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君と、永遠を。

『ごめんね……やまと……わたしは、もう……』
『ひびき! しっかりしろ! お前は私の妻となるのだ! このようなところで……このような……』
『ほんとうに……ごめん、ね……やまとに会えて……やまとと、いられて…わたし、しあわせだったよ……』
『ひびき……死なせはしない……こんな……こんな別れかたなど、認めない!』

桜舞い散る春の日、私は死んだ。

「丑寅の方向に敵十!」
「任せられるか?」
主の言葉に私は頷きその方向へと意識を飛ばした。私が意識を飛ばせば一瞬で体ごと目的地へとたどり着く。目の前には先ほど気配を感じ取った敵の姿。私と私を使う主の敵、それはこの世界の淀み。いや、この世界に住まう人間が産み出した穢れだ。穢れは人の形をとっていることからもそれが如実に表れている。今目の前に居るのは大した力も持っていないが、強い欲を受けた穢れともなるとそれに伴い強い力を持つことは勿論、意志すら持っていたりするのだから侮れない。
私は眼前の穢れへと自らが持つ力の1つであり、最も強い水の力を放つ。その水流に何体かは飲まれ、浄化されてゆくが、残った穢れには水の耐性があるのだろう。敵である穢れは人間の様々な欲を力の源として、泥のような力を浴びせてきた。私はそれを避け、今度は火の力を彼らに放った。それでも残った穢れにも風の力をぶつけ全ての浄化に成功した。因みに残る地の力は彼らには効かない。彼らが泥のような力を使うせいなのか、それとも他に何か理由があるのか、現段階では私は勿論、私を使う主にもわかっていない。
ひとまず無事任務を終えた私は私の主の元へと意識を飛ばした。
「怪我は?」
「ないよ。私の怪我より穢れの浄化の結果を聞かないとまた怒られるよ、大和?」
私が戻るなりそういう主に嬉しさを隠しつつも使命を忘れるなと指摘すれば彼は不敵に笑んでこう言った。
「お前の力をもってすればあの程度、問題なかろう」
「のわりに怪我の心配はするんだね?」
私の言葉に主はそっぽを向いてしまった。これは少しいじめすぎたかな?
私の主は名を峰津院大和という。彼との縁は彼が産まれた時まで遡る。
彼との縁。それは彼が産まれた年から始まった。それは私が産まれた一年後で、その時私は彼の婚約者となることが決まった。
幼い頃から婚約者が居る、なんていうのはこの世界ではよくあることだった。それを不服に思う人間も多いと聞くが、私と大和は相性も良かったのかお互いを婚約者とすることを不服とは思わなかったし、お互いにお互い以外にはいないと思っていた。だけどそう上手くは行かなかった。私は元々体が弱く、歳をとるにつれ床に伏せることが多くなっていた。それ故大和の家は私との縁談を破棄しようとしたらしいが、大和はそれを認めなかった。認めなかった彼は最後まで私の側にいて、そして私は七歳の時、彼に看取られ死んだ。
私の死を認めなかった大和は私の魂を大和の持つ宝玉に閉じ込めた。大和はこの世界の穢れを払う使命を帯びた一族の人間で、彼には幼い頃から強い力があった。私の魂を閉じ込めた宝玉は力の行使に用いる為の物で、いずれそこに強い神様の力の一部を封じ込め、使役するためのものだったらしい。幼い大和はまだ神様との契約を結んでおらず、宝玉はただの入れ物でしかなかった。そこに大和は私の魂を入れたのだ。どうやったのか方法は企業秘密だとかで教えてくれないが、幼かった彼は何の迷いもせずにただの人間の魂をそんな大事な物の中に入れてしまったのだ。その為に大和の家ではその後大騒ぎになった。それがなんとか鎮まったのは何故か私の魂がこの世界の四大要素の地・風・火・水全ての力を封じていた為だった。私が力を備えていた為、それを利用することで大和の家は大和を許した。
 因みに宝玉に入れられた私はというとその騒ぎをただ横目で見ていた。そう。全て見ていたのだ。どういう事かというと、私は大和の様な力のある存在にだけ見える幽霊の様なものとして存在している。大和曰くそれが式神だというが、そちらの方の知識がなかった私としては、当時私は幽霊になってしまったのだと慌ててしまった。
『全く。クズが』
 廊下を歩く大和はひどく苛々した様子で幽霊になった私に話しかけてくる。他の人には私が見えていないから、他の人には大和は一人で話しているように見えるだろう。
『大和のおうちの人、怒ってるね……』
