michel
雪が降っている。しんしんと。
今日ばかりは、テレビもラジオもインターネットもお店も会社も全部お休み。
だって、今日は世界が終わる日。
大きな大きな彗星がいくつも地球に飛んでくるんだって。
だから、みんな外には出ずにおうちにいるの。
私のおうちも、そう。
今日は私のお誕生日だから、ママがキッチンでケーキを焼いてくれてる。
生地がふんわりと焼き上がったら私の出番。
ママと一緒に生クリームを塗るの。デコレーション用に買っておいたイチゴも真っ赤でとても美味しそう。
ぶきっちょのパパはパーティの準備が整うまでリビングでのんびり本を読んでる。
たまに「美味しそうな匂いがするね」なんて言って顔を出したりして。
みんなニコニコしていて、平和で、世界が終わるなんて信じられないくらい。
でも、パパとママは知らないの。
こうなってしまったのは、私のせいだってこと。
去年までパパとママはよく喧嘩をしていた。
パパはお仕事で帰ってこられない日が多くて、そのたびにママはイライラしていた。
私はママに笑ってほしくてたくさんお手伝いしたけど、失敗もたくさんしてしまって余計にママを怒らせた。
だから、神様にお願いしたの。
「パパとママが仲良くなりますように」って。
でも、どんなにお願いしても喧嘩はおさまらなかった。
きっと私一人のお願いじゃ聞いてもらえないんだって思った。
それなら、と今度は私みたいな悩みを持っている子をたくさん集めて一斉にお願いすることにしたの。
ネットに潜ればそういう子はすぐに見つかった。
いろんな国の子達が同じ悩みを抱えていたの。
それから、みんなで決めた時間に合わせて、ベッドの中でお願いした。
その数日後、謎の彗星群が地球に向かって飛んできているというニュースが流れたの。
初めは怖くて泣いてしまったけれど、そんな私をママが優しく抱き締めて、パパが飛んで帰ってきてくれた時にハッキリとわかったの。
――ああ、私達のお願いは神様に届いたんだって。
それから一年間、たくさんの人が来るべき終日を恐れて死んだりした。
同級生の何人かもその中に入ってる。
だけど、私のおうちは笑いに溢れていた。
パパとママがずっと傍にいてくれた。
幸福だった。
生クリームを絞ってケーキにデコレーションするのは初めてで、胸がドキドキした。
ケーキ屋さんってすごいのね。
あんなにも綺麗にデコレーションするんだもの。
きっと私はパパに似たのね。ケーキが少し不細工になっちゃった。
けれど、パパは「今まで見た中で一番素敵なケーキだよ」と言って抱き締めてくれたの。
パーティは三人で踊ったり歌ったりしてとても楽しかった。
プレゼントも貰ったのよ。
とても素敵な絵本と大きな犬のぬいぐるみ。
世界が終わった後も、きっときっと大切に持っているわ。
夜が来て、私はパパとママのベッドで一緒に寝たの。
ベッドに入る前にママがお薬を飲ませてくれた。「これを飲むとよく眠れるのよ」と言って。
私はプレゼントで貰ったぬいぐるみを抱えて、ベッドに入ったの。パパには笑われたけど、どうしても手放したくなかったの。
ママがしっとりとした声で絵本を読んでくれた。
それは世界中を旅する魔法使いのお話。
しんしんと雪が降り積もる静かな夜。
世界中の火が穏やかに灯る夜。
「さようなら」の代わりに、私は「おやすみなさい」と言ったの。
今日ばかりは、テレビもラジオもインターネットもお店も会社も全部お休み。
だって、今日は世界が終わる日。
大きな大きな彗星がいくつも地球に飛んでくるんだって。
だから、みんな外には出ずにおうちにいるの。
私のおうちも、そう。
今日は私のお誕生日だから、ママがキッチンでケーキを焼いてくれてる。
生地がふんわりと焼き上がったら私の出番。
ママと一緒に生クリームを塗るの。デコレーション用に買っておいたイチゴも真っ赤でとても美味しそう。
ぶきっちょのパパはパーティの準備が整うまでリビングでのんびり本を読んでる。
たまに「美味しそうな匂いがするね」なんて言って顔を出したりして。
みんなニコニコしていて、平和で、世界が終わるなんて信じられないくらい。
でも、パパとママは知らないの。
こうなってしまったのは、私のせいだってこと。
去年までパパとママはよく喧嘩をしていた。
パパはお仕事で帰ってこられない日が多くて、そのたびにママはイライラしていた。
私はママに笑ってほしくてたくさんお手伝いしたけど、失敗もたくさんしてしまって余計にママを怒らせた。
だから、神様にお願いしたの。
「パパとママが仲良くなりますように」って。
でも、どんなにお願いしても喧嘩はおさまらなかった。
きっと私一人のお願いじゃ聞いてもらえないんだって思った。
それなら、と今度は私みたいな悩みを持っている子をたくさん集めて一斉にお願いすることにしたの。
ネットに潜ればそういう子はすぐに見つかった。
いろんな国の子達が同じ悩みを抱えていたの。
それから、みんなで決めた時間に合わせて、ベッドの中でお願いした。
その数日後、謎の彗星群が地球に向かって飛んできているというニュースが流れたの。
初めは怖くて泣いてしまったけれど、そんな私をママが優しく抱き締めて、パパが飛んで帰ってきてくれた時にハッキリとわかったの。
――ああ、私達のお願いは神様に届いたんだって。
それから一年間、たくさんの人が来るべき終日を恐れて死んだりした。
同級生の何人かもその中に入ってる。
だけど、私のおうちは笑いに溢れていた。
パパとママがずっと傍にいてくれた。
幸福だった。
生クリームを絞ってケーキにデコレーションするのは初めてで、胸がドキドキした。
ケーキ屋さんってすごいのね。
あんなにも綺麗にデコレーションするんだもの。
きっと私はパパに似たのね。ケーキが少し不細工になっちゃった。
けれど、パパは「今まで見た中で一番素敵なケーキだよ」と言って抱き締めてくれたの。
パーティは三人で踊ったり歌ったりしてとても楽しかった。
プレゼントも貰ったのよ。
とても素敵な絵本と大きな犬のぬいぐるみ。
世界が終わった後も、きっときっと大切に持っているわ。
夜が来て、私はパパとママのベッドで一緒に寝たの。
ベッドに入る前にママがお薬を飲ませてくれた。「これを飲むとよく眠れるのよ」と言って。
私はプレゼントで貰ったぬいぐるみを抱えて、ベッドに入ったの。パパには笑われたけど、どうしても手放したくなかったの。
ママがしっとりとした声で絵本を読んでくれた。
それは世界中を旅する魔法使いのお話。
しんしんと雪が降り積もる静かな夜。
世界中の火が穏やかに灯る夜。
「さようなら」の代わりに、私は「おやすみなさい」と言ったの。
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