Short Story
Name chenge
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□□□ 恋は砂糖でできている □□□
「ちょっと味見をして欲しい」と、幼馴染のはるなから信じられない依頼があった。
男勝りの性格で料理なんて縁遠い奴だと思っていただけに、なにがあったのかと興味本位で依頼を引き受けた。
どうやら、好きな男に手作り菓子をプレゼントして、告白するつもりらしい。
なんだ、はるなのくせにその辺にいる女みたいなことするんだな、と理由を聞いてガッカリした。
「はるながこんな女々しいことするとは、思ってなかったぜ」
「告白の時くらい、女らしいとこ見せないとね」
男のためにお菓子を作るなんて、今までのはるなにはありえないことだ。
そうまでさせるほど、その男はいい奴なのか??
自分を曲げてまで、付き合いたい相手なのか??
らしくないはるなの姿への苛立ちが、オレの顔を歪ませた。
差し出されたのは、黒茶色の物体。ガトーショコラと言うらしい。
そんな洒落たもんなんか食わないから、この黒茶色の見た目に何の疑問を持たずに口に運ぶ。
瞬間、チラッと視界に入ったのは、はるなの感想を期待する熱い眼差しと、和美の哀れみを含む表情。2人のギャップに本能的に危険を察知した……が、自慢の瞬発力でも回避できなかった。手は止まらず、黒茶の物体が口の中に含まれた。
「げぇっ! にがっ!!」
口に入れた瞬間広がる、強烈な焦げた苦み。遠慮なく顔を歪め言ってやった。
「なんでこんな不味いもんができんだよ。下手くそ!!」
良い感想を期待するはるなに、忖度して優しい言葉がけができるオレではない。
「ちょっと失敗しただけだよ……」
予想以上のダメ出しを受けたショックを誤魔化すように言うはるなに、ちょっとなんてレベルじゃねぇぞ、と追い打ちをかけた。
こんなもん食わされたら、どんな男でも逃げて行くだろうよ。気の毒に……ふっ。
――――――
リベンジかましに来たと、黒い物体を持ってオレの家に乗り込んできたはるな。
「にげぇよ、マズい!! 材料そのままの方が旨いんじゃねーか?」
事前に和美から、ガトーショコラの材料がチョコレートと聞いていた。これほどまでに、材料の味と見た目を壊す料理があるだろうか。またもや忖度なく言葉で打ちのめしてやった。
「この前渉が苦いって言うから、砂糖足してみたのに……」
むぅっと頬を膨らませて、まるでオレが悪いとでも言いたげな表情で呟くはるな。
お菓子作りのことなんか全然わかんねーが、砂糖を足すことが間違っていることはなんとなく分かる。焦げ過ぎだ。
いい加減、こんなまわりくどいことをせずに、さっさと告白すれば良いだろうが。振られるなら早い方が、時間を無駄にしないだろ?
なんなら「旨い」とでも嘘ついて、その男に食わせれば良かったか? ふんっ。
飛んで逃げる男を想像して、思わず鼻で笑ってしまった。
――――――
「家まで行くからね! 逃げないでよ!!」
三度目の試食の連絡は、逃げるなとの脅し付きである。少しは不味い物を食わせていた自覚があったんだろう。
三度目の正直か、二度あることは三度あるか。どうやら和美は後者だと思ったらしく、巻き添えをくう前にそそくさと出かけていった。普段は仲がいいくせに、こんな時は逃げるなんて調子のいい奴だ。
再三の試食も、目的がどこの馬の骨か分からない男のためってのが気にくわないが、まるではるながバトルを挑むような態度でくるから、つい乗ってしまう。逃げるなと言われるとついつい好戦的な態度で返してしまうのは、我ながら大人げないとは思っている。
「遅い……、逃げたのか?」
約束の時間になっても、一向にはるなは現れない。
待ちぼうけくらわされるのも癪で、衝動的にキーを掴み、レビンをかっ飛ばしてはるなの家に向かった。
そっちが逃げるなら、こっちから乗り込んでやるぜ。
「まだ家にいたのか?? おせーんだよ」
来てやったぜ、とはるなの家に入ると、テーブルには白い粉がまぶされた茶色の物体が置かれていた。和美に見せられたガトーショコラの写真と似ていて、3度目の正直を期待する。
はるなの了解も無いままに一切れつまんで、そのまま口に含んだ。
「見た目は今までで一番じゃねぇか……んん、味も全然マシだ」
これだったら、男に食わしても速攻逃げられることはないだろう。はるなの努力の結果が現れたってことか。
はるなとの試食バトルがこれで最後かと思うと、それはそれで寂しいものがある。