 大和の後ろを少し浮かんでついていきながら、先程の様子を思い出す。大和のおうちの人、というかお父さんは大和が大事な宝玉に私の魂を入れてしまった事をすごく怒っていた。勘当こそされなかったが、家業の事が無ければそうしていたのではないかというくらいだった。だけど大和は自分のしたことを全く反省していない。それどころかお父さんの神経を逆なでするような事ばかり言っていた気がする。それで暫く顔を見せるなと部屋を追い出されたのがつい先ほどの事だ。
『お前が優秀だという事に気づかんらしい。全く、腹立たしい』
『その事なんだけど、私これからどうなるの?』
 大和が尚もお父さんに不満をぶつけるのに、そういえばこれから私はどうなるんだろうと浮いている自分の足を見つめ問いかけた。
『響希、私の式神となってくれ。私が死ぬその時まで』
『式神、って大和のお父さんが使う神様の力でしょ? そんなの、私にはなれっこないよ』
 私の言葉に大和は静かに首を振った。
『お前には力がある。私にはわかる。それに、私はお前を一人逝かせたくはない。……共にいて欲しい』
『でも……』
『一人にしない。私が逝く時、お前も連れて行く。今生でも来世でも、共に。共に、永遠を……』
 生きよう。桜が舞い散る中、そう言われた私は大和と共に歩む道を選んだのだった。
 その後大和の言うように私の力が大和の手によって証明され、それから大和の家も文句をいう事はなく、私は大和の式神としての生活を送っている。
式神になっても身体は成長するらしく、あれから十一年経っているから年齢としては十八だ。式神に年齢なんてあるのかは知らないが、大和は毎年私の誕生日になると祝ってくれるし、私もまた毎年大和の誕生日を祝っている。その為大和が大きくなるのに私は小さいままという不具合は起こらず、私と大和は主と式神になっても変わらず共に成長している。幼い頃は美少女かと見間違う程だった大和も今では背も浮いている私より高く、美人なのは相変わらずだが、やはり格好良くなったと思う。そんな大和は十七になり、当然のごとく縁談の話も上がってくるが、全て大和が蹴っている。大和曰く私以外を娶る気はないらしい。それを嬉しく思いつつも、申し訳なくなってしまう。特に大和の父親に見られながらそこにいるのは亡霊だと言われる度に。その話になると大和は途端に怒りを露わにし、私の力ではなく自らの力だけで父親を打ち負かして話を終わらせてしまうのだが。
『大和、お父さんのいう事も一理あるよ……?』
 これで二度目になるか、自らの力で父親を打ち負かし、怒りを鎮めるように自室で書物を捲る大和に恐る恐る思っていたことを口にした。途端に彼は私を睨んでこう言った。
『お前までその様な事を言うのか! お前は、お前までもが、私がお前以外を娶ってもいいと言うのか?!』
 正直言うとそれは嫌だった。もし大和が他の女の人と結婚するようになっても、式神である私は大和から離れられない。傍で大和が、私の大好きな人が他の人と居るのを見ていなければならないのだ。それが耐えられるほど私は出来ていない。だけど大和のお父さんのいう事もわかるのだ。大和はこの家の嫡子。そして大和の家はこの世界の穢れを払う使命を負っている。大和が次の世に繋がなければ、この家は途絶えてしまうのだ。大和が娶る、いや、彼としてはもう娶っているのだろう私は式神となってしまった。当然子供を産むことも、彼と繋がる事も出来ない。今の私にできるのは、彼の手足となってこの世界の穢れを祓う事だけだった。
『大和、私はもう大和と繋がる事も、子供を産んであげる事も出来ないんだよ? 私にできるのは、穢れを祓う事だけ……だから……』
『私は、お前さえ居てくれればそれでいい』
『大和……』
 読んでいた書物を机に置いた大和は実際には触れない私の手に触れるようにこう続けた。
『この生業も、子も、どうでもいい。そもそもこの家が途絶えようと、同じ業種の家はたくさんある』
 そうでなければ今頃この世界は穢れだらけだと大和は言う。
『響希、お前はここにいる。共に永遠を生きよう。そう約束しただろう? あのクズの言う事など、気にするな』
 そう言う大和の瞳は一切の迷いなどなく、そしてそこには確固たる覚悟がうかがえた。だから私はその後からその事に関して何も言えなくなってしまった。それが二年前だった。
 そして現在、私の返しにそっぽを向いてしまった大和の前へと移動し、私は微笑んだ。
