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シェイプ・オブ・カインド

2015/01/30 23:28
あしたのファミリア
國府神くんとドロシーさんが延々喋ってるだけの話。國狗で狗ドロでこいぬどろ。
※『ウェン・ザ・ドッグ・アウェイ』が前提にあります。



続き




「マンゲツったら、未だにトマトが苦手なのね」
夕食の後片付けの最中、そう切り出したドロシーに、俺は2度ほど頷いてみせた。
「それなりの頻度で食事にトマトを出してはいるんですが、中々口に入れてはもらえませんね」
「それはそうよ。だって貴方、マンゲツが避けやすいように、大きめに切ってあげているでしょう?」
「そんな事は」
「ないとは言わせないわ。マンゲツや貴方と一緒に暮らし始めてからずっと、サラダの上のトマトは、いつだって厚めの輪切りか、8等分のくし型切りなんだもの」
私としては、食べ応えがあって嬉しいんだけど。そう告げてから、ドロシーはことりと首を傾けてこちらを見遣る。
「もしかして、私が起きる前は、時々マンゲツにあーんって食べさせられたりしたのかしら」
立て続けに図星を刺されてぐむ、と息を呑めば、いよいよドロシーは声を上げて笑い出した。
「……食べろと言われたものは全て食べるよう、狗会局長に言いつけられていたので」
そう。
それが伝説級の怪異であれ、完熟したトマトであれ、食べろと言われれば何だって食べた。
それが、狗会局長の望みだったから。
「でも、今は何も言いつけられてはいないんでしょう?」
「それはそうですが……それでもきっと、俺は局長に望まれれば何だって平らげてみせますよ」
「そう。それが、貴方の優しさなのね」
でも。
「嫌いなものを代わりに食べてあげる事だけが、優しさじゃないと思うの」
「貴女の言う事も一利ありますが……ならば貴女の優しさとは、一体どんなものなのですか」
俺の言葉を受けたドロシーは、真剣な面持ちでこちらに向き直ると。
「私に料理を教えて頂戴。貴方を唸らせられるようになればきっと、マンゲツが食べられるトマト料理が作れるはずだわ」
頼まれてもらえるかしら、そう問いかけてくるドロシーに、構いませんよと返す。
ああ、まさか。
狗会局長に教わった料理がこんな形で役立つなんて、思わなかった。
季節は巡り、因果も巡る。
あの人に教わった料理が、巡り巡ってあの人の血肉となる。
それはとても、喜ばしい事だ。
ドロシーの作った料理に局長が舌鼓を打つその日を脳裏に思い描けば、胸の奥がじんわりと暖かくなっていった。



2015.01.30






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