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刀の領分

 薬研が持ってきた様々な書物の中で、一冊だけ毛色の異なるものがあった。そのやや薄い書物を手に、へし切は尋ねる。
「主、これは? 『歴史探訪・美味いものマップ』とありますが……」
「ああ、それな。今度の遠征の時に買って来てもらおうと思ってなあ。……あ、ちゃんと店の前で下ろすから、道に迷う心配は無いぞ」
 薬研が言っていた『より適した場所に送り込む』というのは、別の意味も含まれていたのかもしれない。
 背後で、小さな笑い声が聞こえた。
「わかりました。では、主、何を御所望で?」
 文机から赤ペンを取り出し、へし切は『歴史探訪・美味いものマップ』のページをめくった。

 主の為に全力を尽くす。
 それが俺の――武器としての全てだ。


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