「大和が心配してくれるのは私が大事だからだよね? ごめんね」
「……わかればいい」
 私の言葉に機嫌を戻した大和に先程の穢れの報告をする。今回も意志を持たぬ穢れであった事、いつものように地以外の力で浄化したことを告げると彼は考え込んだ。
「どうしたの? 何か心配事?」
「……近頃の穢れの発生回数について考えていた」
 大和が言うには最近減っているような気がすると。
「そう言えば、減ってるような……? でも減ってるのなら良い事じゃないの?」
 穢れとは人間の欲なのだから、それが減るのは良い事なのではないか? そう言えば大和は首を振った。
「いや、人間の欲であるからこそ、減っているのが気になる。人間の欲が減る事など、無いのだからな」
「じゃあこの後意志を持った穢れが現れる、って事?」
 それはちょっと勘弁願いたい。そう思い問えば大和は同じ業種の者からも情報を得るとだけ告げ、父親の元へと報告に行くと部屋を出て行った。大和が父親の元へと報告に行くときは私は大和の部屋にお留守番だ。大和は大和の父親が私を亡霊と呼ぶことを大変嫌う。そして大和の父親は私が目障りなのだろう、私の姿を目撃するたびに亡霊と呼ぶ。それを避けるためのお留守番だった。
 そして一人残された部屋で先程の話を思い出す。人間の欲についてだ。確かに人間の欲は尽きる事が無い。それゆえそれを力の源としている穢れは無限に発生しては悪事をなす。力の無い穢れ程度ならばそう問題はなく、ある程度祓えば問題はないのだが、その集合体や、一つの強い欲から現れた意志を持つほどの強い穢れとなれば話は違う。それらは天候を操ったり、戦争や疫病を起こす力すら持っている。
あれは七年程前だっただろうか、穢れの発生が目に見えて減ったが、人間の欲は溜まっており、後にそれを爆発させたかの様にそれらが一つの塊となって具現化したのだ。それは意志を持っており、名を毅氏と言った。毅氏はある特定の人物を狙っていた。その人物は当時の領主で、どうやらその欲の主なものは住民の領主に対する怒りだったらしい。当時の領主は住民から重い税を取りたて、それを住民の生活に使う事などなく私欲の為に使っていた。その為当時は貧困で喘ぐ人が後を絶たず、近々大きな問題になるのではとこの業界でも問題視されていた。
 その毅氏は当時の主力の祓い師の力などものともしない強力な力を持っており、当時やっと見習いから一人前と認められたばかりの大和の元へも出動命令が下されたのだ。当然式神である私が前線に赴いた。前線で私が見た毅氏は、二十代後半の男性の姿をしており、その身には鎧を纏い、殺気を放っていた。周りの式神が攻撃を続ける中、私はその毅氏に話しかけてみた。何とか怒りを鎮められないか、説得できないかと思ったのだ。
『毅氏さん、領主を殺しても、問題は解決しません。次の領主がまた同じことをしないとは限らないんです。だから、ここは一度話を……』
『……お前に何が分かる。俺たちの苦しみが、痛みが、お前にわかるはずもない!!』
『確かに、私は式神です。生きている人の苦しみは、私にはもうわからない。でもあなたと話は出来ます。だから……』
 私の言葉に毅氏は私を睨んでこう言った。
『話し合い、だと? ああ、話し合ったさ。話し合ったが故にこうなったのだ! 話し合い、我らの力を一つにしようと!』
 毅氏の言葉にこの毅氏が自然発生ではなく、欲同士が同調し合って集合したのだと改めて突き付けられた。当時の私は意志を持った穢れと会うのは当然初めてで、意志を持つのならば話し合いもできるのではないか、そんな甘い事を考えていたのだ。後で大和に話したら、甘すぎると怒られてしまった。そんな私はそのまま毅氏の攻撃を直に浴び、消えかかる重傷を負った。目を開けた時に見た大和の顔が泣いているようで、まるであの時の、あの桜が散るあの日の涙を思い出すようで今でも忘れられない。
 後で話を聞いたところによると、毅氏は私が倒れた後、私を回収した大和が消滅させたらしい。消滅、という通り、祓うのではなく言葉通りの意味だ。そのせいで暫く住民は抜け殻状態となり、大和は父親に大目玉を食らい二週間の謹慎処分を受けた。それで済んだのは祓い師の集まりで、あの毅氏という穢れが大和が消滅させなければ領主を殺し、その後にこの世界をその怒りで覆いつくし、そうなれば手遅れになっていただろうという結論に至ったからだ。あの時は祓うという手段では収められない程の怒りに成長していた、という事になる。大和曰く消滅も、一人前の祓い師ではなく見習いが取れたばかりの者がやった事ならば、他の業界にも話が通しやすいから都合がいい、という事らしい。謹慎処分を受けながら私にそう話してくれた。それからその期間私は大和に過剰に心配され、それと共に非常に怒られたのだった。私が再び式神として働いていいと大和から許可が下りたのはそれから暫く経ってのことだった。
