SYNERGY[啓介]
Name chenge
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3.県内遠征開始2
【ヒルクライムスタート地点】
「宮さん! なんで、あんなドライバーの言いなりにセッティングするの!? メカニックは言われたことだけ調整する仕事じゃないでしょう!?」
レッドサンズ1軍の専属メカニックであるオレに対し、赤木は遠慮無く強い口調で問う。
メンテナンススペース近くにいたレッドサンズメンバーが、「どうしたんだ?」とこちらを気にしざわめき立っている。
確かに痛い所を突かれている。「ドライバーの言いなりのセッティング」、今日なんて特にそうだろう、否定しようも無い。メカニックの仕事に対してのプライドをしっかり持っている赤木にとって、今日のオレの対応は許せないんだろう。
「しかも、なんであんなに偉そうなの、あのドライバー。コミュニケーション取る気ないじゃん!」
レッドサンズNo.2を「偉そう」呼ばわりするなんて、そうそう誰もが言えることじゃない。
少なくとも、今日集まっているレッドサンズメンバーやギャラリーにはいないだろう。
「なんなんだ。あいつ」
「女のくせに、偉そうに」
「啓介さんを知らないのか?」
場の空気が不穏に変わりつつあるのを察し、オレは赤木に声をかけた
「いつもはこうじゃないよ。今日は新しい試みだから、戸惑ってるだけだよ。」
オレのことはともかく、啓介さんのことを悪くいうことは、この場では控えさせた方が良いだろう。
「赤木、もうすぐFC・FDの迫力あるバトルが見れるんだぜ。楽しみだろ?」
話題を切り替える。
赤木にも公道バトルの楽しさを知って欲しかった。
赤木はどちらかというと、ジムカーナやサーキットと言ったクローズド環境でのタイムトライアル競技を好んでいる。クルマを最速で走らせることは同じだが、公道バトル特有の面白さを赤木とも共有したいと思っていた。
ロータリーサウンドが近づいてきた。啓介さんがもうすぐ戻ってくる。
さっきの調整はうまくいったんだろうか。スタートまでにタイヤだけは変えないといけないかなと思い、準備を始めた。
FDから降りた啓介さんの表情は、スタートした時と違い、少し余裕のようなものを感じて、安心した。
「タイヤさっきのに交換してくれ。それで、バトルするから」
啓介さんが、バトル前の最後のタバコに火をつけ、オレに指示を出した。
――――――――
宮口に声をかけ、啓介はタバコを咥えた。
セッティングは合っていないが、それを踏まえたコース攻略のイメージがついた。
これならイケる、とタバコの煙を吐きながら、バトルに向け気持ちを前向きに切り替えをする。
その時…
「あんた、メカニックを何だと思ってんのよ。ドライバーの御用聞きじゃないのよ!」
知らない女から、敵意剥き出しの視線とともに叱責を浴びた。
「えっ、、、」
いきなりのことに、オレはタバコを落としそうになる。
「レース前にどうクルマを調整していくかは、ドライバーとメカニックが一緒に考えていくものでしょう? 指示ばかりして、ちゃんと必要な情報提示もせずに、、、バカなの?」
「…っ、なんだと…」
畳みかけるように言われ、内容よりも「バカ」という言葉が強く残る。
こっちはそんな暴言を言われる筋合いは無い。大体こいつは誰なんだ?
「ちょっ、、、赤木っ!ストップ!」
タイヤ交換中の宮口が焦ってこっちを見ながら声をかけている。ただタイヤ交換も急ぐ必要があり、その場から離れれない。
赤木と呼ばれたこの女は宮口の制止もお構いなしに、言葉を続ける。
「宮さん、これじゃあこのFDは速くならないよ! こんな奴に運転されて、綺麗に走れないFDが可哀想!」
「せっかく誘ってくれたけど、今日はもう帰る!!」
女は一方的に言いたいこと言って、バトルも見ずに帰ろうとしていた。
可哀想、だと? おれのFDがか?
「おい、ちょっと待て、好き勝手言いやがって、、、お前誰なんだよ!!」
オレはレッドサンズのNo.2だぜ?そのオレに向かって、こんな奴呼ばわりするとは何様なんだ?
