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バトル・アンダー・ムーン

2013/09/06 23:14
あしたのファミリア
もし國府神くんが独断でネイサンを始末しに行っていたら、な話。



続き




廃園になった遊園地の、錆びついたメリーゴーランド前。
爛々とした月明かりに照らされたその場所で、ネイサン・モーガンは響き渡る断末魔の余韻に身を委ねていた。
「まだだ――こんなんじゃまだまだ満足出来ねェ」
ただの肉塊に成り果てた特殊部隊の隊員を地面へと放り投げ、掌にこびりついた血を舐め上げる。舌に感じる命の残滓。甘露にも似た鉄錆の味も、醒め行く高揚感を繋ぎ止めるには至らなかった。
「――俺を満足させられるのは、あの化け物の――」
誰に聞かせるでもない呟きは、しかし、聞こえるはずのない音に遮られた。
上質な革靴の立てる、硬質な足音。
聞き覚えのある音に顔を上げた先に見えたのは、三つ揃いのスーツに身を包んだ一人の青年。
國府神十。
賢人機関亜細亜支部局長、狗会万月の秘書。
全ての怪異を滅殺する為に作られている、最強の化け物。
心から望んでいた存在が、そこにいた。
「これはこれは、多忙なはずの局長補佐サマが、こんな夜更けにこんな辺鄙な場所まで、お一人で一体何のご用でしょうか?」
「貴方が持つ怪異殺しの武具――『ユバルの竪琴』を回収しにきました」
芝居がかった口調に眉一つ動かす事なく、國府神は自らの目的を告げる。
「そう言われて、オレが大人しく渡すと思ってんのかよ」
「大人しく渡して頂ければ、痛い思いをさせずに済むのですが」
「オイオイ、痛い思いをすんのは、寧ろテメェの方だろうが。怪異殺しの武具の威力、知らねェワケじゃねェよなァ?」
「他人の心配よりも、ご自分の心配をなさった方が良いのでは」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。大体人間様を傷つけるなっていう、ゴシュジンサマの言いつけを守らなくて良いのかよ? ここに狗会さんがいねェのは、つまりテメェが独断で動いてるって事だよなァ?」
その言葉に、國府神はほんの一瞬だけ、不快そうに目を眇めた。その僅かな変化を見逃すネイサンではなかった。口の端を盛大に歪めて嘲笑う。
「飼い犬の躾も出来ねェほど耄碌しちまうとはなァ! 斷頭装置と呼ばれた狗会さんも、寄る年波には勝てねェってか!」
畳みかけるような挑発が途切れるのと、ほぼ同時に。ぱさりと、いやに軽い音がした。
「――二度目はないと、言いましたが」
戒めから解かれた黒髪を波打たせ、國府神は告げる。 「次に局長の悪口を言ったのなら、捻り潰しますと――そう、警告したはずです」
「ハッ! 出来るモンならやってみろよ!」
その声を合図に、褐色の指にはめられた指輪が光る。手元に現れた巨大な竪琴を構え、ネイサンはただならぬ殺気を放つ怪異と向き合った。
どんな怪異をも滅殺せしめる、怪異殺しの武具――ユバルの竪琴。
その弦に指をかけ、あらん限りの声で叫ぶ。
「テメェの断末魔、たっぷり聞かせてもらうぜクソ怪異!」
「――貴方はここで――潰す!」
軛から解き放たれた殺人鬼と、4門外に数えられもした貪婪の怪異。
人に在らざる力の塊同士が今、夜の闇を紅く染める。



20130906






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