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SS

温かな食卓

2014/12/05 23:23
鉄のラインバレル
森次たん小話。当然のように森石。


続き




「……ホントのホントに、誕生日プレゼントはこれで良いのかな?」
「ええ。いつかのように、唐突に車を贈られても困りますから」
「困るって言う割には、結構乗りこなしてくれているみたいだケド」
現にさっきまで、あの車で買いものにつき合ってくれたワケだし。言いながら、テーブルの上に森次君への誕生日プレゼントを並べていく。
てらりと艶の出た鰤の照り焼きに、緑の鮮やかな小松菜の辛子和え。湯気の立つ味噌汁には、短冊切りにした大根と油揚げが浮かんでいる。最後に炊きたてのご飯を茶碗いっぱいによそって置けば、森次君の目元が、心なしか綻んだような気がした。
「さあどうぞ。召し上がれ」
「……頂きます」
きっちりと手を合わせて告げた森次君が、解した照り焼きを口に運ぶのを見届けてから、私も箸を取り味噌汁に口をつける。年の瀬が近いこの時期に、有難い温かさが身に沁みる。黙々と料理を平らげていく森次君に習って、私も黙って箸を動かしていった。
そうして。
食卓に落ちていた沈黙を破ったのは、森次君のご馳走様の声だった。
「いつも通り……いや。いつも以上に美味しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。本当にね」
石神社長の手料理が食べたいです、なんて。誕生日プレゼントに何が欲しいと聞いてそう即答されたのなら、腕によりをかけなけないなんて嘘だろう。
「でも、まさか夕飯を作って頂けるとは思っていませんでした。俺としては、お昼にお弁当を渡されるかと思っていましたから」
「それも考えたんだけど、この季節だもの。せっかくだから作りたての温かいものを食べて、身体の芯まで温まって欲しかったんだよねえ」
「……重ね重ね、有難うございます。こうして俺の為に時間を割いて頂けたコトが、何よりの誕生日プレゼントですよ」
そう言って柔く笑う森次君につられて、私の顔も緩みに緩む。
と。
「石神社長」
「何だい、森次君?」
「もっと温めて欲しいと言ったら、応えて頂けますか」
ああ、もう、本当に。
今日この日にそんな事を言われたんじゃあ、応えないワケにはいかないじゃあないか。
レンズ越しにこちらを見る目を、真っ直ぐに見返して言う。
「勿論。なんてったって、今日はキミの誕生日だからね」
それに。
「今日だから言うけどさ――キミにあげられるモノなら何だってあげたくなるぐらいには、キミのコトが好きだよ。玲二君」



2014.12.05



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