このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

君と、永遠を。


■ ■
 
「ごめんなさい!」
 これでこの高校に入って何度目かわからない台詞を目の前の男子生徒に言うと私は足早に教室に戻った。
「お、響希、どだった? 上手く行った?」
「うん。ちゃんとごめんなさいしてきたよ」
「そうじゃなくて……」
 項垂れる友達に苦笑で返す。だってこればっかりは仕方がない。付き合ってくれって言われてそう簡単にハイなんて答えられない。
「響希は理想が高すぎるんだよ。何人ふったか言ってみろこらー!」
「ひ、ひひゃいよ……」
 友達に頬を引っ張られ、訴えれば解放された。弱い力とはいえ引っ張られた頬を擦っていると友達が真剣なまなざしでこう言った。
「まだ探してんの? その、痣の相手」
「……うん」
 私の左手薬指の付け根には桜の模様をした痣がある。その痣は彼がつけてくれた大事なもの。彼を探す目印。
「夢に出てくるだけなんだよね? 夢で、ただの偶然できた痣だったら、どうすんの? 響希、いい加減……ごめん」
 私の表情を見た友達は俯いてしまった。
「こっちこそごめん。でも、どうしても探したいんだ」
「……そっか。頑張れ」
 友達が励ましてくれるのに何とか笑顔を返す。今の私はたぶん泣きそうな表情をしていると思う。
 私は小さい頃から同じ人が出てくる夢を見ていた。夢の中でその人と私は常に一緒だった。そして夢の中で次の世も、その次の世もずっと一緒だと約束したのだ。その約束の目印にその人は私と彼との左手の薬指の付け根におそろいの痣をつけた。これを目印にお互いを探そうと彼は言った。彼の名前は何故か思い出せないが、銀の髪に美しい顔をした背の高い気高い魂を持った人だった。
 その夢を見続けていた為か、物心つく頃には私は彼を探していた。それは買い物をしている街の中だったり、図書館に行った時だったり。当然学校は調べがついている。結果は言わずもがな。それがあるから私は誰に告白されようと心が動くことはなかったし、彼以外の人に心が動くこともなかった。私の心が躍るのは、何時も夢の中だけだった。彼は今、どこにいるんだろうか? そんなことに思いをはせているとふと友達がこんなことを言った。
「そう言えば、今度の新入生の中に、超美形がいるらしいよ。その辺の芸能人よりかっこいいとか! 響希も見に行かない?」
「女の子?」
 私に話を振るから女の子だと思ったら男の子らしい。途端に私の興味が失せたのが自分でもわかった。私には彼しかいないのだ。だから、どんなに美形だろうがかっこよかろうが、関係のない話だ。友達には申し訳ないが、その誘いに断りを入れると私は日課となっている図書室へと向かった。

 図書室へ行くと誰もいなかった。丁度いいと私は読みかけていた本を片手に窓際のお気に入りの席へと座った。ここは桜の木が良く見えて、時折その花びらが舞い込んでくる。
桜の木は好きだった。夢の中の私も桜の木を愛していたが、今は彼をよく思い出すことが出来て、桜の木を見ていると彼と交わした誓いが本当になるような気がして好きだった。
 彼を思い出しながら本のページをめくる。そう言えば夢の中の彼もよく窓際で書物を捲っていた。本を読み進めていたのだが、どうにもいつもより彼の事が脳裏にちらついて集中できない。告白なんてされたからだろうか? それに近頃涙腺も緩み始めている。夢から覚めると私はいつも泣いていた。どうして今私は彼の傍に居ないんだろうと。そんな事ばかり考えてしまうのだ。こんなことではいけない。もう今日は帰ろう。そう思った時、ふと低い声がした。
「隣に座ってもいいか?」
「え? いいですけど……っ!」
 私が見上げた先に居たのは銀髪に美しい顔立ちをした夢の中の彼によく似た男子生徒だった。思わず私が息を飲んだのに、彼は気づかないのかただ単によく似た誰かだったのか、彼はそのまま私の隣に座った。
 誰も居ない図書室で、何故わざわざ隣に座ったのだろうか? それにしてもさっき見た彼の顔は夢の中の彼と瓜二つだった。これで、もし左手薬指におそろいの痣があれば……。私はドキドキしながら彼の左手を見ようとしたのだが、彼は何故か本を持っていない。それに腕を組んでどうやらこちらの様子をうかがっている様だった。
「あの、何か?」
 彼も私を見て何か思うところがあるのかもしれないと思い、探りを入れてみることにした。返って来たのは……
「いや、愛らしいと思ってな」
「あ、あいらしいって?!」
 私が思わず声を裏返すのに、彼はククッと笑いをこらえている。その様子がなんだか腹立たしくて、私は思わず席を立った。その手を彼が咄嗟に掴む。
「どこへ行く」
「どこって、帰るんですけど!」
 だから離してください。そう付け加えると彼は私に向かって微笑んでこう言った。
「お前がこんな事で怒るとはな。以前の世では、怒った姿などそう見ていなかったから新鮮ではあるがな」
「い、ま、なんて……」
 以前の世、確かに彼はそう言ったし、まるで私の事を知っているかのような口ぶりだ。
「響希、漸く会えた。ずっと探していた」
「あ……あなたが、夢の……ほんとに……?」
 私が呆然としていると彼は立ち上がり、私を抱きしめた。
「大和だ。峰津院大和。私はお前の名を忘れた日などないと言うのに、お前は忘れるとはどういう事だ」
「ごめ、なさ……やま……」
 泣きながら謝る私の背を彼は優しく撫でてくれる。
 暫くそうしていたが、私の涙も落ち着き、再び二人で席に着いた。
「でもどうして私がここにいるってわかったの?」
「ああ、お前の学友とやらから聞きだした。今の時間なら、図書室にいるだろうと」
「それもだけど……って大和何年生?」
「一年だな。先日入学したばかりだ」
 詳しく聞けば大和は高校を受験する際に志望校をギリギリまで出さず、私と同じ名前の女子生徒がいる高校を見つけるまで探し続けていたらしい。それで見つけたのがこの学校だったのだそうだ。
「でも同姓同名だったらどうしたの?」
「その時は、その他で調べられる方法で探していたな。残念ながら、今生の私はただの一般家庭の出なのでな。そうそう高校を中退などできん」
 だから見つけられて良かったと大和はそう言った。それにまた目から涙があふれてくる。それを大和が拭ってくれるのが嬉しくて。
「泣いている顔より、笑っている顔の方が好きだぞ?」
「ご、ごめん、勝手に、あふれて……」
 私が涙を止めようと必死になっているとふと大和の顔が近づいてきた。どうしたのかと思ったら、そのまま口づけられてあの時のように一気に涙が止まった。
「大和……今……」
「漸く泣き止んだな」
 そう言って微笑むと大和は私の左手を取り、その薬指に口づけた。そしてヤマトは彼の左手を私の前に差し出した。その左手薬指には私と同じ桜の痣。前にやった事をやれという事だろう。前と同じく恥ずかしかったが、大和の薬指の付け根の痣にキスをした。
「これからは、今生でも共に生きてくれるな?」
「もちろんだよ。大和」
「ではこのままあの桜の下での誓いも立てよう」
「それもいいけど、どうせならこの世ではちゃんと結婚式したいなぁ、なんて。前の世界では私死んじゃってたから、正式には出来なかったでしょ?」
 私の言葉に大和は少し考え込んだ後こう言った。
「わかった。お前が望むのならば、今はこの言葉だけお前に贈ろう」


「今生でも来世でも、共に永遠を生きよう」



                    
                            
 END
4/4ページ
スキ