 そんな事があったのを覚えているので、大和の意志を持つ穢れが現れるかもしれないという予想は外れて欲しいのが本音だ。
 そんな事をつらつらと思い出していると大和が帰って来た。どうやら大和の父親も穢れの減少に気づいているようで、事が起こる前に街に異変が無いか大和に調査に行くように指示したらしい。
「街に行くのなら、私はお留守番の方が良いよね」
 調査ならば式神である私も勿論同行すべきなのだが、大和は普通の人には見えない私と話す事に人目を気にしない。大和の強い力と、一人で話しているように見えてしまう事から大和は家の人間にも畏怖と異端の目で見られている。普通の祓い師は式神と会話することはないし出来ないらしい。だからか私と話す大和は大和の家の人から見ても異端児なのだ。大きく態度に出すことは無いが、視線がそれを訴えているのが私でもわかる。それ故大和は必要時以外の外出を嫌う。一人前となった現在の祓い業も大和の自室から私が穢れの気配を感じ、大和の指示の元穢れの元へと向かい、祓うのが常だ。大和の父親も祓い業を行っているためか、私の姿を見たくない為かそれに文句をいう事もなかった。
 そんな大和が街へ行くという。それに私が付いていけば当然街の人には私は見えない。大和と会話せず調査を終えるというのは難しいだろう。だが会話をすれば街の人にまで大和は変わり者に見られ、調査も難しくなってしまうかもしれない。それに私は大和が私のせいでそんな目で見られるのが嫌だった。それ故の提案だったのだが、大和は私を見るとこう言った。
「何を言っている。穢れの調査に式神のお前が来なくてどうする」
「だよね……」
「それに、だな。街に出るのはあの時以来だろう? 今なら桜も見頃だ。庭の桜でもお前は喜んでいるが、あの時の、外で初めて満開の桜を見たお前の笑顔は格別だった。私はそれが見たい。駄目か?」
 小さい頃、私がまだ生きていた頃、二人でお屋敷を抜け出して街へと繰り出し、この街で一番大きな桜の木を見に行った。その桜は満開で、その木の下で私たちはずっと一緒にいよう。そう約束したのだ。大和がその事を覚えてくれていたことがとても嬉しく、その提案を断ることなどできなかった。

「現在の領主は模範的なほど優秀だと名高い。市民の様子にも異変はなさそうだが、響希、お前はどう思う?」
「……」
「響希?」
 私の方を見て問いかけてくる大和に返せない。ここは街の中。誰もいない場所に向かって話しかけている大和をすれ違う人が奇怪な者を見る目で通り過ぎていく。そんな状態で会話を続けたら大和はもう街を出歩けないかもしれない。そう思うと会話をすることがはばかられた。そんな私の様子に気づいたのか大和は私の返答を待たずに先に進んでいく。それに私はただついて行った。
 街の様子は活気もあり、福祉や衛生の面でも問題はないようだった。道行く人はそれなりにおしゃれをしたりして着飾る余裕もあるようだ。これも領主の手腕の結果なのだろう。
 ふとすれ違った女性の着物が綺麗な桜模様で私の目を奪った。おしゃれなんて産まれてからも、式神になってからもしたことが無いから羨ましいなぁなんて思ってしまった。小さい頃は親が用意した着物を着せられていたし、式神となった今はどういう理屈になっているのかはわからないが成長と共にそのサイズが変わる大和が言うには巫女さんという神様に仕える者の着物を着ている。その巫女服でも文句はないのだが、さっき見たような綺麗な着物を着てみたかったなぁとも思ってしまうのだ。
「どうした?」
 私が振り返ってまでその着物の女性を見ていたことに気づいたのか大和が問いかけてくるのに首を振ることで答える。大和の部屋でならだれもいないから着物が綺麗だったと素直に言えるがここは外。無駄話なんてしたら大和がどんな目で見られるか。それにここには調査で来ているのだ。私は大和の横に移動し先を指さし調査を再開するよう訴えた。大和にもそれが伝わったのか大和は黙って調査を続けた。

