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酔って酔わせて酔わせて酔って

2015/01/23 23:26
鉄のラインバレル
推真の2人がショットグラスチェスをする話。

続き




テーブルの上に置かれたチェスボード。
白と黒に塗り分けられたそこに並ぶのは、チェスピースではなかった。
ポーン、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、そしてキング。
それぞれの駒が描かれたショットグラスに注がれた琥珀色は、恐らく真田さんの好む年代もののウイスキーだろう。仄かに漂う芳醇な香りに、うっとりと目を細める真田さんに問う。
「ショットグラスチェス、ですか」
「うむ。もの珍しさに買ってみたは良いが、中々対戦する相手がおらんのでな。なあ天児。お前さんが大の甘党なのは知っておるが、一切飲めないというワケでもないのだろう?」
「ええ、まあ。それなりにはいけるクチですよ」
それでも、どちらかというと甘い酒の方が好きなのだけど。今そう告げるのは野暮だろう。
「聞いたところによると、ショットグラスチェスは駒を取った方がグラスの中身を飲むというルールだそうですが――真田さん。駒を取られた方がその中身を飲むとルールに変更しても構いませんか?」
「ほう。そう言うからには、私を酔わせる自信があるというのだな?」
「いえ。この手の勝負で真田さんに勝てるとは思ってはいませんよ」
酔わせられるものなら酔わせてみろ。そう言わんばかりの不敵な笑みから一転、私の言葉を受けた真田さんは、鼻白んだような表情を浮かべる。そんな真田さんに、私はこれ以上ないぐらいににっこりと微笑んで。
「本日は真田さんの手練手管に、身も心も酔わせて頂くつもりでいますから」
だからどうか、容赦なく駒を奪ってくださいね。告げた言葉に、真田さんは呆れたように肩を竦めてみせた。
「まあ、そう言うのならば望み通りにしてやらんでもないが……わざと手を抜いたりしたら承知せんぞ」 「ご心配なく。高価な酒と盤面、そして貴方の顔を濁らせるような不粋な真似はしませんよ。それに、真田さんに勝てるとは思っていませんが、負けるとも思っていませんので。もし先攻を頂けるのなら、引き分けに持ち込んでみせましょう」
「……先攻を譲るのは構わんが、私としては勝つ気で勝負してくれた方が嬉しいのだがな」
「勝機が見えたら迷わず勝ちに行きますよ。まあ、あくまでも見えたらの話ですケド」
言いながら、白のポーンが描かれたグラスを一マス、前へ進める。黒のポーンがこちらの陣地へと向かうのを確認して、更なる一手を講じる。 駒を取り合い、酒を呑み合い、互いに酔わせ合う為に引き分けを狙う私の胸の内を、果たして真田さんは見通しているのだろうか。 真田さんの手練手管に酔いたいと言ったのは紛れもない本心だが、私のそれで真田さんを酔わせたいというのも、また偽らざる本心なのだから。



2015.01.23




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