首を傾げた。
「ルカちゃん、着替えてらっしゃい。砂が沢山ついてるわ」
「え、でも私だけ着替えるなんて…」
せっかく家まで戻ってきたのだ、一種の親心で着替える様に花は言った。だが皆も汗などで気持ち悪いはずなのに自分だけ着替えるなど申し訳がたたないとルカは首を振る。そんな彼女の心情に気が付いたいのが笑って言った。
「そうよ、花さんの言う通り着替えてらっしゃい」
「…え、でも…」
「私達の中で一番頑張ったのはルカよ?先生と戦った時、地面に背中をつけたじゃない。砂利の上で何度も戦った。私たちはあまり目立った汚れもないし、気にすることない。だからルカは着替えてきて?」
皆頑張ったのは明白だと言うのに、いのはルカにそう言う。確かに肉弾戦を最も行ったのはルカだが、他の三人もそれなりに戦った。勿論花とて困らせたくて言ったわけではない。
「いってこい」
「僕ら待ってるから」
「……す、直ぐに着替えてきます!」
いのだけではなく他のメンバーも何の不満もないのかそう言うのでルカはそっとアスマの方を向くと行って来いと頷く。ここまで気を使ってもらったのだ、これ以上遠慮は出来ないのでルカは一度皆にお辞儀をすると急いで家の中に駆け込んでいった。
花は去っていくルカを見届けると子供たちにに向かって微笑みかける。ルカの服の汚れについて口にしたのは親心もあったが子供達に話しかける為でもあった。
「いのちゃん、シカマル君、チョウジ君。どうかあの子と仲良くしてやってくれないかしら?」
「も、勿論です!」
「同じく」
「仲間ですから!」
言われるまでもないし、そのつもりだったので三人とも当たり前だと言わんばかりに頷く。そんな頼もしい三人に花は嬉しそうに笑い、だが顔を歪めた。
「……あの子ね、とっても人見知りで用心深くて不器用だけど……とっても優しい子なの。そしてとても臆病」
「…………」
「まだまだ心を開くには時間がかかるかもしれないけど、根気よく接してあげてほしいの」
「はい、勿論です!放せと言われても放しません!」
困った様に、けれど切実な願いだと分かるぐらいに歪む花の不安そうな顔は、三人の、特にいのの自信満々の任せて欲しいという笑顔を前に和らいだ。それをアスマが微笑ましそうに眺めている。不安な事も多いが少しだけ安心したのだろう。
「ありがとう。あの子の班の仲間が貴方達みたいな優しい子達で良かったわ」
それは切実な思いだった。悪い子では無い事を花が一番良く知っているが、人と関わる事が多い忍社会の中で上手くやっていけるのかと不安で仕方が無かった。ルカの周りの同年代の子供達が意地悪な子達だと思った事はないが、それでも一際優しくて頼もしい子達で良かったと胸をなで下ろす。
花の目尻に涙を溜めながら言った言葉に子供たちは少し照れたように顔を綻ばせた。
今度はアスマの方を見る。
「先生も宜しくお願いします。」
「えぇ、勿論です」
「……担当上忍さんだから、あの子の事情知ってるのよね?」
「……、はい」
花の深々としたお辞儀にアスマもそっと頭を下げる。続く言葉で両者共に顔を曇らせる。
「あの子、何にも知らないの。私も頑張って育ててきたけど、伝わったのはほんの少し。どうかあの子に色々な事を教えてやってください」
「……はいっ」
彼女の事情。それは出生の秘密と今までの生活環境。アスマもその酷い状態に資料で知った時は眉を寄せたものだ。花の懇願に力強くアスマは頷いた。
「……あの」
「なぁに、アスマ先生」
そして先ほどから気になっていた事をアスマは花に問う。ただ子供たちには聞かれないように幾分が声を小さくしている。好奇心に包まれる目と疑心的な目が子供達から向けられているが気づかないふりだ。
「なぜ結界を張っているのですか?」
ただやはりそのひそひそ話に子供たちも気になったのか、聞きたがっているいのとチョウジをシカマルが止める。大人の内緒話など聞いて得する事などない事をシカマルは知っているからだ。そしてもしかしたらこの違和感にシカマルも気がついているかもしれないが、本人は何も言わないので真相は闇の中。
「これはね、あの子を守るためのものなんです」
「……守る?」
「……えぇ。生まれて間もない赤子を他人に簡単に渡して手放す人たちですよ。……何かしてこないなんて事、ありえないじゃない?」
花の遠回しの返答を聞いてアスマはは彼女の真意に気がつく。アスマ自身も火影の子としてそれなりの苦労をしてきたが、ルカの様な思いはしていない。比べるモノはいても命まで狙われなかった。
何とも悲しくて辛いものだと心を震わせる。そしてあそこまで臆病になるのも無理もないと思った。
「……せめて、安らかに過ごせる場所があってもいいじゃない?ここはあの子のたった一つの帰る場所なんだから」
顔を歪めているアスマに対して花も悲しそうに呟く。それをジッとシカマルは見ていたが素知らぬ顔で欠伸をする。聞こえてはいないが、冷静な彼には色々な世界が見えているのかもしれない。
話が終わって直ぐにルカが現れ、いのの元気な声が響くと同時に二人はそっと家から出てきたルカに微笑みを見せた。
その後は予定通り五人は花の見送りの中で焼き肉屋へと足を向けた。