Short Story
Name chenge
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【高橋啓介】
□□□ 夕立と太陽 □□□
猛しい暑さ。
カンカンに照らす太陽の熱で、景色が揺らいで見える。
真っ白な雲が際立つ晴天なのに、今日は、どうも嫌な予感がしてたんだ。
何事もなく用事が済んで、「ただの思い過ごしか」と外に出た時、目にした景色に予感が的中していることに気付いた。
先ほどまで、青々とした空からサンサンと降り注ぐ陽の光が眩しかったのに。
黒々とした重い雲が空を覆いゴロゴロと地響きのような音がドンドン近づいて、時折黒い雲が光る。
バス停に着くまで降らないでっ……
その願いも虚しく、歩き出してすぐに大粒の雨が暗い空から零れてきた。
予感的中、なんて思っている間に、雨粒は急激に数を増し、みるみる土砂降りへと変わった。
まるで滝の中にいるような、雨水の圧と轟音。
顔に打ち付ける雨粒が痛くて前を向くこともできず、足元に視線を移し水溜まりを避け分けながらバス停への足を進める。
もう、どこもかしこも水たまりだ。靴も脚も服も……ドンドン濡れて重く身体にまとわり付き、歩む足の邪魔をする。
もう少しでバス停っ
頬打つ雨に顔をしかめながら、顔を上げ目指すバス停を向いた。
暗く、雨で霞む景色の中、オレンジ色の点滅が目を引いた。
バスは既にバス停にとまっていて、右のウィンカーが「残念でした」とでも言ってるかのような合図を出し、バスは発車した。
ザアザアとうるさい雨音は、バスが近づく音すら掻き消していたのだ。
ほんと、悪い予感は当たるものだ。
だけど、何も重ならなくてもいいじゃないか。
暗く重い、鈍色の世界。
雨の轟音に埋もれて、他に何も聞こえない。
まるでこの世界に、ずぶ濡れの私だけ残されたような気がして。
歩む足を止めてしまった。
私が何をしたって言うのだろう。
そりゃ、彼氏とケンカした時にちょっと言い過ぎたなって思うことがあったよ。
ちょっとだよ、ちょっと。
確かに私も悪かったなって思ってるし……。ちゃんと謝ろうと思ってるのに、タイミング逃して、伝えられてないままだったりするし……。
あぁ、だからか、この仕打ちは。私が悪いのか……。じゃぁもう……しかたがないや。
このまま、雨に打たれて交じって溶けて流されていったって……、もういいや、もういい。仕方がないんだから。
降りしきる雨の中、ヤケになって濡れるがまま、私は立ち尽くしていた。
焦点を合わせることも止めた目に映る鈍色の視界。
――眩しいっ!
突如、強烈な彩色が刺しこみ、打つ雨の痛さとは違う刺激に思わず目を見開いた。
視界に飛び込んできたのは、イエロー。
無彩色の世界に、その存在を強く主張する黄色に輝く、FD。
まるで太陽が射したかのように、視界の明度が、彩度が、上がった。
いや……、本当に雲の隙間から、太陽の光が洩れ始めた。
黒い雲が流れていき、雨が……、上がる。
「なんで……いるの?」
「どうせ傘持ってないだろうと思って、迎えにきた」
路肩に停めたFDから降りてきたのは、私が謝りそびれている相手。
高橋啓介。
上がりかけの雨の細かい粒が黄金色の髪にかかり、空から零れた陽光が反射しキラキラと光る。
乗る車と同じように、鮮やかで存在感のある、――私の彼氏。
何度見てもその度に見惚れる彼は、いつものようにナビ側に周りドアを開ける。
ケンカしたことも忘れているかのように、いつもと変わらない仕草。
「でも、悪いよ」
「なんで?」
「大切な車が濡れちゃう……」
頭の先から足の先までずぶ濡れで、髪から筋になって頬を伝う滴も、袖や裾から滴り落ちる水粒も、雨が上がってもまだまだ止まりそうにない。これじゃぁFDの中が水浸しになってしまう。
「そんなこと心配してたんだ、お前らしいな」
くすっと優しい笑みを浮かべる啓介。そして、こちらに手を差し出した。
「大事な女を、濡れたままほっとくわけねーだろ、ほら」
こんな恥ずかしいセリフを、キラキラの笑顔をまっすぐに向けサラリと放つ。
雨に濡れて体温を奪われた身体が、ドキンと脈打ち熱くなる。
あぁ、何度だって、私は啓介に惚れるんだ。
雨上がり、濡れた路面が太陽に照らされて湿度を含む香りが立ちこめているのに、啓介はカラッと爽やかな空気をまとって私の手を取った。
