Short Story
Name chenge
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
□□□ 指に囚われて 松本 □□□
デートの迎えに来た修一さんが、えらく申し訳なさそうな顔をしていた。
「急な打ち合わせが入ったんだ」
眉を寄せ、すまなそうに弱い声で説明される。そんな顔されると、嫌なんて言えない。
「いいよ」
そう軽く返事して修一さんの車に乗ると、連れてこられたのは群大医学部近くのファミレスだった。
ボックス席に並んで座る。早速修一さんは、メニューの中からホットコーヒーとカフェオレとパフェを注文してくれた。私の好みをしっかり押さえているところは、さすがだ。
「涼介さんに資料を渡して、少し話を詰めたいことがあるんだ」
修一さんが参加しているプロジェクトの打ち合わせらしい。
このプロジェクトが始まってから、修一さんが忙しくてあまりデートができていない。その上、久しぶりのデートの日ですら打ち合わせが入るなんて。まだ来ていない涼介さんに、嫌味を言ってやりたい気分だ。
だけど、プロジェクトに熱中している修一さんの真剣な眼差しやイキイキしている姿を見ると、そういうところも好きなんだよなぁと気持ちが落ち着いてしまう。二人の時には見れない表情を見せてくれる涼介さんには、感謝すべきなのかもしれない。
「お待たせいたしました。ホットコーヒーとカフェオレ、季節の贅沢パフェです」
彩り豊かなフルーツがたくさん飾られていて、思わず笑みがこぼれる。その顔を見た修一さんが嬉しそうに目尻を下げるので、余計に嬉しくなってにっこりとしてしまう。
「悪い、待たせたな」
やってきた涼介さんに、この緩んだ顔を見られたのは気恥ずかしくて、思わず顔を背けた。
涼介さんが修一さんの向かいに座ると、早速資料を取り出し打ち合わせが始まった。
テーブルに広げられた資料には、眉をひそめたくなるような数字や図が並んでいる。それを指差しながら説明している修一さんの話も、私にはちんぷんかんぷんだ。
コーヒー片手に、難しい話をしている大人な二人と、パフェをニコニコと突いている自分との対比に、どこか寂しさも感じつつ、口に運んだフルーツのみずみずしさにまた自然と顔が緩んでしまう。
一口含むごとに違った味わいが広がるパフェをゆっくりと楽しみながら、二人が熱中する資料に目を落とす。
視界の端で揺れたのは、涼介さんの指だった。
(綺麗……)
色白くてすらっと長くて、切り揃えられた艶やかな爪。欠けもささくれもなく、吸い込まれそうなほど清潔な質感。
紙面をなぞる仕草は、音さえ立てず、静かな品の良さを纏っていた。
ペンに添えられた指の角度や、資料を捲る柔らかな動き――。
どれも控えめなのに、目を奪われて離せなかった。
その指で触れられたら、きっとひやりとした感触が肌を走るのだろう。
スプーンが唇に触れ、その冷たさが想像をリアルにさせた。口に含んだホイップクリームが、じんわりと口腔内に広がる。
「この部分のデータなんですが……」
涼介さんの指とはまるで別物の手が、資料を掴んだ。
爪の周りには微かに油汚れの名残が残っていて、節のひとつひとつが力強い指。
その無骨さは、私の視線を釘づけにする。
厚みのある指腹が紙を押さえるたび、硬い指先がトンとテーブルに当たる音をたてる。少しかさついた指が紙をなぞると、
その音を感じ取った耳が熱くなる。
視線の先の力強くも優しい指の動きに、触れられてもいないのに、肌を撫で上げられたかのように熱が広がっていく。
口に含んだザリザリとした舌触りのシリアルが、クリームの濃厚さに混じって口蓋を刺激する。まるで敏感なところを撫でる修一さんの指のようで、喉の奥が熱くなった。
ふっと、息をつくような小さな笑いに気付いて顔を上げると、涼介さんと目が合った。細められた目は、私の身体に走る熱を見抜いたように見えた。
「今日のところは、ここまで詰められたら大丈夫だ。大切な時間を邪魔して悪かったね」
ひと息沈黙の間を置いてから、資料を束ね始めた涼介さん。