 半日街を歩き調査をしたが、以前のように住民に強い不満がたまっている様子はなかった。大和もそう判断したのか足を街はずれへと向かわせたので私もそれについて行った。
 街はずれの小高い丘の上に一本の大きな桜が咲いていた。満開で、あの時と変わらない姿に私は桜の木に近寄りその根元へと向かった。
「綺麗……」
「変わらんな、ここは」
 大和が言うのに頷く。すると大和はしかめっ面でこう言った。
「響希、ここは誰もいない。いい加減話したらどうだ」
 そう言われ辺りを見回せば確かに誰もいない。それに気づいた私は口を開いた。
「ごめんね。街だと大和が変な人に思われるんじゃないかと思って」
「私は気にしないが、お前がそれを嫌う事は知っている。故に黙ってはいたが、せめてここでは話せ。いいな?」
 大和の言葉に頷くと話せと言っただろうと言われてしまい、思わず笑ってしまった。
「やっぱり綺麗だね、この桜」
「そうだな」
「あの時はすっごく大きく感じてた。今でも大きいと思うけど、私たちが変わったって事かな?」
「確かに成長はしたが、変わらないものもあるだろう?」
 大和の言葉に木の事かと問えば違うと返ってきた。
「私たちが共に居るという事だ。あの時の誓い、覚えているか?」
「……覚えてるよ。ずっと一緒に居ようって指切りした」
「誓いの口づけもしただろう」
「そ、それもしたけど……」
 大和が少し機嫌悪そうにそう言うのに、その事は恥ずかしかったから言わないでおいたのにと訴えると肝心な事を恥ずかしがるなと怒られてしまった。幼いながらもあの時はこれでずっと一緒にいられるのだと、そう信じて誓いを交わした。今も一緒にいるのだけれど、生きて一緒に居たかったな、そう思ってしまう。
「ごめんね、大和。約束、半分しか守れなかった」
「どういう意味だ?」
 私は死んでしまったから。そう伝えれば大和はこう言った。
「そんな事はない。今もお前はここに居て、私が死んだ後は当然お前も連れて行くし、そして来世でも、その次でも、どの世でも私たちは一緒だ」
 そう言ってくれる大和の瞳は強く、それが本当に叶うのではないかと思ってしまう。そうなれば、どんなに良いか。そうなれば、どんなに幸せか。
「……不安なら、再度誓いを立てるか?」
「え……?」
 そう言って大和は小指を出した。私は戸惑いながら触れることもできないその指に自分の指を絡ませた。
「私、峰津院大和は響希だけを生涯の伴侶とし、この先の生でも響希のみを伴侶とすることを誓う」
「わ、私も、大和だけを生涯の伴侶とし、この先の生でも大和のみを伴侶とすることを誓います」
 私の言葉を確認すると大和は触れることは出来ない私の唇に自らの唇を重ねた。
「……な、なんか恥ずかしい……」
「神聖なる誓いだぞ、何が恥ずかしいのだ」
 顔を赤くする私に大和は不満そうだ。
「ご、ごめんね。なんか、結婚式みたいだな、って思って」
「あの時誓いを立てた時点から私はお前を娶ったつもりでいたのだが、お前は違っていたのか?」
 小さい頃に立てた誓い。私にとってはこうなったらいいな、という約束のようなものだったのだが、大和にとってはもはや結婚式だったらしい。私は大和に嫁ぐ予定だったしそうするつもりだったが、あの時点ではまだ違っていた。思わず視線を彷徨わせてしまった私を大和が睨んでいる。
「ごめんなさい! だって小さかったし、まさかほんとに結婚式のつもりだったとは思わなくて!」
「……あの頃の事はもういい。では先程の誓いは二回目の結婚式という事でいいな?」
「うん。それは、いいんだけど……」
「どうした?」
 結婚式だというのなら、折角なら、私もこれが結婚式だぞという心持で挑みたかったのだ。結婚式は何度もするものじゃないんだけどもう一度をお願いしてみた。
「ハハッ、良いぞ、お前との誓いなら、何度でも立ててやる」
 大和が笑い、もう一度誓いを立てた私たちは三度目の結婚式をしたのだった。
「今日ここに来られて良かった。大和と、また誓いを、今度こそちゃんと結婚式を挙げられたんだもんね」
 大和に向かって笑えば大和は目を見開いた後微笑んだ。
「結婚は既にしていたつもりだったが、再度誓いを立てられたのはいい機会だった。それに、お前のその笑顔がまた見られた。それが私は嬉しい」
 大和がそう言うと風が吹き、桜が舞い散る。桜が舞い散る中微笑む大和は美しく、私はしばし見とれてしまったのだった。

 
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