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幸せなのは君のせい(♀化。名前響希)

間もなく冬が来ようとしているこの季節、少しの肌寒さを感じながらヤマトは待ち人が来るのを待っていた。
これから年末年始に向けて忙しくなる。新世界になる前よりはその忙しさもましだとは言えたが、それでもヤマトには外せない行事などもある。必然的に会う機会が減ることは目に見えているため、その前にお互い少しでも多くの時間を作るようにしていた。
しかし普段なら時間厳守な彼女が今日は遅れている。まだ連絡を入れるほどではないが、ヤマトは心配になった。連絡をしようかと携帯を取り出そうとした時、一人の男が近づいてきた。ヤマトもふと顔をそちらに向ける。至極真剣な目をした中年の男が、ヤマトをじっと見ていた。男が口を開いた。
「あの、私こういう者ですが、アイドルに興味はありませんか?」
そう言って名刺の様なものを差し出してきた。一瞬何を言われているのかわからずヤマトは反応が遅れた。男は尚も真剣な眼差しで名刺をヤマトに向かって突き出している。
「あの!俺の連れに何かご用ですか?」
男に意識を取られていたヤマトの正面から聞きなれた声が聞こえてヤマトがそちらを向く。
「響希」
ヤマトの声に名刺を突き出していた男が今度は響希を見て目を見開き、今度は響希に向かって先ほどヤマトに向かって言った言葉と同じ事を言った。
「俺たちそういうの興味ないんで!」
「…そうですか。もし興味が出ましたら、ご連絡下さい」
響希がきっぱりと断ると、意外にも男は素直に引き下がった。名刺を渡して行くことは忘れなかったが。
「ごめんね、遅くなって」
「いや、それより何かあったのか?」
何故遅くなったのかをヤマトが問うと、彼女はすまなさそうに言った。
「今朝になって寒かったから服変えてたら、なかなか決まらなくて…ごめんなさい」
「今日は昨日より冷え込んでいるからな。気にするな」
「でも、俺が遅れたせいでヤマト変な人に声かけられたし…」
そう言って響希は先ほどの男に半ば強引に渡された名刺に目をやる。
そこにはそこそこ有名な芸能プロダクションの名前が記されていた。
「ヤマトかっこいいから…」
ぼそぼそと響希が不満そうに呟いている。そういえば、とヤマトは先ほどの出来事を思い起こす。男は確か響希にもアイドルにならないかと問うていなかったか?
「響希、それは私が処分しておく」
そう言うなり彼女の手から名刺を奪い、そのまま捨てるのも憚られる為ポケットに入れた。
それを見た響希はムッと頬を膨らませる。
「連絡、しちゃダメだからね!」
「何故せねばならん」
ヤマトの即答に彼女はホッとしたようだった。
それから二人は以前から響希が見たいと言っていた映画を見た後、昼食を取る為喫茶店へと入っていた。二人とも店のオススメランチを頼み、それを口にしながら映画の感想などを述べ合う。彼女が見たがっていた映画は彼女の好きなうさぎが主人公のものだった。内容はというと、うさぎと人間との些か熾烈過ぎる戦いの末に芽生える友情…といった所だろうか。
「面白かったね」
「まぁ、うさぎが可愛らしいだけで済まない、というところには賛同するがな」
「ヤマトうさぎ飼ったことあるの?」
「まぁな」
「意外だなぁ…」
その「うさぎ」が彼女の事であるとは言わず、口元に笑みを浮かべてヤマトが言えば彼女はその話に興味を持ったようだった。
「どんな子?」
「そうだな…やる事なす事想定外で見ていて飽きないな」
ヤマトがそう答えるのに、彼女は目を輝かせて今もヤマトの家にいるのかと、自分も会ってみたいと言う。
「いや、まだ家にはいない。近いうちに迎えるつもりではいるがな」
ヤマトのその返答に、彼女は不思議そうにしている。ヤマトがフッと笑ってお前の事だと告げれば彼女は顔を真っ赤にしてヤマトを睨んでいる。そんな彼女にヤマトがそっとこう耳打ちした。
「今日は勿論泊まっていけるのだろうな?」
その言葉に彼女はさらに顔を赤くし、うつ向いてただ肯定の意を示した。

ヤマトの私邸へと着き、二人は寛いでいた。
ヤマトの頭は現在響希の膝の上だ。ヤマトの頭を愛しそうに撫でながら彼女が告げる。
「忙しいのに、俺のために時間作ってくれてありがとう」
「何をいう。それはこちらの台詞だ」
そう言って腕を伸ばし彼女の頬を撫でると彼女は目を細めた。
「俺、すごく幸せだよ…」
「私もだ」
ヤマトが言うと彼女は微笑んだ。自分の幸せなど省みなかったヤマトが幸せを感じてくれている事が何より嬉しいと彼女は言う。ヤマトは思う。昔の自分から今の自分は程遠いと。その最たる原因は……
「私が幸せなのはお前がいるからだ。お前がいなければ今の幸せはなかった」
そう真剣な眼差しで伝えれば、彼女もヤマトと同じだと笑った。






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