気づくと隣に座る修一さんも、こちらを見て困ったように眉を下げていた。
「いえっ、そんなこと……」
指は凝視できたのに、涼介さんにまっすぐに見つめられると途端に緊張して口ごもってしまう。
「ごゆっくり」
そう言って涼介さんは伝票を手に取り、大学に戻って行った。
修一さんの方を向くと、同じタイミングで大きく厚みのある掌が頬に添えられた。
包むように優しく触れられる温かさに、お腹の奥がきゅっとなる。
下唇を、親指でゆっくりと撫でられる。
ざらりとした硬い指の感触が、薄い肌にダイレクトに伝わって、ゾクゾクと背筋が泡立つ。
親指についたホイップクリームを、味わうようにじっとりと舐め取った修一さん。
その仕草に、胸の奥がひくひくと反応してしまう。
「じっと、何を見てたんだ?」
先ほどまでとは違う。
じっと見つめる修一さんの瞳には、複雑な熱が宿っているように見えた。
「修一さんの、指が……綺麗で……」
「人がいる場所で、そんな顔されると困るな。俺にだけは……もっと見せてほしいけど」
低く囁かれた声に、身体の奥が震えた。
私が他人に欲望を晒してしまったことへの苛立ちと、それでも修一さんに向けた欲熱を感じ取った喜び。それを含んだ修一さんの表情は、欲情の色を帯びていた。
「人がいる場所で、そんな顔されると、困るよっ」
頬に触れる指先が、私の奥底に眠っていた衝動を呼び覚ます。頬が熱くなったのは恥ずかしさだけじゃない。
困るんじゃない、もう我慢できないんだ。
この修一さんの指に、柔く、力強く触れられたいんだ。もっと、深く。もっと、奥まで。
私の熱い震えを感じ取ったのか、修一さんの指がさらに強く頬を撫でた。ざらりとした指腹が、私の肌に灯った熱を確かめるように這う。頬から首筋に降りていく無骨な感触に、目を細めた。
「……俺も、もう我慢できそうにない」
低く押し殺した声が耳朶をくすぐり、背筋を駆け上がる。
店内の喧噪が、かろうじて理性をつなぎ止めているが、もう限界だった。
早くここから出よう、二人だけのデートをシよう。
熱くなった指を絡め合いながら、店内を後にした。
end.
2025.12.10
デートの迎えに来た修一さんが、えらく申し訳なさそうな顔をしていた。
「急な打ち合わせが入ったんだ」
眉を寄せ、すまなそうに弱い声で説明される。そんな顔されると、嫌なんて言えない。
「いいよ」
そう軽く返事して修一さんの車に乗ると、連れてこられたのは群大医学部近くのファミレスだった。
ボックス席に並んで座る。早速修一さんは、メニューの中からホットコーヒーとカフェオレとパフェを注文してくれた。私の好みをしっかり押さえているところは、さすがだ。
「涼介さんに資料を渡して、少し話を詰めたいことがあるんだ」
修一さんが参加しているプロジェクトの打ち合わせらしい。
このプロジェクトが始まってから、修一さんが忙しくてあまりデートができていない。その上、久しぶりのデートの日ですら打ち合わせが入るなんて。まだ来ていない涼介さんに、嫌味を言ってやりたい気分だ。
だけど、プロジェクトに熱中している修一さんの真剣な眼差しやイキイキしている姿を見ると、そういうところも好きなんだよなぁと気持ちが落ち着いてしまう。二人の時には見れない表情を見せてくれる涼介さんには、感謝すべきなのかもしれない。
「お待たせいたしました。ホットコーヒーとカフェオレ、季節の贅沢パフェです」
彩り豊かなフルーツがたくさん飾られていて、思わず笑みがこぼれる。その顔を見た修一さんが嬉しそうに目尻を下げるので、余計に嬉しくなってにっこりとしてしまう。
「悪い、待たせたな」
やってきた涼介さんに、この緩んだ顔を見られたのは気恥ずかしくて、思わず顔を背けた。
涼介さんが修一さんの向かいに座ると、早速資料を取り出し打ち合わせが始まった。
テーブルに広げられた資料には、眉をひそめたくなるような数字や図が並んでいる。それを指差しながら説明している修一さんの話も、私にはちんぷんかんぷんだ。