そしてそれ以上に、その男と上手くいった場合……今後猫を被ったはるなの姿を見ないといけないのかと思うと、面白くは無い。想像するだけで、奥歯がギリギリと鳴った。
「おい、なんか言えよ」
何故か黙ったままのはるな。
痺れを切らし声をかけると、はるなはどう言ったらいいのかと躊躇うようにうなりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「さっき知ったんだけどさ、彼女ができたんだって……。だから、これももう渡さないんだ」
「そりゃ……ご愁傷様」
だからそんな「らしくない」周りくどいことをせずに、さっさと告れば良かったんだ。落ち込んでいるところ悪いが、いい気味だ。
「実はさ……、全然悲しくないんだよね。それよりも、渉に『マシ』って言わせたことが嬉しくてさ……びっくりだよ、こんな気持ちになるなんて」
自分の感情の揺れに困惑してはいるものの、失恋した直後とは思えない晴れやかな表情のはるな。どんな湿気た顔をしているのかと思っていただけに、そのギャップを見せる表情に心を奪われた。
「何度も作ってたら意地になってさ、渉に「美味い!」って言わせることが目標になっちゃってた……。次こそ「美味い」って言わせるからね!」
「っ!!」
屈託のない笑顔をまっすぐに向けらる。
オレの中で何かが弾けた……もう、我慢できねーぜ。
「もうやめろ、そんなまわりくどいこと。言っとくが、オレは甘いもん好きじゃねーぞ」
「そうだったの……?」
それは申し訳ないことをしたと言うばかりに、眉をひそめるはるな。
「好きじゃなきゃ、3回もスイーツの味見に付き合わねぇよ」
え?と疑問符を浮かべ小首を傾げるはるなは、きっと意味が分かっていないんだろう。こいつには、まわりくどい言葉は逆効果だ。
それに、オレもこんな遠回しな言い方……無理だ。
「だから、はるなが好きだって言ってんだよ!!」
これでもかというくらい大きく目を見開いたはるなは、そのまま硬直してしまった。
そこまで驚かなくても良いだろ、とオレの気持ちを微塵も理解していなかったことに少しばかり悔しさを感じる。
仕返しのつもりで、放心状態のはるなの頬に手を添え、ぷにっと摘む。
「痛い……」と刺激で気を取り直したはるなは、一瞬迷惑そうに眉を潜めたが、すぐに置かれている状況とオレの言葉の意味を理解していったようだ。
首に頬に耳に……赤く色付いていく様は、感情がそのまま表出されているようで、実におもしろい。「女らしく」と取り繕っている姿より、こういう裏表のないストレートな反応を出す方がはるならしく、そこが好きなのだ。昔から。
驚きと恥ずかしさで言いたいことが言葉にならないのか、魚のように声なく動く唇を親指で撫でてやった。柔い暖かさが指の腹から伝わる。
指についたガトーショコラの白い粉が、はるなの艶やかな唇を飾る。
「美味そうだな」そう、思った。
無意識にペロリと白い粉を舐め取るはるな。唇が艶やかに光る。
「……甘い……」
呟きで僅かに動いたはるなの唇、オレはたまらず唇を寄せ、そして、舐めあげた。
「甘ぇ……」
唇を離すと、見たことがないほど紅潮した顔で、再びはるなは固まっていた。
「でも、この甘さは嫌いじゃないぜ」
キス越しに伝わった甘さは、粉砂糖の甘さだけではないだろう。
徐々に状況を理解し硬直が解けていくはるなとは反対に、オレは自分がやった「らしくない」行動が急激に恥ずかしくなり、火照る身体をはるなから離した。
そんなオレの顔を、はるなはクスクスと笑いながらのぞき込む。
「苦手な甘い物の味見に3回も付き合うなんて、渉も十分まわりくどいよ」
見つめる瞳は綺麗でまっすぐだ。柔らかに微笑みを向ける顔に安堵する。
この笑顔が他の男に向けられなくて、本当に良かったぜ。
三度目の「正直」。
素直な気持ちは、三度目にしてやっと伝えられた。
砂糖の甘さとともに……。
2023.11.11
「ちょっと味見をして欲しい」と、幼馴染のはるなから信じられない依頼があった。
男勝りの性格で料理なんて縁遠い奴だと思っていただけに、なにがあったのかと興味本位で依頼を引き受けた。
どうやら、好きな男に手作り菓子をプレゼントして、告白するつもりらしい。
なんだ、はるなのくせにその辺にいる女みたいなことするんだな、と理由を聞いてガッカリした。
「はるながこんな女々しいことするとは、思ってなかったぜ」
「告白の時くらい、女らしいとこ見せないとね」
男のためにお菓子を作るなんて、今までのはるなにはありえないことだ。
そうまでさせるほど、その男はいい奴なのか??