女だからといって、いくらなんでもムカついて仕方がない。
帰ろうとするそいつを引き止めようと、腕を伸ばす。
が、間に史浩が入って制止される。
「啓介落ち着け、もうバトル開始だっ!」
史浩に止められなかったら、掴みかかっていただろう。いや、もし男なら制止を振り切って殴っていたかも知れない。
ヒルクライムスタート地点周囲は、騒然とした雰囲気に包まれた。
「啓介さん、準備できました!」
宮口はこちらを気にしながらも手早くタイヤ交換を済ませ、スタートラインにFDをスタンバイさせた。
チッ。一体何なんだあいつは。
一度は落ち着いた感情が、再び苛立つ。
俺のFDは俺が速く走らせる。ドライバーの役目は、最速タイムでバトルに勝つことだ。このバトルに勝って、あの女にドライバーの役割はきっちり果たしたことを分からせてやる。
ヒルクライムバトルは、昂ぶった気持ちがうまくハマり、序盤で相手を引き離し圧勝した。もちろんコースレコードも更新、ダウンヒルは涼介が当然の勝利を収め終了となった。
宮口に聞くと、あの女は赤木はるなと言って松本や宮口と同じ会社で働くメカニックだそうだ。
そういえば、ケンタが女のメカニックがいるって浮き足だってたことがあったような…。
史浩は「あのコ面白いなぁ」とケラケラ笑っている。
笑い事じゃねぇよ。バトル直前にムカつくことを言われた方の身になってみろよ。
レッドサンズNo.2の人間を「バカ」と言い、そのFDを「可哀想」と言い切る女。
敵意の中に失望を含んだ視線を向けた女。
啓介が、赤木はるなを認識したのは、この日であった。
―――――――――
(・・・やってしまった・・・)
一人暮らしの部屋に帰ったはるなは、静かな部屋の中で後悔の念に苛まれていた。
先程までの喧騒との落差が、一層気持ちを沈めている。
怒りやら悔しさやらの感情にまかせて、人前で凄いことを言ってしまったと思う。
言い訳をするなら、今日の仕事の終盤に来た嫌な客のせいで、気分を悪くしたところだった。
言い訳だけど…。
明らかにドライバーの技量以上のチューニングを要求されたので、要望と安全面との落とし所をメカニックとして提案したのだが。「こっちは客だぞ! メカニックは言われたようにチューニングすればいいんだ!女のくせに何が分かるんだ!!」と高圧的な態度を取ってこられた。
メカニックを下に見るような発言をされることも、性別で差別的に扱われることも、珍しいことではない。ただ、今日の客は特に酷かった。
最終的には、別の男性メカニックが引き受けることで納得したようだ。あんなヤツに運転されるS13が、可哀想でやりきれない気持ちになった。
そんな鬱憤が溜まったタイミングで、宮さんから連絡が入ったので、二つ返事で誘いを受けた。
公道バトルはあまり好きじゃないけど、大好きなRX-7が走るところを目の前で見れるのだ。
ドライバーは有名なレッドサンズ一軍、ロータリーブラザーズ。噂は耳にしている。
しかもそのチューニングをしているのが、尊敬するメカニックの松本さんと宮さん。
嫌な気持ちも忘れるくらい、楽しみで胸を躍らせていた。
なのに…。
FDのドライバーは先ほどの嫌な客と被る対応だし、宮さんも言われるがまま。
悔しかった。
宮さんが一方的に言われるのも、逆に何も言わないことも。
ドライバーからの情報が無ければ、メカニックは役割を果たせないのに…。
速くて有名なドライバーも、結局はメカニックを信頼していないのだなと分かり、期待が大きかった分失望も大きかった。
仕事ならできた我慢も、あの場では抑えることができず、人目も気にせず口走ってしまった。
さすがに「バカ」は言い過ぎたよね…。反省はしている。
あの白い彗星と呼ばれたFCの走りを、目の前で見るチャンスだったのにな。
あぁ、FDが綺麗な軌跡を描きながら走るところを見たかったな。
あの荒っぽいドライバーが、FDを傷つけなければいいな。
バトルを見ずに帰ってきたことも、後悔している。
宮さんにも悪いことしたな。せっかく誘ってもらったのに。
次々と後悔が沸いてきて、そんな行動をした自分に嫌悪し奥歯をかみしめた。
