彼女は歩きだした。
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試験が合格という形で終わり、忍とは何かの話をアスマの口から聞くとお開きとなった。明日から正式な忍になるので皆は真剣に話を聞いていたが、アスマの号令で終わると同時に喜びの声をあげた。忍といえどそういう所は子供だとアスマは煙草を咥えながら笑う。
各々帰り支度を始め、ルカも鞄と一緒に置いて居たくーちゃんを抱き上げてホッとひと息ついた。大切な熊の人形を抱きしめると安心する。
予定より早くに始まったので予定より早くに終わったがもう昼過ぎだった。皆が口々に「お腹空いた」と言葉にする中、ルカもまた空腹のお腹を撫でる。保護者である花が昼食を作ってくれている筈だ。
ルカは皆に軽く挨拶をすると帰路に向かって歩き出した。
「水橋さん!」
が、後ろから話しかけられて立ち止まる。まさか話しかけられるとは思っていなかったルカは肩を揺らすぐらい驚き振り向くと、いのがニッコリ笑いながら駆け寄ってきていた。後ずさりしながらくまの人形を抱きしめる。
「……な、に……?」
「これから皆でご飯食べにいこうって言ってるんだけど、一緒に行かない?勿論先生の奢りよ」
「…………え?」
食事を誘われる事など一度もなかったうえ、上官の奢りとなると驚くのは無理もない。ルカは恐る恐るアスマを見ると、驕る側の彼は苦笑いを浮かべながら頷いていた。誰が言い出したかは分からないが、その苦笑いでアスマ自身ではない事が分かる。
奢りと聞いて申し訳ない気持ちと、本当に自分も行って良いのだろうかという恐怖が胸で渦巻く。
「……でも、私……」
「これからやっていくんだから仲良くしましょ?」
視線を彷徨かせて迷うルカに、いのは人懐っこい笑みを見せながら誘う。姉御肌な彼女らしい言動を前にルカはゴクリとツバを飲んだ。
此処で断るのは簡単かもしれないし、誘いに乗って仲良くするのは大変な事だろう。けれど引っ込み思案な性格のルカを相手に切っ掛けを作ってくれたのだ、仲良くなろうという気持ちを持つべきだろう。決して仲良くしたくないわけではないが、恐いから直ぐに踏ん切りはつかない。
「……その前に……家に寄って良い?」
「勿論!」
おそるおそる、人の顔色をうかがうようにルカは答えたが、いのは気にせず頷いてルカの手を握る。
そしていのに手を引かれながら皆が固まっている場所に向かった。
ルカとアスマ以外の三人は元々外で食べる予定だった様で、家には何も連絡をいれなくてもいいらしい。三人は幼馴染みなのでそういった計画を立てていてもおかしくはなく、そこに奢る側のアスマと同じ班のルカが加わった形だ。
突然の誘いだったので一度家に帰りたいという要望通り、ルカの家に向かっている。先頭はルカといの、その後ろをチョウジとシカマル、最後尾をアスマが歩いていた。
「それでね、ルカ」
口下手なルカはろくに返事が出来ていないが、それでも楽しいらしく、いのはニコニコ笑いながら話を広げていた。女同士、男には分からない何かがあるといのは先程力説している。
演習場を出て直ぐにいのはルカの事を名前で呼ぶ様になり、それでもルカは変わらずに「山中さん」と呼んだら凄い気迫で怒られたので「下の名前+ちゃん」呼びになった。勿論シカマルとチョウジの事も「下の名前+君」と呼ぶようになっている。始めは呼びつけで良いといのは言ったが、ルカは恥ずかしさもあって丁寧に断ったら「つけるほどでもない」といのは言い放った。
シカマルはそんないのに小さく「めんどくせー」と呟きルカも同意する様に小さく頷いたが、見つかったのはシカマルだけで、その後一悶着があったのは言うまでも無い。
アスマside
水橋ルカという少女は実に難しい子だった。
受け持つ下忍の簡単なプロフィールを知る事が出来たが、彼女は平凡のようで平凡ではなかった。そして言い方が悪いがとても不憫な子で、始めての上忍師であるから他の三人にも言えることだが、特に彼女に対してどう接したら良いか考えていたが思いつかず、もう顔合わせの日となった。
教室に四人を迎えに行くと、そこには日ごろお世話になっている人たちの息子や娘、そして異彩を放つ少女がいた。
少女――ルカは一人本を読んでいたらしく、熊の人形を抱えて歩み寄ってきた。場所を移動してもあまり表情は変わらず、周りと一線引いて座る。自己紹介をしたら結局分かったのは将来の夢のみで、けれどその夢は無表情の少女には意外なとても優しい夢。想像していたよりも優しい少女なのかもしれないと思った。
そしてもう一つ気になったのは彼女が抱く熊の人形。ただの人形にしてはおかしい、チャクラが流れる人形。そのチャクラは彼女のものと同じで、多分その熊の人形が武器となるのだろう。