コーヒー片手に、難しい話をしている大人な二人と、パフェをニコニコと突いている自分との対比に、どこか寂しさも感じつつ、口に運んだフルーツのみずみずしさにまた自然と顔が緩んでしまう。
一口含むごとに違った味わいが広がるパフェをゆっくりと楽しみながら、二人が熱中する資料に目を落とす。
視界の端で揺れたのは、涼介さんの指だった。
(綺麗……)
色白くてすらっと長くて、切り揃えられた艶やかな爪。欠けもささくれもなく、吸い込まれそうなほど清潔な質感。
紙面をなぞる仕草は、音さえ立てず、静かな品の良さを纏っていた。
ペンに添えられた指の角度や、資料を捲る柔らかな動き――。
どれも控えめなのに、目を奪われて離せなかった。
その指で触れられたら、きっとひやりとした感触が肌を走るのだろう。
スプーンが唇に触れ、その冷たさが想像をリアルにさせた。口に含んだホイップクリームが、じんわりと口腔内に広がる。
「この部分のデータなんですが……」
涼介さんの指とはまるで別物の手が、資料を掴んだ。
爪の周りには微かに油汚れの名残が残っていて、節のひとつひとつが力強い指。
その無骨さは、私の視線を釘づけにする。
厚みのある指腹が紙を押さえるたび、硬い指先がトンとテーブルに当たる音をたてる。少しかさついた指が紙をなぞると、
その音を感じ取った耳が熱くなる。
視線の先の力強くも優しい指の動きに、触れられてもいないのに、肌を撫で上げられたかのように熱が広がっていく。
口に含んだザリザリとした舌触りのシリアルが、クリームの濃厚さに混じって口蓋を刺激する。まるで敏感なところを撫でる修一さんの指のようで、喉の奥が熱くなった。
ふっと、息をつくような小さな笑いに気付いて顔を上げると、涼介さんと目が合った。細められた目は、私の身体に走る熱を見抜いたように見えた。
「今日のところは、ここまで詰められたら大丈夫だ。大切な時間を邪魔して悪かったね」
ひと息沈黙の間を置いてから、資料を束ね始めた涼介さん。
気づくと隣に座る修一さんも、こちらを見て困ったように眉を下げていた。
「いえっ、そんなこと……」
指は凝視できたのに、涼介さんにまっすぐに見つめられると途端に緊張して口ごもってしまう。
「ごゆっくり」
そう言って涼介さんは伝票を手に取り、大学に戻って行った。
修一さんの方を向くと、同じタイミングで大きく厚みのある掌が頬に添えられた。
包むように優しく触れられる温かさに、お腹の奥がきゅっとなる。
下唇を、親指でゆっくりと撫でられる。
ざらりとした硬い指の感触が、薄い肌にダイレクトに伝わって、ゾクゾクと背筋が泡立つ。
親指についたホイップクリームを、味わうようにじっとりと舐め取った修一さん。
その仕草に、胸の奥がひくひくと反応してしまう。
「じっと、何を見てたんだ?」
先ほどまでとは違う。
じっと見つめる修一さんの瞳には、複雑な熱が宿っているように見えた。
「修一さんの、指が……綺麗で……」
「人がいる場所で、そんな顔されると困るな。俺にだけは……もっと見せてほしいけど」
低く囁かれた声に、身体の奥が震えた。
私が他人に欲望を晒してしまったことへの苛立ちと、それでも修一さんに向けた欲熱を感じ取った喜び。それを含んだ修一さんの表情は、欲情の色を帯びていた。
「人がいる場所で、そんな顔されると、困るよっ」
頬に触れる指先が、私の奥底に眠っていた衝動を呼び覚ます。頬が熱くなったのは恥ずかしさだけじゃない。
困るんじゃない、もう我慢できないんだ。
この修一さんの指に、柔く、力強く触れられたいんだ。もっと、深く。もっと、奥まで。
私の熱い震えを感じ取ったのか、修一さんの指がさらに強く頬を撫でた。ざらりとした指腹が、私の肌に灯った熱を確かめるように這う。頬から首筋に降りていく無骨な感触に、目を細めた。
「……俺も、もう我慢できそうにない」
低く押し殺した声が耳朶をくすぐり、背筋を駆け上がる。
店内の喧噪が、かろうじて理性をつなぎ止めているが、もう限界だった。
早くここから出よう、二人だけのデートをシよう。
熱くなった指を絡め合いながら、店内を後にした。
end.
2025.12.10
1/17ページ