私を大切に思っていることを、言葉と行動で伝えてくれる啓介。ケンカした後でも、そんな後腐れを感じさせない。
まるで、太陽のように一瞬で私の心も身体も、明るく、熱くする存在だ。
「ほら、行くぞ」
繋いだ手を引かれ、FDのナビシートに乗せられる。
そして、バサっと頭にかぶせられたタオル。きっと、私が雨に濡れていることを見越して持ってきてくれたのだろう。
こういうさりげないところに気配りができる人だと知ったのは、付き合い出してからだ。
とにかく、びっくりするくらい大切にしてくれるのだ。
優しい運転でFDを走らせる啓介。
タオルを被り顔を隠したままの私。
「……ごめん」
呟いた声は、小さくでも啓介に届いただろうか。
この「ごめん」は、濡れたままFDに乗ったこと、大雨の中迎えに来てくれたこと、わざわざタオルまで準備してくれていたこと……、そして、こんな優しい啓介に言い過ぎたまま謝れてなかったことへの「ごめん」。
顔が見えないからこそ、素直に言えたんだと思う。
「ありがと」
こんな意地っ張りな私と一緒にいてくれることへの「ありがとう」。
啓介みたいに素直に伝えられない私だけど、本当に好きなんだ、啓介のことが。
「これくらい、なんてことねーよ。ほらっ」
タオル越しにわしゃわしゃと髪をかき混ぜられ、思わず右側を向く。
ズレたタオルと髪の隙間から、こちらを向いてニカッと笑う啓介と目が合う。
綺麗な輪郭が太陽に照らされて、輝いて見える啓介の笑顔。
まるで太陽みたい。
「まぶしいね」
「雨が上がって太陽出てきたもんな」
それもあるけど、太陽だけじゃない。眩しいのは、啓介、あなただよ。
なんて、やっぱり恥ずかしくて言えないけれど……。
太陽みたいな啓介の傍にいると、少しずつ素直な自分に変わっていくのがわかる。
「大好き」
珍しくまっすぐ顔を見て言葉にした私に、啓介は目を見開いた後、心底嬉しそうに目尻を下げ笑った。
2024.9.6
□□□ 夕立と太陽 □□□
猛しい暑さ。
カンカンに照らす太陽の熱で、景色が揺らいで見える。
真っ白な雲が際立つ晴天なのに、今日は、どうも嫌な予感がしてたんだ。
何事もなく用事が済んで、「ただの思い過ごしか」と外に出た時、目にした景色に予感が的中していることに気付いた。
先ほどまで、青々とした空からサンサンと降り注ぐ陽の光が眩しかったのに。
黒々とした重い雲が空を覆いゴロゴロと地響きのような音がドンドン近づいて、時折黒い雲が光る。
バス停に着くまで降らないでっ……
その願いも虚しく、歩き出してすぐに大粒の雨が暗い空から零れてきた。
予感的中、なんて思っている間に、雨粒は急激に数を増し、みるみる土砂降りへと変わった。
まるで滝の中にいるような、雨水の圧と轟音。
顔に打ち付ける雨粒が痛くて前を向くこともできず、足元に視線を移し水溜まりを避け分けながらバス停への足を進める。
もう、どこもかしこも水たまりだ。靴も脚も服も……ドンドン濡れて重く身体にまとわり付き、歩む足の邪魔をする。
もう少しでバス停っ
頬打つ雨に顔をしかめながら、顔を上げ目指すバス停を向いた。
暗く、雨で霞む景色の中、オレンジ色の点滅が目を引いた。
バスは既にバス停にとまっていて、右のウィンカーが「残念でした」とでも言ってるかのような合図を出し、バスは発車した。
ザアザアとうるさい雨音は、バスが近づく音すら掻き消していたのだ。
ほんと、悪い予感は当たるものだ。
だけど、何も重ならなくてもいいじゃないか。
暗く重い、鈍色の世界。
雨の轟音に埋もれて、他に何も聞こえない。
まるでこの世界に、ずぶ濡れの私だけ残されたような気がして。
歩む足を止めてしまった。
私が何をしたって言うのだろう。
そりゃ、彼氏とケンカした時にちょっと言い過ぎたなって思うことがあったよ。
ちょっとだよ、ちょっと。
確かに私も悪かったなって思ってるし……。ちゃんと謝ろうと思ってるのに、タイミング逃して、伝えられてないままだったりするし……。
あぁ、だからか、この仕打ちは。私が悪いのか……。じゃぁもう……しかたがないや。
このまま、雨に打たれて交じって溶けて流されていったって……、もういいや、もういい。仕方がないんだから。
降りしきる雨の中、ヤケになって濡れるがまま、私は立ち尽くしていた。
焦点を合わせることも止めた目に映る鈍色の視界。
――眩しいっ!