自分を曲げてまで、付き合いたい相手なのか??
らしくないはるなの姿への苛立ちが、オレの顔を歪ませた。
差し出されたのは、黒茶色の物体。ガトーショコラと言うらしい。
そんな洒落たもんなんか食わないから、この黒茶色の見た目に何の疑問を持たずに口に運ぶ。
瞬間、チラッと視界に入ったのは、はるなの感想を期待する熱い眼差しと、和美の哀れみを含む表情。2人のギャップに本能的に危険を察知した……が、自慢の瞬発力でも回避できなかった。手は止まらず、黒茶の物体が口の中に含まれた。
「げぇっ! にがっ!!」
口に入れた瞬間広がる、強烈な焦げた苦み。遠慮なく顔を歪め言ってやった。
「なんでこんな不味いもんができんだよ。下手くそ!!」
良い感想を期待するはるなに、忖度して優しい言葉がけができるオレではない。
「ちょっと失敗しただけだよ……」
予想以上のダメ出しを受けたショックを誤魔化すように言うはるなに、ちょっとなんてレベルじゃねぇぞ、と追い打ちをかけた。
こんなもん食わされたら、どんな男でも逃げて行くだろうよ。気の毒に……ふっ。
――――――
リベンジかましに来たと、黒い物体を持ってオレの家に乗り込んできたはるな。
「にげぇよ、マズい!! 材料そのままの方が旨いんじゃねーか?」
事前に和美から、ガトーショコラの材料がチョコレートと聞いていた。これほどまでに、材料の味と見た目を壊す料理があるだろうか。またもや忖度なく言葉で打ちのめしてやった。
「この前渉が苦いって言うから、砂糖足してみたのに……」
むぅっと頬を膨らませて、まるでオレが悪いとでも言いたげな表情で呟くはるな。
お菓子作りのことなんか全然わかんねーが、砂糖を足すことが間違っていることはなんとなく分かる。焦げ過ぎだ。
いい加減、こんなまわりくどいことをせずに、さっさと告白すれば良いだろうが。振られるなら早い方が、時間を無駄にしないだろ?
なんなら「旨い」とでも嘘ついて、その男に食わせれば良かったか? ふんっ。
飛んで逃げる男を想像して、思わず鼻で笑ってしまった。
――――――
「家まで行くからね! 逃げないでよ!!」
三度目の試食の連絡は、逃げるなとの脅し付きである。少しは不味い物を食わせていた自覚があったんだろう。
三度目の正直か、二度あることは三度あるか。どうやら和美は後者だと思ったらしく、巻き添えをくう前にそそくさと出かけていった。普段は仲がいいくせに、こんな時は逃げるなんて調子のいい奴だ。
再三の試食も、目的がどこの馬の骨か分からない男のためってのが気にくわないが、まるではるながバトルを挑むような態度でくるから、つい乗ってしまう。逃げるなと言われるとついつい好戦的な態度で返してしまうのは、我ながら大人げないとは思っている。
「遅い……、逃げたのか?」
約束の時間になっても、一向にはるなは現れない。
待ちぼうけくらわされるのも癪で、衝動的にキーを掴み、レビンをかっ飛ばしてはるなの家に向かった。
そっちが逃げるなら、こっちから乗り込んでやるぜ。
「まだ家にいたのか?? おせーんだよ」
来てやったぜ、とはるなの家に入ると、テーブルには白い粉がまぶされた茶色の物体が置かれていた。和美に見せられたガトーショコラの写真と似ていて、3度目の正直を期待する。
はるなの了解も無いままに一切れつまんで、そのまま口に含んだ。
「見た目は今までで一番じゃねぇか……んん、味も全然マシだ」
これだったら、男に食わしても速攻逃げられることはないだろう。はるなの努力の結果が現れたってことか。
はるなとの試食バトルがこれで最後かと思うと、それはそれで寂しいものがある。
そしてそれ以上に、その男と上手くいった場合……今後猫を被ったはるなの姿を見ないといけないのかと思うと、面白くは無い。想像するだけで、奥歯がギリギリと鳴った。