もともと、松本から呼び出され週明けにショップに行く予定だった。
その時に、宮さんに会ってちゃんと謝ろう。
そう心に決めて、はるなは眠ることにした。
2023.3.29
【ヒルクライムスタート地点】
「宮さん! なんで、あんなドライバーの言いなりにセッティングするの!? メカニックは言われたことだけ調整する仕事じゃないでしょう!?」
レッドサンズ1軍の専属メカニックであるオレに対し、赤木は遠慮無く強い口調で問う。
メンテナンススペース近くにいたレッドサンズメンバーが、「どうしたんだ?」とこちらを気にしざわめき立っている。
確かに痛い所を突かれている。「ドライバーの言いなりのセッティング」、今日なんて特にそうだろう、否定しようも無い。メカニックの仕事に対してのプライドをしっかり持っている赤木にとって、今日のオレの対応は許せないんだろう。
「しかも、なんであんなに偉そうなの、あのドライバー。コミュニケーション取る気ないじゃん!」
レッドサンズNo.2を「偉そう」呼ばわりするなんて、そうそう誰もが言えることじゃない。
少なくとも、今日集まっているレッドサンズメンバーやギャラリーにはいないだろう。
「なんなんだ。あいつ」
「女のくせに、偉そうに」
「啓介さんを知らないのか?」
場の空気が不穏に変わりつつあるのを察し、オレは赤木に声をかけた
「いつもはこうじゃないよ。今日は新しい試みだから、戸惑ってるだけだよ。」
オレのことはともかく、啓介さんのことを悪くいうことは、この場では控えさせた方が良いだろう。
「赤木、もうすぐFC・FDの迫力あるバトルが見れるんだぜ。楽しみだろ?」
話題を切り替える。
赤木にも公道バトルの楽しさを知って欲しかった。
赤木はどちらかというと、ジムカーナやサーキットと言ったクローズド環境でのタイムトライアル競技を好んでいる。クルマを最速で走らせることは同じだが、公道バトル特有の面白さを赤木とも共有したいと思っていた。
ロータリーサウンドが近づいてきた。啓介さんがもうすぐ戻ってくる。
さっきの調整はうまくいったんだろうか。スタートまでにタイヤだけは変えないといけないかなと思い、準備を始めた。
FDから降りた啓介さんの表情は、スタートした時と違い、少し余裕のようなものを感じて、安心した。
「タイヤさっきのに交換してくれ。それで、バトルするから」
啓介さんが、バトル前の最後のタバコに火をつけ、オレに指示を出した。
――――――――
宮口に声をかけ、啓介はタバコを咥えた。
セッティングは合っていないが、それを踏まえたコース攻略のイメージがついた。
これならイケる、とタバコの煙を吐きながら、バトルに向け気持ちを前向きに切り替えをする。
その時…
「あんた、メカニックを何だと思ってんのよ。ドライバーの御用聞きじゃないのよ!」
知らない女から、敵意剥き出しの視線とともに叱責を浴びた。
「えっ、、、」
いきなりのことに、オレはタバコを落としそうになる。
「レース前にどうクルマを調整していくかは、ドライバーとメカニックが一緒に考えていくものでしょう? 指示ばかりして、ちゃんと必要な情報提示もせずに、、、バカなの?」
「…っ、なんだと…」
畳みかけるように言われ、内容よりも「バカ」という言葉が強く残る。
こっちはそんな暴言を言われる筋合いは無い。大体こいつは誰なんだ?
「ちょっ、、、赤木っ!ストップ!」
タイヤ交換中の宮口が焦ってこっちを見ながら声をかけている。ただタイヤ交換も急ぐ必要があり、その場から離れれない。
赤木と呼ばれたこの女は宮口の制止もお構いなしに、言葉を続ける。
「宮さん、これじゃあこのFDは速くならないよ! こんな奴に運転されて、綺麗に走れないFDが可哀想!」
「せっかく誘ってくれたけど、今日はもう帰る!!」
女は一方的に言いたいこと言って、バトルも見ずに帰ろうとしていた。
可哀想、だと? おれのFDがか?
「おい、ちょっと待て、好き勝手言いやがって、、、お前誰なんだよ!!」
オレはレッドサンズのNo.2だぜ?そのオレに向かって、こんな奴呼ばわりするとは何様なんだ?