突如、強烈な彩色が刺しこみ、打つ雨の痛さとは違う刺激に思わず目を見開いた。
視界に飛び込んできたのは、イエロー。
無彩色の世界に、その存在を強く主張する黄色に輝く、FD。
まるで太陽が射したかのように、視界の明度が、彩度が、上がった。
いや……、本当に雲の隙間から、太陽の光が洩れ始めた。
黒い雲が流れていき、雨が……、上がる。
「なんで……いるの?」
「どうせ傘持ってないだろうと思って、迎えにきた」
路肩に停めたFDから降りてきたのは、私が謝りそびれている相手。
高橋啓介。
上がりかけの雨の細かい粒が黄金色の髪にかかり、空から零れた陽光が反射しキラキラと光る。
乗る車と同じように、鮮やかで存在感のある、――私の彼氏。
何度見てもその度に見惚れる彼は、いつものようにナビ側に周りドアを開ける。
ケンカしたことも忘れているかのように、いつもと変わらない仕草。
「でも、悪いよ」
「なんで?」
「大切な車が濡れちゃう……」
頭の先から足の先までずぶ濡れで、髪から筋になって頬を伝う滴も、袖や裾から滴り落ちる水粒も、雨が上がってもまだまだ止まりそうにない。これじゃぁFDの中が水浸しになってしまう。
「そんなこと心配してたんだ、お前らしいな」
くすっと優しい笑みを浮かべる啓介。そして、こちらに手を差し出した。
「大事な女を、濡れたままほっとくわけねーだろ、ほら」
こんな恥ずかしいセリフを、キラキラの笑顔をまっすぐに向けサラリと放つ。
雨に濡れて体温を奪われた身体が、ドキンと脈打ち熱くなる。
あぁ、何度だって、私は啓介に惚れるんだ。
雨上がり、濡れた路面が太陽に照らされて湿度を含む香りが立ちこめているのに、啓介はカラッと爽やかな空気をまとって私の手を取った。
私を大切に思っていることを、言葉と行動で伝えてくれる啓介。ケンカした後でも、そんな後腐れを感じさせない。
まるで、太陽のように一瞬で私の心も身体も、明るく、熱くする存在だ。
「ほら、行くぞ」
繋いだ手を引かれ、FDのナビシートに乗せられる。
そして、バサっと頭にかぶせられたタオル。きっと、私が雨に濡れていることを見越して持ってきてくれたのだろう。
こういうさりげないところに気配りができる人だと知ったのは、付き合い出してからだ。
とにかく、びっくりするくらい大切にしてくれるのだ。
優しい運転でFDを走らせる啓介。
タオルを被り顔を隠したままの私。
「……ごめん」
呟いた声は、小さくでも啓介に届いただろうか。
この「ごめん」は、濡れたままFDに乗ったこと、大雨の中迎えに来てくれたこと、わざわざタオルまで準備してくれていたこと……、そして、こんな優しい啓介に言い過ぎたまま謝れてなかったことへの「ごめん」。
顔が見えないからこそ、素直に言えたんだと思う。
「ありがと」
こんな意地っ張りな私と一緒にいてくれることへの「ありがとう」。
啓介みたいに素直に伝えられない私だけど、本当に好きなんだ、啓介のことが。
「これくらい、なんてことねーよ。ほらっ」
タオル越しにわしゃわしゃと髪をかき混ぜられ、思わず右側を向く。
ズレたタオルと髪の隙間から、こちらを向いてニカッと笑う啓介と目が合う。
綺麗な輪郭が太陽に照らされて、輝いて見える啓介の笑顔。
まるで太陽みたい。
「まぶしいね」
「雨が上がって太陽出てきたもんな」
それもあるけど、太陽だけじゃない。眩しいのは、啓介、あなただよ。
なんて、やっぱり恥ずかしくて言えないけれど……。
太陽みたいな啓介の傍にいると、少しずつ素直な自分に変わっていくのがわかる。
「大好き」
珍しくまっすぐ顔を見て言葉にした私に、啓介は目を見開いた後、心底嬉しそうに目尻を下げ笑った。
2024.9.6