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アニメ版の宗美さんが森次さんに意地悪を言う話

2016/05/17 23:29
鉄のラインバレル
タイトル通りのアニメ版の森次さんと宗美さんの薄ら暗い小話。
※宗美さんがサドというか悪趣味。

続き




加藤期間の拠点のひとつである、とある日本家屋。
その縁側に座布団を敷き、何をするでもなくぼんやりと庭を眺めていた僕の耳に、きしりと床板が軋む音が届く。
側近であるマサキと共に、キリヤマ重工本社に赴いた加藤総司令が戻ってきたのかと思ったが、聞こえてくる足音はひとつ。それも、加藤総司令の悠然とした足音とも、マサキの規則正しい足音とも違うものだった。
細かい歩幅で神経質な旋律を奏でる人間は、僕が知る限りたった一人しかいない。
果たして、振り向いた先で僕を見下ろすように佇んでいたのは、僕が思い描いた通りの人物だった。
「こんにちは。君がココに来るなんて珍しいですねえ。森次玲二君」
「久嵩はドコにいる」
「やれやれ。久しぶりに会ったというのに、挨拶のひとつもなしですか」
「久嵩はドコにいると訊いている」
先の問いを繰り返し、目の前の青年は僕の言葉を一蹴する。抑揚のない平坦な声に、薄い硝子越しに僕を見遣る両の眼。温度と精彩を欠いた彼の存在は、陽の光によって暖められた縁側には酷く不似合いなもののように思えた。
彼に熱を、色を与えるにはどうしたらいい――巡らせた思考は、すぐさま答えに辿り着いた。
そう、加藤総司令がどこへ、何をしに行ったのか。それをそのまま伝えてやればいい。
「加藤総司令はマサキを連れて、君のお友達に素敵なプレゼントを渡しに行かれましたよ」
「……久嵩は英治に何を渡すつもりだ」
平坦だった彼の声に、僅かな揺らぎが生じる。彼の瞳の奥に、焦燥の熱が灯る。
予想していた以上の反応に、唇が笑みの形に歪むのを抑えられなかった。
「久嵩は英治に何を渡すつもりだ。答えろ」
「僕に訊くまでもないでしょう? 君にはそれが何なのか、充分過ぎるほどよおく分かっているでしょうに」
「答えろと言っているのが聞こえないのか」
「おやおや。貴方の、たった一人のお友達が、欲しくて欲しくて仕方がなかったモノが分からないと、そう仰るんですか? 見た目に違わず薄情なんですねえ、森次玲二君」
「……質問に答えろ、中島宗美。質問の答え以外の言葉を、私は必要としていない……!」
語気が乱れ、双眸が苛立ちに震える。彼の顔には先ほどまでの冷徹さは影も形もなく、怒りと焦りばかりが浮かんでいた。僅かに紅潮した頬を見て、思わず零れ出た笑い声を羽織の袖へと吸わせていく。
「そこまでいうのならば教えてあげましょうか」
硝子越しに揺れる瞳をじっとりと見つめ返しながら、僕は殊更ゆっくりと答えを告げてやる。
「君と並び立ち、君と正義を行使する為の力の鍵――プリテンダーのナノマシンですよ」
僕からの返答を聞き遂げた彼が、ぐう、と苦しげに喉を鳴らしたのは、気の所為ではないだろう。耳を揺らした心地好い音色に、胸の奥が昂っていく。
身体を痛めつけられた人間の口から迸る悲鳴も良いけれど、心を痛めつけられた人間の洩らす苦鳴もまた格別だ。そんな事を考えながら、更に言葉を重ねていく。
「良かったじゃないですか。これで君は、たった一人の大切な友達と肩を並べて戦えるようになったんですから。もっと喜んだらどうです?」
「…………失礼する」
「桐山君のところへ行くならば、ケーキのひとつでも買っていってはどうでしょう。何せ今日は彼の、二度目の誕生日なんですから」
踵を返し、玄関へと向かおうとする背中に向かって、僕は言う。
「ねえ。本当に良かったじゃあないですか。森次玲二君。だって君は大切な人と、ずっと、ずうっと一緒にいられるんですから。それなのにどうして君は、そんな悲しい顔をしているんですか」
声は、もう返ってはこなかった。



2016.05.17




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