女だからといって、いくらなんでもムカついて仕方がない。
帰ろうとするそいつを引き止めようと、腕を伸ばす。
が、間に史浩が入って制止される。
「啓介落ち着け、もうバトル開始だっ!」
史浩に止められなかったら、掴みかかっていただろう。いや、もし男なら制止を振り切って殴っていたかも知れない。
ヒルクライムスタート地点周囲は、騒然とした雰囲気に包まれた。
「啓介さん、準備できました!」
宮口はこちらを気にしながらも手早くタイヤ交換を済ませ、スタートラインにFDをスタンバイさせた。
チッ。一体何なんだあいつは。
一度は落ち着いた感情が、再び苛立つ。
俺のFDは俺が速く走らせる。ドライバーの役目は、最速タイムでバトルに勝つことだ。このバトルに勝って、あの女にドライバーの役割はきっちり果たしたことを分からせてやる。
ヒルクライムバトルは、昂ぶった気持ちがうまくハマり、序盤で相手を引き離し圧勝した。もちろんコースレコードも更新、ダウンヒルは涼介が当然の勝利を収め終了となった。
宮口に聞くと、あの女は赤木はるなと言って松本や宮口と同じ会社で働くメカニックだそうだ。
そういえば、ケンタが女のメカニックがいるって浮き足だってたことがあったような…。
史浩は「あのコ面白いなぁ」とケラケラ笑っている。
笑い事じゃねぇよ。バトル直前にムカつくことを言われた方の身になってみろよ。
レッドサンズNo.2の人間を「バカ」と言い、そのFDを「可哀想」と言い切る女。
敵意の中に失望を含んだ視線を向けた女。
啓介が、赤木はるなを認識したのは、この日であった。
―――――――――
(・・・やってしまった・・・)
一人暮らしの部屋に帰ったはるなは、静かな部屋の中で後悔の念に苛まれていた。
先程までの喧騒との落差が、一層気持ちを沈めている。
怒りやら悔しさやらの感情にまかせて、人前で凄いことを言ってしまったと思う。
言い訳をするなら、今日の仕事の終盤に来た嫌な客のせいで、気分を悪くしたところだった。
言い訳だけど…。
明らかにドライバーの技量以上のチューニングを要求されたので、要望と安全面との落とし所をメカニックとして提案したのだが。「こっちは客だぞ! メカニックは言われたようにチューニングすればいいんだ!女のくせに何が分かるんだ!!」と高圧的な態度を取ってこられた。
メカニックを下に見るような発言をされることも、性別で差別的に扱われることも、珍しいことではない。ただ、今日の客は特に酷かった。
最終的には、別の男性メカニックが引き受けることで納得したようだ。あんなヤツに運転されるS13が、可哀想でやりきれない気持ちになった。
そんな鬱憤が溜まったタイミングで、宮さんから連絡が入ったので、二つ返事で誘いを受けた。
公道バトルはあまり好きじゃないけど、大好きなRX-7が走るところを目の前で見れるのだ。
ドライバーは有名なレッドサンズ一軍、ロータリーブラザーズ。噂は耳にしている。
しかもそのチューニングをしているのが、尊敬するメカニックの松本さんと宮さん。
嫌な気持ちも忘れるくらい、楽しみで胸を躍らせていた。
なのに…。
FDのドライバーは先ほどの嫌な客と被る対応だし、宮さんも言われるがまま。
悔しかった。
宮さんが一方的に言われるのも、逆に何も言わないことも。
ドライバーからの情報が無ければ、メカニックは役割を果たせないのに…。
速くて有名なドライバーも、結局はメカニックを信頼していないのだなと分かり、期待が大きかった分失望も大きかった。
仕事ならできた我慢も、あの場では抑えることができず、人目も気にせず口走ってしまった。
さすがに「バカ」は言い過ぎたよね…。反省はしている。
あの白い彗星と呼ばれたFCの走りを、目の前で見るチャンスだったのにな。
あぁ、FDが綺麗な軌跡を描きながら走るところを見たかったな。
あの荒っぽいドライバーが、FDを傷つけなければいいな。
バトルを見ずに帰ってきたことも、後悔している。
宮さんにも悪いことしたな。せっかく誘ってもらったのに。
次々と後悔が沸いてきて、そんな行動をした自分に嫌悪し奥歯をかみしめた。
もともと、松本から呼び出され週明けにショップに行く予定だった。
その時に、宮さんに会ってちゃんと謝ろう。
そう心に決めて、はるなは眠ることにした。
2023.3.29