「家族とか、
仲間とか、
お母さんとか、
お父さんとか、
お姉ちゃんとか……
全部全部馬鹿みたい」
そう呟く、親の愛情を知らない彼女はあまりにも寂しそうだった。
************
そしてそれから彼女に対しての意識が変わったのはその次の日の演習前だった。先生である自分が遅れたら示しがつかねぇし、散歩がてら早めに家を出てゆっくり歩いてたらルカに出会った。
「……おはよう、ございます……」
「おう、おはよう」
表情が乏しいし、人見知りなのかあまり何考えてるのか分からないが、ちゃんと目を見て挨拶してくれたのが少し意外だった。けれどあまりお喋りではない彼女は黙々と数歩先を歩いていて、お世辞でも間を流れる空気は良い方ではない。
少しだけ気まずいが、そこは年上でこれから先やっていくのだから俺から話しかけた。
「……ルカ」
「っは、はい」
「お前まだ集合時間の一時間前だぞ」
そう、まだ一時間も前だ。というか正確に言うと一時間以上も前だったりする。だが返ってきた言葉は俺の質問に答えではなく、逆に俺がこの時間にいる事を指摘してきた。
「それは、まぁ……猿飛先生も、人のこと言えない、じゃないですか……」
「……さ、猿飛先生……!?」
驚いた。猿飛先生……そう、呼ばれたのは初めてだ。今まで誰一人としてそう呼んでくる者はいなかった。
「……え、先生は猿飛アスマ先生ですよね……?」
「まぁ……、確かにそうだが……」
「じゃあ……間違ってない」
ルカは何故驚くのかと不思議そうにしている。何と言ったら良いのか分からずに口ごもり、気まずくなって後頭部をかいた。
確かにこいつの言う通り間違ってはいない。……けれどこれは俺の『心の問題』だった。
「なぁルカ」
「なん、ですか……?」
「猿飛じゃなくてアスマって呼んでくれねぇか?」
「……………」
俺はあの人の子供で、ガキの頃は酷くそれに絶望した。それからまぁ……色々あって里から離れ、守護忍十二支になって帰ってきて……。
四人は里に帰ってきてからの初めての生徒。だからこそ、俺は猿飛ではなく、一人の忍、アスマとしてここにいたい。
「……あぁ……そういう事か」
「は?」
ルカが何かに気が付いたのか一人納得した表情になる。
「……親が優秀なら……大変、ですね…」
「っ!」
「まぁ…私には、関係ありません。ね、アスマ先生」
「!」
俺の心情を理解してくれたのか俺の名前を呼んでくれた。微笑みと共に。
始めはどう接したら良いか分からない少女で、言う事は周りに絶望しているかのような事で、けれど誰よりも優しい少女だと言うことが分かった。
それからは驚きの連続だったな。森の中でぽつんとたっている彼女はちゃんとこの試験の意味を理解していて、まぁそれはシカマルにも言えることだが。
逃げる際のあの鷹の軍団の足止めは中々良かった。
それから連携プレーで攻めてきたときのあの子の体術、あれは下忍レベルではなかった。
拳と両足にチャクラを纏わせて攻撃をしかけてくるそれは、防ぐのにチャクラがいる。体術が下忍レベルではないという事より、あのチャクラコントロールが下忍レベルではないからおそらく今年のアカデミー卒業生でトップクラスだろう。
俺を拘束した『草結び』っつー忍術も聞いたことのない術だからオリジナル、一瞬木遁かと疑ってしまった。勿論木遁なんて代物ではないはずだが、……どんな物なのか一度聞いておく必要がある。
それにしても俺が受け持つ十班はバランスがとても良いと思う。
チームの司令塔である奈良シカマル、
その司令塔をサポートする山中いの、
その肉体で攻める秋道チョウジ、
能力が未知数で無数の攻撃方法を持つであろう水橋ルカ。
これから四人と共に行動するのがとても楽しみだ。
そして今、俺は最後尾を歩き四人を観察している。ルカといのは話をしているし、シカマルとチョウジも仲良く話している。ただどう見ても女の子の方はいのが一方的に喋っているとしか思えない。それで問題は起きないかもしれないが、大人しくて引っ込み思案なルカがストレスを感じないといいが……。
「……ここ、です」
ぼーっとしてたらルカが一軒家の前で立ち止まった。そこは少し古風な一軒家で、表札も勿論水橋なので此処だろう。
ルカが先頭になって入り、最後尾の俺が敷居を跨いだ瞬間気が付いた。この家の敷地と外の空気が違う。そして気が付いた。この門から上空、すっぽり家が隠れるようドーム状に結界が張られていることに。
なぜ結界が張られている……?俺は気になって仕方がなかったが、ルカの「ただいま」という声で外へと出てきた婆さんの姿が視界に入ると神経をそちら側に向けた。