「おい、なんか言えよ」
何故か黙ったままのはるな。
痺れを切らし声をかけると、はるなはどう言ったらいいのかと躊躇うようにうなりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「さっき知ったんだけどさ、彼女ができたんだって……。だから、これももう渡さないんだ」
「そりゃ……ご愁傷様」
だからそんな「らしくない」周りくどいことをせずに、さっさと告れば良かったんだ。落ち込んでいるところ悪いが、いい気味だ。
「実はさ……、全然悲しくないんだよね。それよりも、渉に『マシ』って言わせたことが嬉しくてさ……びっくりだよ、こんな気持ちになるなんて」
自分の感情の揺れに困惑してはいるものの、失恋した直後とは思えない晴れやかな表情のはるな。どんな湿気た顔をしているのかと思っていただけに、そのギャップを見せる表情に心を奪われた。
「何度も作ってたら意地になってさ、渉に「美味い!」って言わせることが目標になっちゃってた……。次こそ「美味い」って言わせるからね!」
「っ!!」
屈託のない笑顔をまっすぐに向けらる。
オレの中で何かが弾けた……もう、我慢できねーぜ。
「もうやめろ、そんなまわりくどいこと。言っとくが、オレは甘いもん好きじゃねーぞ」
「そうだったの……?」
それは申し訳ないことをしたと言うばかりに、眉をひそめるはるな。
「好きじゃなきゃ、3回もスイーツの味見に付き合わねぇよ」
え?と疑問符を浮かべ小首を傾げるはるなは、きっと意味が分かっていないんだろう。こいつには、まわりくどい言葉は逆効果だ。
それに、オレもこんな遠回しな言い方……無理だ。
「だから、はるなが好きだって言ってんだよ!!」
これでもかというくらい大きく目を見開いたはるなは、そのまま硬直してしまった。
そこまで驚かなくても良いだろ、とオレの気持ちを微塵も理解していなかったことに少しばかり悔しさを感じる。
仕返しのつもりで、放心状態のはるなの頬に手を添え、ぷにっと摘む。
「痛い……」と刺激で気を取り直したはるなは、一瞬迷惑そうに眉を潜めたが、すぐに置かれている状況とオレの言葉の意味を理解していったようだ。
首に頬に耳に……赤く色付いていく様は、感情がそのまま表出されているようで、実におもしろい。「女らしく」と取り繕っている姿より、こういう裏表のないストレートな反応を出す方がはるならしく、そこが好きなのだ。昔から。
驚きと恥ずかしさで言いたいことが言葉にならないのか、魚のように声なく動く唇を親指で撫でてやった。柔い暖かさが指の腹から伝わる。
指についたガトーショコラの白い粉が、はるなの艶やかな唇を飾る。
「美味そうだな」そう、思った。
無意識にペロリと白い粉を舐め取るはるな。唇が艶やかに光る。
「……甘い……」
呟きで僅かに動いたはるなの唇、オレはたまらず唇を寄せ、そして、舐めあげた。
「甘ぇ……」
唇を離すと、見たことがないほど紅潮した顔で、再びはるなは固まっていた。
「でも、この甘さは嫌いじゃないぜ」
キス越しに伝わった甘さは、粉砂糖の甘さだけではないだろう。
徐々に状況を理解し硬直が解けていくはるなとは反対に、オレは自分がやった「らしくない」行動が急激に恥ずかしくなり、火照る身体をはるなから離した。
そんなオレの顔を、はるなはクスクスと笑いながらのぞき込む。
「苦手な甘い物の味見に3回も付き合うなんて、渉も十分まわりくどいよ」
見つめる瞳は綺麗でまっすぐだ。柔らかに微笑みを向ける顔に安堵する。
この笑顔が他の男に向けられなくて、本当に良かったぜ。
三度目の「正直」。
素直な気持ちは、三度目にしてやっと伝えられた。
砂糖の甘さとともに……。
2023.11.11