このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

SS

これが正解かなんて、もう関係ない

2017/02/07 23:32
鉄のラインバレル
異常な推真は 「受の血を舐めないと受が本当に存在しているのか信じられなくなった」攻めと 「攻の目に心酔するあまりに攻の目を見るだけで目眩がするようになった」受け。
『これが正解かなんてもう関係ないよね。』

という診断メーカーの結果を踏まえた、八十介さん生存IFの推真。

お題元→異常な2人の愛の形https://shindanmaker.com/692608



続き




日付が変わろうとしている頃、窓辺に座り煌々と輝く月を眺めていると、背後から聞き慣れた声がかけられた。
「真田さん。夜風はお身体に障ります」
「……天児。お前さん、まだ寝ておらんのか」
「その言葉はそのままお返ししますね。眠れないのであれば、何か暖かい飲みものでも持ってきましょうか」
「いや、いい。気持ちだけ受け取らせてもらおう」
「……月に行かなかったコト、後悔していらっしゃいますか」
「後悔は……していないと言えば嘘になるな。だがな。行かなかったのではなく、行けなかったのだよ。この老体はもう、戦う術を持ってはおらんのでな」
ロストバレルに愛機もろともこの身を砕かれてから、幾日が経ったのだろう。
決して浅くはない傷を負ったが、幸いにして生き長らえた私は、しかしもうヒトマキナとの戦いに必要な戦力にはなり得なかった。新しい機体を自由に操れるようになるには、時間も気力も体力も、何もかもが足りなかった。
私は自らシャングリラを降り、全ての決着がつくのを待とうと決めた。傷が癒えて間もない私を、久嵩やマサキは引き止めようとした。彼らの言葉は有難くはあったが、戦えぬ身であの場にいては歯痒さばかりが募ると思ったのだ。
私の身の回りの一切を引き受けると、そう天児が申し出てくれたからこそ、今こうしてそれなりに心穏やかに過ごせている。天児には感謝してはいるが、それと同じぐらいに申し訳なくも思っている。
「天児。お前さんにはすまないコトをしたな。本来ならば久嵩につき添って、最終決戦に臨まねばならんかっただろうに」
「真田さんが謝るコトは何一つありませんよ。表のフィクサーであるクリストファー・ルーベンスまでもが月へと発った今、フィクサーとしての役目を果たさなければなりませんから。それに、私の代わりは幾らでもいるコトは、真田さんもよくご存知でしょう?」
「……その言い方は関心せんな。私にとって、お前さんの代わりなどドコにもおらんというに」
「それは私も同じコト。真田さんの代わりになるモノなんか、この世界のドコにもありませんよ」
私の隣に腰を下ろした天児は、じっとりとした視線をこちらへと寄越した。飢えにも似た焦燥感を滲ませたそれは、私の脳幹を容赦なくぐらぐらと揺さぶっていく。
「真田さん。アナタがこの世界にちゃんと存在しているか、確かめさせてください」
「…………少し待っていろ」
言って、胸ポケットから安全ピンを取り出す。 左の薬指、その指の腹にピンの先端を突き刺せば、ぷちりと小さな点が浮かぶ。見る見るうちに膨らんでいく赤い球を、ぬるりとした感触が浚う。
「ん、ふ」
満足そうな吐息を洩らし、天児は私の指の先に滲む赤色を嚥下していく。
いつから、どこから、天児からこのような行為を望まれるようになったのか。いつから、どこから、天児の目に惹かれるようになったのか。記憶を辿ろうとするも、指先から伝わる艶かしい舌使いがそれを許してはくれなかった。ピンで空けたほんの小さな穴をくじるように舌先で突かれれば自ずと背が震え出し、ぢゅ、くちゅ、と聞くに堪えないはしたない音を立てられれば、頬に熱が篭る。まるで全身を舐められているような錯覚に陥りながらも、それでも天児の思うがままにさせてやる。 時折こちらを見上げてくる、天児の双眸。夢見心地の灰色が与えてくれる酩酊感が愛おしい。
「……ごちそうさまでした、真田さん」
名残惜しむかのようにちろりと指の腹に舌を這わせそう呟いた天児に、思わず苦笑が洩れた。
「そう、美味いモノでもあるまいに」
「美味しいですよ、とても。真田さんは確かにココにいる。そう思わせてくれる味ですから」
そう言って笑う天児の両目は、抑えようのない喜悦でどろりと蕩けているように見えた。そんな目で見られては、堪らない。
くらくらと、ゆらゆらと、私を揺らす天児の眼差し。それが心地良いと思えてしまうのだから、もうどうしようもない。
爛れた視線に射抜かれて、身も心も何もかもが彼の目と同じようにどろどろと蕩けていく。その感覚に溺れながら悦びに淀んだ笑みを浮かべれば、ますますもって天児の両の眼は、私を酔わせるように輝くのだった。



2017.02.07



コメント

コメントを受け付けていません。